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73 嵐の前、かも?

ごめんなさい、私、本当はナンシーではないんです、とゴニョゴニョ言い訳したところ、


「あなたわたくしに嘘ついたということ!?」

「いえ、嘘をついたのはクリスさんです」

「まあ!クリス様の所為にしようとするだなんて!」

「完全にクリスさんの所為ですから!私、あのとき一言もしゃべってませんから!」

言葉の勉強を始めたばかりで、しゃべれなかったという理由でですが。


「・・・そうだったかしら?まあどうでもいいわ。それで、あなたは誰なの?」

「私はリィナと申しまして、シオン様の召喚者です」

じーっと見つめられていてすごく居心地悪いです。本当のこと言ったら帰ってくれるかしら?と思いつつ名乗ってみました。


「・・・そう、そういう事。ちょっとお話したいのだけど、わたくしと一緒に来てくださる?」

「私ここから動くなと言われていますので。」

「なら、ここでもいいわ。わたくしもウィル様に用事があるし、待たせていただくわ」


そう言ってソファへ腰掛けるグレイシアさん。・・・しょうがない、お茶でも出しますか。


「あら、ありがとう。それで?」

「はい?」

「舞踏会に出ていたのもあなたなんでしょ?」

「はぁ、そうです」

「シオン様とはどういう関係なの?」

「召喚主と召喚者ですけど」

「・・・それ以上の関係ではないのね?」

「もちろんです」

なんだか疑いの目を向けられていますが・・・


「じゃあ、シオン様はいいとして、クリス様はどうなの?」

「どうといわれても・・・上司と部下ですね。」

「ここに居るのはシオン様のご命令なの?」

「そうです。」

本当はクリスさんの命令(?)ですが、ややこしくなりそうなので黙っておきます。


「つまり、シオン様が警戒するほど狙われているってことね?」

「たぶんそうです。」

「理由は知ってる?」

「はっきりとは。召喚者になにかあると、シオン様が困るからでは?」


私がそう言うと、グレイシアさんは何やら考え込んでいます。美女が真剣な表情で考え込んでいる姿もいいもんですねぇ、などとお茶を飲みながら見物している私。


「わたくし個人としてはあなたの存在に対しては色々思うところもありますが・・・でもわたくしは騎士ですから。シオン様の召喚者に身の危険があるのなら、それを排除すべく動くべきなのでしょうね」


そう言って、なんだか深々とため息をつかれてしまいました。つまり、私のことは気に入らないけど、守ってくれるってことかな?


「わたくしが今から、この国の貴婦人たちの“暗黙の了解”を説明して差し上げます。こればかりはシオン様やクリス様でも説明しづらいでしょうからね。」

「えっと、女の争い、的なものですか?」

「そうよ」

「・・・出来れば避けて通りたいのですが」

「避けて通るために、説明してあげると言ってるのよ!いいから黙ってお聞きなさい!」



「まず、当然だけど女性の序列第一位は王妃様。第二位は王太子妃様だけど現在不在なので、実質第二位は王女様」

「王女様が第二位ではないんですか?」

「ないわね。王太子妃はゆくゆくは王妃になるのだから、王女様より序列が下になることはないわ。そして、王女様の次がシオン様の奥方、その次がクリス様の奥方と続きます」


ああ、なるほど。どちらも現在不在ということですか。


「現在、女性の王族はお二人だけですからつまり次の序列は貴族女性になるのだけど、貴族女性の中でも筆頭になるのとならないのとでは全く発言力が異なってくるのです。そして、シオン様が今後正式に臣籍に降り、公爵位にお付きになったらその奥方が貴族女性の筆頭になるわけ。つまり無条件で序列三位ですからね。どの令嬢も、それこそ目の色を変えるほどに・・・って、どうしたの?」

「いえ、なんでも。」

なんかわかった、つまり

「シオン様はそれこそ国中の令嬢から狙われているんですね。」

「そうね、お心を射止めようと必死ね。」

「私が王宮を歩くと・・・」

「とりあえず絡まれるでしょうね。まぁ今の私も似たようなものだけど。とにかく、リーデル家のマリア様があなたを敵視しているのは、そういう都合もあるのよ。」

「敵視・・・ですか。」

「何?それも聞いていないの?マリア様は以前もシオン様とお付き合いされていたご令嬢をチクチクと苛めて別れさせているから、きっと今度も同じようにしようと思ってるでしょうね。私と違って」

「私、召喚者なんですけど」

「だからよ。あなたに何かあったらシオン様の責任でしょう?保護責任を問われれば召喚禁止を言い渡されるでしょうから二度と召喚者が現れることもないし、一石二鳥なんじゃないかしら。私はやらないけど」


グレイシアさん、さっきからチラホラと自分の事伝えてきてるけど、なんだろう、何アピール?これ?

そしてチクチクって何されるんでしょうか・・・嫌味ぐらいならいいけど、これ死亡フラグだったりしないよね?


「グレイシアさん」

「なに?」

「嫌がらせされないで済む方法って、心当たりはないですか?」

「あるわよ」

おお!あるんだ!とちょっと喜んだ私にグレイシアさんが言った方法・・・それは


「シオン様と婚約してしまいなさい。」


・・・・・・無い無い。なに冗談言ってんの?と言おうと思ってグレイシアさんを見たけど・・・真顔。本気か!?

