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第八章:一時の休息

「っ……」


痛みで眼が覚めると、俺は布団で眠っていた。

ここはどこかと確認するも、まず目に入ったのはどこか見覚えのある天井。

痛みに堪えながら上半身を起こすと、ここが楓の、神主の家だと言う事を理解し始めた。

そして記憶を辿ると、メリーを止める為無茶して倒れた事を鮮明に思い出した。


『すぅ…すぅ……』


現状を理解し始めた所で、ふと寝息が聞こえた。

横を見てみると、メリーが寝ていた。

その寝顔は昨日まで見せていた、無防備でどこか憎めず穏やかなものだった。


「あっ、起きたんだ。」


そこでふと襖が開き、楓が鍋を持って入ってきた。

鍋にはおかゆで入っているのか、暖かそうな湯気が出ている。

そして、その足元にはツクもいた。


「楓……

俺、一体どれくらい寝てたんだ?」


「う~ん……

12時間って所だね。」


そう時計を確認しながら言われ、俺もはっとなって時間を確認した。

あの展望台での出来事は1時過ぎ。

そして今の時刻も1時を回った所。

よくよく見ると、外は既に真っ暗になっていた。


「す、すまない。」


幼馴染とは言え深夜まで看病してもらい、更には寝床まで貸してもらっている事に申し訳なく感じた。


「別に誤らなくていいよ~

私と亮ちゃんの仲だしね~

それに、お父さんも心配してたし。」


『全くじゃ。

あの場から急ぎ主等を運ぶのは大変じゃったんじゃぞ。』


「運んだ?」


確かにあの場から運ばれなければ、俺は楓の家にいないだろう。

だけど、ここであらためて何で運んだか疑問に思った。

別に運ばなくても救急車を呼べばそれで事足りと思ったからだ。


『はたから見れば急な異常気象が観測されたんじゃぞ。

それに現場には我らしかおらんかった。

おまけにお主は全身ボロボロ。

病院なぞ行ったら、警察も動く。

あの場に残っていても同じ事じゃ。

それは主等にとっても面倒じゃろ?』


「た、確かに異常気象や怪我の原因が幽霊です。なんて言ったら精神病院に送り込まれるからな……」


流石に警察沙汰は避けたいからな。

……にしてもどうやって運んだんだ?


『ああ、楓が大きなビニール袋にお主を隠しての。

そのまま担いでここまで運んだんじゃ。

メリーもその場に倒れたが、我の霊力を使って運んだんじゃ。』


うわ~、ビニール袋に入れて運ぶなんて手荒くしたもんだな~

って楓が!?


『うぬ。』


「楓……

お前どうやって俺を?」


「担いでだよ~

私だってお父さんの元でそれなりには鍛えてるんだから。」


そう言いながら腕をまくり、力瘤を作ろうとしているのだろうが出来るわけもない。

神主の元で剣の指導を受けているのは俺も知っている。

だが、一体あのか細い腕でどうやって運んだのか気になる所でもある。


『ん、うぅん……』


すると声が少しうるさかったのかメリーが眼をこすりながら起きた。

そして寝ぼけた目で俺を見ると、眠気が飛んだのか一気に眼を見開かせ俺に抱きついてきた。


「うぐぉ!!

メリー、てめぇ!!」


抱きつかれた衝撃で全身に痛みが走る。

尋常なく痛い。

だが――


『亮さん、ごめんない。

私の所為で、ごめんなさい!!

