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81 とある王国の事情2

シオン視点です

「やれやれ、やっと寝ましたね」

「効き目が遅かったな」


クリスがお茶に入れた睡眠薬がやっと効いてきたらしく、リィナとナンシーはやっと眠った。

「子供用に少量にしましたからね。ともあれ、これでゆっくり話ができますよ」

ため息を吐くクリス。私たちの中で一番子供の扱いが上手い分、疑われずに睡眠薬を盛るのにも慣れている。たぶん私もユーリも子供時代には盛られていたんだろうな、とつい遠い目をしてしまう。

「お前まさかいつも薬盛ってる訳じゃないよな?」

ナンシーに薬を盛られたことが気に食わないのだろう、ウィルがクリスを威嚇する。

「まさか。さて、子供を抱っこしててもしょうがないですから、客室に寝かせてきましょう」

「ああ」


話はそれからだ。






「いやー、悪かったねぇ、ちょっと急いでたものだから」


客室にリィナとナンシーを寝かせ、起きて騒がれると面倒なので念のため女官を部屋に手配してから、3人で陛下の執務室へ向かうと、すでにユーリとダリアが居た。どうやら我々を待っていたらしい。


「一体どういうことなんですか?」

茶国(マロン)の王太子が来る」

「それは聞いてます」

「弟か妹も連れてくるそうだ」

「・・・弟妹?」

「そして、娘か息子も連れてくるらしくてねぇ。賢いシオンなら分かるだろ?」

「・・・ウチの王族の年齢と合わせてくる、ということですか」


茶国の王太子は今年で33歳。いままで年齢的に一番近いクリスが接待役を勤めている。そして王太子の子は10歳の女子と8歳の男子。これはダリアが“遊び相手”となる。そして・・・

「私とユーリの相手は、誰が来るんです?」

「おそらく第3王子か、第5王女だろうとのことだが・・・私の予想では、両方来る気がするね」


第3王子は21歳、第5王女は19歳である。


「王族が多くてうらやましい限りだよ」

「うちの人手を割いて、何をするつもりでしょう?」

「さあね。とにかく何かしらの情報を得るために態々来るんだろうからね。お前たちはともかく、一番危ういのが・・・」


ダリア、か。

問題は・・・ダリア一人で王太子の子女を一度に相手には出来ないということだ。8歳の王子の相手ならダリア一人でも平気だろう。しかし10歳の王女はダリアが接待するのは無理だ。子供のころの2歳差は大きい。早々になめられるか、または退屈させることになる。


「王女の年齢に会う貴族の子女を探したんだがね。ダメだね、子供過ぎて話にならない。下手をしたら聞かれた事をすべてしゃべってしまいかねないよ。そんなリスクは犯せない」

「・・・それで、リィナとナンシーですか」

「そう。ナンシーは絶対に危ういことは口にしないし、リィナちゃんはそもそもこの国のことなど知らないからね。いやぁ、君たちいい駒持ってるねぇ・・・睨むなよみんなして」

「今のはお父様が悪いですわ。駒だなどと言うから。」

「ダリアまでそんなこと言うかい。パパは悲しいなぁ」


陛下の言うことはわかる。同年代の王族や貴族との交流は他国へ行く上での必須事項とでも言うべきものだ。王の名代で行く場合は王と王妃だけを相手にしていればいいかもしれないが、王子や王女、またはそれに順ずる高位貴族たちとの接点を作ることは、今後の友好関係を継続する上での重要な外交なのだ。また、茶国は未婚の王族が多い。おそらく嫁候補や婿入り先の下見も兼ねているのかもしれない。


ハァ・・・ようやくリィナと仲直りできたと思ったのだが。


「陛下、リィナには何と説明するつもりですか?」

「そのまま話すよ。あの子は頭のいい子だからね、きっと協力してくれるさ」


そしてリィナの中で、俺の評価がまた下がるんだろうな・・・


「シオンお兄様。ごめんなさい」

「・・・ダリア、お前のせいじゃないよ」

めずらしくしおらしいダリアの頭をなでてやる。最近は頭をなでさせてくれなくなったから、久しぶりだ。


「リィナちゃんは、シオンが召喚した“ダリアの遊び相手”、ナンシーはそのまま侯爵家の娘でいいだろう。異論はないだろうウィル?」


ウィルが黙って陛下に礼をする。

異論は山ほどあるに決まってる。だが、ウィルはそれを口に出すことは出来ない、いや、口に出すことを許されていない。


結局、すべて陛下(この人)の思惑通りなのだろう。ここに王妃が居ないことも含めて、ほぼ間違いなく。


全員で陛下の執務室を出る。そして全員でため息をつく・・・面倒な。


「あーあ、面倒だなー畜生」

普段飄々としているユーリまで愚痴っている。

「シオン、どうする?第3王子はともかく、第5王女だってよ。絶対マリアのこと聞きつけたんだと思うよ?」


ああ、そういうことか。つまりフリーになった第一王子狙いってことか、面倒だな。

「それこそマリアに相手をさせるさ」

「うわっ、マジで!?」

「今までの迷惑料だ。リーデル侯爵も喜んで引き受けるだろ」

「なるほど、じゃあ王太子の方もレイモンドに相手をさせられるな。ウィル、お前はリィナとナンシーの護衛を頼む。陛下には俺が付く。シオンもそれで良いな?」


クリスがそう言うと、ウィルは驚いて立ち止まる。

ウィルは表向きは第3騎士団の団長だが、もともと武門筆頭のバーミリオン家は王族の個人に仕える一族だ。そしてウィルは現陛下個人に忠誠を誓っている、いわば陛下の私兵でもある。他国の王族が来るというこの時期に陛下の警護から外れるなど、普通はありえない。

