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91 とある王国の事情12

茶国(マロン)ご一行様滞在4日目の本日は、歓迎(?)の舞踏会が夜に行なわれます。

王様と王妃様主催の舞踏会ですので、これは公の行事。ということで、私は不参加!つまり自由時間!いゃっふぅぅぅ!


でもナンシーは強制参加だそうです。だって侯爵家のご令嬢ですからね、でも若返った状態で出ていいの?と聞いたら「結構みんなプチ若返りしてくるから平気」とのこと。どの世界でも女性は貪欲に若さを求めるらしい。



「じゃあリィナ、行ってくる」

「はい、行ってらっしゃいシオン様、クリスさん」

いつもの客室で大人しく読書中だった私の元に、舞踏会に行く途中のシオン様とクリスさんが様子を見に来ました。

「あとで食事を運ばせますね」

「はい宜しくお願いしますクリスさん。・・・食事、絶対に忘れないでくださいね」

できれば美味しいものを!

「リィナ・・・途中で様子を見に来るから」

「いえ、ご心配なく。行ってらっしゃいシオン様」

「警備が舞踏会会場に集中しているから、極力部屋からは出ないようにするんだぞ」

「大丈夫です!本も借りてきてますし刺繍もする予定なので、ずっと部屋に居ます」

「一応、騎士が廊下の端に1名ずついるから、何かあったらそのどちらかに・・・」

「大丈夫ですって。行ってらっしゃい」

「なるべく早く戻るから」

「はい、社交(おしごと)頑張ってくださいねー」


・・・やっと行きましたよ、シオン様。

ちょっと過保護すぎ。一人でお留守番できますから!でも心配してくれてるんだなぁ・・・はっ!?違っ!違う!?なんで『うれしい』とか思ってんの私!?

壁に頭を打ち付けたくなる衝動が・・・でも痛いのイヤなのでやりませんけどね。


さぁ、気を取り直して読書読書!といっても、刺繍の本を借りてきたのですがね。


そろそろアリッサがお屋敷を辞めて結婚するので、なにか記念に贈りたいなぁと思いまして。

日本から何か取り寄せてもいいんですけど、アリッサが何か日本の物を欲しがったこととか無いので、手作りすることにしました。


でもこの国に日本語の刺繍の本は流石に無かったので、辞書片手に「かんたん!はじめてのししゅう」という恐らく初心者向けの本を解読中。


アリッサのイメージで可愛い小花の花籠の刺繍にしようと思ってるんですが――う~む、こっちから刺すの?いやここからか?・・・あっ!こうか!・・・ちょっと挫折しそうです。


この世界はサムシング・ブルー的な、何か花嫁に相応しいものとかあるのかなぁ。しまった、ナンシーに聞いておくんだった。まさか花籠がダメとかは無いと思うけどさ。


まぁいいや。コレは練習!さすがに一発で綺麗にできるとは私も思ってないもんねー


チク、チク、チク、チク、チク、チク、チク、チ――いっ、痛っ!刺したっ、くぅ。


あーあー・・・何やってんだろうなー、私。刺繍とかしてる場合じゃないんだよねきっと。

昨日のハヤテ殿下の話も消化不良のままだし。結局あれからシオン様とお話してないし。


うむむむ、これは、あれだ。


お腹すいてるからだ。

だから、ぐだぐだ考えちゃうんだ。そうだそうに違いない!


――――そんなことを考えながら刺繍していたものだから、刺繍がアスキーアートの様になってしまった・・・はいやり直しー。もっと一刺しを細かくしないとダメかなー。


お茶ですきっ腹を宥めつつ、刺繍をし続け、なんとか“練習としてはまあまあ”の出来に仕上がった頃、部屋がノックされた。


シオン様たちやナンシーなんかはこういう時「どうぞ」って言ってるけど、私はどうもそういうのに慣れません。メイド気質というかなんというか・・・なので、自分でドアを開けて出迎える事にしました。

“はいはーい”と心の中でつぶやきながらドアに向かい、ガチャッと開けるとそこに居たのは・・・


「リィナ、食事を持ってきたぞ」


シオン様(と食事の乗ったワゴン)でした。まさかそのワゴン自分で押して来たんですか?マジで?わわわっ、スミマセンっお預かりしますっ!


