93 とある王国の事情14
舞踏会から2日経ちました。
私はナンシーとのんびり過ごしています。
ただ問題点が。
「私、シオン様に避けられているみたいなんですけど・・・」
今日もアンセム先生の診察です。診察ついでにちょっと相談。
「避けられているんですか?」
「たぶん」
例えばですね、ここに来る前に図書館に本を返しに寄ったんですけど、廊下の向こうからシオン様が歩いてきたんです。そして、私を見たシオン様は、歩みを止めたと思ったら・・・クルッと方向転換し、スタスタスタと歩き去ってしまいましたのです・・・なぜ?
アンセム先生はクスクス笑っています。笑い事じゃないですよっ、雇用主に避けられているとか!
ちなみに『酔っ払ったあと何かあったのでは疑惑』につきましては、ナンシーがシオン様に問い詰めたところ、『そんなに雇用主のモラルが信用できないなら、いつでも(屋敷で勤めるのを)辞めてもらって構わないぞ』と大層なお怒りモードで逆に怒られて帰ってきました。
「シオン様の態度は、気になる分どう接していいか考えあぐねているのでしょう、もうしばらく経てば落ち着きますよ」
「・・・そうですか?」
「好かれている自覚はあるでしょう?」
「・・・まぁ、嫌われていないとは思いますけどね?」
幼くなって体調を崩したあたりから、シオン様の態度が今までとは変わってきてるのは自覚してます。スキンシップも多いしね。三十路女には触らないけど年下には触るのかコノヤロウ、と思わなくもないですけどね、ケッ。
「今日の午後、陛下の予定が空くようですので、そろそろもう一段階戻ってもいいかもしれませんね」
アンセム先生がニコニコとそう言います。
もう一段階、って何?
そして、午後。アンセム先生とナンシーも一緒に訪れた陛下の応接室で“もう一段階”の意味が分かりました。
「24才位でしょうか・・・」
「24才位みたいね」
はい、もう一段階とは、一気に元に戻るのではなく、もう少しだけ大人にするという意味でした。
「リィナ・・・かわいい」
「ありがとうございます」
そうですね、私のピークは24才~25才くらいでしたから。正直、18才位の私はまだくびれも無く胸も発育途上でしたので。この24才頃の体型なら顔はともかくグラビア撮れるんじゃないかって位はスタイル良かったんでしたっけ・・・たた、26を過ぎたあたりから身体のラインが崩れてきて脂肪がつきやすくなり、30過ぎたら肌の張りもなくなってきましたけどね。
ナンシーさんのピークは17才~18才だったのでしょう。30才のナンシーさんよりは若々しいですが、それほど変わりません。さっきまでのキラキラ美少女感は落ち着いてしまいましたね。コレは人種の差かしら?
うん、でも子供から17才になった時ほどの違和感も無く、むしろ若々しすぎないのが安心できるというかなんというか。
「問題ない感じです」
「そうですか。では今日からまたしばらく様子を見ましょう。」
早ければ、来週には元に戻れるらしいです。よかったよかった。
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お部屋に戻る途中、医療棟に来ていたハヤテ殿下と会いました。本物のウィルさんのお見舞いですか?
「やぁリィナちゃん。いや、もう“リィナさん”と言ったほうがいいかな?」
爽やかな笑顔でそんなことを言われました。・・・どっちでも良いですけど?
