83 とある王国の事情4
遅くなりました。。。
王宮、謁見の間で現在、茶国の王太子様ご一行のご到着に対する、公的なご挨拶がされている・・・らしいです。
「ねぇナンシー」
「何?リィナ」
「マロンって、栗の産地だったりするんでしょうか」
「リィナ、この世界の国名はカラーで呼ばれているだけで、色と国の特色は関係ないわよ・・・習ったわよね?」
ええ、習いましたよ。王女様に物覚えの悪さを指摘されながらねー。
この世界は各国それぞれのイメージカラーがあるそうで、青国、黄国、緑国、虹国、茶国などなど。ちなみにこの国のカラーは赤だって。
だからマロンっていうのは茶色の一種なのは分かってる。分かってるけど・・・
「栗は渋皮のまま甘く煮たい・・・モンブランでもいい・・・」
「はいはい、茶国の皆様の前では言わないようにね」
ちなみに、この国のカラーすら知らなかったって言ったら王女様が怒り出したんだっけ・・・シオン様に対して。この国に関する基本的な事を召喚者に教えるのは召喚主の義務ですからね、怒られて当然ですね。
「お嬢様方、そろそろ謁見が終了いたしますので、ご準備下さいね」
私達の会話を苦笑気味に聞いていた侍女頭のバーバラさんは、そう言ってわたしたちを促します。
王様王妃様のそろった堅苦しい謁見が終了したら、別室で王太子様主催ですこしくだけた挨拶をするらしいんです、私達も参加して。
ああ、気が重い。
いま私達が居るのはちょっと広めの応接室のようなところ。
私とナンシーはバーバラさんと入口近くのソファーに座って待機中。
私達が待機している周りでは、女官さんや侍女さんや執事さんたちがお茶や軽食の準備中。
あの銀色のトレーの中身はたぶんケーキ・・・蓋をちらっと開けてみたい。プチケーキだったら全種類制覇してみたい。モンブランは無いかもしれないけどマロンクリームのケーキを期待します!
ケーキに思いを馳せていたら、王女様の侍女時代の同僚さんたちが私に気づいて“きょとん”としたあと笑いをこらえながら小さく手をふってくれました『なんでまたそんな姿に!?・・・ああ、シオン様の所為?がんばってね』という彼女たちの心の声が聞こえます。
今回の為のお勉強は王女様のお部屋でしなかったから、彼女達と接してなかったからなぁ。わたしがこんな姿だと知らなかったんだろうなぁ。
ここには見たことある人たちと、全く見たこと無い人たちが居るんですが、見たこと無い人たちは、茶国から来た方々ですかね。
これからここで、若い王族達の懇親会・・・というか軽食会が始まるので、みんな自分の主の好みの物を揃える為に居るのでしょう。揃ってなかったら大変だものね、王太子様とか『好きなお茶が無い』とか言い出しそう。シオン様は好きじゃなくても出されたら黙って頂く感じ。クリスさんは黙って出て行って自分で用意してきそう。王女様は黙って頂いてから『美味しくない』って言いそう。
運び入れて居た人たちが退室して、部屋の中には侍女さんや執事さんだけになりました。この人たちは給仕をするんでしょうか。
それから、ノックの後ドアが開いて騎士さんが入ってきてドアを大きく開けました。私とナンシーはそのタイミングで侍女頭様にソファーから立つように指示されました。いよいよご対面ですか?
「いやー、ここの陛下は相変わらず王妃様に弱いみたいだねー」
「・・・今回は特別に王妃の機嫌が悪いだけですよ」
最初に入ってきたのは黒髪の男性とクリスさん。2人はこちらには目も向けずに、まっすぐ中央にあるテーブルセットに向かいます。
「リィナ、待たせたな。こっちにおいで」
はーい。
続けて入ってきたシオン様によばれたので、そちらに向かいます。・・・微妙に子供扱いですが、目を瞑ります。
シオン様の側に寄ると、黒髪の男の人と目が合いました。
え?これが茶国の王太子様?
