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74 お嬢様、襲来

馬車から降りても旦那様は手を離してくれませんでした。振り払おうとしてみたら、もっとギュッと握られました。

「旦那様、離してください。色々誤解が生じそうです!」

もし屋敷内にマリアさんが居たら完全に睨まれるし、居なかったとしてもメイド長や執事長に何事かと思われそうですし、ナンシーに見られたら笑われそう、うん、爆笑されそう。


玄関ドアが開き、連行されたまま旦那様と一緒にお屋敷に入ります。

「お疲れ様でございました旦那様。お客様が・・・リィナがどうかしましたか?」


執事長とメイド長が不思議そうに私と旦那様を見ています。ですよねぇ、なんで連行されてるのか気になりますよねぇ。


「フレッド、表の馬車は?」

玄関ホールを進みながら執事長にそう尋ねる旦那様。それに答えようと執事長が口を開いたその時・・・


「シオン様!」


満面の笑みで、マリア嬢が駆け寄ってきました。ああ、胃がキリキリしてきました。


「今朝はあまりお話が出来なかったものですから、また来てしまいましたわ」

うふふっ、と可愛らしく言っていますが、今朝って王妃様に釘を刺されて連行されたんでしたよね。それなのにまた来ますか・・・追っかけの域を超えていますよ、ちょっと怖いです。こそこそしないストーカーとでもいいましょうか。

今朝王妃さまに連れて帰られたこと、全く反省してないんでしょうね。まあ、若い子ってそういうところあるよね。


マリア嬢は楽しげに旦那様に話しかけますが、旦那様は無言のままです。うーん、この子メンタル強いなぁ。


何か視線を感じたのでそちらを見てみると・・・メイド長(キーラさん)です。

なんかジェスチャーをしています・・・んん?こっちに来なさい?ですか?

ええっと、手をね、離してくれないんですよ旦那様が。もう参っちゃって・・・という意味を伝えてみます。まず、この掴まれている手を見て、旦那様を見て、キーラさんに視線を合わせてから溜息とともに肩を落としてみました・・・伝わったかな?


「旦那様、リィナは仕事がありますので、連れて行ってもよろしいでしょうか」

キーラさんが私のジェスチャーを正確に読み取ってくれたようです!さすが、すばらしい!


「・・・その仕事は他の者にさせろ」

そういって旦那様は今度は私の手首を握りました。つまり離す気ないんですか?

困ったわぁマリア嬢が睨んでる。

私のことを睨みつつも繋がっている手については無視をしていたマリア嬢でしたが、さすがに黙ってはいられなくなったらしく旦那様に質問してきました。


「シオン様、なぜメイドの手を握っているんですの?」

「手を離す必要性がないからな」

いや、旦那様。必要ありますよ、私、仕事があるんですよ?

ほら、マリア嬢の口元がヒクヒクしてますよ?


「必要ならありますわ。せっかくお屋敷にお邪魔したのに、メイドが一緒ではお話が出来ませんわ」


そう言って、旦那様の空いている方の手を取ろうとしたマリア嬢。

その時、バタンと音がして、マリア嬢は手を止めました。玄関が閉まる音ですよね・・・振り向いてみるとそこには、


「ずいぶんな言い様ですねマリア。呼ばれてもいないのに勝手に人の屋敷に上がり込んでおいて」


ちょー不機嫌な、クリスさんのお帰りのようです。




「シオン、お前なにリィナ握ってんだ?」

私と旦那様の手をみて、呆れたようにクリスさんが言います。


ちなみにクリスさんが“シオン様”じゃなくてシオン、とか、お前、とか呼ぶときは、大抵機嫌の悪い時(byナンシー)だそうです。そして敬語じゃない時はお疲れの時(byアリッサ)だそうです。つまり現在、疲れてるし最高に不機嫌ってことですね。雷よけの言葉ってなんだったっけ?えっと、そうそう、くわばらくわばらー。


「・・・理由が無きゃだめか?」

「・・・そういうことなら、おまもり代わりに握ってろ。さて、マリア」


おまもり?今おまもりって言った?なんだろう御守?・・・あ!言い間違いかな?ひょっとして“お()り”か!?こんな大きい子のお守りを任されてもねぇ。・・・ええ、わかっていますよ。ただの現実逃避です。


ちなみに私が現実逃避中に、クリスさんとマリア嬢が言い争ってます。まるでハブとマングース。あれってマングースのほうが勝率高かったんだっけ?


