89 とある王国の事情10
半分考え事をしながら聞いていた、陛下とシオン様とハヤテ殿下のお話を要約すると
陛下の希望は
「元に戻るまでは王宮に留まってほしい」
ハヤテ殿下の希望は
「日本についての話やその他諸々親睦を深めたい(漢字も教えてほしい)と思っているが、召喚者の意思を尊重する」
シオン様の希望は
「全て、リィナの望むように。あとは私がなんとかする」
・・・ちなみに私の希望である「いますぐ元の年齢に戻して下さい」はドクターストップが出ました。
そして、アンセム先生も含めて相談した結果、
王宮には留まる。(ここに居たほうがアンセム先生の指示のもと、早くもとに戻してもらえるかもという事で。)
公の行事には出ない。(私、ドレス着て踊ったりは二度とゴメンです、嫌な記憶しかない。)
私的な行事は体調・参加者による負担を鑑みて出欠を決める。(まぁ、軽いお茶会くらいなら行っても?って事で。)
ナンシーは巻き込む方向で。(一人だけ先にお屋敷には戻しませんよ!フッフッフッ)
以上のように決まりました。
そして翌日。
昨日は色々疲れて早く寝ました。もうグッスリ!一人でもグッスリ!やったね!
今日は午後からハヤテ殿下とお茶の約束があるのです。早起きした分ヒマになった午前中を利用して図書館に来ました。
この城の図書館には日本語の本も色々あるんですよ、過去の召喚者達が寄贈していった物だそうで、日本語以外の本の方が多かったりするんですけどね。それにしても寄贈かぁ。私も何か置いていったほうがいいのかしら、でもおにぎりとペットボトルのお茶だけ持って召喚された私。本を寄贈するとなると取り寄せ?・・・メンドクサイデスネー
そういえば、あのおにぎりとお茶はどうしたのかしら・・・捨ててくれてるよね?まさか地下室に置きっぱなしとかないよね!?
そうそう、おにぎりといえば日本語の本の中におにぎりの本があったような・・・・おっ、これこれ。タイトルは「おにぎり・おむすび・にぎりめし」。色々なおにぎりの作り方やおにぎりの具の作り方、ごはんのお供までフルカラーで・・・じゅるっ
ふむふむ、軽く三回から四回程度握って形を作るんですね、そうするとお口でホロッとなると・・・はぅ!とろろ昆布巻きおにぎりですか!うぅーん、とろろ昆布は取り寄せ?それとも昆布って自分で削れるのかな?・・・焼きおにぎりもいいなぁ、味噌焼おにぎりも好きだし、混ぜご飯の焼きおにぎりも好き。
・・・焼きおにぎり食べたくなってきた。
そうだ!午後からのハヤテ殿下とのお茶会のお茶請けに焼きおにぎり作って持っていこうかな!厨房使わせて貰えるか料理人さんたちに聞いてみよう!