ワゴンを預かり部屋に入れると、なぜかシオン様まで部屋に入ってきました。あれ?戻らないんですか?ご飯?食べるんですか、ここで?


・・・そんなわけで、今日はシオン様とご飯です。


シオン様が持ってきてくれたワゴンの中には、銀色の楕円形のお皿にオードブル数種類が2人分・・・これって、舞踏会で出てるお食事なのかしら。それとパン、ポットに入ったスープ、各種飲み物。軽食というか、おつまみというか。まぁ肉も魚も野菜もあるし、主食と汁物があるわけだから私的には満足です。

お皿を全部ワゴンから出してテーブルの上に並べます。さて、じゃあ食べよっかなーと思い・・・あ、私、シオン様の給仕しないといけないのかな?お飲み物どうしましょ?と思いシオン様をみると『ポンッ』という音・・・ワインを開けてました。

「・・・リィナも飲むか?」

「いいんですか!?でも私いま未成年ですよ?」

「この国ではもう成人だ。・・・それに今日は部屋だし」


というわけで、久しぶりにお酒が飲めることになりました。しかし、30才の私は禁酒させられたのに18才の私は飲んでいいとは。少なくとも『外で飲む』ことを反対されているってことですかね。やっぱり最初の『酔っ払いからのお姫様だっこ』がマズかったんでしょうねぇ。


そんなわけで、おつまみとワインで飲み会開始です。


基本、軽くつまめるように一口二口分ずつお皿に盛ってあるので『もう少し食べたい』感がハンパ無い・・・特にこのローストビーフが。もぐもぐ。


シオン様はあまり食べずにワインとチーズばかり。強いんですね~、前に日本酒で酔ってたのは飲みなれてなかったからかしら。


それにしても、さすが王宮のワイン!美味しい!こくこくこくこく・・・

「リィナ、ほどほどにな」

「大丈夫です!いいお酒は酔いません!」

「そんなわけあるか!!」


怒ったシオン様にグラスを没収されました。

変わりに差し出されたのは・・・水?

「アルコールを飲むなら同じだけ水分も取っておけ」

「・・・はぃ」


お腹タポタポになりそうですね。





お腹も満足し、デザート代わりに果実酒のお湯割りを飲みながら、シオン様と歓談中。

主に、ご家族の件など・・・驚くことが多かったですからね。


「結局、シオン様は何に狙われているんですか?」

「何と言われても・・・それぞれ思惑が違うから・・・」

「じゃあじゃあ、私が拉致監禁された件は?」

「あれは、国内の反王家派だ。現在の王家を良く思わない者たちが・・・少数ではあるが、居るんだ」

「じゃあ、ピクニックで狙われたのは?」

「ピクニック?ああ、庭園開放の時か?あれは他国の刺客だったな」

「あとぉ、あとはー、えーっと・・・そうだ!ある意味ハヤテ殿下にも狙われてますよねぇ、ふふふっ」

「ハヤテ殿下は・・・身内みたいなものだから」

「なるほど。シオン様は複雑な環境で育ったっぽいですもんねぇ」

「・・・リィナ、お前酔ってるだろう?」

「酔ってませんよぅ」

「水は」

「お水飲んでますよー。だってお湯割りですもんっ」

「まったく。・・・リィナは?」

「はい?」

「そういえば、お前の身内の話はちゃんと聞いたことなかったな」

「そうでしたっけ?4人家族ですよ。父と母と兄が居ます」

「・・・兄」

「はい。お兄ちゃん怖いです。」


何が怖いって、私が馬鹿な事しでかしたら、たとえ異世界でも乗り込んできて説教されるんじゃないかって思える位は、怖いです。


「・・・怖い、兄」

なんかブツブツいってますねシオン様?そういえばシオン様にもクリスさんという名の、怖いお兄ちゃんが居るんでしたっけ。


「あとは、ちょっと変わった父方の祖父と、至って普通な母方の祖母が居ます」

「そうか」

「あと、家族同然の仲良しの親友が居ます。急に異世界(こっち)に来ちゃったから驚いただろうなぁ。映画行く約束してたのに。」

「約束?」

「そうですよ。社会人ですから仕事の約束(アポ)も、休日の予定も色々あったんですからねっ。・・・あ、謝ったりしないでくださいよ?そりゃ異世界(こっち)に来たことは突然で、どちらかというと不本意でしたけど、今にして思うと安定企業に勤めていて地味ぃ~にOLとして生きていたのに退職させられてしかも帰国したら32才?33才?とかになっててその歳から転職とかってシンドイなぁとか、年齢的に婚活もしなきゃならないだろうけど無職じゃ無理でしょとか、そういう打算的な考えだったナァって。」

