表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/45

二 半妖の鬼

 光政は本丸にて一人酒を飲んでいたが、不意に現れた千珠に気づくと、微笑んで手招きをした。


「軍議は退屈か」

「ああ」

「まぁ、無理もないか」と、光政は苦笑した。

「お前が途中で消えたもので、叔父上が腹を立ててな」

「ふうん」

「あの方はやたらと形式や規律にこだわるのだ。お前も、叔父上の前では大人しくしておいたほうがいいがいいかもな」

「お前がこの国の主だろう?何故、そんなに気を使う必要がある?」

 光政は一口酒を飲むと、また苦笑した。


「あの方は父の弟君だ。本来ならば、若かった俺ではなく、叔父上が家督を継ぐはずだったのだ。しかし、父の遺言で俺が家督を継いぐこととなった。それ故、あまり仲良くというわけにはいっていない」

「へぇ」

「唯輝は気性が激しいから、俺が当主となって正解だと思っている。しかし、昔からの重臣たちの中には、それを快く思わぬ者もいる」

「人間は色々と面倒だな」

「まぁな。しかし、私を推し立ててくれる者もいる。父上の徳のおかげだ。それに今回は、お前という強力な家臣を得たのだ」

「ふん、どうだかな」


 千珠は素っ気ない返事を繰り返しつつも、光政のそばからいなくなろうとはしなかった。光政はくいと盃を煽って酒を飲み干す。

「……お前がしがらみとは関係ない存在だからかな。俺は初めてだ、こんなことを話して聞かせたのは。少しすっきりしたぞ」

 光政は千珠に微笑みかけると、千珠はふいと目を逸らす。


「お前には奥方がいるのだろう。その女に話せば良いものを」

「紗代は……ああ、妻の名だ。あいつは下級公家の娘でな、賢い女なのだが、色々と意見してくるのが今は煩わしく、どうも気が休まらない。最近は戦だなんだと忙しいから、里に帰しているしな」

「ふうん……」

「千珠、もう少しここで俺の酒の相手をしろ」

「……あぁ」

「お、文句を言うかと思っていたが。これも契約のおかげか?」

と、光政は千珠の素直な返事を聞いて笑った。

「別に、これくらいのこと。断る理由もない」

 千珠は光政に近寄って座ると、酒を注いでやった。光政は蝋燭の明かりに照らされた千珠の顔を、間近でしげしげと見つめた。


 こんなにも美しい者を、今までに見たことがあっただろうか。

 深く影を落とす長い睫毛に縁取られた、琥珀色の宝石のような瞳、少し厚みのある赤い唇、蒼白くなめらかな肌、腰の辺りまでを覆う絹糸のような銀色の髪。

「何見てる」

 千珠は光政の方を見ずにそう言った。

「お前はじろじろと見られるのが嫌いだな」

「当たり前だ」

 千珠は憮然として、居心地悪そうにそっぽを向く。

「しかし、その顔に見惚れない者のほうが珍しいと思うぞ」

「……」

 千珠は気恥ずかしそうに、目を伏せる。

「白珞族は皆美しいのか?」

「いや……顔形は普通の人間とさして変わりはない。俺の母君が特別美しかったというだけだ」

「ほう……」

「里の中でも、一二を争う強力な妖力を持っていたそうだ。自分よりも強い男の子を生むと言っていたとか」

「そうか。じゃあお前は、良い血をもらっておるのだな」

「……母は人間と契りを結び、俺を生んだ」

「え?」

 光政は驚きのあまり、盃を取り落としそうになった。千珠は酒を注ぎながら続けた。

「戦に出ていた母はその帰り道、朝廷の神官であった父と出くわした。二人は戦い、母は人である父に負けたのだ」

「……」

「しかし、父はとどめをさせなかった。歳若く、心優しい父は、人の姿に近い我等を非情に打ち倒すことが出来なかったそうだ」

「その神官の子がお前?ってことは……」

「俺は完全な鬼ではない。半妖なのだ」


 光政はしばらく言葉も無く、千珠を見つめた。千珠は光政を見ると、「がっかりしたか?」と無表情に尋ねる。


「いや……むしろ少しほっとした。少しでも、同じ人の血が流れているのだろう?」

「ああ。心配することはない、俺の力は確かだ。里でも負けたことはない」

「それを聞いて安心した。しかし、半妖というのはなにが違うのだ?」

「致命的だ」

「なんだ?」

 光政は千珠の言葉に、身構える。


「満月の光が夜空にある間、俺は只人となる」

「人間、に?」

「妖力も、鉤爪も、宝刀も、なにもない普通の人間に落ちる。そうなってしまうと、俺は何もできない」

「どうするのだ?そんな時、敵に襲われでもしたら……」

「里では……いつも族長であった祖父と夜明かしをしていた。しかし、今はどうしようもない」


 このような美しい子どもを放っておいたら……この戦の最中、血に猛り女に飢えた兵士たちがたむろする戦場で、どうなるかは安易に想像がつく。


「その時は、俺のそばから離れるな。俺のそばにいれば、なんとでもしてやれるだろう」

「……しかし」

「しかしもくそもない。いいな、絶対に離れるなよ」

「……分かった」

 千珠は、光政の勢いに押されて、頷いた。

「よし」

 光政はぐいと酒を煽ると、美味そうに息をつく。


「戦が始まる。……お前、花音と随分仲が良くなったらしいな」

「舜海に聞いたのか?」

「ああ。仲良くしてやってくれ、あいつも俺の妹のような存在だ。辛く悲しい思いはさせたくない」

「……そうか」

 千珠はぽつりと応じ、また光政の盃に酒を注いだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