04
あれから10年。
あまりにもおそかった。
シャワーを浴び、部屋に戻る。
部屋はすっぱいにおいと獣のにおいで充満し、胸のむかつきを誘う。
転ばないように布団をふまないように、足元に気をつけながら窓を開ける。
窓から流れる新しい空気は、私の気持ちを少しだけ軽くした。
窓によりかかりながら悲惨な部屋の様子を眺める。
― さあ、片づけなければ。
数十分、何もせずにぼおっとして、ようやくやる気になった。
布団は…もう、いい。粗大ごみだ。もどしてしまった部分を軽く処理し、丸める。明日は粗大ごみの日。そのまま捨ててやる。
布団とともに捨てられるものを考える。冷蔵庫、テレビ、オーブン…この部屋の中には、あいつにもらったものでうまっている。
あいつは、彼女の持ち物は自分が買うものだと常に言っていた。
― うん、全部いらない。
反対に必要なものだけを考える。
衣装ケースにある下着、会社の制服、化粧品、学生時代に買った本。
思いつくものからゴミ袋にいれていく。スーツケース?そんな便利ものは置いていく。それもあいつが買ったものだ。
結局、ゴミ袋は一枚だけで事が足りた。
時間はすでに1時を過ぎている。
近隣には申し訳ないが、粗大ごみを捨てさせてもらおう。
布団を捨てた後、たくさん必要物がつまったゴミ袋を引きずり、車に放り投げる。
アパートの鍵はポストの中に入れておいた。
車を都心に向かいひたすら走らせる。
2時間ほど過ぎただろうか、車を一つの小綺麗なマンションの駐車場にとめる。
「お帰りなさいませ」
24時間営業のフロントが私を出迎える。私が担ぐゴミ袋を見て運ぶのを手伝おうとするが、首をふって断る。
ありがたいが、綺麗な制服にゴミ袋は似合わない。
預けていた鍵をもらい、部屋に向かう。部屋番号は203。
ドアを開けると、ひろびろとしたリビング。自分で選んだカーテン。自分で選んだ観葉植物。自分で選んだ掃除機、テレビ、冷蔵庫、炊飯器…。私が選んだものたちが、色が、私を出迎えた。
ベッドだけが足りないけれど、それも時期に解決するだろう。
ゴミ袋を寝室に放り投げ、リビングのソファに寝そべる。寝そべって天井を見上げるだけで、笑いがこみあげてきた。
― 私は自由だ。