「私30代ですよ、さすがにそれはないですよ」

「年齢はこの際置いておいて、シオン様とご婚約が決まってしまえば敵視されることはなくなると思うわよ」

「じゃあ、シオン様とマリアさんでも良いじゃないですか」

「マリア様は・・・王妃様がお許しにならないもの。その点、あなたは王妃様に気に入られているみたいだし、まあ確かに年齢はかなり上だけど。」

「じゃあいっそのことグレイシアさんが立候補したらいいのでは」

「私は嫌よ。・・・王太子様かクリスさんならよろこんで婚約するけど?」

「えっと、つまりグレイシアさんはシオン様が嫌ってことですか?」

「そ、そういう意味じゃないわよ!でも、だって、私にも好みというものがあるし・・・」


つまり、シオン様は好みじゃないってことじゃん。

室内が微妙な空気になったところで、勢い良くドアが開いた。・・・と思ったら、部屋の主だった。グレイシアさんと二人きりじゃなくなって、ちょっとホッとする。


「あ、ウィルさん。おかえりなさい」

おかえりなさいと言った私を無視してグレイシアさんに詰め寄るウィルさん。

「グレイシア、ここで何をしている」

「わたくしは、リィナさんにご婚約を勧めていたのですわ。先延ばしにしても、危険が増すばかりですし」

「なんだそれ?リィナちゃん何を勧められたって?」

「えっと、マリアさんに敵視されないためにはシオン様と婚約してしまいなさい、だそうです。」


頭を抱え込むウィルさんと、少しふてくされた感じのグレイシアさん、そして現実逃避したい私。


「グレイシア・・・」

「わたくしだって、こんなこと言いたくありませんわっ!ですがこの方がシオン様の召喚者だというのでしたら、ちょうどいいじゃありませんか!」

「シオン様に女ができたからって、クリスがお前のことを好きになる事はないと思うが」

「そんなのわかりませんわ!」

ますます頭を抱えるウィルさんと、なんだか逆切れ中(?)のグレイシアさん、そして現実逃避中の私・・・そっかー、グレイシアさんはクリスさんが好きなんだねー。・・・それはそうと、そろそろお腹すいたなぁ。


「リィナちゃん、とりあえずグレイシアは無視していいから」

「はい。シオン様と婚約とかありえません。」

「だよなぁ。」

「はい。無理です」

「敵視されなくはなるが、今度は帰還出来なくなるしな」

「うわっ!最悪!」

「わたくしは一つの案を出しただけですわ!それにあなた失礼ですわよシオン様に対して“無理”だなんて!」

「いやいや、グレイシアさんの“シオン様は嫌”とか“好みじゃない”も相当ひどいですよね。それより、シオン様がマリアさんの責任をとってあげた上で、子供だけ別の人が産めばいいんじゃない?」

「あなた何をおっしゃっているの!?」

「あー、うるさい!グレイシア黙れ!リィナちゃんも、ふざけてないで!」

ふざけてないもん。

騒いでいるグレイシアさんと切れかけているウィルさんから視線を外して入口を眺めていたら、またノックなしにドアが開きました。そして入ってきたのは、


「・・・何をしているんだ?」


諸悪の根源・・・もとい、旦那様でした。






「で?何を話していたんだ?」


帰り道、答えづらい質問をされました。

旦那様が来た時点でグレイシアさんは逃げるように帰っていきました。ウィルさんも帰るらしいので、馬車置き場(?)まで一緒に向かっているところです。


「リィナ?」


質問を無視していたら、催促されました・・・むむむ。

「この国の女性の序列と、お嬢様たちの狙いと、旦那様の召喚者である私が敵視される理由などを」

「・・・そうか」

「『そうか』じゃなくて、私を巻き込まないでくださいよ」

「・・・すまないとは思っている」


思ってるだけじゃなくて行動に移してよ、社会人の基本だよ!と言いたいのをグッとこらえました。今から馬車で二人きりだし、気まずいのは嫌だものね。


そうこうしているうちに馬車置き場に付きました。2頭だての旦那様の馬車と、それとは別に1頭の馬・・・ウィルさんの馬ですか!栗毛の美人さんですね。ローラちゃんっていうんだ、かわいいー。

首のあたりをなでさせてもらうと、プイっとそっぽ向かれました。でも嫌がったりしていないのでツンデレ属性の女の()なのかもしれません。

「ウィルさん馬に乗れるんですねー、いいなー」

「騎士団長が馬に乗れないとかありえないから。」

そりゃそうですよね。


「旦那様も乗れるんですか?」

「もちろん。それにダリアも乗れるぞ。リィナ、馬に乗りたいのか?」

「乗ってみたいです・・・私でも乗れるようになりますかね?」

「練習次第だな。今度連れて行ってやろう」

「え、結構です。旦那様お忙しいですよね。迷惑かけてまで乗りたいわけじゃないし」


忙しい旦那様にそんなお手間をかけさせては・・・と、即座に断ったところ、旦那様の眉間に深い皺が。


「・・・リィナちゃん、そこは有難く教えてもらいなよ」

なんだか苦笑いのウィルさんにそう言われました。

「そうですか?でも私、本当に一度も乗ったことないんですよ?初心者中の初心者ですよ?」

「じゃあ、俺がいま乗せて帰ってやろうか?」

「え!本当!・・・あー、でもウィルさんと2人乗りですかぁ?」

「なんだ不服そうだな。シオン様は無理だぞ、スーツなんだから」

「ウィル、お前もう帰れ。リィナ、馬は今度な」

ウィルさんは少し不機嫌な旦那様に追い返されました。


そんなわけで、今度馬に乗せてもらえるようです。



そしてウィルさんと王宮で別れ、旦那様と馬車で帰ってきたのですが・・・


「・・・馬車、ですね」

「・・・」

「私、また裏口から入ったほうがいいですか?」

「・・・」


なにやら考え中の旦那様・・・


考え中・・・考え中・・・考え中

というテロップが出てきそうな程、分かりやすい考え中の旦那様です。

ん?終わった?


「リィナ、一緒に正面から入るぞ」

そう言って先に馬車を降り、私に手を差し伸べる旦那様。



ああ、嵐の予感











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