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84 とある王国の事情5

途中からシオン視点に変わります。

「おいっ、お前!」


小さな王子様・・・シュウ殿下が私の顔を見上げながら、ちょー偉そうに声を掛けてきます。


「それをよこせ!」


えー

私のケーキ・・・でもまぁ、しょうがないか、子供だしね。


「はい、どうぞ」

「・・・ふんっ」


王子様はお礼も言わないのか・・・まぁ、お礼を言ってほしいわけでもないけどね。

ケーキをお皿ごと渡してしまった私はもう一度取って貰おうと思って、執事さんの方に向きなおると・・・執事さんはケーキを盛っている最中でした。私を見てニコって笑ってくれたので、私の分を作ってくれているんでしょう。ありがとう!そしてさすがユーリ様の執事!

「どうぞ、お嬢様」

「どうもありがとう!」


うふふっ、さっきより沢山盛ってくれたよ!さあ、このケーキを・・・


「おい!お前っ!」

「はぃ?」

「それもだ、それもよこせ!」

「・・・そんなに食べられますか?」

「・・・うるさい!いいからよこせ!」


お皿を両手で持っていた私の腕を、シュウ殿下が急に引っ張りました。とっさに山盛りのケーキの乗った皿を片手だけで支えることは出来ず・・・



ガチャン!



ケーキは、私のドレスを汚しながら、床にぶちまけられました。


「シュウ!」

「リィナ、大丈夫か!?」


最初にシュウ殿下が怒鳴ったときから様子を伺っていたのでしょう、ハヤテ殿下とシオン様がこっちに駆けつけてきます。


「リィナ、大丈夫か?」

「大丈夫です・・・お皿が」

「怪我はないか?」

「ごめんなさい・・・かたずけ」

「あやまらなくていい、お前のせいじゃない。」

「でもチョコレート」

「あとで好きなだけ食べさせてやるから」

「じゃなくて、チョコレートは・・・」



「シュウこっちを見なさい」

「・・・」

「黙ってないで何か言いなさい」

「・・・」

「女の子のケーキを取り上げるなんて恥ずべき事だぞ」

「・・・」

「聞いてるのか」


シオン様に頭をなでなでされたり背中をポンポンされたりしながら、お皿を落としたショックを慰めてもらっている私と、静かに、しかし確実に怒られているシュウ殿下。


ああ絨毯が。絨毯とドレスがシミになってしまう・・・チョコレートは落ちづらいから。


私がシミの心配をしていると、シュウ殿下が小さな声でつぶやきました。

「・・・くない」

「何?」

「僕は悪くない!あいつが悪いんだ!」


シュウ殿下はそう言ってビシィと私を指差したところを、ハヤテ殿下に目配せをされた執事さん(たぶんシュウ殿下のお付の人なんでしょう)に、抱えられて連れていかれました。何か喚き声が聞こえる・・・。


えっと・・・


「すまなかったねリィナちゃん。本当に申し訳ない。あんな我侭な息子で恥ずかしいよ」

「はぁ」

「この埋め合わせは必ずするからね。すまないクリス君、ちょっと席を外すよ」

ハヤテ殿下はそう言うと退室するため歩きだします。

「子供のしたことですから・・・あまり叱らないであげてくださいね」

「そういうわけにはいかないよ。じゃあ、またあとで」

クリスさんはすかさずフォローしましたが、溜息をつきつつ呟きながらハヤテ殿下は退室しました。


シュウくん、怒られるんだろうなー。他国に来た王子様の振る舞いとしては、ちょっと問題あるからねぇ。


ところで・・・シオン様はいつまで私にくっついてるんですかね?


「リィナ、服が汚れたな、着替えてこよう。じゃあクリス、私も抜けるから」

「・・・まぁ、いいでしょう。リィナは夕食まで部屋で休んでなさい。」

「・・・はい」

「ケーキの食べすぎはダメですよ」

「う・・・はい」





部屋に戻ると女官さんが着替えを手伝ってくれました。

そして着替え終わったら、お茶の準備が整っていました。サンドイッチもケーキもある!


・・・ところで、なんで私こんなにケーキに執着してるんでしようかね?はて?

首をかしげていると、旦那様が気にせず食べろとケーキを勧めてきます。


「甘いものが欲しくなると、アンセム先生が言っていたぞ」

「・・・副作用かなんかですか?嫌な副作用ですね」


ちょっと情緒不安定気味だった私の為に、アンセム先生はお薬を処方してくれました。でも、薬の副作用で甘いものが欲しくなるなんてこと、あるのかしら?