「・・・クリス様は口を出さないでいただけますか?わたくしはシオン様に会いにきたのです」

「シオンと話がしたければ、正式に王宮に謁見願いを出すんだな。お前の都合にシオンをつき合わせるなど百年、いや一万年早い。」

「失礼ですわっ!」


あー、そろそろお腹すいたナァ。

「リィナ、お前飽きてきただろう?」

旦那様、するどいですね。


「大体、この屋敷ではクリス様はシオン様の家令ではありませんか!わたくしを玄関先に立たせたまま話をするなんて、家令として失格ではありませんの!」

「呼んでもいないのに屋敷に入り込んでいる人間を客扱いするわけが無いだろう」

「入りこんでいるだなんて失礼な!正面玄関から執事にあの客室に案内されましたわ!」


そう言ってマリア嬢が指をさすその先には・・・扉のあいたままのドア。え、あの部屋?

「え?客室?」

思わずつぶやいてしまったら、みんなの視線が集まりました。わわわ、あの部屋の存在はお口にチャックでしたか!?


「リィナ」

満面の笑みでクリスさんに名前を呼ばれました。ヒィッ!

「はいぃ!」

「あの部屋がなにか、知っていますよね」

「ぇ、ぁ、ぅ・・・はい」

「マリアに教えてあげてください」

クリスさんがそう言うと、マリア嬢は険しい視線を私に向けてアゴで“話せ”と促します。

「あ、あの、えっと・・・旦那様?」

「許す」


・・・できれば許さないでほしかった。

全員が黙って私が言うのを待っているみたいなんで、仕方がありません。はぁ。


「あのお部屋は、防犯用の、その・・・捕縛室?と聞いておりますが」


実際には、あの部屋は入った人間を閉じ込める部屋、です。もちろん通常時は作動しませんが、屋敷の数箇所にあるポタンを一押しすれば、中の人物を閉じ込めることが出来るお部屋です。いうなれば逆セーフティールーム、ですね。いざという時はあそこに悪者をおびき寄せて、閉じ込めます。まあ一緒に閉じ込められた人は悪者に殺されるでしょうけどね。


「と、言うわけです。マリアあなたは最初から、招かれざる客なんですよ」


クリスさんの淡々とした声が響きます。でもいいんですかね、あの部屋のこと話しちゃって。


私の話とクリスさんの話を聞いて顔を青くしていたマリア嬢、なんだかプルプルしたあとに、今度は赤くなりました。はて?


「あ、あなたたち!わたくしをそんな部屋に通すなんてどういう事なの!恥を知りなさい!」

メイド長と執事長に対して、怒鳴りだしたマリア嬢。


「恥を知るのはお前だ、マリア」


旦那様が、いつもは聞いたことがないような低い声でそういいました。


「呼ばれてもいないのに“この屋敷”に来た時点で、お前は不審者とみなされる」

「な!なんでですの!シオン様、わたくしは使用人を咎めただけですわ!」

「何故お前が私の使用人を咎める?」

「えっ」

「私の使用人を咎める権限がお前にあるとでも?」

旦那様が・・・鼻で笑ってる・・・怖っ!