「打算的・・・」

「そうですよ。でもね、この国で仕事もあるし友達もできたし、むしろ海外にワーキングホリデーに来たみたいに考えとこうかなって。婚活はともかく、就活に関しては『異世界経験』を履歴書に書ける所に応募しようかと!どうですか?いい案だと思いませんか?」


はっ!!


ほろ酔いの勢いでつい力説してしまったのですが・・・シオン様呆れてたりしますかね。

シオン様の表情をうかがうと、少し困ったような顔で。

「帰還後の就職活動は、できる限りのサポートはする。ただ、結婚活動については・・・すまないことをしたと思っている」

「はい?」

「リィナには・・・恋人が居たのだろう?」

「・・・居ませんけど?」


は?

いきなり何言ってるの?

訝しげにシオン様を見ると、私の返答が想定外だったのか、きょとんとこちらを見つめています。


「居ませんけど?」

「えっ、で、でも?」


もう一度言ったら、なんだか焦り出したシオン様。


「でも?・・・というか、どこからそんなこと聞いたんですかぁ?」

「え!?そ、それは・・・ナンシー、とか?」

「ナンシーですか?なんて聞いたんです?」

「・・・恋人を5年、待っている、と。」

「あー、なるほど。そんな話しましたねぇ。でも違いますよ。“待っていて欲しい”と言われたけれど“待たない”と伝えました」

「え・・・」

「だって待ってたら30才ですよ。当時は30才までには結婚したかったですもん。来るか分からない人を待つわけないじゃないですかぁ。実際この5年で他の人達とお付き合いしてましたよ、まぁその人達とは結婚まで話が進まなかったんですけど。なので召喚された時は恋人は居なかったんです・・・帰還後は恋人探しから始めないとですねぇ」


あー、そう考えると大変だなぁ。結婚相談所に行くとか面倒だナァ。


そしてペラペラしゃべりつつ、お水をのんではいたのですが、ここ1年ほどあまりアルコールを飲んでいない私には、ワインは強かったみたいで・・・やっぱりお水飲んでも、酔っ払うってことですね。なんだかクラッとして、フワッとして、眠く・・・


ふわぁぁ、とあくびをしていたら、シオン様は『なんだ居ないのか』とかブツブツ呟いてました。居ないもーん。すみませんねー、嫁き遅れててっ。


背中に置いていたクッションを抱えて、眠いなぁと思って・・・








「リィナ、リィナ!起きなさい!」


・・・はっ!?


「・・・ナンシー?」

「おはよう。といっても、もう昼よ」


現在の状況を確認・・・ベッドで寝ています。服・・・ナイトドレスです。

え?いつ着替えた私!?

昨日着てた服っ!昨日着てた服は!?・・・あ、いつもの場所に掛けてある・・・じゃあ私が着替えたのかな。無意識怖っ!


「どうしたのリィナ」

「うーん、昨日の記憶がなくて・・・」

「記憶が無い!?」

なんだかナンシーが青い顔をしています。

「あ、でも別に。シオン様とご飯食べて、酔っ払っちゃったみたいです。でもいつもの場所に服を掛けて、いつものナイトドレスを着ているので、酔っ払いながらもちゃんとしてたんだと思うのですが」


むしろ、思いたいのですが・・・。


「シオン様とご飯?どういうこと?舞踏会のあと?そんな遅くにシオン様が来たの?」

「え?違いますよ。舞踏会始まって二時間位で食事を持ってきてくれたんですよ」

「ええ!?・・・シオン様は昨日の舞踏会、最後まで出席されていたわよ」


はぃぃぃ?


「王族が退出したら目立つから分かるわよ。だって私、参加してたんだから。」


“記憶が無いって、体に異変は無いのね!?”と何度も聞いてくるナンシーさん。はい、体には異変はありません。


それより


一緒にごはん食べたはずのシオン様は、舞踏会に最後まで参加されていた、ですと?


なんでしょうか、それ?

ドッペルゲンガー?


まさかねぇ。














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