だが、クリスが陛下に付くというなら、陛下としてもそれほど異論はないだろう・・・が、


「いいんですか?」

ウィルが恐る恐る私に聞いてくる。

「・・・リィナとナンシーに何かあったほうが困るからな。陛下には私から言っておこう。」

苦々しい思いでそう答えると、ウィルは黙って頭を下げた。


一連のやり取りを黙ってみていたユーリはものすごく嫌そうな顔をしている。いまいちよく分かっていないダリアは俺たちを見上げてきょろきょろしている。


「せめて・・・」


10歳なんかじゃなく、せめてこの前の17歳くらいだったらよかったのに。そうすればリィナもナンシーも少しは自分の身くらい守れただろうに。


とりあえずの方針が決まったところで、皆それぞれの行動に移す。クリスとウィルは騎士団の調整、ユーリは貴族たちへの通知、ダリアはリィナとナンシーの受入準備。


そして私は、陛下への説得。あぁ、面倒だな。




思っていた以上に陛下への説得が早く済んだので、リィナの様子を見に客室へ行った。


客室に入ると、手配していた女官から報告を受ける。特に目を覚ますことはなく2人ともぐっすり眠っていたらしい。

女官を帰し、寝室に入りベットを覗き込むと・・・リィナが横になったまま目を覚ましていた。


「起きてたのか?気分はどうだ?」

「・・・んー」

目をこすって、あくびをしている。・・・眠そうだ、とても眠そうだ。


「寝てていいぞ?」


そう言うとなぜかこちらに両手を伸ばしてくる。抱っこか?・・・本当に陛下の『(キー)』は、たちが悪い。寝ぼけているからだろうとは思うが、完全に子供返りしてるしゃないか。


抱きかかえて、しばらく背中をさすってやってると、また、うとうとしてきたようだ。

「・・・んー」

「ほら、寝ろ」


またベットに横たえると・・・袖をつかまれている。外そうとするが・・・ぎゅっと握りこまれていて、無理そうだ。仕方ないな、上着を脱ぐか。

片手で上着を脱ぎ、脱いだ上着はそのままリィナに被せた。

さっき結いた髪が、もうぐしゃぐしゃになっていたので、結んでいたゴムを外して髪を整えてやる。

すると、リィナが“ふにゃ”と笑った。ああ、頭をなでたようなものだからかな?


「おやすみ、リィナ」

最後に頬をなでて・・・額に口付けようとし・・・視線に気づいた。


「っ、ナンシー起きてたのか?」

びっ、びっくりした。リィナの隣でじぃーっと、俺を見ている。

「何してるのだんな様」

「え?」

「リィナに何してるの?」


リィナに、リィナに・・・お休みのキス、を・・・つい。

ナンシーはじぃーっと俺を見てる。たぶんナンシーも寝ぼけてるのだとは思うが、“お休みの”とはいえキスをしようとしていたことがバレると色々まずい気がする。


「ナンシー、まだ寝てていいぞ。食事の時間になったら起こすから、な?」

「・・・んー」


ぽんぽんと頭をなでてそういうと、ナンシーはおとなしく眠った。



よかった。このままでは完全に幼女趣味(ロリコン)扱いされるところだった。ほっとすると同時に、すやすやと眠るリィナを見て、ずっと見ていたいような、そんな気分になった。


もちろん、そんなことはしないが。・・・そんなことをしたらまたクリスに怒られるだろうし。





ぐっすり眠ってすっきりしたのか、リィナもナンシーも起きたときには愚図らなくなってはいた。なってはいたが・・・


「ほら、ちゃんと食べろ」

「イヤ!」

ウィルがナンシーに食事を促すと、ナンシーは拒否する。

「食べなきゃあとで腹減るぞ?ほら」

「イヤっ」

食欲がないのか、好き嫌いなのか、他に原因があるのか・・・ナンシーは頑なに食べない。それっきり黙ってしまった。


10歳の子供って、こんなだったか?もう少し自分で意思表示をするだろう、ダリアだってあれがイイだの、これはヤダだの、それ頂戴だの・・・


「シオンさま、シオンさま」

「ん?どうしたリィナ」

「からいの」

「何?」

「これはからいの」


からいの・・・(から)いの、か。つまり・・・

「リィナもナンシーも、辛くて食べられないのか?」

「はい」


なんだそれは、味覚まで子供に戻ってるのか・・・まぁ、そういう『(キー)』なのだから、しょうがないのだが・・・面倒くさい。


「じゃあ、辛くないの用意するから、それまで果物でも・・・」

「それもヤダっ!」

「あのね、すっぱいの」


力いっぱい拒否するナンシーと、酸っぱいから嫌だと主張するリィナ。日本語は味覚の言葉が発達しているから、リィナは何が嫌なのかを具体的に伝えてくるが、ナンシーは美味しいかマズいかで判断しているのだろう。・・・面倒くさい。


紅茶用の砂糖壷を手に取り、グラニュー糖をマールにたっぷりかけて、リィナに渡す。

「これでいいか?」

「はい。シオンさま、ありがとうございます」


うれしそうにマールを食べるリィナを見て、ほっとする。

私はこの時、『大人の記憶を持ちながら子供になってしまう』ことの大変さを、まだ理解していなかった。











子供の頃は酸っぱめのグレープフルーツに上白糖をかけて食べるのが好きでした。

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