79 引きこもりのメイドと・・・
小話集です。
まだ引きこもっています(お屋敷限定で。)
【リィナと休暇】
うさぎ持ち帰り事件から1週間後に、旦那様は領地へ旅立って行きました。
私?行きませんよもちろん。行きたくないです、旦那様とずっと一緒なんて息が詰まりますー。
そして旦那様が旅立ってから2週間後。
「ごめんね、旅行なくなっちゃって」
「いいわよ、大変だったって話は聞いてるから」
そう言ってセリーヌは労ってくれました。本当は一緒に領地に行く予定だったんですけどね。ごめんね。
・・・ちなみにその“大変だった”話はどこから聞いたんですか?王妃様ですか、なるほど。一体どんな情報網をお持ちなんですかね。まあなんとなく情報源はキーラさんではないかと思いますけどね。
「タクトさんもごめんね。」
「いいよ、これも楽しいし」
そう言って馬の首を撫でているタクトさん。
「そうそう!ここなら俺やアベルも休み毎に日帰りで来れるしね!」
そう言ったのはパオロさん。・・・あの、馬に髪の毛食べられてますよ?え?馬の愛情表現なんですか?馬にもモテテるんですかパオロさん!?
ちなみに“これ”とは、乗馬教室inこの前うさぎと戯れた自然豊かな直轄地、です。
ここにはクリスさんが連れてきてくれました。最初の何日かはクリスさんも一緒に宿泊し、色々と手配をしてくれていたのですが、今は私達だけです。のびのび~。
ちなみに、乗馬教室といっても実際に乗馬を教わっているのは私だけです。男性陣はみんな乗れるらしく、セリーヌは『私は馬車に乗るから~』とおっとりと断られました。
乗馬のほかには湖で遊んだり、動物と戯れたり、野菜や果物の収穫を手伝ったり、読書したり、美味しいもの食べたり、飲んだり、食べたり・・・異世界の秋を満喫です。
ちなみに、私・セリーヌ・タクトさんは3週間、泊まりがけで遊びます。
パオロさんとアベルさんは1泊2日、そうそうユージーンさんは明後日から纏まった休みが取れたとのことで、来るそうです。
「リィナ、大丈夫?」
「・・・大丈夫です」
いえ、本当は大丈夫でもないんですが・・・お尻がイタイ。
馬って、お尻が痛くなるものだったんですね。揺れるし。
「リィナの場合、余計な力が入りすぎてるんだよ。」
「・・・馬の上って、緊張するんです。そういえばタクトさんは日本で馬に乗ったことあったんですか?」
「いや、俺もこっち来てから習ったけど」
「そうですかー、すごいですね」
タクトさんは完璧に乗りこなしているように見えます。立派な騎士様です。
「ここに居る間にゆっくり練習すればいいよ」
タクトさんはそう言って、私の馬を預かってくれました。
「みんなー、お昼ご飯にしましょー」
いつのまにか、室内に移動していたセリーヌが手を振っている。
見上げれば、日本では見たことがないような青い空。
初秋の風が気持ちいい。
空を見上げてボーっとしていたら、タクトさんが手を差し出して言った。
「リィナ、いこう」
「はい、タクトさん」
差し出された手を取って、みんなと一緒に建物に向かう。
「今日のお昼ごはんは、アベルさんが作るって張り切ってましたよ」
「あいつの自信作は、サンドイッチだろう?」
「あはははっ」
巻き込まれたことを慰めてくれる、召喚者もいるし。
「タクトさん、午後からは湖に行きませんか」
「いいね」
「タクトさん、ボート漕げます?」
「・・・たぶん。頑張るよ」
「・・・」
「リィナ、笑うならせめて声に出して笑ってくれ」
「リィナ、夜はトランプしようよ!何賭ける?」
「パオロさん、賭けはダメです」
「ええっー」
自分が恵まれているなーと感じるのは、正にこういう時なんだと、リィナはしみじみと感じていた。
【旦那様と領地】
「長旅、お疲れ様でしたシオン様。お食事の用意も出来ておりますが、ご休憩されますか?」
「・・・クリスに連絡を入れてから、食事にする」
「かしこまりました」
領地に無事到着してすぐ、こちらの家令が出迎えてくれた。王都の屋敷の何倍もあるこの屋敷を取り仕切る彼は、父上の執事をしていた男だ。
執務室に入ると、机の上には書類が山積みだった。これを終わらせないと、王都には帰れない。それに各地に視察にも行かなくてはならない。どんなに頑張っても1月はかかるだろう。
ハァ・・・
「なに溜息なんてついてるんです?」
「うわっ!!」
すぐ後ろで家令の声がして、思わず叫んでしまった。
「まったく、そんなところはお父上にそっくりですね」
彼はそう言って、懐かしそうに笑う。
「ほら、クリス様に連絡するのでしょう?」
「あ、ああ」
通信機に向かい、屋敷にいるはずのクリスに連絡する・・・
「旦那様、クリスさんはリィナと一緒に離宮に行ってらっしゃいます」
「は?」
執事長からそういわれ、しばし固まる。
「・・・なぜ?」
「召喚者の方々を領地にお連れすることが出来なくなったお詫び・・・とのことですが」
「・・・」
お詫び・・・お詫び・・・
とりあえずフレッドに伝言を頼み、通信を切った。
「ご一緒に来るはずだった召喚者の方と、喧嘩でもなさったんですか?」
「喧嘩、というか」
あれは喧嘩なのだろうか?
