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ちくわとこんにゃくと短編

誰もが一度は妄想する糸こんにゃくの活用法を書いてみた

作者: 朝美 夕

R15描写があります。閲覧にはお気をつけ下さい。

皆さん初めまして。糸こんにゃくです。生まれはこんにゃく工場です。


どうしてこんにゃくなのに自我があるのかって?私にも全くもって意味が分かりません。


こんにゃく工場で、糸こんにゃくに加工された私は、水のたっぷり入った袋に加工製品として梱包される正にその直前に、唐突に何の前触れもなく私が私であると気がついたのです。



私が私である――そう…糸こんにゃくであると――…



何を言っているか分からないかと思われますが、当人…いや当糸こんにゃくと言った方が良いのでしょうか?


当糸こんにゃくである、私自身が全くもって理解不明なのです。


とりあえず、まぁ意識もはっきりしていて、自分の意思で糸こんにゃくの沢山の糸状のこんにゃく部分も動かす事が出来た私は、仲間達が加工されていく姿を後に、こんにゃく工場から脱出した次第でございます。






初めて見る外の世界は正に、神秘と好奇に溢れる未知の世界でした。


芋として収穫されてから今日まで、工場でこんにゃくとして作られていく間、私の世界は、ただただこんにゃく工場だけだったのです。


工場の中で働く人間達は、真っ白の服に、髪の毛を覆う真っ白の帽子、そして人相が分からなくなる程に大きなマスクをした人達ばかりでしたが、外の世界はどうでしょう!!


皆さんお洒落な服を着こなし、女の人達は化粧をばっちり決めた美しい顔。男の人は、さっぱりした髪型でスーツがとても似合っています。何よりも、男女問わず賑やかではありませんか!!


こんにゃく工場といえば、全身白ずくめの女の人達が、流れ作業をしながら「ご近所の草壁さん、息子さんを有名大学に通わせる為に、パートを3つも掛け持ちしてるそうよ」だの「知ってる?芋洗い部署の畠山さん…同じ部署の係長さんと不倫してるそうよ〜」「加工部署の仲山さんてば、こんにゃく工場で働いてるのに、ちくわがお好きなんですって…」だの何だのと、ゴシップネタばかりを噂するおばさん達で溢れていたのです。


そんな閉じられた世界から開放された私は、新しい世界に胸をときめかせていました。


私は自由なのです。万が一私に自我が無ければ、今頃仲間達同様に、私もただの糸こんにゃくとしてスーパーに出荷され、どこかのお家のすき焼きの具材として買われ、短い一生を終えていた事でしょう。


ですが、私は今ここに――スーパーではなく、外の世界に羽ばたいたのです。


これはきっと神様が与えたもうた奇跡なのでしょう。


私は、神様が与えて下さった自由を糸こんにゃくとして謳歌しなくてはなりません。でないと出荷されて行った仲間達にも申し訳が立ちません。


しかし、私には糸こんにゃくとして生きていく為に、どうすれば良いのか分かりません。


私は喋る事も可能でしたので、物は試しにと、道行く人に声を掛けてみる事にしました。






◇◇◇


「あのぉ〜」

「はい?」

「恐れ入ります…(わたくし)糸こんにゃくと申しますが…」

「糸こんにゃく?」

「はい…足下を見てくださいませんか?」

「ぎ…ぎぃやぁぁぁぁぁ!!」

「あ!?待って!!逃げないでぇぇ」


◇◇◇


「糸こんにゃくと喋りたくないですか?」

「糸こんにゃくとは喋るものではない…喰うものだ!!」

「いやぁぁぁぁ!!来ないで!!食べないでぇぇぇぇ!!」


にゅるにゅるにゅる(逃げる音)


◇◇◇


「居たか!?」

「いや逃げられた!!」

「っくしょう!!あの糸こんにゃくを捕まえてテレビ局に持っていけば、稼げるってぇのに…」

「探せ!!喋る糸こんにゃくを見つけ出すんだ!!」


ガクガクブルブル(糸こんにゃくが震えて隠れてガクブルしている)


◇◇◇






そんなこんなで私は今、人通りの少ない裏路地を人間達に気付かれないように、夕闇の中さ迷っています。


ただの糸こんにゃくが、その人生…いやこんにゃく生を過ごすには、外の世界はあまりにも恐ろしい世界でした。


最初に見た時は、ただただ美しくて眩しくて…そんなのは、小さな世界しか知らなかった糸こんにゃくにとっては、ただのまやかしでしかなかったのです。



帰りたい



仲間達(こんにゃく)の居る工場に帰りたいよ。そして、加工されてどこかのお家の食卓に並んで食べてもらいたい。


私はさめざめと涙を流しました。こんにゃくのどこから涙が出るのか?などと言う野暮な事は聞かないで下さい。


私はこのまま誰に看取られる事もなく、干からびて朽ちていく定めなのだわ。


そう悲しみに暮れながらトボトボと路地裏を歩いていると、電信柱に貼られている、小さな貼り紙に気が付きました。






『お風呂屋さんあわあわ』


人間、異世界人、人外、宇宙生物、暗黒物質(ダークマター)など、種族は一切問いません。

男性、女性問わずお客様のお背中を流すだけの簡単なお仕事です。お客様を満足させられる人材求む。






これは天啓なのでしょうか!?