「リィナ?どうした?」
ひらたい・・・
平たい顔だ。
平たい顔・・・でも肌は白いかも。
黒髪に黒目だ。
胴長・・・ではない。足は長いな。
「おや、可愛らしい子だね。この国の子?」
「召喚者です、日本人の。」
「そっかー、よろしくねお嬢さん。茶国はアジアからの移民の国だから、僕達同じ民族だよ。赤国が嫌になったらいつでもおいで」
「ハヤテさん、変な事言わないでください。」
「変な事じゃないよ?民族の違いは食文化の違いでもあるんだから。ウチは発酵食品も沢山あるよ、どう?」
「そういうことじゃなくて、リィナは召喚者ですから!」
「リィナちゃんっていうんだー。で、本名は?」
「ハヤテさん!!」
平たい顔を見上げてポカーンとしていたら、旦那様の後ろに隠されました。
猫だったら毛を逆立ててるんだろうなーって感じの旦那様の後ろから旦那様の顔を見ようと、ひょこっと顔を出してみたら、クリスさんに捕まって、前に出されました。
「ほらリィナ、ちゃんとご挨拶しなさい」
「召喚者のリィナと申します。お目にかかれて光栄です、殿下」
習った挨拶を完璧にしたら、ちょっと驚かれました。ふふん、私だってやれば出来るんです!
「ご丁寧にありがとう。私はラセット王家のハヤテだ。・・・ハヤテお兄さんと呼んでくれるとうれし」
「リィナ、絶対に呼ぶなよ?」
「はいシオン様」
ハヤテ王子がいい終わる前に被せ気味で念を押してきたシオン様に、私も賛同いたします。なんだか面倒くさそうな人だ、この人。
「ひどいなシオン君。まぁ、冗談はこのくらいにして、お茶にしようか」
「その前にこの子も紹介させてもらえますか、ハヤテさん」
そう言ってユーリ殿下がナンシーを連れてきます。
「お初にお目にかかります。ナンシー=ボルドーと申します。お見知りおき下さいませ」
そう言ってこれまた綺麗な挨拶をするナンシーさん。お辞儀の角度まで完璧です。
ちなみに、私とナンシーさんで挨拶が違うのは、この国の貴族と召喚者の違いです。
「・・・ナンシー=ボルドーさん?」
「・・・はい」
「・・・ふーん」
「・・・」
なんだかナンシーさんをジロジロ見ているハヤテさんと、居心地わるそうなナンシーさん。知り合い?そんなわけないか。
「じゃあ、あとはお茶をしながら茶国の子達をお嬢さん方に紹介しようか」
ハヤテ殿下がそう言うと、ユーリ殿下が茶国の皆様を席に誘います。
やれやれやっとお茶ですか。ふぅ。
***********
「弟のマサキと妹のアカリ、娘のサクラと息子のシュウだよ」
「ナンシーです。はじめまして」
「リィナです。仲良くして下さい」
「マサキです。よろしくね」
表情筋が痙攣しそうなほど頑張って笑顔を振りまいているのですが、好意的なのは第3王子のマサキ殿下だけのようです。
アカリ王女は、なんか睨んでくるし。
サクラ王女は無表情。
シュウ王子に至っては・・・目も合わせてくれません。
仲良くできるかなぁ。
なんだか気まずい雰囲気なので、ユーリ様が座席を分けてくれました。
アカリ王女、サクラ王女、シュウ王子はユーリ殿下とダリア王女とナンシーと一緒に別のソファーに移って歓談中。
そして私はクリスさんとシオン様と一緒にハヤテ殿下とマサキ殿下と同席。
ケーキはペロリと平らげました。・・・もっと食べたい。
「そうだ、リィナちゃん漢字は得意かな?」
そう言ってハヤテ殿下が書いてくれました。
颯、柾、灯、桜、柊
その下にこちらの世界の文字で『ハヤテ、マサキ、アカリ、サクラ、シュウ』ってことは、
「皆様の名前、漢字なんですか?」
「そうだよ。茶国はアジア系移民の国で、私達ラセット王家はもともとは日本人だったらしくてね。代々、漢字一文字の名前をつけるんだけど、いいかげんネタ・・・いやいや、漢字切れでねぇ。あとで名前になりそうな漢字、教えてくれるかな・・・結構真面目に困ってるんだよ」
まぁ、漢字教えるくらい良いですけどね。一文字にこだわる理由がわかんないわ。
それよりさっきから気になるワードが。
「・・・移民?」
「そうだよ、聞いてないのかな?この世界にある国はもともとは君たちの世界から来た人間が作ったんだよ。神隠しって知ってる?あとは村ごと全員居なくなった伝説とか・・・要するに、向こうで暮らしていけなくなった人間がこちらに来たんだ。『鍵』はその象徴だよ、特殊な力は異端といって嫌われるからね。真っ先に逃げてきたと思うよ」
「リィナ、茶国はこの世界で一番歴史が古いんですよ。大体の国は茶国から派生しているんです。」
クリスさんが補足してくれます。それで文法が日本語と似ていたのですかね?