「薬の副作用ではなくて・・・まぁ、いいや」

「副作用じゃないんですか?・・・じゃあまるで過食症じゃないですか」

「・・・」


どうしてそこで黙るんですか!?わたし、そんなに食べてませんよ!・・・もぐもぐ。

お茶の時間も終わり、さて、このあとの予定はなんだったっけか、とシオン様に尋ねてみると「すこし寝ておけ」とのお言葉が。えっと、お昼寝?


「そうだ。夕食まで時間があるからな」

「・・・お夕食は何時なんでしょう?」


いま、16時なんですが?


「21時ごろだ。だから今日は寝るのがおそくなるから・・・どうしたリィナ」


あー、そうでした。最近“子供時間”または“病人時間”で過ごしていたから忘れてた。

確かに、お屋敷でも夕食は21時ごろからだった。


私達使用人と旦那様たちは行動時間がだいぶ違うんです。

シオン様もクリスさんも朝食は9時とか10時、昼食は14時とか15時、夕食は21時頃。そして昼食と夕食との間にお茶の時間、俗に言うアフタヌーンティーがある。

これは王族特有の時間割なのかと思ったら、どうやらこの国の貴族たちは大体この時間割らしい。


しかし、子供は睡眠時間が必要!ということで、本当の子供でもないのに8時間は睡眠を取らされているわたしは、アフタヌーンティー無しで19時には夕食を頂いて、遅くても22時までには寝室に入れられていたのです。ちなみに起床は朝8時。それより前は8時間以上寝ていてもベッドから出ることも禁止されてました。


「茶国の方々も、全員参加されるんですか?」

「シュウ王子はどうだろうな。先程の様子次第では欠席かもしれない。今日の夕食会は晩餐会や夜会のような公的な歓迎行事ではないが、有力貴族がみな参加するからな。トラブルを起こしそうなら参加は控えるべきと判断されるだろうな」


・・・王族の子供って大変だね。まぁ、私が気にしてもしょうがないか。ってことで、


「寝ます」

「わかった」


宣言して部屋を移動し、また侍女さんに着替えさせて貰い、寝室に入ると・・・


「・・・なんで居るんですか」

「なんでって、お前、私と一緒じゃないと寝れないだろう?」

「昼寝はできます」

「そんなこと言って、昨日の夜も一人じゃ寝れなかっただろう」


寝室に入ると、ベッド脇の椅子にシオン様が陣取っていました。


そう、あのアンセム先生の診察を受けてからというもの、私はシオン様と一緒に就寝することになっているんです。

それを聞いた時、さすがに固まりましたよ!


「なんでそんなことしなきゃならないんですか!」

「眠れない症状を、緩和するためですよ」

ニコニコと信じられないことを口にするアンセム先生を見て、頭がおかしくなったのかと本気で思いましたもの!


「・・・イヤです」

「拒否は認めません。あなたの体調が一番重要ですからね」

「・・・」

「大丈夫ですよ、添い寝するだけですから。」

「・・・」

「シオン様にはリィナさんに指一本触れないように、ちゃんと指導してありますから」

「・・・指導?」

「ええ、指導です。厳しく指導しましたから。ね、シオン様」

「・・・うん」


若干、青ざめた旦那様が首を縦にふりつづけていますが・・・何かトラウマでも?


「とりあえず今夜試しに一緒に寝てみなさいね」

「でも・・・」

「苦情はあとで受けます」


にっこり笑ってそれ以上の反論を受け付けてくれないアンセム先生に逆らえず、とりあえず一晩一緒に寝ることになりました。もちろん2人きりじゃないですよ。寝ずの番として女官さん1人と騎士さん1人が控えてくれています。


私は普段お屋敷の3人部屋では普通のシングルベッドで寝ています。王宮のいつもの客室はダブルサイズくらいのベッド。しかし連れてこられたシオン様のお部屋のベッドは、とんでもなく大きかった!

キングサイズなんてもんじゃない!これシングル3台分は確実にありますよね!


「なんでこんなに大きなベッド・・・」

「それは・・・」

思わず呟いてしまったら、なんだかゴニョゴニョと呟き返されました・・・あーなるほどーいろんな女性をこのお部屋に呼べるためですかねぇ・・・


それはともかく

「じゃあ、私はこっちの端で寝ますので」

「わかった・・・おい、そこまで端で寝なくても」


念の為ですって、念の為。本当に端の端で横たわったら、呆れた声が返ってきました。


「シオン様」

「なんだ?」

「寝相は?」

「心配しなくても私は寝相は良いほうだ。そちらまで行くことはない」

「そうですか。・・・シオン様」

「・・・なんだ」

「明日は何時起きでしょう?」

「何時でもいい。好きな時間に起きろ」

「わかりました・・・シオン様」

「今度はなんだ?」

「おやすみなさい」

「・・・おやすみ」


そして翌朝


「シオン、リィナ、そろそろ起きなさい」


・・・っは!?

