88 とある王国の事情9
お待たせいたしました。
【お茶会会場にて】
サクラ王女のお話だと、どうやら茶国の王室の皆様には私とナンシーの変装(いや変身かも?)がバレているらしく。
そして、それを鑑みた上で変装している必要はないらしく。
そもそも私とナンシーが子供の姿にさせられたのは、何の為だったっけ?
確か陛下から聞いた話では、王族がたくさん来るからおもてなし要員って話でしたよね、子供が2人来るのにダリア様一人じゃお相手できないし、かといって相手の来訪の目的が分からないから王宮慣れしていない貴族のお譲ちゃんお坊ちゃん達だと心もとなくてって事でしたよね。
そして、サクラ王女のお話だと現在あちらの男性席でハヤテ殿下が今回の来訪目的をお話中らしい。
そして、来訪目的は個人的な事?・・・昨日のお見舞いかしら?
あ、陛下がこっち見た。
お?陛下とハヤテ殿下がこっちに来た。
こっち来た・・・こっち来た?
ニコニコと笑顔の陛下が、私とナンシーの間に歩み寄って来て・・・
まぁ、今にして思えばこの時点で悪い予感しかしなかったんですよね。
***************
「「ぅ・・・きゃあああー!!」」
悲鳴を上げた私とナンシー。
陛下の暴挙は想定内。私とナンシーは見事に“大人”に戻されました。
ただ、想定外だったのは・・・
「な!何をしているんですか陛下!」
「おっと・・・しまったぁ!!」
「しまったじゃありませんわっ!!は、はやく隠しっ」
「シュウ、見ちゃだめだよ」
「父上、シュウの目を塞ぐことも大事だが、父上も向こうを向いた方がいい、いや向くべきだ」
「て、テーブルの上を片付けなさい!クロスを使うわよ!」
大混乱のお茶会会場。マリアさんが侍女や女官に指示を出し率先して動いてくれています。いい子だわ。
ナンシーも私も呆然としてしまい・・・頭が回りません。
私達さっきまで10才程度にされていたんですよ。
お茶会の為に着ていた可愛いドレスが・・・まぁ、なんということでしょう!
背中のボタンが全部弾け飛び、背中全体が腰付近まで丸見えに!
踝丈だったスカートは膝丈に大変身!
・・・なんの嫌がらせ?
それに、この国って、足出しちゃいけないんじゃなかった?
私的には膝丈だったら許容範囲。着せられていたドレスは裾にいくにしたがって広がっているタイプだったのでお尻は隠れていますしね。ただ背中がねぇ・・・丸見えだよねぇ、ブラしてないからまぁ夜会用の背中丸見えのドレスだとでも思えば・・・そういうの着てる人いたよね?
「リィナ、現実逃避しているわね」
あら、声に出てましたか。・・・あら?ナンシー?
「ナンシー・・・その姿って」
「やっと気づいたわねリィナ」
「か、鏡!鏡!鏡は!?」
「何を言ってるんですの!?鏡よりも早くその恥ずかしい姿を隠しなさい!!」
そう言ってお怒り気味のマリアさんにテーブルクロスを背中から掛けられました。
同時に、ナンシーさんにもウィルさんの上着が掛けられました。今日は陛下の護衛してたんですね、お疲れ様です。ぷぷっ、ナンシーが彼シャツ状態・・・でも足隠れてないよ?
「リィナ!何が・・・あった?」
どこからともなくシオン様が現れました。私はまだ現実逃避中です。
「・・・陛下!!!」
テーブルクロスに包まった私を見たシオン様、珍しく大きな声を出して陛下に詰め寄ってます。
「シ、シオン、待て、落ち着いて」
「また何てことをしてるんですか!貴方は!」
「ナンシー、足が丸見えだよ?」
「ユユユユユーリさま!?」
「ねぇ、さわっていい?」
「ダダダダダダメです!」
ユーリ殿下はナンシーの足に手を伸ばしてます・・・セクハラです。
「陛下!リィナに勝手に『鍵』を使わないでくださいと、あれほど言いましたよね!?アンセム先生の話を聞いてなかったんですか!?」
「聞いてた、聞いてたけどつい」
「“つい”ではありません!!大体、戻すならちゃんと元の年齢に戻して下さい!!」
珍しく怒っているシオン様と
「やややややめてくださいユーリ様っ!」
「どうして?・・・ああ、みんなの前じゃ恥ずかしい?じゃあ場所を移そうか?」
「そそそそそういう問題ではなくてですね!」
「そう?・・・ああでも、小さいナンシーも可愛かったけど僕と同年代のナンシーはもっと可愛いなぁ・・・よし!持って帰ろう!」
「いゃぁぁぁぁぁ!!」
なんだかおかしなことになっているユーリ殿下。
そしてシオン様とユーリ殿下のセリフで思い出しました、鏡!鏡!
推定20才未満のナンシーの姿からすると、自分の姿も大体想像つくんですけどね。
「いいかげんになさってください!!」
ものすごく大きな声がして、思わずみんな動きを止めてそちらを見ました。えっと、マリアさん?
大きな声を上げたマリアさんは、もう一枚テーブルクロスを用意してナンシーさんの足まで隠しました。
「皆様、いい加減になさってくださいませ!!さぁ、リィナさん、ナンシーさん、行きますわよ!!」
ものすごくお怒りモードのマリアさんに着いて行くことになりました。あの、どこに行くんですかね?
