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第四話:結婚したくはありません

◇後野まもり・朝◇


 私はカリナの悲鳴で目を覚ました。

 身を起すと、カリナが目を押さえて転げ回っていた。

 ミケが、何処か得意げに振り返る。

 どうやら、私を起こそうとしたカリナの両目をミケが攻撃したらしい。

「おはよう、ミケ」

 ミケが返事をする。

「陛下! こんな凶暴な猫は追い出すべきです!」

 カリナが叫ぶが、異様に顔を近付けて私を起こそうとするカリナを気味悪く思っている私は、ミケを褒めたい位だ。

 一度は目が悪いのかと思ったが、仮にそうだとしても、起こすぐらいであそこまで顔を近付ける必要は無い筈だから。

「カリナ。御使い様を追い出すなんて、罰当たりな…!」

 騒ぎに気付いてやって来たクリノが、非難の目で見る。

「だって、目潰しされたのよ!」

「怒らせるような事をしたんじゃありませんか?」

 同じくやって来たケルナが、カリナに非があるのではないかと言う。

「何もしていません! 陛下を起こそうとしただけ!」

「でも、攻撃の前に威嚇していたでしょう?」

「それは…でも、陛下を起こさなきゃいけないから」

 カリナは、ミケが威嚇していたのに近付いた事を認める。

「自業自得じゃないか。近付かなくても、何時もよりちょっと大きい声を出せば良かっただけだろう?」

 クリノが呆れたように言った。

「本当に。どうして、何時もあんなに顔を近付けるの?」

 私がそう言うと、クリノとケルナは顔色を変えた。

「…え? カリナさん、もしかして、そっちの趣味が…?」

「陛下に対して、何て恐れ多い…! 何もしていないだろうね?」

 ケルナは引き、クリノはカリナに詰め寄った。

「してないってば!」

「…本当に?」

 クリノは疑いの眼差しで睨み続ける。

「追及は向こうでして。私は朝食に向かわなきゃ」

 時計で時間を確認した私は、そう言って三人を追い出し、自分で着替える。

 イフィリアになってからずっと、私は自分で着替えて入浴も一人でしている。

 カリナが自分の仕事だからと手伝いたがっていたが、断固として断ったのだ。


 それにしても、変な夢を見たものだ。

 人が猫になって、その猫も消えるなんて。…重みも温もりも手触りもリアルだったが、私は夢として片付ける。

『なあ、アイディリア?』

「イフィリアです」

 後ろからの声に答えてから、私は、勢い良く振り向いた。

 昨夜の男が立っていた。

「だ、誰!?」

『ネルケ』

「名前を聞いているんじゃなくて! そうだ!」

 クリノを呼ぼうとした私の視界の端で、男は再び猫になった。

 私の脚に尻尾を絡める。

「…何なんだろう? 神様が私のような俗人の前に姿を現す訳無いし…」

 また人に変身した猫が、私を後ろから抱き締める。

『うん。アイディリアだ』

「イフィリアですって」

『イフィリアとは誰だ?』

「私ですよ」

 私と化け猫は、『アイディリア』「違う。イフィリア」と言う会話を暫く不毛に繰り返した。

「はっ! 朝食!」

 私はそれを思い出し、化け猫を放置して食堂へ向かった。



◇後野まもり・結婚の勧め◇


「結婚…ですか?」

 朝食の後、叔父から、そろそろ結婚相手を決めようと言われた私は、聞き返した。

「そうだ。記憶を失う前は、絶対に嫌と拒んでいたが、体力がある内に出産するべきだろうし、そろそろ、どうだ?」

 結婚願望なんて昔も今も無いし、子供を欲しいと思った事も無いし、痛いのは嫌いだし。

「嫌です。叔父様の息子か孫を養子にすれば良いでしょう?」

「それは、結婚して子供が出来なかった場合の手段だな」

 世の中には王位継承争いと言うものがあるのに、叔父は興味無いらしい。平和で良い事だ。

「候補者の肖像画も用意した」

「えー…」

 私は不満を隠そうともせず、そう呟いた。

 女王辞めて何処かへ行こうかな?


