71 悪意?
夜が明けました。朝だー。夜勤明けなので眠いです。
「アリッサ、もう朝だよ?明るくなったよ?」
「ん・・・えっ!!ゴメン私寝てた!?」
「でも1時間位よ。」
「うわっ、ごめん~。」
「平気よ、何も無かったし。それにアリッサがいま結婚式の準備で色々忙しいってわかってるし」
「・・・ありがとう。」
「お式、楽しみにしてますね」
アリッサの結婚式は今年の終わり。アリッサはそれまでに退職することが決まっています。
さみしくなるなぁ。
「私の欠員補充は、領地からベテランメイドが来るっていうから、引継ぎが無いぶん楽なんだよね」
「ベテランさんが来るんですね。優しい人だといいなぁ」
そんな話をしながら仕事の終了時間まで、待機室の片付けをしていたのですが・・・
「ちょっと、よろしくて?」
ノックも無しにいきなりドアが開き、話しかけられました。後ろを振り向いた私の目に映った、キラキラの金髪と榛色の瞳の・・・
「「王妃様!?」」
なんで王妃様がこんなところに・・・?
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「何しにいらっしゃったんですか、母上」
「母が来たからといって、そんなにあからさまに嫌がるものではないわ、シオン」
「・・・嫌がってません」
「そういう態度は子供っぽいわよ」
「っ!」
「クリス、お茶のお替りをくれる?」
「はい。」
「あなたもお茶を入れるのばかり上手になってるわねぇ。」
「・・・嫌なら飲まないでください」
「嫌だなんて言ってないわ。ねぇ、リィナ」
なぜ私に話を振るんですか!?
家族喧嘩とは言い難い微妙な空気の中、私はいま食堂にいます。
主に、王妃様が旦那様とクリスさんに話しかけて、態度の悪い二人が答えるという・・・居心地悪いっ。
唯一の救いはキーラさんが隣に居てくれることです。
「・・・本当に、何しにきたんですか?」
「建前は息子の顔を見に、よ。」
「じゃあ本音が別にあるんですね?」
「そうよ。あなたのことだから、マリアを追い返せなくて困ってるんじゃないかと思って」
「っ!母上」
マリア?うーん、どこかで聞いた名前ですね・・・あ、そうか!この前、裏口に居たお嬢様かな。
追い返す?お嬢様を?
「ねぇ、リィナ」
「え?は、はい?」
しまった、王妃様の話を聞いてなかった。
「リィナもそう思うわよね?」
「え、えっと・・・」
適当に答えるとまずい気がする、確実にまずい気がする!
私が答えるのを興味深々で待っている感じの旦那様とクリスさんですが・・・
「すみません、何のお話でしたでしょうか」
うううっ、上司に“話聞いてませんでした”って自己申告するのは評価が下がりますかね?
そんな私の気持ちを汲んでくれることもなく、王妃様は質問をしてきました。
「聞いてなかったのなら質問を変えましょうか。据え膳を断れない男と、気に入った女をどんな手使っても手に入れる男、どう思う?」
「は?え?どう?とは・・・えーっと、どっちも嫌です」
「そうよねぇ、私もよ。じゃあ、据え膳を断れない男だと知っていて迫る女と、退路を立たれてしまって逃げ出せない女、どっちがまし?」
「・・・どっちも、嫌です」
なんの二択なんでしょう?
男の方はなんとなくわかりますよ、旦那様とクリスさんかなって。断れないって、どんだけヘタレですか旦那様?どんな手を使ってもって、だから鬼畜とか言われるんですよクリスさん?
女の方は何?旦那様、迫られて困ってるんですか?逃げ出せない女って・・・あれ?クリスさんにそんな女性がいるとは思えないですね、そもそもクリスさんのことではないのかしら?わからん。
「そうよねぇ。本当、なんでこんな息子ばかりなのかしら」
あのー、王妃様?その息子さんが睨んでおりますよ?
「私は、こんなふうに育てた覚えはないのにねぇ・・・クリスの真似ばかりして。」
「聞き捨てならないですね、私はヘタレでもヤンデレでもありませんよ」
んん?クリスさんの真似?ってことはやっぱりクリスさんの事ではないんですね、とすると?息子ってことはひょっとしてユーリ殿下がヤンデレ?あのニコニコ笑顔でヤンデレ・・・怖っ!!
「さて、そろそろいいかしらね。キーラ、マリアを連れてきなさい」
「はい、王妃様」
あー、やっぱり昨夜のお客様が、マリアさんみたいですね。気まずいので、戻っていいですか?ダメですか、そうですか。はぁ。
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「まあ王妃様。おはようございます」
「おはようマリア。朝食は?」
「お部屋でいただきましたわ」
「そう、なら私の馬車で王宮まで送るわ。乗っていきなさい」
「・・・ですがわたくし」
「筆頭侯爵家の娘が、男の家に何泊もするものではないわ、わきまえなさい」
「・・・はい」
王妃様に怒られて、しょんぼりした風情のお嬢様・・・
「それに何度も言うようだけど、わたくしはあなたがシオンの側に侍る事は認めていないの」
「・・・」
しょんぼりプラス悔しそうな風情のお嬢様・・・
「そういえば、紹介がまだだったかしら?リィナ、彼女はリーデル侯爵家のマリアよ。マリア、こちらはリィナ。シオンの召喚者よ」
えー、このタイミングで紹介されるんですかぁ?とりあえずメイド仕様のお辞儀でいいかしら。
お辞儀を終えて顔を上げてみると、なんだかお嬢様の視線が冷たいです。というか、完全に睨まれてますけど、なんで?
そのあと、王妃様とお嬢様が帰るまで、なんだか居心地が悪かったです。
「リィナ、お疲れ様。」
やっと仕事が終わり、クリスさんが労ってくれました。王妃様のせいで時間超過したので、残業代はつきますけど!
「クリスさん、あのお嬢様は」
「シオンの伽役ですよ」
「ですか。」
やっぱり、昨夜のお客様だったようです。
「正直、王妃が迎えに来てくれて助かりました。これ以上居座られるとさすがにストレスが溜まって・・・」
「居座るって、ひょっとして」
「私たちが裏口から帰った日から、ずっと滞在していたんですよ、彼女」
そうだったんですかぁ。気づかなかった。そりゃそうか、私はお客様に接する仕事はしてないしね。
たぶん、あの態度からすると、お嬢様は旦那様のことが好きなんだろうなぁ。でも王妃様は認めていないらしい。旦那様自身はどうなんだろう。
「アレも可哀想な娘ではあるんですが・・・王妃の言うとおり、シオンの妻にするわけにはいかないのでね」
「そうなんですか?お似合いに見えますけど?何か問題でも?」
私がそう言うと、クリスさんは少し困った顔で笑って言いました。
「私の口からは・・・ナンシーに聞いて御覧なさい」
ということなので――
「ってことなんですが」
「・・・私に振るんだ、クリスさん」
ナンシーさんは、険しいお顔で頭を抱えています。
「話づらかったらいいんですけど、なんで私が睨まれるのかがわからないと、気持ち悪いなーと思って」
そうなのです、正直、旦那様の恋愛事情だの枕事情だの嫁事情だのはどうでもいいんですよ。理解不能な悪意をぶつけられるのが気持ち悪いだけで、そこだけ教えて貰えればそれでもいいんですけど。
正直にそう言ったところ、ナンシーさんは溜息を一つつき、話し始めました。
「あの子はね、生まれつき、子供が出来ない躰なの」
ああ、なんか重い話になる予感が・・・聞かなきゃ良かったかも?
重い話は次話。
アリッサの結婚退職時期を変更しました。




