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第十話:人望が無いからです

◇後野まもり・夜明け◇


 クリノの両親と双子の姉であるカリナが、城へと連行されて来た。

 何故か、サルディンが一緒に居る。

「どういう事だ、イフィリア!」

 サルディンが私に怒鳴った。

「…兵から聞かなかったのかしら? クリノが大逆罪を犯したのよ。だから、彼等を縁座で罰します」

「そんな…!」

 息子がそんな罪を犯したと知った両親は青褪めた。

「まさか…処刑するつもりなのか!?」

 イフィリアが去年縁座で処刑にした事を思い出したらしいサルディンが、私の胸倉を掴もうとしてセレガノに阻まれた。

「止めんか、サルディン!」

 叔父がサルディンに怒鳴る。

「一体、どうしたのだ? 昨年はイフィリアを止めようとはしなかったというのに」

「それは…クリノ…いえ、カリナが私の妻となる人だからです」

 サルディンは自信に満ち溢れた様な表情――色好い返事が貰えたのだろうか?――で、体調不良の所為か・死刑となる未来に怯えてか、青褪めているカリナの肩を抱き寄せた。

「どういう事だ? カリナはずっとクリノの振りをしていたのだぞ?」

 叔父が訝しげに尋ねる。

「え?! そ、そんな…入れ換わりまでしていたなんて…!」

 何も知らなかったのか、カリナとクリノの両親は驚愕した様子だ。

「何時、女だと知ったのだ!?」

「…それは…」

 サルディンは言い淀む。

「レイプしようとした時ですか?」

 私は、軽蔑の目で睨んで言ってやった。言えないと言う事はそうなのだろうと決め付けて。

「…そうなのか? …何という事を…!」

 サルディンが否定しないので、叔父の顔に怒りが浮かんだ。

「誇り高きルクセント王家の血筋でありながら…恥を知れ!」

「しかし、私はただ、愛しさ故に堪え切れず…」

「それを恥じろと言うのだ! 妻となるべき人だの何だの、誇らしげに…企みが上手く行ったかの如き態度を取るものではない!」

 叔父に叱られたサルディンは、不満げな表情だ。

「カリナは私の愛を受けれいてくれたのです。嬉しく思うのは当然ではありませんか」

「脅されたとか?」

 彼の弟シズレインから、サルディンが弱みを握って関係を持った事を聞いていた私は、カリナにそう確認する。

 しかし、彼女は俯いて答えなかった。

「脅してなんかいない! 子供が出来たからだ」

 どこか嬉しそうにそう言ったのが癇に障ったので、近付いて引っ叩いた。痛くなさそうな音が響く。

「何をっ!?」

「嬉しいのは貴方だけよ。子供が出来たから、貴方と結婚するのが神が定めた運命だと思って諦めたんだと思うわ」

 私がそう言うと、カリナの頬を涙が伝った。

「嫌なのよね?」

 カリナは泣きながら頷いた。

「そんな…オレ程お前を愛している男はいないんだぞ! それなのに、どうして!」

 今度は叔父が引っ叩き、サルディンはよろめいた。流石、男の力である。私が非力なだけかもしれないが。

「お前と言う奴は…! 何処の世界に、強姦した男を愛する人間がいるか!」


「叔父様、サルディンはきっとそういう特殊な性的嗜好なのですわ。試してみましょう」

 私がそう言うと、叔父は察したのか張形を取り出した。

「サルディンを拘束しなさい!」

 女王の命令に、兵士達は従う。

「な、何をする!」

「はい、カリナ」

 私は、カリナに張形を差し出した。

「貴方を愛しているサルディンに、コレを入れて上げなさい」

 カリナは呆然として受け取り、サルディンに視線を向けた。

「無理矢理入れても愛が失われないか、試してみましょう。粘滑剤は無いけれどね」

「じょ、冗談だろう?!」

 サルディンが怯えた様子で私に尋ねる。

「どうして? 世の中には愛しさ故に、夫にコレを入れたがる妻もいるそうよ?」

「カリナはそんな性癖じゃない!」

「どうしてそう思うの? カリナは男になりたくて、男の振りをしていたんでしょう? だったら、入れたいと思うんじゃないかしら?」

 私がそう言うと、カリナは張形を見下ろした。

「…そ、そんな事無いよな、カリナ?」

 サルディンが怯えたようにカリナに尋ねると、彼女は私に視線を向けた。

「私…は、ずっと…男に生まれたかったと、思っていました…どうやら、違ったようです」

「そう。ただ、剣術や男装が好きなだけだったのかしら? でも、サルディンは男だし、心が男なら男に性欲が湧かなくても普通よね? レイプされたトラウマの所為かも知れないし」

