86 とある王国の事情7
リィナ→シオン→リィナ と視点が変わります。
「そうですかウィリアムに会ったんですか」
「はい。クリスさんはウィリアムさんのこと知ってるんですか?」
晩餐会も終わり、大人はお酒を飲みながら親睦を深め、子供は就寝時間ですって・・・ケッ。
そんなわけで現在、寝室で寝る準備中。そしてシオン様は抜け出せないのでクリスさんが見張り・・・ではなく護衛でお部屋まで付き添ってくれたのですが、なぜか戻らず部屋に留まってます。要するに面倒くさいから抜け出してきたんでしょ?と聞いたらとてもイイ笑顔で『そんなわけないですよ』と言われました。
「ウィリアムには何度か会ったことがありますよ。私も彼も学生でしたから、それほど接点はありませんでしたけれども。」
クリスさんの話では貴族の子弟は寄宿学校に通うそうです。領地管理の仕方や民の暮らし、有事の兵法まで色々学ぶんですって。
「ウィリアムは茶国に短期留学していたことがありましてね」
「それでハヤテ殿下と知り合いなんですね」
「そうです。ところでリィナ、何をしてるんですか?」
「・・・境界線、作り?」
女官さんに毛布を頂き、くるくると丸めた物をベッドの中心あたりに設置しているのです。
だって、寝相がっ!
またシオン様の方まで転がっていったらマズイでしょう!
「・・・ま、その境界線を乗り越えて行かないようにしなさいね」
「やだなぁ、いくらなんでもそれは無いですよぅ」
“一人で大丈夫です!”という私の主張は無視され、クリスさんは寝室のドアを開けたまま隣の部屋でお仕事をしてるとのこと・・・やっぱり戻りたく無いんですね、確信犯なんですね。
ともあれここは不眠がすっかり治って一人で寝れるところを目撃してもらい、明日から客室に戻して貰うべし!それに今日はなんだか疲れたから、本当に良く眠れそうな予感。ふふふ。
「おやすみなさいクリスさん」
「おやすみリィナ」
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懇親会とは名ばかりの飲み会を終えて自室に戻ると、クリスが居た。
「クリス・・・」
「お帰りなさいシオン。リィナは良い子で寝てますよ」
「・・・お前、リィナを良い訳にして逃げただろう」
「あたりまえです。私が一番立場が低いんですから、そんな場所で飲むなんてそんな面倒くさい」
ハッキリ言い切ったよコイツ――まあ、こういうヤツだけど。
「そんなことより今日中に仕上げる報告書が・・・」
「わかった。先に湯を使ってきてもいいか?」
「早くしてください」
「・・・わかった」
シャワーぐらいゆっくり浴びさせろ、とは思うが仕事が溜まっているのも事実。きっと陛下とユーリも今頃仕事中だろう。
手早くシャワーを済ませクリスの元に戻ると、無言で書類を渡される。すでに仕分けされ決済のみの状態となった書類を読み、サインをしていく・・・のだが。
「リィナは、寝てるのか?」
「ええ、ぐっすり」
「・・・そうか。改善したならよかった」
「ええ。シオンは改善しましたか?」
「・・・たぶん」
たぶん、大丈夫だ。リィナが居ないと眠れないとか・・・そんな恥ずかしいことにはならないと、思う
。
大体、リィナは本当に寝てるのか?と覗きに行くと・・・寝てる。これは益々『私はリィナが居ないと眠れないから』なんてことは絶対に言えない、むしろ何が何でも寝なくては。ところで、
「クリス、この中央で丸めてある毛布は何だ?」
「境界線らしいですよ。シオンの方に転がっていかないように」
「ふーん」
境界線とやらは確かに役目を果たしていた。リィナは境界線まで転がってきており、そこで止まっている。そこで少しイタズラ心が出た。境界線の毛布を取ってみると
コロン
ププッ
思わず笑ってしまった。毛布を取ったとたんリィナが寝返りをうったから。
「シオン、笑ったら可哀想ですよ」
「だって、クリス、くくくっ・・・これは境界線というより、防波堤だったんだな」
そのあともリィナはコロンコロンと転がって・・・止まったかと思ったらもぞもぞと上掛けを引き寄せて抱きかかえて丸まった。
「まるっきり子供のようだな」
「この部屋に来た当初からこんな寝相だったんですか?」
「いや、転がってきたのは先程の昼寝がはじめてなんだ」
「ひょっとしたら、子供の体に心が慣れてきたのかもしれませんねぇ」
なるほど。それはあるかもしれない・・・まさか、元に戻ったらまた不眠になるのか?
「─────※※※さ・・・」
リィナが寝言を言っている。むにゃむにゃと良く聞こえないが、人名のようで・・・そういえば、リィナは恋人を待っているらしいと屋敷で聞いたことがあったな。誰に聞いたんだったか・・・ナンシーかキーラか?いやクリスだったかも?