ガバッと文字通り飛び起きた。え?クリスさん?


「おはようリィナ、もう昼近いですよ?さすがに寝すぎでしょう。・・・シオン!いい加減起きろ!」

「・・・ぅ」

「チッ・・・お前は相変わらず寝起きが悪いな」


舌打ちしながら寝起きのシオン様を無理やり起こしているクリスさん・・・怖いです。


「リィナさん、よく眠れたようですね」

そして、にっこにこ顔のアンセム先生・・・

「・・・はい」

それはもう、ぐっすりと。

「では、一人でも寝れるようになるまで、こちらで一緒に寝てくださいね」


ぅうううう、なんか屈辱感が、ハンパないんですが。

アンセム先生はベッドをまわり、反対側で寝ていたシオン様のところに行きました。

「シオン様、おはようございます」

「おはよう」

「・・・どうやら、シオン様にとっても治療になったようですねぇ」


その言葉に固まったシオン様。治療?なんで?


「シオン、よかったですね。王宮で眠れて」


これまたにっこにこ顔のクリスさんが、若干青ざめているシオン様にそう言いました・・・だから怖いって。


そのあと聞いた話によると、シオン様は王宮限定の不眠症だったそうです。なんでも『寝ている間にばかり厄介事が起こるから』とか。


そんなこんなで、一緒に眠るようになったのですが・・・




「昨日もお昼寝は一人でしています!」

「昨日()って、いつも昼寝してたのか?」


だってお昼寝は一人で寝れたんですもん。なんでかな、明るいからかな?・・・暗いと眠れないなんて幼稚園の頃じゃあるまいし。


「昼間寝ていたら、そりゃあ夜眠れなくなるだろう・・・まあいい、ほら、寝ろ」

「・・・」

「私はここで読書でもしているから、さっさと寝ろ」


なんか腑に落ちないのですが、とりあえずお昼寝することにします。・・・zzz




*****************



リィナがベッドに入ると、すぐに寝息が聞こえ始めた・・・早っ。

寝つきの良さに驚きながら、ちょっと苦笑した。


リィナと一緒に眠るようになってから、王宮でも眠れるようになった。


王宮限定の不眠症などと皆には言っているが、私の不眠症は『恐怖』から来るものだ。

寝ている間に厄介事が多いから、などと理由付けしていても、結局のところは子供の頃の出来事がきっかけだ。


ある日、目が覚めるとクリスが居なかった。朝食の席で『居ない』ということを聞いて驚愕した。

昨日まで自分の側に居た、大好きだった兄。

異世界に留学?

何年も帰ってこないってどういうことだ?

どうして?聞いてないよ?

なんで僕に何も言わないの!?


周りの使用人達に問いただすと皆、困ったように微笑むだけだった。朝食の席で騒ぐ僕に、母上が一言だけ言った。

『そうやって、お前が騒ぐのが煩わしいと思ったから、黙って出発したのです。自覚なさい。』


その言葉に愕然とした。僕はクリスに『煩わしい』と思われていたのか、と。

そりゃ、何年も会えなくなるなんてさみしいけど『いってらっしゃい』ぐらいは言えた、言いたかった。


そして、それから数年後。


私が眠っている間に、父上はいなくなった。

おやすみなさいと言ったのが、最後に掛けた言葉で、『いい夢を』と言われたのが、最後に聞いた言葉だった。また、きちんと、別れを言う事さえ出来なかったのだ。


眠っている間に起きたその二つの出来事が、無意識のうちに眠りを妨げている、らしい。


父上はともかく、クリスは帰ってきた訳だし、いつまでも引きずることじゃないんだが、帰ってきたクリスに聞いたのがよくなかった。


『クリス、お帰り』

『ただいま』

『クリス・・・私が煩わしくて、何も言わずに留学したのか』

『そうですよ』


あいつ、笑顔でこちらの言葉に少し被せ気味に言いやがったからな。――ハァ。



穏やかな顔でスヤスヤ眠るリィナを眺めていたら、なんだか眠くなってきた。

・・・リィナの目が覚める前に、起きればいいか。

少しだけ、少しだけ。


そう思い、リィナと反対側にもぐりこみ、仮眠をとることにした。


眠れなくなったきっかけはその2つだとしても、本当に眠れなくなった原因は母上を筆頭に女達の所為だし、更にはにはユーリの所為だったりもするのだが・・・リィナとは眠れるなんて、不思議なものだな。


やはり召喚者と召喚主は、なにか不思議なつながりがあるらしい。そんなことを考えながら、目を閉じた。













リィナは子供の頃、暗いと眠れない子でした。


ケーキをひっくり返したリィナにシオンがとても優しいのは、アンセム医師から「治療中は動揺や興奮をさせないように」との指示が出ているからです。



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