第十一話:叔母様が怖いです
◇後野まもり・反撃◇
「ところで、仮に、貴方の言う通り私がアイディリアだとして、動機は何なのかしら?」
「そんなもの、権力欲だろう」
「アイディリアは、そんなに権力欲が強かったの? 例えば?」
私はそう尋ねたが、サルディンは具体例を上げなかった。
「特に何かあった訳じゃないが、これまで上手く隠していたんだろう。あのイフィリアと双子なんだから、性格だって似たようなものだろうしな」
「想像だけじゃ信憑性が無いわ。誰が信じるの?」
「偶々、ここにお前の味方しかいないだけだ!」
諦めないな…。
「セレガノ、スラノ。どう思う?」
「想像だけで根拠に乏しくとも、中には信じる者もいるでしょう」
セレガノはそう答える。
「想像だけで信じて貰えるなら、サルディン様を窮地に追いやる事も出来そうですが…」
スラノの言葉に、興味が湧いた。
「言ってみて」
「はい。サルディン様は、『記憶を失われる前の陛下』に強い不満を抱いておられました。暗殺を目論んでも不思議ではありません」
スラノはそう語り始めた。
「『クリノ』が女性と知ったサルディン様は、当然、『カリナ』が男性と気付いたでしょう。彼を脅迫、若しくは唆し、『陛下』をレイプさせようと企みました。その為に邪魔な側近二人を、無実の罪で処刑させたのです。レイプの目的は、『陛下』を自殺させる事でしょう。例のバスタブ血塗れ事件も、陛下に精神的ダメージを与える為では無いでしょうか? ところが、陛下は自殺なさらず、記憶を失ってしまわれました。そこで、恐らく自殺に見せかけて殺害しようとしたのが、例の暗殺未遂事件です。その結果、陛下には護衛が付けられ、躊躇している内に陛下が側室を置く事になりました。後継ぎが生まれる前に、暗殺を成功させたいと思った事でしょう。そこへ、『クリノ』が懐妊しました。女性だとばれないよう彼女だけでは無く、『カリナ』も実家に戻らなければなりません。彼が侍女を辞める事になれば、陛下を暗殺する事も難しくなる。また、『クリノ』と結婚するには、自分が王にならなければ難しいとも考えられたでしょう。身分を詐称して王国軍人となるのは犯罪ですし、しかも、双子の弟も身分を詐称し・陛下の侍女をしていたのですから。それに、万が一『カリナ』が捕らえられた場合、その家族である『クリノ』も縁座で処刑されてしまいますし。そこで、『カリナ』に、実家に帰る前に必ず陛下を暗殺するよう命じたでしょう。丁度、昨晩はケルナが戻らなかったので、『カリナ』は陛下を殺害しようとしました。陛下が事前に察知された為、失敗に終わりましたが。そして、『カリナ』が捕まり正体がばれたと知ったサルディン様は、陛下をアイディリア様と言う事にし・陛下殺害の大逆罪で処刑させようとしたのです」
サルディンは、スラノが言い終えるまで唖然としていた。
「こっちの方が、信憑性があるな…」
「冗談じゃない! オレは暗殺なんて企んでいないぞ!」
兵士の誰かが呟いた言葉で我に返ったらしいサルディンは、慌てて否定した。
◇後野まもり・ラハルト夫人◇
「サルディン、貴方は、想像で私をアイディリアとして処刑させたいようだけれど、その時は高確率で貴方もクリノの黒幕として処刑されそうね」
サルディンは私の言葉に、苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべた。
「それで、どうするの? 私を処刑させても、次の国王は叔父様よね? 叔父様がカリナを縁座で処罰しなかったとしても、身内が大逆罪を犯した人間を貴方の妻に認めてくれるかしら?」
私がそう言うと、叔父が口を開いた。
「私が王になろうがなるまいが、強姦を行ったサルディンは屋敷の牢に入れる」
刑罰は与えないのですか?
「勿論、一生出す気は無い」
それは厳しい。でも、万が一、王族が全滅したら出られるんだろうね。それで国王になれるんだ。忘れられない限りは。
「そんな…! 一度だけの過ちではありませんか!」
サルディンは、叔父に許しを乞う。
「我が国では、強姦魔は悪魔崇拝者と看做される。簡単に許せる罪ではないのだ」
幽閉しないなら処刑しろ・処刑もしないなら私刑で殺す…とか? 家族も迫害されるのかも。
「お前も知っていただろう!?」
「…それだけ、カリナが魅力的だったのです!」
男装女子萌えかな?
「だから、何だと言うのだ! お前のその態度を見て、誰が愛しさの余りの事だと信じるものか!」
サルディンは、25にもなって謝罪も出来ないのだろうか?
「…は、母上なら…」
「話は聞かせて頂きました」
突然の女性の声にそちらを振り向くと、何時の間に来ていたのか、ラハルト夫人とシズレインが居た。
「陛下、不作法をお許しください」
「ええ。でも、何故ここに?」
「シズレインが、『ネルケ神が城に来るようにと仰っている』と言いまして」
私の質問に彼女はそう答えた。二人の足元に視線を動かすと、猫型のネルケがいる。
「その黒猫がネルケ神?」
そう呟いたのは叔母だった。彼女にも見えるらしい。
「そうです。…ネルケ、どうしたの?」
ネルケは人型に変身した。
『会わせてやろうと思って』
「会わせる為?」
私が首を傾げていると、サルディンがラハルト夫人に助けを求めた。
「は、母上! 母上は、私の味方ですよね!? 父上は、私を生涯幽閉すると…!」
母親だからと言って、必ず子供の味方をするとは限らないのだが。
「そうですね。貴方の言う通り、彼女を愛していて、愛し過ぎてレイプしてしまったのでしょう。悪いのは…」
ラハルト夫人は、サルディンの股間を指差した。
「ソレよね? 我慢しきれないような人に、ソレが付いているのが悪いのです。切除しましょう」
「…は、母上?」
サルディンだけでは無く、ネルケ以外の全員が愕然としたと思う。
「じょ、冗談ですよね?」
「陛下、宜しいですよね?」
ラハルト夫人、怖いです…。狂気に満ちた目とはこんな感じだろうか?
「…そんな事しなくても、幽閉するのですからもう二度とレイプ出来ないでしょうし…」
私が恐る恐るそう言うと、ラハルト夫人は食い下がった。
「ですが、刃物や鈍器等の凶器は没収するのですから、コレもそうするべきでは無いでしょうか?」
「…確かに、過去に素手で絞殺した犯人の両腕を斬り落とした前例があるが…」
叔父の言葉に、私は驚いた。
「え?! 『記憶を失う前の私』がですか!?」
「いや、先代国王であった兄が命じた事だ」
この国は、犯罪者に人権は無いようだ。他の国も同じようなものなのだろうか?
「…後でじっくり話し合いましょう」
私はそう言うと、サルディンをラハルト家の地下牢へ連行するよう命じた。
◇後野まもり・恩赦?◇
「さて、死刑の日程についてだが」
サルディンが居なくなった事で怒りが収まったのか表情が和らいだ叔父が、そう口を開いた。
「我が国では、妊婦の死刑囚は出産を終えるまで死刑にする事は出来ない。カリナに合わせて処刑するか? それとも、カリナ以外は先に処刑するか?」
私はそう言われて考えた。
カリナの両親の死刑をカリナが出産するまで先延ばしにして、何か意味があるだろうか?
孫を見せる? 女王が命じれば、それも可能だろう。
ん? ネルケが私の側に来た。
『アイディリア。カリナは死刑にしなくて良いぞ』