ナンシーさんはハヤテ殿下と入れ違いに本物のウィルさんの所に行ったので、私はハヤテ殿下と主居棟に戻ります。
「この前の話は考えてくれたかな?」
「・・・正直、茶国に行くメリットがよく分かりません」
「帰還、したくはない?」
「したいですよ。でもそれはお勤めが終わってからで大丈夫です」
「この国に居ればこれからも、危険な目にあうかもしれない」
「そうですねぇ。それは困りますけど・・・まぁ、守ってくれるらしいですし、少しは信じてあげないと。大人が若者のヤル気を削いじゃいけません。しっかり対策を立ててもらって、守って貰いますよ。」
そう言ったら、ハヤテ殿下は暫し唖然としてから・・・笑い出しました。
「ハハハッ・・・そうか、そうだな。貴女には今のこの世界の危険性が見えていないから、逆にしがらみに囚われず判断出来ることもあるかもしれない」
「ひょっとして・・・わたし、貶されてます?」
「まさか。・・・ねぇリィナちゃん」
「はい」
「シオンの事、宜しく頼むね」
「・・・頼まれても困りますけど」
「ハハハッ、はっきり言うなぁ」
ハヤテ殿下は私の頭をクシャクシャっと撫でると、笑いながら去っていきました。うーん、あの人も謎な人だ。
主居棟へ戻ったら、中庭沿いの廊下でマサキ殿下に会いました。
「おー!リィナちゃんが老けてる!」
「失礼ですね、怒りますよ」
「僕よりずっと年上だって聞いてはいたけど、ホント違和感ないねっ」
「・・・まだあと5才は老ける予定ですけど」
「ええっ!」
ムカッ。悪気が無いのは分かっていますが、ちよっとムカつきます。おかしいな、なんで年齢の話でムカつくんだろう・・・そうか、25才頃って微妙な年頃だったもんね。周りが結婚しはじめて、会社でも“君もそろそろかな~”なんてセクハラまがいの事を言われてそれを“そうですね~”なんてヒラリとかわしてた頃でした。さすがに30才近くなると寛容になるのかムカつく事もなくなりましたっけ。まあ、周りが勝手に“聞いたらいけない”って空気になってましたけどね。
「ねぇ、リィナちゃんはどうして結婚しなかったの?」
「どうしてって言われても・・・それが分かってる人は結婚できてるんじゃないかと思いますけど。」
「なるほど、結婚したくなかったわけではないんだね!」
「まぁ、そうですね。人並みに結婚願望はありましたよ」
「そっかー」
「どうしたんですか?マサキ様は結婚したいんですか?」
「うーん。ウチは王族の人数が多いから、僕は別に結婚してもしなくてもいいんだけどさ~。ねぇリィナちゃん、『結婚する気が無い』って言ってる女性を口説くにはどうしたら――」
「・・・廊下で何て話をしてるんですか、あなたたちは」
いつの間にかクリスさんが後ろに居ました。相変わらず神出鬼没ですね。
「そういえばクリスさんはどうして結婚しなかったの?」
マサキ殿下は私にした質問をクリスさんにもしました。その回答は・・・
「そんなの、私と釣り合う女性が居なかったからですよ」
「「・・・そうですか」」
マサキ殿下とハモッてしまいました。
ニッコリ笑って本心を隠すなんて・・・さすが、クリスさんです。
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「そんな訳で、マサキ殿下がお好きな方は“結婚願望の無い女性”らしいですよ」
「そうか」
ここはシオン様のお部屋です。ちょっと老けたことをご報告がてらお茶の時間をご一緒させていただいております。今日のケーキも美味しいです。もぐもぐ。もう一個食べちゃおっかなぁー。
「リィナ」
「はい、なんでしょうか」
「年齢が少し上がったのだから・・・あまり食べると太るぞ」
ハッ!!!!!
「ほほほほ本当ですね!ご指摘ありがとうございます!!」
「・・・いや。そのくらいは、まぁ。」
ふぅー、あぶないあぶない!そうですよ、太りますよね!・・・あれ?
「シオン様、たくさん食べて太ったとして・・・こんど元の年齢に戻った時はどうなるんですか?」
「・・・そういえば、考えた事がなかったな」
いま食べているものは、一体いつ身になるのでしょう・・・謎だ。
ともあれ、シオン様は通常通りみたいです。
廊下で避けられたのは、気のせいじゃなかったと思うのですが・・・まぁ、いいか。
「シオン様、紅茶のお代わりはどうですか?」
「ああ、もらおう」
「茶国の皆様は、いつまでご滞在ですか?」
「マサキの件がまとまり次第、らしい」
「マサキ様の件って、なんですか?」
そして、シオン様が茶国の皆様(というか、ハヤテ殿下とマサキ殿下)の今回の来訪理由を教えてくれました。
「マサキが“見聞を広める”という理由で、しばらくこの国に滞在することになるんだ」
「そうなんですね。よかったですねシオン様」
「よかった?何で?」
「だって、お友達が側に居てくれるんですよね」
「・・・ああ」
あ、シオン様照れてます。ふふふ、今のシオン様は私より年下なので、照れてるところなんて可愛いですね。
「そういえばシオン様、午前中はどうして私のこと避けたんですか?」
「・・・避けたか?」
「避けられました」
「・・・気のせいだ、気のせい。それよりリィナ、早くお茶。」
はいはい。
そんなわけで、マサキ殿下は帰国しないでこのまま留まるらしいです。
そして、避けられたりもしたけれど、シオン様と前よりは少し仲良くなれた気がした一日でした。