**********
主居棟に入るとすぐに侍女頭のバーバラさんが現れて、近くの部屋にいれられました。
そして・・・マリアさんがドレスを貸してくれました。
「これ胸がキツイわね。リィナもキツイんじゃない?」
「・・・キツイですね」
「ぅぅぅぅうるさいですわよ!!」
・・・もっと怒らせてしまった感が否めません。
しかし、まあ・・・ナンシー、なんて美少女な。
艶やかな髪、滑らかでシミ一つ無い肌、化粧していないのに頬も唇も薄っすらとピンクに色づいていて、心なしか瞳までキラキラしてます。
ナンシーさんが以前“おしおき”で若返った時は所詮医療技術的なプチ整形気味な若返りだったから、基本は三十路だったんですよね、でも今回の陛下の『鍵』で若返るというのは本当に以前の自分に若返るのでニセモノ感がないんですよね。あれですよ、若作りの美しい熟女を美魔女とか言いますけど、確かにその年齢の一般の人より若くて綺麗ですが、結局は本当の若者には敵わないってことでしょうね。
でも私はなぁ、自分で思う限りではピークは22~24才くらいだったと思うんだよね。今のこの10代後半の自分は・・・あまり好きじゃない。
だからなのかこの自分を見ていると、なんだか気分がどんどん落ち込んでいきます。
鏡台の前に強制的に座らせられて女官さんたちに髪を整えてもらっていますが、溜息が止まりません。
「どうしました?リィナ」
気づいたらクリスさんが部屋の中に居ました。後ろにはアンセム先生も居て、心配そうに声を掛けてきました。
「また気分が沈んでいますか?・・・陛下の弁護をするわけではありませんが、子供から急に元にもどるのは精神的にも心配ですので、何度かに分けて戻ったほうがいいとは思います」
「そうですか」
「身なりが整ったら、シオン様のところに行きましょうね。陛下やハヤテ殿下とこれからのことを相談しているはずですから。」
いつもよりも数倍優しいクリスさんにそんなことを言われても、溜息は止まらず・・・
もちろん、移動中も溜息は止まらず・・・
周りに心配掛けているのは百も承知なんですけど、なんでしょうかねこの感じ。
イライラ・・・していない。
けど、色々な感情ですごくモヤモヤしている。
たとえば、おろおろとか、めそめそとか?ビクビク?くたくた?むかむか?とかそんな感じ。
――はぁ。
「リィナ、大丈夫ですか?」
何度目かの溜息を聞いたクリスさんが、足を止めて心配そうに顔を覗き込んで来ました。
――――大丈夫ですか?と聞かれると、ダメですと言いづらいじゃないですか、という思いを込めてクリスさんをじーっと見ていたところ、目を逸らされました。
――――目を逸らす人は後ろめたいことがある人だと思うんです。(キッパリ!)
目を逸らしたままのクリスさんに連れてこられたのは、主居棟のいつもは来ないフロア。
このフロアは私がいつも借りているランク低めの客室とは違い、VIP用フロアとの事です。
クリスさんが入口の騎士さん達に扉を開けさせた先には、陛下とハヤテ殿下とそしてソファーから立ち上がってこちらにくる・・・
「リィナ」
あ、シオン様。
・・・ホッ。
・・・・・・え、『ほっ』て何よ、『ほっ』て。
「リィナ?どうした?」
「・・・いえ」
一瞬、自分の感じた感情が理解できなかった為、シオン様を見たままビックリしてしまっていたら、なんだかとても心配されてしまいました。
「具合が悪いか?少し休むか?」
「い、いえ」
「話ならあとでも大丈夫だぞ?」
近付いてきシオン様は私を軽く抱き寄せ、頭をポンポンしてきます。
あったかい・・・・・・ホッ。・・・・・・だから『ほっ』って何よ『ほっ』て!
「あ、あのシオン様」
「ん?」
「だ、大丈夫ですので、お話を、聞かせて、くださぃ」
シオン様がじぃーっと見つめてくるので、最後の方は声が小さくなってしまいました。
後ろめたいことはないのに、目を逸らしたいです。どうしよう!?
「・・・無理はしなくていいからな?」
シオン様は小声でそう囁いて私の手を取り、陛下とハヤテ殿下の居るソファーへ連れて行きます。
そしてシオン様の説明と陛下からの説明が始まったのですが・・・私はそれどころではありません。
・・・やだわ。
なにこれ。
なんで、シオン様に会っただけで、『安心』してるんだろう。
そうか安心・・・つまり、私のさっきまでの感情は『不安』だったのか。
えー
顔を見たとたん安心するなんて、それじゃあまるで・・・
あ、手を離されちゃった・・・・・・って、だからどうして残念に思ってるんだろう!?
えー
こんなの、これじゃあ、まるで
まるで私が、シオン様の事が、
シオン様の事が『好き』みたいじゃないの。いやいや、そんなこと無いから。勘違いしないから。
「リィナ、聞いてるか?・・・やっぱりちょっと休んでからに――」
上の空の私に気づいたシオン様は、私の手を再度取り、こんどは両手で包んできます。
やだ、ドキドキする
・・・だから、こんなの
こんなの続いたら
――――――――勘違い、しそうじゃないの。
勘違いしそうと考えてるうちは、勘違いしないでしょうけどね。