「茶国は今では最も混血が進んでる国でもあるけどね。この国はもともとはイギリスだっけ?ドイツ?」
「初代はドイツですね、宗教による迫害から逃れてきた方々だったようです。そのあとはイギリス、フランス・・・現王家はそれこそ混血が進んでいて分かりませんね。私達に『鍵』が現れ始めたのは茶国の王女が輿入れしてかららしいですよ」
「じゃあやっぱりウチが原因かぁ。厄介な能力を広めちゃったよね。特にマサキの能力は広まらないことを祈るよ。」
「ひどいな、兄さんの能力のほうがよっぽど厄介じゃないか。」
そう言ってニコヤカに会話する兄弟。
一体、どんな能力か知りませんが、巻き込まれるフラグじゃないことだけを祈ります。
それにしても・・・平たい顔を見ているだけでこんなに落ち着くなんて、アンセム先生の言った通り私ってホームシックだったのかしら?はぁ癒される・・・日本食、好きかしら?
「リィナちゃん、にこにこしてて可愛いなぁ。ケーキ食べる?」
「はい!」
「いいお返事だねぇ。こっちおいで、一緒に食べよう」
ケーキ、ケーキ、ケーキ!
ふらふらとマサキ王子のそばに行こうとしたら・・・阻止されました。
「待てリィナ。どこに行くつもりだ」
「ケーキを食べに・・・」
「なぜマサキと一緒に食べる必要がある?ここで食べなさい」
「チッ・・・シオン、そんな可愛い子を独り占めするつもりかい?」
「悪いがリィナは私の召喚者なんだ。何かあったら私の責任になるからな」
・・・なんだか、よく分からない火花が散っている気がします。
あの、ケーキは?と思ったら目の前にフォークが!
「リィナちゃん、ほらあーん」
「あーん」
口を開けたところで、今度はクリスさんに阻止されました。うううっ、ケーキ・・・
「リィナやめなさい!何してるんですかハヤテさん!」
「いやぁゴメンゴメン、ケーキ食べたそうにしてるから、つい」
「リィナも!いい年して“あーん”とか、やめなさい」
まぁ、確かに。ハヤテ殿下は私と同年代ですしね。うんハズカシイね。
・・・じゃあ、自分で取りにいこう。
まだ火花を散らしている年少組と、お説教モードの年長組の目を盗んで、ケーキを取りにいきます。
トレーの近くまで寄ったら、見たことのある執事さん(たぶん、ユーリ殿下の執事さんかな?)が「お取りしましょうか?」って聞いてくれました。じゃあ、お皿に一杯ください!・・・ダメ?
そして、出来る限り沢山(しかも超きれいに!)盛り付けてもらったお皿を持って、うきうきしながら席に戻ろうとした時でした・・・
「おいっ、お前!」
私の顔を見上げながらも“上から目線の声”が、室内に響いたのでした。
9/15アカリとサクラの名前を入れ替えました。単純に間違えてました。
リィナが元気そうに見える(元気になった?)理由は次回!(たぶん次回。遅くても次々回・・・。)
【豆設定】
この世界では王家は、その血族が尊ばれているのではなく、国民の支持によってその座にあるだけなので、施政者として相応しくないと判断されたらその座を奪われます。また、奪われる前に自分から退位する場合もあるので、元王家という一族が少なからず存在するため、王族の皆様は名乗る時に「○国のなんとか王家のだれそれ」と名乗っています。茶国にも赤国にも王家はいくつか存在します。現在はラセット王家が茶国の代表、ということです。(赤国の情報は小出しにしますので、まだお伝えできませんm(__)m)
以上、とくに覚えなくてもいい豆設定でした。