「ジョーさん、ジョーさん」
「なんですかリィナさん」
以前ニセ王宮侍女をしていた時にお世話になったジョーさんが本日護衛として付き合ってくれています。すみませんお世話をおかけしまして・・・と言ったら「こちらこそ特別手当ありがとうございます」と満面の笑みで言われました。私の護衛ってお幾らなんでしょうね、ちょっと気になります。
そしてジョーさんは“厨房に行きたい”という私の願いを迅速にかなえてくれました。私を案内する傍ら厨房に先触れを出したり、保護者に場所移動の連絡をしたり・・・連れてってもらえればそれで済むと思っていた私は浅はかでした。確かに勝手に行っちゃダメですよね、日本のレストランでさえ事前に電話するものです。反省。
そして辿り着いた厨房で料理長に、いま借りてきた本を見せながら焼きおにぎりのすばらしさを解説しつつ、今日のお茶会に出したいので作っていいかを聞いてみたところ「私どもがお作りしますので」とニコヤカに断られました。まぁ、そうですよね、料理人さんたちもプロですから、プライドを持ってお仕事しているわけですし、客人の要望くらい自分達でこなせますって事ですよね。本もあるし難しいものでもないし。
うーん、身体と一緒に気持ちも若返った所為かさっきから考え無しな行動をとってしまってますよね、私。連絡をせず伺おうとしたり、他者の領域に踏み込もうとしたり。
今の私の年齢は18~19才くらい。つまり高校を卒業したあたりの年齢だと考えれば経験不足ゆえの気遣いが足りなくても致し方ないのかもしれませんが、アラサー時の記憶がしっかりある私としては、なんとも情けない限りです。まぁ、社会人になっても迂闊な行動をする人や迂闊な発言をする人は居るっちゃ居るけどね。
――――早くもとに戻りたいナァ。
そして午後、ハヤテ殿下のお部屋でお茶会です。ちなみにシオン様も一緒に。
「お招きありがとうございます、ハヤテさん」
「こちらこそ。リィナさんも来てくれてありがとう。さぁ、座って」
相手を敬っているのがわかる、とても綺麗な礼をしたシオン様とそれに答えたハヤテ殿下、そしてご挨拶する間も無くハヤテ殿下に連れられソファーに座らされた私。そしてなぜか私の隣に腰掛けるハヤテ殿下。
シオン様はちょっと戸惑いつつ私達の向かいのソファーに座りました。ご招待された私とシオン様が並んで座ると思っていたので、色々ビックリデス。
私達が席に座ると、女官さん達が次々とワゴンを運んできました。
最初に女官さんがテーブルの上に置いたのはアフタヌーンティースタンド。
まさかこれに焼きおにぎりを乗せるの!?と思ったら、アフタヌーンティースタンドには通常通りのプチケーキとスコーン、サンドイッチのお皿がセットされました。心なしかサンドイッチが少ないのは、焼きおにぎりがあるからですかね。
最後に女官さんが蓋つきのお皿を持ってきて、テーブルに置きました。蓋をあけるとそこには丸い・・・・・・あれ?三角じゃ無い。
明らかにセルクルで型抜いた丸い直径4センチ厚みは3センチ程のコイン型ですね、ライスバーガーみたいで、これはこれで可愛いかも。珍しいのかじぃーっと見ているシオン様に「焼きおにぎりです」と伝えました。ハヤテ殿下は「美味しそうだね」と言ってくれました。見た目は三角じゃないけど、お醤油の焦げが綺麗についていて、確かに美味しそうです、さすがプロの仕事!私が手を出さなくてよかった。
ハヤテ殿下の執事さんが紅茶を淹れてくれます。緑茶じゃないのが残念ですが、ケーキもあるしね、おにぎりと紅茶の組み合わせも悪くは無いよね。
ではさっそく焼きおにぎりをいただきます。・・・もぐもぐもぐもぐ。うまっ♪表面が程よく焼け、そしてお醤油の香ばしい香り!
フォークで食べるのがちょっと微妙ですが、うん、満足!
ハヤテ殿下は気に入ってくれたようですが、シオン様はそうでもなさそう。
お茶をしながらハヤテ殿下と『名前に使えそうな漢字』のお話で盛り上がります。
――漢字1文字にこだわってるんですか?え?そういうわけではないの?でも1文字の漢字が知りたいと?ふむ・・・じゃあ植物シリーズと色シリーズでどうでしょう?色は微妙?ああなるほど茶色の王族なのに他国の色はまずいのか。あと同音の漢字って多いですよ?例えば『はじめ』だと『一、元、啓、始、新、朔』とか。そうそう、いま日本ではキラキラネームというのが流行っていてですね、実に微妙なお名前のお子様達が・・・。
小一時間ほど話して(結構長く話してましたね)、一段落ついたところでハヤテ殿下が言いました。
「さて、そろそろ本題に入ろうか」
あれ?
漢字聞く為のお茶会だったんじゃ、ないの?
