第九話:所詮、我が身が可愛いのです
◇後野まもり・回想終了◇
「レイプ? 私達は愛し合っていたのよ」
床に転がされたカリナ…いや、本当の名はクリノだ。彼は私を睨み上げて、そう言った。
「夫婦だろうが、無理矢理ならレイプだわ」
「そんなのおかしい! 愛する人に抱かれるんだから、嫌な訳無いじゃない!」
トラウマとなった事件を思い出した私は怒りに歯を食いしばり、叔父に話しかけた。
「…叔父様、頼んだ物を」
叔父は、懐から紙に包んだそれを取り出した。
私は紙を開きながら、クリノに言う。
「知ってる? 世の中には、女性が男性の後ろにコレを入れる夫婦もいるんですって」
取り出したソレ…男性器を模した張形を見せる。
「…え?」
「愛しているんなら、嫌じゃないわよね?」
「ちょっ?! 冗談でしょう!? そんな普通じゃない事、嫌に決まってる!」
縛られた身体で逃げようとするクリノを、セレガノとスラノが押さえた。
「レイプだって、普通じゃないわ! 大体、愛し合っていたと言うのは、貴方の証言しかない。イフィリアは貴方を特別扱いしていたけれど、それは友情によるものかもしれない」
「本当に愛し合っていたの!」
「それが本当だとしても、貴方を女だと思っていたからでしょう?」
「性別なんて些細な事じゃない! それより、どうして、自分の事を名前で呼ぶの?」
「私はアイディリアだからよ」
クリノは唖然とした表情を浮かべる。
「アイディリア様? 嘘でしょう!? じゃあ、あの血は…!」
「そうよ。イフィリアの血。貴方にレイプされた所為で自殺したの!」
「そんな…だって、愛し合っていたのに、あれぐらいで?!」
「あれぐらい?」
私は益々怒りを感じ、セレガノに命じた。
「クリノのズボンを下ろしなさい!」
「嘘! 嫌よ! 止めて!」
「これぐらい、大した事無いんでしょう?」
私は、青褪めて嫌がるクリノを睨み下ろしてそう言った。
「だって、入れる場所じゃないし!」
「入れる場所だって、無理矢理は嫌なんだよ!」
私は、張形をクリノに向かって投げる。
「どうせ、愛していたなんて嘘なんでしょう?」
「違うわ! 私は本当に…!」
「イフィリアが、女王でも王族でも無いただの町娘だったとしても、愛したのかしら?」
「…え? そりゃあ…勿論…」
クリノは、歯切れ悪く答える。
「貴方は私に、貴女なんかの味方は自分以外に誰もいない・何も出来ない癖にと貶したわよね? そうやって、イフィリアを洗脳したんでしょう? それが、愛する人への態度かしら? 貴方が愛しているのは自分だけよ」
「ち、違います! 私は本当に愛して…」
クリノは涙目でそう訴えるが、恐怖からなのか・同情を誘う為の芝居なのか・否定されたのが悲しいからなのかは判らない。
「自分の言いなりで・決して反抗せず、好きに貶す事が出来て・性欲処理も出来る…貴方はイフィリアをそういう存在として愛していると言っているの。貴方が言う愛しているって、奴隷にするって事よ!」
「違う!」
「それなら、どうして貶したの? 貴方に反抗せず言いなりになるように変える為だったんでしょう?」
クリノは否定出来ないのか、視線を逸らした。
「貴方にとって、愛する人とは、自分の言いなりでなければならない存在。貴方にとって、愛しているとは、性奴隷にしたいって事よ」
「違うの! どう言ったら信じてくれるの!?」
愛する人が自分にレイプされた所為で自殺したと言うのに、愛する人にならレイプされても嫌じゃない筈と思い続ける男の口先だけの言葉を、一体、誰が信じると言うのか?