私はなりふり構わず貼り紙に書いてある住所を頼りに、このお店に向かいました。


その場所にたどり着くと、ピンクな外灯のいかにもな雰囲気の外装をしたお店が建っていました。


ここで合ってるよね…


勇気を振り絞ってお店の扉を開けると、目の前には怪しげな待合室がありました。


「いらっしゃいませ」


声のする方を見ると、待合室の奥から男の人が現れました。


「あ…あの…貼り紙を見て来たのですが」

「あぁ…面接希望って所かな?」


男の人が私を舐めるように見ながら言うので、内心ビクビクしながら「はい」と返事をしました。


「う〜ん…君、白滝?マロニー?」

「糸こんにゃくです」

「あぁ糸こんにゃくね…」


男の人は気のない返事を返してきます。白滝さんみたいに白くなくて悪かったですね。マロニーさんみたいに透き通ってなくてすみません!!

でもでも、糸こんにゃくだってそれなりに歯ごたえもあるし、ヘルシーでオススメなんですよ!!


「糸こんにゃくは居ないし…触手プレイ好きなお客も結構居るし…ありかな…」


私が内心憤慨していると、男の人は何やら小声でぶつぶつと呟いています。


それにしてもこの人、(こんにゃく)が喋っていても普通だけど、慣れてるのかしら?


「ん〜ありだな…君!!」

「はいぃぃ!?」


いきなり呼ばれて慌てていると、男の人は満面の笑顔で「君、採用ね」と言ってきます。


こんなんでいいの!?


驚きつつも、住む家がない事を伝えると生物専用の冷蔵庫にスペースを用意するとまで言ってくれます。


ま…まさか住む家まで提供してくれるなんて!!


冷蔵庫ですが


ここでの私の役目は、お店に来店されたお客様を気持ちよくさせる事なのだそうです。


わたしのようなただの糸こんにゃくが、お客様を気持ちよくさせる事ができるか分かりませんが、私にも人様の為に出来る事があるのでしたら、どんな事だってやります!!


犯罪はしませんよ?


この日を境に、私は『お風呂屋さんあわあわ』のスタッフとして働く事となったのです。






◇◇◇






「こんにゃくちゃん〜今日もいい感じだよぉ」

「うふ…ありがとうございます」

「こう…何て言うのかな?糸こんにゃくで背中を洗ってもらうの癖になっちゃうねぇ~。泡のヌルヌルが絶妙って言うの?」

「やぁだぁ〜相変わらず上手いんだからぁ〜今日は特別にサービスしちゃう〜」

「あ…そこそこぉぉ」


あの日、私を採用してくれたのは、この『お風呂屋さんあわあわ』の店長でした。


このお風呂屋さんは様々な種族、人外の生物が働いてるのを売りにしているらしく、人外スタッフは私以外にも、ちくわ嬢、エルフ、インキュバス、ゴブリン子さんなどなど他にも沢山居るようです。


中でもこの店のトップを争うのが、ちくわ嬢とインキュバスらしいです。


特にちくわ嬢は男性客からの指名がダントツらしく、彼女に体を洗ってもらったお客様は「桃源郷が見えた」「彼女のサイズは世界一」と豪語しており、リピーターが後を絶たないようです。


インキュバスは女性客からの指名がダントツで、こちらも「一生喪女でいい」「背中を流してもらっただけなのに、明日からも頑張ろうって気になった」などの言葉が多く、こちらもリピーターが後を絶たないようです。


そんな私はと言うと、働き始めて早数ヵ月。ようやく仕事にも慣れてきて、お客様と軽口を叩きながら、お背中を流させて頂いております。


まだまだ新人の身ではありますが、男性女性問わず、お客様のお背中を精一杯流させて頂きます。






ずっと考えていました。

どうして私は自我を持った糸こんにゃくなんだろう?と。


今ならはっきりと答えられます。


きっと、ここで沢山の人達に笑顔を与える為に、私は自我を持ったのだと――…






「糸こんにゃくさ~ん!!ご指名入りましたぁぁ!!」

「はぁい」



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― 新着の感想 ―
[一言] こう言っては何ですが、馬鹿馬鹿しいのが面白かったです
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