 叔父が従者達に運ばせて来た十枚以上の肖像画を眺める。

「気に入った者は居ったかね?」

 釣書も目を通したが、何れも立派な方々だった。何でフリーなんだろう? 貴族って子供の頃から婚約者が居るものなんじゃ?

「ですから、結婚したくないんですって」

「…前々から思っていたのだが、まさか、女性しか愛せないと言う訳では無いだろうな?」

 イフィリアは、そう疑われるぐらいカリナを特別扱いしていたんですね?

「まさか」

 私は否定して立ち上がる。

「兎に角、私は、キスなどの接触が嫌なので結婚しません」

 そう言いながら何となく窓辺に向かい、庭を見下ろす。

「後継ぎを作るのは王の義務だぞ」

 叔父の言葉を聞きながら、私は、庭を歩く二人の王国軍人に目を留めた。

 その二人は、銀髪だった。

 私がこの世界に来てから目にした人間は殆どが黒髪か茶髪で、赤毛と金髪は少なく(ケルナが赤・ヨワルト夫人が金だ)、銀髪に至っては一人もいなかった。

「叔父様、この国では銀髪は珍しいのですか?」

「ん? ああ、珍しいな」

 叔父はそう言うと、私の隣に立った。

「やはり、マグリタ将軍とファルタ将軍か」

「将軍? 結構若く見えますが?」

 若いと言っても10代では無い。30代前後だろうか?

「マグリタ家とファルタ家は先祖代々王国軍人で、歴史に名を残すほどの戦功を挙げた者もいる。だから、優遇されているのだよ」

「…もしかして、猫を盾に攻め込まれた際に、猫を傷付けずに戦ったとか?」

「そうだ。習ったのか?」

「ええ。そう言う事があったとだけ」


 結婚したくない私は、叔父に言う。

「あの二人をホモカップルにして良いなら、結婚しても良いですよ」

 こんな我儘が通る筈は無いと解っているが、それだけ結婚したくないのだというアピールだ。

「我儘も控えめになって、大変結構」

 これが控え目?! イフィリアは、どれだけ暴君だったの?!

「では、早速。あの二人を呼んで来なさい」

 叔父はそう従者に命じた。

 …ごめんね。二人共。こんなに結婚させたがっているとは思わなかったよ。


「それで、誰と結婚する?」

「…あの二人で」

 ホモカップルにするだけじゃ申し訳無いので、そう決めた。

「あの二人は愛人にしなさい。貴族の中から選ぶように」

「嫌です。妥協してあの二人です」

 叔父は溜息を吐いた。

「もし、銀髪が好きなら…ユミリア王国の第二王子が銀髪らしいが、どうかね?」

「ですから、嫌です」



◇後野まもり・側室◇


「と言う訳で、貴方達二人は私の愛人兼生贄に決定しました」

 そう告げると、二人は顔色が悪くなった。

「男でも側室と言うのかしら? まあ、嫌だとは思うけれど、宜しくね」

 二人は顔を見合わせて、小さく承諾の返事をした。

 そこへ、化け猫人間バージョンが現れ、二人の周りを回って品定めするように眺め回した。

 それなのに、誰も見えていないかのように無反応である。

 実際、見えていないのだろう。化け猫だし。しかし、何故、私にだけ見えるのか?


「陛下! 側室を迎えるって、本当ですか!?」

 私室へ戻ると、カリナが血相を変えて詰め寄って来た。

「本当よ」

「そんな! 結婚しないって仰っていたじゃありませんか!」

「カリナ。お前が怒る事じゃないだろう」

 クリノがカリナを窘める。

「それは、でも…陛下は男性不信なのに」

 ああ。そう言えば、側近二人が襲う計画立てていたんだっけ。…何で、発覚したんだろう?

「大丈夫。忘れたから」

 でも、私のトラウマは多分治っていない。イフィリアと違って自分が狙われた訳じゃないけれど…。

 まあ、結婚する気が無いのはその前からだけどね。

「…どんな人なんですか?」

 カリナに尋ねられ闇討ちする気かと思ったが、疑い過ぎだろうか?

「マグリタ将軍とファルタ将軍よ」

「…あ…そ、そうですか」

 (戦闘力的な意味で)勝ち目が無いと思ったのか、カリナは意気消沈して引き下がった。

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