もしこのまま目が覚めなかったと思ったら、私…私…』


涙ながらに自分を責め、誤り続けるメリーを見ると強くは言えなかった。

だけど、抱きつかれながら体が少し揺らされる所為で痛みが地味に継続される為一旦メリーを離す。


「過ぎた事を気にするな。

それに俺もお前に対して失礼な事をしたと反省している。

こちらこそ、本当にすまなかった。」


そう言うとメリーが慌てて否定し、自分が悪いと言う。

だが、それを否定するように俺も自分が悪いと言い、終わりそうのない言いあいが続いた。


『あ~、お主等の。

もうどっちも悪いでいいわ!!』


「喧嘩両成敗ってやつだね~」


見かねたツクと楓の一言で事態は収拾した。

だが、その言いあいが功を奏し心にゆとりが出来た。

空腹を覚え、楓が用意してくれたおかゆを食べ俺もメリーも普段の落ち着きを取り戻すと同時に、神主が部屋にやってきた。


「やあ、思ってたより元気そうだね。

担ぎ込まれた時は本当に驚いたよ。」


「お騒がせしてすいません。

それに寝床やご飯まで用意してもらって……」


「はははっ、君と私達の仲じゃないか。遠慮する事はないよ。

……さて。」


神主の器のデカさに、この恩は必ず返そうと誓うと同時に、神主は真剣な面持ちでメリーを見た。

普段は温厚で優しい眼をしている神主だが、今や鋭い眼光で獲物を捉えんとメリーを見ていた。

その眼光にメリーは恐怖を覚えたのか、俺の後ろに隠れてしまった。


「……今回の事態は、楓とツクから聞いたよ。

まさか霊力が暴走するとはね。

本来ならば、これ以上被害が出ぬようここで私が処理してもよいのだが……」


落ち着いたトーンではありながら、その鋭い眼はメリーに向けられ、次には俺に向けられた。

その眼には確かな殺気が含まれ、恐怖すら覚えた。


「ここは亮君に任せるのが適任だと思う。

と、言う事でよろしくね。」


だが、次の瞬間には普段の穏やかな目になり人懐っこい笑みを見せた。

流石に突然の変わりように俺もメリーもきょとんとしている中、神主は構わず続けた。


「それじゃあ、後はよろしくね。

ああ、楓も手伝ってやってくれ。

きっと楓の力も必要になる時が来るだろうよ。」


そう言い残し、部屋を後にしてしまった。

残った俺達は、とりあえず夜分も遅いし一旦寝ると言う事で事が決まった。


翌日も痛みで眼が覚めた。

時刻を見ると、9時を少し過ぎた所。

今日が高校の建設記念日で休みと言う事に感謝しながら、痛みを感じた腹部を見た。


そこには俺の腹を枕にしながら寝ているメリーがいた。

普段なら殴ってでも起こすが、流石にそんな気力もなければやる気もしない。

けど、地味な痛みが続くのは嫌だな。

だが起こすとまた騒ぎそうだな……

どうしたものか困っている所に丁度ツクがやってきた。


『お困りのようじゃの?』


そう言いながら不敵に笑っているが、俺の考えを読んでるいるから絶対楽しんでいるだろこいつ。

つーか助けろ。


『なんじゃ、我に命令か?

随分と偉くなったもんじゃの?』


「……頼むとりあえずこの状況から脱却させてくれ。

後――」


聞きたい事がある。

俺はそう言おうとした。

だがその事を咄嗟に読んだのか、すっとメリーを起きないようにほんの少し浮き上がった。


『分かっておる。

ちょっとついて来い。』


俺はツクの言葉に従い、メリーを起こすことなく何とか布団から立ち上がる。

その時激しい痛みが体を刺激し、真っ白だった包帯にじんわりと赤い血が滲んでいた。

そこで初めて昨日出来事が夢ではなく現実だと実感出来た。

深夜起きた時は色々と状況の整理で忙しくそれどころではなかったが、今は心の余裕が出来た為か昨日事を鮮明に思い出した。

そこで俺はちらっと寝ているメリーに目を向けたが、穏やかな表情で寝息を立てているメリーが写った。


『何をしておる、早く来い。』


その時ツクに呼ばれ、はっとしツクの後を追った。

暫くすると、俺が寝ていた部屋から離れた縁側でツクは止まった。

そこには座布団が2枚に、飲みかけの湯飲みが2つあった。

ツクと神主が先程までここでお茶でもしていたのだろうか。


『神主の奴は用事を思い出したとか言いだし、我に留守を頼み追ったわ。

よっぽどの用事だったのか、湯飲みもそのままにの。』


「なるほど……

あれ、楓は?」


『今日は平日じゃぞ?