無表情か眉間に皺が標準装備の旦那様ですが、いま、鼻で笑いましたよ!さすがにマリア嬢も青ざめてます。


「マリア、お前はこの屋敷のことを何も理解していない。それでは無理だ」

「無理・・・とは?」

「そんな覚悟では、私の・・・この屋敷の女主人は務まらない。私には相応しくないんだ。」


マリア嬢、愕然としてます。まあ、そうでしょうね。


「わたくし・・・わたくしは、シオン様に相応しくなれるように、ずっと努力してまいりましたわっ」

「ほぉ、努力ねぇ。じゃあ努力の成果を見せて貰いましょうか?」

クリスさんが真っ黒に笑います。そして壁に向かって歩いていくと、壁飾りを手にして振り向きました。


「さあ、剣がいいですか?それとも槍にしますか?銃でもいいですよ?」

「な、なにを」

「シオンに相応しくなるように努力しているのでしょう?シオンの妻が戦えなくてどうします」

「た、戦う!?それは騎士や兵士の役目ではありませんか!?」

「おや、では戦術の勉強をしているんですか?軍師としての才覚があるとでも?」


マリア嬢、ポカーンとしてしまいました。そりゃそうでしょうね。お嬢様にいきなり戦えとは・・・。

「マリア、やっぱりお前、この屋敷の事を理解していないんだな」

そう言って溜息をつきながら、旦那様はこの屋敷の意味(?)をマリア嬢に話しました。


私も召喚されてしばらくした頃、聞かされたんですけどね。

このお屋敷、位置的に王都の門と王城を結んだちょうど真ん中に立っているんです。つまり敵が攻め込んできた時の、最後の砦、的な要所なんですね。代々騎士団を纏める立場の人間が住んでいるらしいのですよ。

そして、そんな要所に非戦闘員が居るわけがないんですよね。このお屋敷の皆さんは、強弱はありますが皆さん戦える人です。例えばナンシーは重力を変えられる別名『力持ちの(キー)持ち』だし、アリッサは元々騎士のお家出身で、剣術ならこの屋敷の女性で一番!ってくらいだそうです。ミシェルは騎士爵のお家出身で剣術もできますが、趣味の薬品調合で敵をノックダウン!って言ってた。っていうか、薬品調合が趣味の人にランドリーメイドって・・・良い洗剤を開発しそうです。なので、特技の何も無い私が召喚されたことに、旦那様もクリスさんも不思議がってたらしいんですけど、薙刀(なぎなた)の応用で槍を振り回したとき、旦那様に喜ばれたもんなぁ。それから玄関ホールの飾りに槍が増えたくらいですもん。



「この屋敷を落とせば、王宮を攻める足がかりになってしまう。だからこそ事前の連絡のない来客は不審者として扱う。当然のことだ」

旦那様が淡々と説明しています。説明中は黙っていたクリスさんが、ようやく口を開きました。


「そんなこと、リーデル侯爵は当然知っているはずですけどね、マリア」

「わ、わたくしは、」

「文門の筆頭侯爵家の娘で、王宮にも出入りできるあなたが、なにも知らないのは勉強不足と言うほかありませんね」

「くっ・・・」

「シオンの妻が戦うすべを持たないなど、ただの足手まといでしょう。ありえません、少なくとも私達はそう考えます」


悔しそうな顔で、うつむいていたマリア嬢が、握った拳をプルプルしながら呟きました。

「わたくしはダメで、その人ならいいと、そう言うのですか?」


はい?わたし?


「そうですね」


え?ちょっと?クリスさん?


「では、その人に勝てばいいのですね?よろしいですわっ、受けて立ちますわっ!」

ビシィ!と人差し指をさして宣言されましたけれども!?


あああああああ!また!厄介な事に!!! 

っていうか受けて立つって何!?わたし挑んでないからっ!







クリスさんの雷はおまじないで避けれたみたいです。でも厄介事には巻き込まれました。

リィナ「しまったぁ!雷よけだけじゃなく、厄除けも必要だったのか!くぅぅ」

クリス「リィナ、あとで執務室にいらっしゃい」

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