「そんな簡単な事も分からないの? イフィリアは、裏切られても貴方に自首の機会をくれたのに!」
きっと、愛していると言う気持ちは嘘じゃないと信じて、反省して自分から死刑を受け入れるだろうと思ったのだろう。
「自首の機会だなんて…判る訳無いじゃない! アイディリア様は陛下と瓜二つなんだから! 陛下の死体がそのまま有ったら、反省したわ!」
自首はしないのか。
「次の奴隷は自殺させないようにしようと、反省するのかしら?」
「酷い! アイディリア様なんか大嫌い!」
「嫌いで結構。奴隷扱いなんてされたくないし」
私がそう言うとクリノは泣き喚いたが、その所為か何を言っているのか判らなかった。
「淫乱女!」
最後にはっきりそう怒鳴ったクリノは、セレガノに殴られた。
「淫乱とはお前の事だ!」
「まあ、確かにね…側室が二人いるのは淫乱よね。でも、私は一人じゃ満足できないから二人にした訳じゃない」
私はそう言いながらクリノに近付いた。
「仰向けにして」
セレガノとスラノは、クリノを仰向けにする。
「貴方のようなレイプ犯の所為で、普通には興奮しなくなったからよ!」
私は、右足でクリノの股間を蹴った。死ぬ事もあるらしいが、そんなに強く蹴っていないから大丈夫だろう。
「アイディリア…まさか、貴女も誰かに?」
叔母が心配そうに尋ねて来た。
「少し、事件に関わっただけです」
「そうなの?」
「そうです。それだけでトラウマになるんだから、イフィリアはどれだけ辛かったか…」
いや、まあ、セレガノとスラノも辛かっただろうけれど。悪いとは思っているけれど。
ネルケ神が許したって、私は奴等と同類だ。…処女を貫ける立場だったらなぁ。
◇後野まもり・刑罰◇
「それで、処刑方法は?」
私は叔母達に尋ねた。
「我が国の大逆罪の処刑方法は、生きたまま虎の餌です」
叔母が答える。
「じゃあ、一年前の未遂事件も?」
「あの二人の時は、何故か虎が食べなくて、その場合ネルケ神が許したとして釈放されるのだけど…イフィリアは許さなくて…獄門に」
叔母は辛そうに眼を伏せた。
「彼等は無実だと訴えていたわ」
「…彼等がイフィリアをレイプしようと計画していたと、どうして発覚したのですか?」
「カリナ…いや、クリノが立ち聞きしたのだよ」
叔父がそう答えたので、私は未だ悶え苦しんでいるクリノを見下ろした。
「冤罪を着せたの?」
「…別に」
「もう一回蹴ろうかな」
私はそう脅した。
「や、止めて! 本当の事言うから! 陛下と深い仲になる為に邪魔だったの! でも、あいつ等だって狙ってたに決まってる!」
「貴方じゃあるまいし」
「あいつ等だって私と同じよ! イフィリア様は美しいんだから、誰もが手に入れたくなる!」
「同じ? 貴方は、全ての男が女をレイプするとでも思っているの?! 大多数の男は、レイプなんかしないわよ」
「そんなの、罰せられたくないからでしょう!」
全ての男が女をレイプするのが普通なら、強姦罪など存在しないだろう。
「つまり、貴方は罰せられる覚悟を持ってレイプしたのね?」
「…そう言う訳じゃ…」
クリノは、漸く自分が死刑になる事に気付いたらしく、蒼白になった。
「許して下さい、アイディリア様! 陛下を愛する余りの行動だったんです! 悪意によるものじゃないんです!」
「…悪意があろうが無かろうが、未遂でも処刑される罪を既遂しておいて、何を言っているのかしら? しかも、他人に濡れ衣を着せて死刑にさせておいて、厚かましい!」
「そうですよ。恥を知りなさい! 彼等の家族も縁座で処刑されたと言うのに!」
叔母の言葉に、私は驚愕して振り向いた。
「家族まで処刑するのですか?!」
私の質問に叔父が答えた。
「我が国では、縁座は基本的には死刑以外の罰なのだが、国王の裁量によって変わるからな…」
そんな…どうしよう? 罪の無い人を死刑にはしたくない…私はそう思った。
しかし、女王イフィリアは、レイプを計画していた――と思われていた――側近二人の家族を縁座で処刑している。既遂したクリノの家族を処刑しないのはおかしいだろう。未遂より既遂の方が罪が軽いと言う事になってしまう。
しかも、クリノは彼等に濡れ衣を着せたのだ。そこまでしたクリノの家族を縁座で処刑しないで済む口実など、有るだろうか?
更に、女王はその所為で自殺してしまったし・私がイフィリアを演じ続けるとしても、クリノの所為で記憶喪失になったと言う事になるので、これで開き直って縁座の処刑はしませんとしたら、革命かクーデターが起きたりして…まさかね。でも…。




