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三 宴の夜

 

 夕刻、光政たちが帰還した。


 兵たちの帰還については、千珠によって先んじて知らされていたため、城下町では盛大に軍勢を迎える支度がなされていた。疲弊しきっていた兵士たちも、民の熱い感謝の言葉や振る舞いに生気を取り戻しつつあるようであった。


 そのまま城へ入ると宴が始まり、兵士たちは久方ぶりに人間らしい食事を振舞われ、酒を飲み、女たちの柔らかな肌と戯れるのであった。

 光政の周りにも、多くの側女が集まった。光政は疲れた表情ながら、そんな女たちに差し出される食事や酒を美味そうに食していた。その場は、とても華やかな祝の席である。




 ✿



 そんな宴席から離れた場所で、舜海と柊は酒を酌み交わしている。

「何もこんなとこで飲まんでも……」

と、柊がぼやく。

 しばらく使用する機会がなく、すっかり空気の淀んでしまった道場の戸という戸を開け放ち、そこで二人酒を酌み交わしているのだ。遠くに、兵や女たちの嬌声、楽しげな音楽が聞こえてくる。


「しょうがないやろ、殿と俺は今気まずいねん」

 舜海は足を投げ出して天井を仰ぐ。

「あーあ、なんであんなことしてもうたかなぁ」

「一体何をやらかしたんやお前。あ、さては……」

 柊のもったいぶった間に、舜海はぐっと詰まった。柊は、全てを見透かすような眼で、じっと舜海を見ている。

「……そうかそうか、二人きりだったものな、しゃあない話やな」

 柊はうんうん、と納得したように一人で頷きながらそう言った。

「おい、言うなよ誰にも。特に留衣には絶対言うな」

「留衣には、ということは。そうかやっぱりそういうことになったか」

「何やお前、かまかけたんかい!」


 柊は忍装束のまま、頭巾を外しただけの格好であぐらをかいている。髪を全て結い上げすっきりと出した額には、戦で負った傷を覆う白い晒しが巻かれている。

 涼し気な切れ長の目元に面白がるような笑みを浮かべたまま、酒を静かに舐める柊を恨めしそうに見遣り、舜海は頭をぼりぼりと掻きむしった。

「まぁ、よいやん。千珠さまかて、合意の上やろ」

「おい、俺が無理矢理襲ったような言い方するな。あんまりにも、寂しいって泣くし、誘われたようなもんやし……」

「ふうん、なるほどねぇ」

「……」

 舜海は柊の目を振り切るように、ぐいと酒をあおった。

「まぁ、無理もなかろうて。坊主のくせに女好きという、僧侶の風上にも置けへんような生臭なお前が、あんな長い間戦場に狩りだされて。そしてそこいらのおなごよりも遥かに美しい千珠さまと二人きり。我慢がきくはずがないな」

「その通りや。流石は幼馴染、よう分かっとるやん。所々耳は痛いが」

「そんなお前を、大事な大事な千珠さまと二人で行かせる殿も人がお悪い。忠誠心でも試されてたんちゃうか」

「殿がそんな下衆なことすると思うか?……ま、こうなった以上しゃあないやろ。俺は今まで通りふらふらとさせてもらうがな」

「で、千珠殿はどうだったんや?」

 柊は、今までの真面目くさった表情を一変させ、またにやりと笑った。

「え、お前、そんなこと聞くんか?」

 舜海は一瞬ぎくりとしたが、ふと、その時のことに思いを馳せた。


 あの身体、表情、声……まるで熱病のように交わったあの夜のこと。思い返すだけで、舜海の身体は再び熱くなる。


「……」

 舜海が黙ってぼうっとしていると、柊がそんな舜海の頭をはたいた。軽い音が道場に響く。

「いって!!何すんねんお前!」

「阿呆面しなや。そんなに良かったんか」

「……おぅ」

「やれやれ、今後は城ん中でやんなや。どこで見られてるか分かれへんからな。てか俺も見たないし……いやちょっと見てみたいかも……」

「黙れ。もうしぃひんわ!あんなこと」

「あっそ」

 柊はつまらなそうに、酒を舐める。


「ところで千珠はどこに?」

と、舜海。

「さぁな。一人で先に帰って来てはったらしいけど、その後は知らん」

「まさか出て行ったなんてことないよな」

 ふと、千珠の迷いに満ちた言葉を思い出し、たまらず舜海は勢い良く立ち上がった。盃をひっくり返して、一目散に道場を駆け出してゆく。


 取り残された柊は、ため息を吐きながら肩をすくめた。


「めちゃめちゃ本気になっとるやないか」

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