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一 帰りを待つ者

 今更、一人になんてなれない。

 孤独が怖い。

 弱くなったもんだ、俺も。


 いや、そもそも強くなんか無かったのだ。

 いつも、そっと誰かに守られていることに、気付かなかっただけだった。

 



 ✿




 千珠は、一足先に三津國城へ戻って来た。



 海と山に守られた平和な国。

 十六夜の月明かりに浮かび上がる、美しい国。

 俺が切り殺した人間たちの命と引き換えに、守りたかったのは、この場所……?



 千珠は音も無く、青葉の寺に降り立った。

 千珠が瀕死の怪我を負い、介抱を受けた離れの小部屋。



 花音かおん、どうしてるかな。



 ふと、千珠の頭に少女の笑顔がよぎる。




 もうすぐ夜が明ける。

 千珠はふと、このままここを去ってしまおうか、と思った。

 そうしたからといって、行くあてもない。

 かといってこの場にとどまり、人間達の情念に巻き込まれることも、千珠にとってはどこか恐ろしいことだった。



 迷っていた。

 足元がふらつきそうに、不安だった。



 千珠がどうすることも出来ずにぼうっと離れの前に佇んでいると、がたがたと戸の開けられる音がした。

 はっとして千珠が身を硬くすると、そこには花音の姉のような存在である由宇が、箒を持って姿を現すところであった。寺で生活している女たちは、夜が明ける前に動き出すのだ。

 由宇は花音が一番懐いていたこともあり、この女の顔だけは千珠も覚えている。


 山際から太陽が顔を覗かせ、中庭に一条の光が差し込み、千珠は一瞬眩しさに顔をしかめた。朝日が千珠の銀髪をきらきらと輝かせる。

 由宇もまたやや眩しげに顔を上げ、そして千珠の姿をその目に捉えると、すぐさま表情を明るくする。

「まあ、千珠さま……!」

 由宇は安心したような笑顔を浮かべて、小走りに千珠に近寄ってきた。


「由宇殿」

「はい。ご無事だったのですね。おかえりなさいませ」

 由宇は深々と頭を垂れた。

「皆様、無事に帰ってこられるのですね」

「はい。戦は終わった」

「ありがとうございました。千珠さまのおかげでございます。こんなに早く戦が終わるなんて。本当に、良かった……!」

 由宇は安堵ゆえの泣き笑いの表情で、千珠を見上げる。千珠はどんな顔をしていいのか分からず、ただ由宇の足元を見つめていた。


 ーー優しげな顔の女。皆を心配して、不安な日々を過していたのだな……。


 千珠は、やや垂れ気味でおっとりとした由宇の目に涙が滲むのを見つけ、思わず付け加えるようにこう告げた。

「夕刻には光政殿も戻られる。舜海も」

「そうですか。それをいち早くに知らせに来てくださったのですね」

「いや、そういうわけでは……」

「さ、中に入ってお休みになって。すぐに何か暖かいものを持ってきますから。夜露で冷えましたでしょう?」

 宇佐の手が千珠の袖に触れ、中に入るように急かした。

「さぁ、お早く」

「……」


 千珠は何も言わず、頷く。由宇はにっこりと笑った。

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