昼には兄の夢を見て、今は恋人の夢を見ているのか、そうか、それじゃあ・・・
「リィナ、リィナの恋人はどんな奴だ?」
「シオン、やめなさい」
転がってきたリィナの側に腰掛け、頭を撫でながら聞いてみると、クリスに止められた。いいじゃないか、普段はこんな話する機会が無いんだから
「歳は?」
「んん・・・3つ」
「3つ?3つ上か?下か?」
「・・・うえ」
「仕事は?」
「・・・がいこう」
「がいこう?外交官?」
「んー」
「どこで出会ったんだ?」
「ん・・・みち」
みち?未知?道?なんだよ“みち”って。寝ているためかイマイチしっかりした返事が来ない。もどかしい。
「シオン、寝ている人間にあれこれ聞き出すのは止めなさい!」
・・・クリスが本気で怒りそうな気配なので、もうやめておこう。それにしても
「リィナは道で出会った3才年上の男と付き合ってる、のか?」
「シオン・・・」
クリスが疲れたように溜息をつく。やっぱりクリスも知らないか、そうか。
リィナと一緒に居ることが増えたが、お互いあまりプライベートな事は話してこなかったからな。
なんだか気になるが今度寝ていない時に聞けたら聞こう。とりあえず今はリィナと毛布を定位置に戻して・・・
「おやすみ、リィナ」
「んー・・・」
**********************
あさ!
朝です!おはようございます!
いやぁ、昨日はぐっすり眠れましたよ。
「リィナ、今日はとても機嫌がいいようですね」
「はい、クリスさん」
朝食が美味しいです!もぐもぐ。
今日は午前中にアンセム先生の診察を受けて、午後からは女性だけでお茶会とのこと。
朝食後、充分な食休みを挟んでから医療棟のアンセム先生のもとへ、そして運命(?)の診察!ドキドキ・・・
「大丈夫なようですね。食欲もあり睡眠も充分ですので、今日からまた客室に戻ってみましょう。でも念のため女官をつけますからね、また眠れなくなった場合は・・・わかりますね?」
わかります。またシオン様のお部屋に戻されるんですね。
でもきっと大丈夫、ナンシーを見習ってストレスを溜め込まないようにしてます、というとアンセム先生はなんだか困った顔でいいました。
「・・・各所から二人のイタズラに対する苦情が出てますから、程ほどにね。じゃあ帰ってもいいですよ」
そんなわけで、今夜からはまた客室決定!やったね!そして晴れ晴れとした気分で挑んだお茶会でしたが・・・
「まぁ、お久しぶりですわアカリ様」
「マリア様もお元気そうでなによりですわ」
「そのドレス、とてもお似合いですわ、茶国で流行していますの?」
「まぁ、マリア様のドレスこそ、とてもお似合いで」
うふふ、おほほ、と挨拶を交わす二人が・・・怖いっ。
今日はダリア様がアカリ様とサクラ様の為に開いたお茶会なので、話し相手になりそうな女性が何人かよばれています。もちろん私とナンシーも。
そして、なぜか保護者として陛下とハヤテ殿下と、ハヤテ殿下のおまけでシュウ王子も。女性達とは少し離れたテーブルでお茶をしています。
「リィナ殿、一緒にケーキを食べよう」
「ありがとうございますサクラ様」
「リィナ殿、紅茶は何にする?」
「ええっと、ではクリームでお願いします・・・」
今日の紅茶はセイロンのオレンジペコーと聞いています。ちなみに地球からの輸入だそうです。
なにやら私はサクラ様に世話を焼かれています。イゴコチワルイデス。
そんな私を見て、ダリア様が助けてくれました。
「サクラ様、私が」
「そうか、私もリィナと同じものでいい」
ダリア様は、ナンシーにもお茶の好みを聞くと、手馴れた様子で女官に紅茶とケーキのリクエストをしています。堂々としたそのお姿は流石ですっ!私が侍女をしてた頃よりも貫禄が出てきましたね、ダリア様っ!
一方、サクラ様は・・・居住まいを正してから、なぜか私をじぃーっと見つめています。
「な、なんでしょうサクラ様?」
「リィナ殿、それにナンシー殿も・・・正直に答えて欲しいのだが」
「はい?」
「・・・なぜ歳若い姿で過ごしているのだ?私が来た所為か?」
へ・・・・・・陛下っー!ばれてますっ、ばれてますよーっ!!
サクラ様対策だっていう事までバレてますよー!!
えっ、誰かがしゃべっちゃったとか?まさかナンシー!?・・・違う?そう。じゃあなんで・・・
「安心するといい、今回我々が来たのは父上の個人的な都合であって何ら含むところは無い。・・・伯母上はともかく」
そう言ってサクラ様はアカリ様をチラリと見ます。・・・アカリ様はまだマリア様と張り合っている模様です。うふふ、うふふって、怖いから二人ともっ。
「きっと今頃、あの男達のテーブルで父上がそちらの陛下に訪問の目的を伝えているんじゃないか?」
はぁ、そうですか。
あれ?・・・ってことは、元の年齢に戻してもらっても、いいんですか、ね?




