第十二話:元の世界に帰れるそうです
◇後野まもり・双子◇
あれから数ヶ月が経った。真冬である。寒くて嫌になる。
クリノ達の死刑は疾うに執行された。虎に食われたのはクリノだけで、彼の両親は昨年の前例と同じく絞首刑であった。
食われる前にクリノが私がアイディリアだとばらしたが、特に何も問題は起きなかった。
大臣達にクリノの言葉を信じたかどうか確認してみた所、記憶喪失と言う事で頭痛で意識不明になったアイディリアかもしれないと思ったらしいが、暴君でなくなったからどちらでも良いかと思ったらしい。
つまり、もしアイディリアに殺害されたのだとしても、暴君だったのだから自業自得と思われた訳だ。
一方、街では、アイディリアが意識不明になったのはイフィリアから毒を盛られたからで、ネルケ神が怒ってイフィリアとアイディリアの魂を入れ替えたと言う噂が流れたらしい。
冤罪で処刑された二人とその家族については、クリノの処刑の際に冤罪だったと公表した。処刑記録にも追記させ、遺族に賠償金を渡した。
その行動が、今の女王はアイディリアに違いないと噂に真実味を与えたようだった。
イフィリアなら、賠償金なんて払う筈が無い。例え、記憶を失っても。…そう思われているらしい。
サルディンのアレはどうなったかと言うと、あの後直ぐに、彼の元に人食い虎が現れ彼ごと食べられてしまった。虎が立ち去るのを目撃したシズレインによると、虎の背に猫型のネルケが乗っていたらしい。
後でネルケに、レイプ犯は必ず死刑にした方が良いのかと確認した所、ネルケの血を引く犯人は死刑にしろと言われた。ネルケ神は男に厳しい。
「カリナの出産予定日まで、後、一ヶ月ね」
私はそうケルナに話しかける。彼女は私の侍女兼護衛となった。
「そうですね。あちらも双子だそうですし、無事生まれると良いのですが…」
あの後知ったのだが、他国の多くで異性装自体が罪になるらしい。死刑になる国もあるとか。
「そう言えば、無神経と思いますが、『双子は不吉』と――ネルケ神がそう仰ったとかで――言われているんですが、クリノ達はその所為で、レイプ犯になったり・被害者になったりしたのでしょうか?」
私は、執務机の上にいるネルケに尋ねた。
「そうなのですか、ネルケ神?」
最早、私がネルケ神の姿が見えると言うのは周知の事実なので、ケルナも気にしない。寧ろ、今の疑問はネルケ神への質問だろう。
『双子が不吉と言ったのは、産むのが大変だから』
ネルケは人に変身して答えた。
「出産のリスクの事ですって」
「そうだったのですか」
ケルナは何だか複雑そうな表情だ。知り合いに、双子が生まれて不吉だと片方を殺した人でもいるのだろうか?