執事さんが退室し、室内には3人だけになりました。
「さてと、まずは私がこの国に来た理由を説明しないとね」
ハヤテ殿下がにこにこしながらそういいます。
「・・・お見舞いじゃないんですか?」
「ウィルのお見舞いも確かあるけどね。本当の目的はシオンだよ」
ハヤテ殿下はそう言ってシオン様の方に向き直ります。
「そろそろ茶国に来る気になったかな、と思って」
「そのお話は何度もお断りして――」
「そうか。じゃあ視点を変えてみようかな・・・ね、リィナさん?」
「はい?」
「私と一緒に、茶国へ行かないかい?とりあえず旅行で。旅行ならシオンも来るだろう?」
急に話を振られ、なんでしょう?と思っていたら、突然のお誘いです。
「ハヤテさん!!何を!」
なんかシオン様が青い顔で声を上げます。
「茶国はここに比べて春夏秋冬がハッキリしてるから、今の時期はちょっと寒いけど。でも文化は日本に近いから、暮らしやすいと思うよ」
「はぁ」
「それに気に入ったら召喚国変更の手続きもしてあげるよ。茶国に来たらこの国との契約は無効になるから、好きな時に日本に返してあげるよ」
「ハヤテさん!!」
え!マジですか!帰れるの!
にこにこ顔のハヤテ殿下と・・・青い顔で愕然としているシオン様。
あれ?
喜んじゃいけなかったかな・・・マズイ。
「あー、えーっと、大変いいお話なんですが、とりあえずお仕事は契約どおりにしようと思ってますので・・・」
「そう。でも君、この国に居るとこれからもっと色々巻き込まれるよ?」
巻き込まれる?
「今だって急に子供にされたり、急に戻されたり・・・まぁ、昨日のここの陛下の暴挙は半分私の所為だけど」
「半分ハヤテ殿下の所為、ですか?」
「君たちが子供化されているのが分かったからね。その必要は無いから戻すように言ったんだよ。そしたらまさか、あんな場所でねぇ。まぁ正直、やられたなって感じだよ。『元の年齢に』戻すようにって念を押す前に、いまの年齢にされてしまった。私の落ち度だね」
どういうことでしょう?きょとんとしていたら、ハヤテ殿下が教えてくれました。
「今の君はこの国では成人、日本では未成年。実にこの国にとって都合のいい年齢だ。未成年者の契約には保護者の同意が必要だからねぇ。つまり、君は今の年齢だとシオンの許可無く契約をすることができないんだよ」
「でもわたし、実年齢は・・・」
「そこが面倒くさい所なんだ。実年齢は成人、そしてこの国でも成人している年齢だ。つまり、充分に契約可能ともいえる。若返ってしまった今の君に、元の君と同じ判断力があるかどうかだが・・・どうかな」
午前中の自分の行動を振り返ると・・・ああ、そうですね。いまの状態で何がしかの重要な判断はしないほうがいい気がします。
「彼は国益も守るという点においては何よりも抜け目ない。私がシオンを連れて行かないように君を足枷にしようとしたのかもね。リィナさんが居る限り、シオンはこの国を捨てないだろうからね。ねぇリィナさん、私は・・・いや、私達は、シオンがこの国に居ることは反対なんだよ」
「・・・反対?」
「そう。君はこの国の事、どのくらい知ってるのかな?」
「この国の事?」
「ハヤテさん!その話は!」
「シオンのその様子じゃ、この国に都合のいい事だけを聞かされているね。私が本当の事を話してあげるよ」
何?何の話?
「25年前に終結した戦争のそもそもの原因を、君は知っているかい?」
原因?確か、王女様を忘れられなかった隣国の王太子様が・・・じゃなかったっけ?
そして、ハヤテ殿下が話はじめたのは・・・
「もともと戦争の原因を作ったのは、この国なんだよ」
おにぎりの本は適当に考えましたので実在していません。似たような本はあるかも知れませんね。もし同タイトルの本があったら変えないといけませんねぇ。