 そう言うと、カリナは考え込んだ。



◇後野まもり・追及◇


「お前にオレを責める資格なんて無いんだぞ!」

 サルディンが、私に向かって不満を口にする。

「お前だって、無理矢理そいつ等を男同士でキスとかさせたんだろう! それなのに、オレを責めるなんて何様だ!」

 何様と言われても…。

「女王様ですよ?」

 サルディンは、イフィリアが女王だと忘れているのだろうか?

「そう言う事が言いたいんじゃない!」

「サルディン、好い加減にしないか! お前は常々イフィリアを批判していたな。我儘で自分の事しか考えていないと。それなのに…自分勝手に女性をレイプしておいて、自分を責めるなとは、お前こそ何様のつもりだ!」

 激怒した叔父がサルディンを殴って、そう怒鳴った。

「そもそも、結婚したくないイフィリアが出したその条件を認めたのは私だ。私が認めなければ、イフィリアはそんな事をしなかったのだ」

「ですが、した事には違いないではありませんか! 第一、その女はイフィリアではありません! アイディリアです!」

 サルディンの言葉に驚いたのは、当然、事情を知らないカリナ達のみだった。

「何を根拠に?」

 叔父がしらばくれて尋ねる。

「イフィリアの胸には、猫の引っ掻き傷が残っています。…セレガノ、スラノ、こいつの胸には無かっただろう?!」

 しかし、二人は答えずにソッポを向いた。

「私の胸に傷が無かったとしても、この二人は、『記憶を失う前のイフィリア』の胸に傷があるのを見た事が無いのに、それを信じるかしらね?」

 私の言葉に、サルディンは、何故こちらを信じないのかと不満げな表情を浮かべた。

「そもそも、貴方、どうして、イフィリアの胸には猫の引っ掻き傷が残っていると言えるの? 無理矢理見たとかだと処刑されたでしょうし、着替えか入浴を覗き見たのかしら?」

「オレはそんな事しない!」

 サルディンは力一杯否定する。

「じゃあ、何故そう言えるの?」

「お前がアイディリアだと思ったから、イフィリアにアイディリアとの黒子等の相違が無いかとクリノに尋ねたんだ」

「それが事実だとしても、クリノが本当の事を言ったとは限らないわ。貴方が私に気があると思って、幻滅させようと傷があると嘘を言ったのかもしれない」

 サルディンは、何か反論出来ないかと考え込んだ様子だ。

「…だったら、アイディリアの墓を暴けばはっきりする。引っ掻き傷が無くても、殺された痕がある筈だ!」

 棺の中に入っている死体は、二ヶ月でどれぐらい腐敗するのだろう。見たくないな…。

「その前に、クリノに確認しましょう」

「別にしなくても良いだろう!」

 サルディンが慌てた様子で言った。どうやら、クリノから聞いたと言うのは嘘のようだ。

「貴方の願望に過ぎないのであれば、墓を暴く事は許可出来ません」

 叔母が溜息を吐いてからそう言った。

「疾しい事が無いなら、見せても問題無い筈!」

「疾しく無くとも、普通は、安らかに眠っている身内の墓を暴かれたくはないものです」

「それで、潔白が証明されるとしても?」

「そうね。疑っているのは、貴方だけだもの」

 叔母の言葉に、サルディンは兵士達を振り向いて同意を求めた。

「お前だってオレの説明で疑っているだろう!? イフィリアを殺して成り代わったアイディリアかもしれないと!」

 しかし、同意する者はいなかった。

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