「まぁ、女にだらしの無い男を好む女性はおりませんからねぇ。居たとしても少数派でしょう」
・・・一連の出来事を知ってて“喧嘩でもなさったんですか”って聞いてきたんだな。ハァ・・・。
「シオン様は旦那様に似て、女運が悪いですからねぇ」
父上の執事だった彼は、今でも父上を“旦那様”、俺を“シオン様”と呼ぶ。だが母上の事を“奥様”とは絶対に呼ばない。何があったのかは聞いたことがないが、母上と彼は昔から犬猿の仲だ。
「私としては召喚者のお嬢様に会うのを楽しみにしていたんですが、しょうがないですね。・・・来年は、連れてきて下さいね?」
「・・・そうだな」
来年は必ず連れてこよう。自然豊かなこの土地を、気に入ってくれるといいのだが。
「連絡も入れたし、食事にしよう」
「はい、畏まりました。今日は野うさぎの香草焼きですよ」
「・・・野うさぎ」
「ええ秋ですからね。昨日、猟師が丸々と太った野うさぎを仕留めたので料理長がシオン様の為に下処理を・・・シオン様?」
・・・やっぱり、リィナを連れてくるのはやめた方が良いのではないか、とシオンはこれから1年、悩むことになった。
【リィナと家令様】
「ただいま戻りました、クリスさん。お休み有難うございました」
3週間の休暇からリィナが帰ってきた。
「お帰りなさいリィナ。少し日に焼けましたね」
「はい。クリスさん、私ちゃんと馬に乗れるようになりました。・・・歩くだけですけど」
「充分ですよリィナ。乗馬は良い運動になりますからね、たまに乗ってみるといいですよ」
ゆっくり休めた所為か、機嫌の良いリィナを見てほっとする。自然や動物と触れ合って、いいストレス発散になったのだろう。
それにしても・・・
「リィナ、それは・・・」
「あ!そうそう!お肉貰ってきましたよ。所長さんが是非みなさんでどうぞって。ちょうど今日明日あたりが食べごろですって!」
そう言ってリィナが指差した大量の肉が入っているであろう保冷箱。
「えーっと、鳩と、ガチョウと、鴨と、ウサギと、豚と、牛です。鳩とかウサギって美味しいんですって!アベルさんとセリーヌが言ってましたよ!フランス人は本当に食べてるんですねー。」
「・・・そうですか」
「はい!さっそくマリーさんと相談しますね!」
食べるのか、うさぎ。・・・女ってすごいな。
まぁ、少なくともこのまえ触れ合ってきたうさぎでは無いから食べれるんだろうけどな。
「シオンも居ないことですし、使用人全員でバーベキューでもしましょうか」
「わぁ!賛成です!」
そしてリィナの歓迎会以来の、使用人パーティーが夜遅くまで続いたのでした。
「リィナとナンシーはお酒飲んじゃダメ!」
「「そんなぁ、アリッサ」」
「ダ・メ!」
リィナはタクトさん達と楽しい時間を過ごした模様です。息抜きは必要よね。