昨日は祝日じゃったが、今日は学校へ行ったわい。

お主は良かったのか?』


「今日は創立記念日で休校だ。」


『なるほどの。

ならば今日、お主は帰宅するのか?』


「の、予定だ。

流石に怪我がある程度治るまでここに居座るのも申し訳ないし、学校も連絡なしにずっと休むのも嫌だしな。」


連絡なしに学校を休む。

1日や2日ならまだ知らず、怪我の具合からして普通なら長期間休みが必要だろう。

だけど、そうなれば必ず学校側から保護者に連絡があるだろう。

それだけは絶対に避けたい。


『そうじゃな。

お主もまた複雑な気持ちを持っておったな。』


ツクは少し罰が悪そうな顔をし、少し待っておれと言い縁側の湯飲みを片づけ、また新しい湯のみと茶を用意した。

メリーの時と同じように、霊力を使ってこぼさぬよう宙に浮かせながらだが。

改めて見ると、便利な能力だな。


『まあ飲め。

起きたばかりで顔も洗ってはおらんじゃったろ。

少しは眼を覚ますぞい?』


「ああ、すまない。」


そう言えばそうだったなと思いながら、茶に口を入れた。

程良い苦みが口の中に広がり、先程まで残っていた眠気は一気に消えた。


『さて、目も覚めた所でじゃが……』


「言わなくても分かってるんだろ?」


『ああ。

じゃが、言葉に出した方がよいとおもうぞ。

言葉には力が宿る。

その力は時として奇跡を生むからの。

それに、言葉にして発する事で溜めこんでいたものを吐き出す事も出来るからの。』


「言霊ってやつか……

まあ、溜めこんでいても仕方ないってのはよく分かってるさ。」


俺にもその事については分かっている。

昔何も言えず、ずっと溜めこんでいて、結局誰にも、何にも履きだす事が出来ず最悪な方向に事が進んだ事のある奴を俺はよく知っているからだ。


「なら、色々と聞かせてもらうぞ?」


『ああ、構わんぞ。』


「まず一つ。

メリーの暴走についてだが……

お前はあの時、霊力が暴走して大量に放出されてるって言った。

だから、その……メリーは大丈夫なのか?」


『ああ、問題ない。

今は霊力も低下しているが安定はしておる。

今ぐっすり眠っているのも、放出した霊力を回復する為のものじゃ。』


「そうだったのか……

じゃあ、もうしばらく長い話をしていても大丈夫そうだな。」


『うぬ、暫く付き合ってやるわい。』


「じゃあ、結構確信について聞いてみるかね。

……メリーが死んだ場所は、あそこでよかったのか?」


『……それは間違いない。

お主がメリーに場所を説いていた時、あ奴の心の中には間違いなくお主が言った光景が広がっていた。

そして、その事が強い想いとなってそれが形に出た。

それがメリーが霊となった事実じゃ。』


「その強い想いってのは……」


『強い恨みじゃ。

生前は将来に希望を夢見、毎日を楽しく期待を胸に過ごして追ったのじゃろう。

じゃが突如それを奪われ、奪った奴も不明のまま記録にすら残らない。

自分が生きていた事が、毎日の日々が否定されたようなものじゃったんだろう。』


「……何か、分かる気がするぜ。」


『……ある意味、お主とは同種のタイプなのじゃろう。

じゃが……』


メリーについて知らなかった事が徐々に分かってきた。

そして俺と共感できる事があり、何とも言えない気持ちになった。

だが、同時に普段毅然とした態度のツクが歯切れが悪くなったのが気になった。


「ん、どうした?」


『その場面を読み取った際、他にも様々なモノが見えたのじゃ。』


「様々なモノ?」


『我にもそれが何だったのかは分からん。

じゃが、簡単に言うなれば様々な景色様々な場所が同時に見えたのじゃ。』


「何だよそれ?」


『それは我にも分からん。

じゃから、それが気がかりでしょうがなかったのじゃ。