「私の出産はネルケ神が助けてくださるけど、カリナは心配ね」
カリナは、軍人として貰った給料を全額返還させられ・クリノの所為で家も財産も没収された上に妊婦なので、生活はかなり苦しいだろう。
『アイディリア。カリナの子供が生まれるぞ。名前を付けるから、呼べ』
早産?! いや、それより、呼べって…。
「え?! 今直ぐ?!」
『別に、床上げ後でも良いが』
◇後野まもり・命名◇
数週間後。目の前には緊張した面持ちのカリナが双子を抱いている。やつれているのは出産の所為か・生活が苦しい所為か? …両方か。
この場には、血縁であるラハルト一家も呼んである。叔父はあの後から自発的に閉門蟄居していたが、女王命令で呼んだ。夫人とシズレインは任意だったが、二人とも来ている。
「子供達を飯詰に寝かせなさい」
「…はい」
カリナは白い顔で観念したように、それ用の布団を敷いた籠に寝かせた。
「…どうして、オッドアイじゃないの?」
サルディンの子供で国内で生まれたと言うのに、双子はどちらもオッドアイでは無かった。
「解りません! 私は他の男とは…!」
必死にカリナが訴えるが、誰もが信じられないと言う表情を浮かべていた。
『アリディリア』
ネルケが話しかけて来た。
『無理矢理だとオッドアイにならない』
どんな遺伝子だ。
「ネルケ神が仰るには、強姦だとオッドアイにならないそうです」
そう伝えると、カリナは安堵の表情となり崩れ落ちた。
親戚の女性が助け起こす。
「でも、どうして、ネルケ神が、王族の血を引くとは言えクリノの姉の子に名前を?」
ラハルト夫人は訝しげに口を開いた。
「私にも分かりませんが…」
私がそう答えている間に、ネルケが赤子を指差した。
『こちらが、タリノ。そちらが、チカノ』
「こっちがタリノで、もう一人がチカノ…って、その名前は!」
ネルケの言葉を伝えてから気付いた。叔父達も蒼白になっている。
「クリノが冤罪で処刑させた二人の名前…まさか、生まれ変わり?」
『そう。弟の代わりに償い』
縁座ですか?
「クリノの罪の償いだそうです」
「それは、つまり…妊娠もネルケ神が?」
シズレインが、気の毒そうにカリナを見ながらそう尋ねた。
『授精は出来るが、転生はさせられない』
「彼等がカリナの子として転生したのは、ネルケ神の預かり知らぬ事だそうです」
でも、他の神に頼んだ可能性が無いとは言えないよね。
「偶然なら、何故償いに?」
『弟は処刑だから』
「…偶然カリナの子として転生したので償いとしてクリノに育てさせようと思ったけれど、クリノが大逆罪を犯したので、代わりにカリナが育てるようにと」
「そう言う意味でしたか。では、捨てたり・養子や里子に出したりしてはいけないと」
シズレインの言葉を、ネルケは頷く事で肯定した。
帰り際、ラハルト夫人がカリナにお金を渡していた。サルディンがレイプした事での慰謝料だろうか?
◇後野まもり・産後◇
春になった。私がこの世界に来てから一年が経とうとしている。
つい先日、双子の出産を終えた。ネルケのお陰で全く痛みが無かったのは有難かった。
『こっちが、セレガノの子。こっちがスラノの子』
ネルケがそれぞれを指差して教えてくれた。父親違いの双子は、自然妊娠では珍しいだろうな。
二人に娘達を抱かせ、ふと、ある事を思い出した。
「そう言えば、貴方達が元々付き合っていたと言う噂があるとクリノが言っていたけれど、作り話よね?」
「…いえ…噂自体は確かにありました」
スラノが否定した。
「私に振られた女性が、『この美しい私を振るなんてホモなんでしょう!』と怒って吹聴したんです」
「それは災難だったわね…」
「ですが、幸い、彼女は人望がありませんでしたから、信じた人は少ないようです」
◇後野まもり・当選◇
後継ぎも産んだ事だし、もう自分の世界に帰っても良いよね? 帰る事が出来るなら。
「ねぇ、ネルケ。実は私、異世界から来たの」
私室でネルケと二人きり――ミケはいるが――の時に、私はそう切り出した。
『知ってた』
「…そ、そう…。元の世界に帰りたいんだけど、出来る?」
希望を込めてそう尋ねると、ネルケは頷いた。
『死んでからなら』
死んでから?! …自殺はしたくないな…。
『でも、元の身体死んでいるのに、帰りたい?』
死んでいるのか…。その可能性は高いと思っていたけれど…。
「そりゃ…故郷だし…。でも、どうして、私はこの世界に? 貴方が呼んだの?」
『違う。上の抽選で』
『上の抽選』って何だ?! 上って上位の神様?!
「…応募してないけれど」
『募集はしていない』
そりゃ、そうですよね。
「あーあ。もっと女王を続けなきゃいけないのか…」
『頑張れ』




