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75 迎撃?

マリア嬢に挑まれた翌週から、私はタクトさんに剣道を教えてもらうことになりました。

「・・・リィナ、剣道やってたって言ってなかったっけ?」

「やってたと言えるほどやってません。4歳とか5歳頃に5~6回通っただけです」

“棒(=竹刀)で叩かれる”という事に、拒否反応が出まして、結局1ヶ月で辞めてしまいました。


「・・・初心者ってことだね」

「もちろん初心者です。だから言ったじゃないですか!」

私は最初から初心者だと!口を大にして!言ってますよ!


なぜかマリア嬢が剣での挑戦を希望したので、初心者が西洋剣を振り回すのはさすがに危険だろうとの旦那様の判断から、タクトさんに剣道を教わることになりました。それもなぜか、マリア嬢に1週間のハンデ付き。私も初心者なんですけどー、しかも年齢的にも若い子の体力にかなう気がしないんですけどー。

「年齢的に・・・じゃあ、また若返る――」

「結構です!ありえません!むしろセクハラです!」

若返りは断固阻止しましたよ!旦那様がなぜか凹んでるみたいでしたが、そんなことは知りません。無視無視。


そんなわけで、マリア嬢のレッスンが始まってから1週間後、私のレッスンが始まりました。さて、始めに何をするんですか?


「リィナ右利きだよね、とりあえず竹刀の持ち方が逆だから」


あら、すみません。・・・だから初心者なんだってば。






それから2週間、タクトさんに剣道を習う日々・・・もう嫌。

「マリアさんに比べれば、リィナは覚えが良いよ」

「え!そうなんですか?わたし負ける気満々だったんですけど?」

つい本音がこぼれました。そして見に来ていた旦那様とクリスさんが引きつってます。


「・・・リィナ」

「負けてもいいですか?いいですよね?」

「・・・」

「だって私、メリットないし」

「・・・」

旦那様はなんだか捨てられた子犬のような目で見てきますが、私は絆されませんよ。

クリスさんは頭を抱えながら「メリット・・・無いな」と呟いてます。それを聞いた旦那様、ちょっと涙目です。でも私は絆されませんよ?




そして迎えたマリア嬢の挑戦の日。剣道着なんてありませんからワンピースに防具をつけています。とっても格好悪いです。


場所はお屋敷のホール。ギャラリーはお屋敷の使用人(みんな)です。まぁ、マリア嬢が勝ったら旦那様の奥様になるわけですしね、見ておきたいんでしょうね、と思ったら「違うわよ、リィナがワザと負ける気満々だから、なるべく大勢で見張ってろって言われたのよ(byナンシー)」だって。仕事しなよ、みんな。


私とマリア嬢が向かい合ったところで、タクトさんに「準備はいい?」と聞かれました。コクンと頷きます。


私とマリア嬢は立って向かい合ったまま、お互いに竹刀を構えます。そしてタクトさんが開始の合図を――


「始め!」

パシン

「・・・それまで」


開始の合図で踏み込んだ私は、小手でマリア嬢の竹刀を落とすことを狙いました。だって叩かれたくないし!幼い頃のトラウマって、そう簡単にはなくならないんですよ。狙い通りマリア嬢の手首をペシンと叩いたのですが・・・カランとマリア嬢の竹刀が床に落ちます。えーっと、本当に軽くペシンって叩いただけなんだけどね。勝っちゃったよ。


「「弱っ!!!」」


ギャラリーからのその声にマリア嬢はキィッと睨みつけますが、少し涙目で迫力半減です。マリア嬢は声の主を特定できないようですが、私にはわかります。アリ○サとミシ○ルですよね、今の。まあ“戦うお嬢様”な二人からしてみたら、マリア嬢の弱さは驚きなのでしょうけど。

そして旦那様はちょっと嬉しそうです。でも私の中で旦那様の評価は“女の後始末をメイドにさせるダメ男”に決定しました。


マリア嬢は俯いて、床に転がった竹刀を見ています。涙をこらえているみたいです。だって悔しいよね、沢山練習したんだもんね。勝った私に声を掛けられるのはもっと悔しいだろうし・・・だれか、マリア嬢を慰めてあげなよ。


私の心の声も虚しく、誰も話しかけてあげません。それどころか“もう帰れば?”的な雰囲気なんですけど。嫌われてるねぇ。まぁ、今までマリア嬢はこのお屋敷の使用人に対して態度悪かったらしいですからね。



「さぁ、みんな仕事に戻りなさい。タクトもわざわざ悪かったね。」

「いえクリス様。では失礼します。リィナ、またね」

バイバイと手を振ってタクトさんを見送ります。またね~。


私は防具を外して竹刀と一緒に片付けます。マリア嬢の防具も一緒に片付けたいな。とりあえず落ちてる竹刀を拾って、防具どうしようかな、マリア嬢、まだ放心してるみたいだし、外しちゃおうかな。ちょっと失礼しますよー。まず面をはずしてっと・・・


「マリア、お前ももう帰れ」

旦那様が、マリアさんにそう言います。

のろのろと顔を上げたマリアさん。でも何も見てない感じ。

「なぜ、ですの?」

「なぜとは?」

「なぜ私は、誰にも必要とされないんですの?」

「それはお前が誰も必要としていないからだ」


視線を旦那様に向けるマリア嬢。旦那様は静かにマリア嬢を見ています。

「わたくし、は・・・」

「もういいマリア。もう、いいんだ」


旦那様のその言葉に、マリア嬢は涙を堪えきれなくなったようで、子供のように泣き崩れます。


「しょうがないですね。キーラ、客室の準備を。リィナはお茶の準備をしてくれますか?」

「はい、クリスさん」


クリスさんは泣いているマリア嬢を抱っこして、客室に連れて行きました。

今度こそ、ちゃんとした客室に。



***************************



「おちついたか?」

「はい」


ひとしきり泣いたマリア嬢は、目が真っ赤です。私の淹れた紅茶を「おいしい」と言って飲んでくれました。なんだ、良い娘じゃないの。

ちなみにここには旦那様は居ません。あとで来るらしいけど、先にお仕事があるんですって。


「シオンの言っていた意味は、分かったか?」

「はい」


“それはお前が誰も必要としていないからだ”ですか?私には分かりません。勝負に勝ったら必要とされていたんですかね?それも違う気がするしなー。


「シオン様は、最初からお分かりだったんですね」

「それはそうだろうね。」

「ハァ・・・わたくし、バカみたいですわね」


自嘲気味にそう話すマリア嬢。私がクエスチョンマークを浮かべていたのがクリスさんにバレたようで、苦笑されました。そしてクリスさんが話してくれました。つまり、

「マリアはね、別にシオンのことなんて、好きじゃなかったんですよ」


はい?


「自分は好きじゃないのに、シオン様には好きになって貰いたかった・・・無茶な話ですわね。好かれる努力も、相応しくなろうともせずに」


投げやりにそう言うマリア嬢。はぁ、なるほど。つまりさっきの問答は「なんで誰も好きになってくれないの?」「お前が誰も好きじゃないからだ」ってことだったんですか。


あー、ばかばかしい。


ちょっと、キレていいですか?









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