今朝方神主とそれについて話し合ったが、結論は出んかった。』


「そう、か……

なら、俺も一つ気がかりの事があるんだ。」


『なんじゃ?』


「俺が意識を失う直前、あいつの口からお兄ちゃんって言われたんだ。

その言葉が、口調が……雰囲気がどうしても気がかりでしょうがなかった。

けど、今になって分かったよ。

あの時あいつは、俺の……死んだ妹と同じだったってさ……」


そう言いながら、俺は何とも言えない気持ちになった。

ずっと記憶の片隅で大事に取っておいた記憶が鮮明に新しい記憶へ持ってこられたと同時に、その周辺の記憶も一緒に蘇えったからだ。

その時の、辛かった時の記憶も……


『……そうか。

気の所為と言う訳ではないのか?』


「それはない。

まだ小さかった時だが、あの時のあいつは間違いなく妹の……雛と同じだった。

そっくりとかじゃない。間違いなく、雛だ。」


ツクが俺の心を読んで気まずそうに聞いてきたが、俺は否定した。

何年経っても、どれだけ経ってもあの言葉を、声を、雰囲気を忘れた事はない。


『ふむ、どうやらまた神主と話し合う必要がありそうだの。

さて、我は神主が戻ってくるまでのんびりさせてもらうぞ。

お主はどうする?』


「あ~、そうだな。

とりあえず飯で食おっかな。

流石に腹が減ってきた。」


『そうかい。

ちなみに冷蔵庫の中に入っている物は勝手に使ってよいと言っておったぞ。』


そう言い、空になった湯飲みを行きと同じように宙に浮かせながら片づけようとしていた。

だが俺は今までずっと疑問に思っていた事を聞いてみる事にした。


「なあ、ツク。

何でお前は俺達にこう……親切に接してくれると言うか、色々と助言したり助けたりしてくれるんだ?」


素朴な疑問だった。

これまでツクに助けられたのは間違いなく、それが救いにもなった事もある。

だけど、ツクは自称ではあるが付喪神。

民間信仰における観念で、長い年月を経て古くなったり、長く生きた道具や生き物や自然の物に、神や霊魂などが宿ったものの総称だ。

その付喪神が何故俺達を助けてくれるか、ずっと気になっていた。


『助けるか……

なにぶん長い年月をこの世で過ごしてきた所為かの。

ちと感情移入することが多くての。

悩める若者達を放っておけなくての。』


「まるで年よりみたいだな。」


『既に何百年も霊体となって様々な土地をめぐってきたからの。

故に、お主……いや、お主等のような奴を今まで見てきたが……

お主等がどのような道を進むか気になっての。』


「俺らって……」


『それは昨日も言うた。

2つ大きな覚悟を決めかねぬ事がある、とな。

それは我ではなく、お主等の問題。

そこから先は後は野となれ山となれと言った所かの。』


「んだよ、投げやりだな。」


『そこから先はお主等の道じゃからの。

年寄りが出来るのは助言だけじゃ。』


そう言い残し、ツクは食器を片づけに行ってしまった。

まあ亀の甲より年の功って言うからな。

何を伝えたかったのかは分からないが、尊重しないとな。


「さて、飯の前にやることやっておくかね。」


俺はとりあえず俺が寝ていた寝床に戻った。

メリーは相変わらず寝ていたが、俺は自分が持ってきていた鞄の中を探った。

昨日は道場の隅に置きっぱなしにしておいたが、神主か楓が持ってきて置いてくれたのだろう。

俺は鞄の中から携帯を取り出すと、一旦外に出て電話をかけた。

電話をかけた相手は3、4コール目で出ておはようという元気そうな声が聞こえた。


「おはよう、鉄。

今日は体調よさそうだな。」


『うん、今日も体調はいいよ。』


電話をかけた相手、鉄也は今日『も』と強調していたが、体調のいい奴はそうそう吐血なんかしかい。

だが今回電話をかけた理由とは関係ないし、普段のやり取りでもしているからスルーした。


『でもどうしたの?

昨日は気になって電話何度も掛けたのに、折り返しの連絡もなかったのにさ。』


「すまないな、ちょっと連絡出来る状態じゃなかったもんでな。」


『どういう事?』


カズと一緒になって事件の事などを調べたいた為か、流石に気になって連絡をしていたようだ。

だが、俺の連絡出来る状態じゃなかったと言う言葉に何があったのか心配し始めた。

俺は隠す事もなく昨日の出来事を語った。


ツクの事。

調べた事件がメリーの事件であっていた事。

そこでメリーが暴走した事。

そして、俺が止める為に重傷した事。

俺が説明している間、鉄也はただ黙って、時には相槌を打ちながら聞いてくれた。


「まあ、そんな所だ。」


『なるほどね……

思ったよりも、事は大きかったみたいだね。』


詳しくは明日学校でも話すが、カズにもこの事を伝えてくれと頼んだ。

鉄也も承諾し、無理はしないでねと釘を打ち電話を互いに切ろうとした。

だが、このタイミングでずっと自分の中で気になっていた事がふと口に出だ。


「……なあ、鉄。

そういや、俺何でアイツの……メリーの未練とか晴らしてやろうって思ったんだろう?」


『え?』


「いや、ずっと気になってたんだよ。

取り憑かれたから、そいつを払いのけようってのは誰もが思うだろうさ。

けど俺は払いのけるって言うよりは、この世に残る羽目になった未練を晴らしてちゃんと成仏させてやろう……

なんかそう思っちまってんだよな……」


気がつけばそうだった。

初めて会った時から、放っては置けない。そう思った。

出来る事なら、霊ではなく人として会いたかった。

そして、どこかメリーを他人とは思えなかった。

ずっと心の中で奥底で思っていた事だ。


メリーは読めてないようだけど、ツクはその事を知っていたはずだ。

ツクはそれを知りながら、何も言わず助言を与えてくれる。

けど口で初めてその疑問を口にした。

俺は明確な答えが欲しかったのかもしてない。


『亮がどうしてそう思ったかなんて僕には分からないよ。

その答えを知っているのは亮自身しかいないんだからさ。

けど、亮がそう思ったのにはきっと理由があるはずだよ。』


「……そうだよな。

きっと、理由はあるはずなんだよ。」


『僕達も力になるよ、亮。

だから慌てず焦らず、その答えも見つけていこうよ。』


「鉄……

本当にありがとう。」


『御礼なんていいよ。

それに僕もカズも、恩返しって言うのもおこがましいけど助けになりたいんだ。

今度は僕達が亮を助けたいんだ。』


「……ありがとう。」


その言葉を最後に、今度こそお互いに電話を切り亮は暫く青い空を見ていた。

そんな中、亮は気がついていなかった。

メリーが既に起きており、その会話を聞いていた事を。

そして、心の奥底に留めていた気持ちを知ってしまった事を。


『……亮さん。

私も似たような事を思っていますよ……』


亮には聞こえないような小さな声でそう呟くと、ばれないように再び布団に転がり寝た振りをした。


その後、正午を回った辺りには授業が半日だったのか楓も帰ってき、皆で昼食を食べた。

その後は帰りの支度をし、楓に体を支えながら駅までたどり着き、またすぐ会いに来ると約束をし楓と分かれた。

電車に揺られながら1時間すると、マンションに最寄りの駅に着いた。

歩くたびに傷が広がりそうだったが、何とか部屋にたどり着く事が出来一息することが出来た。


時折メリーが心配そうに見ていたが、人に見えない状態だった為気丈に振る舞った。

部屋に着くなり、メリーもまた一息すると再びぐっすりと眠り始めた。


気がつくと、日も傾き始め亮もまた疲れから深い眠りについた。


・・・・・・・・・・・・・・・


日はすっかり沈み、辺りは真っ暗となっていた。

そんな中、神主とツクは道場の神棚の前でお互い正座し、神妙な面持ちで話し合っていた。


辺りは暗く、唯一の明かりは二人(?)の間に置かれた蝋燭の火の光だけだった。


「……そうかい。

薄々そうじゃないかとは思っていたが……」


『うむ、まず間違いないじゃろう。』


大体の話は終わったのか、神主はどこか悲しそうに眉間に手を当てた。

一方のツクもどこか悲しそうな表情をしていた。


「神に使える身でありながら、言う事ではないだろうが……神様と言うものは残酷な事をする。

彼から……彼らから一体どれほどのモノを奪えば気が済むのだろう。」


『運命とは時に幸福をもたらすが、残酷な現実をももたらす。

流石に助けてやりたいと思うが、これは本人達の運命。

年寄りがしゃしゃり出ていくような事側ではないぞ?』


「……分かっているよ。

だけど……」


『安心せい、分かっておる。』


その会話を最後に、お互い立ち上がり蝋燭の火を消した。

そして辺りには火の光が消え、完全な闇が支配した。

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