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70 ありふれた日常、のばず?

「ご無沙汰しておりますわ、クリス様」

裏口から入った私とクリスさんは、見知らぬご令嬢の出迎えを受けました。誰?

「ミア・・・どうしてここに?」

「お父様はシオン様とお話があるそうなので、私はこのお屋敷の探検をしておりましたの」

そう言って口元に手を添えて“うふふっ”と笑うお嬢様。年齢は10代後半か20代前半かしら?見た目はとても可愛らしくお淑やか、避暑地で白いパラソルを差してお散歩していそうな・・・要するに日本人の私からみて、ステレオタイプのお嬢様。

「ここは使用人専用の区域です。他家の者が軽々しく入る場所では、」

「ごめんなさいね、つい。」

うぉっ!悪いとはこれっぽっちも思ってない『ごめんなさい』ですね。しかも『怒られてしまいましたわぁ』とかつぶやいてるし。これは身分的に我侭を言っても押し通せると思ってる態度です。・・・学生時代のクラスメイトにも居たなぁ、こういう子。大抵、社会に出てそれじゃあダメだと気づくんだけどね。ただ就職先も縁故入社だとそのまま気づかない場合もあるので厄介なのですよね。

「マリア様!こんなところに!」

しばらくにらみ合っていたクリスさんと彼女(というか、にらんでいるクリスさん&感情がわからない類の笑顔を貼り付けている彼女)でしたが、とつぜんのキーラさんの乱入で一時休戦のようです。キーラさんの声が聞こえたとたん一瞬怖い顔しましたよ、この子。

「さ、応接室へお戻りください」

「あぁ、見つかっちゃいましたわ。ではクリス様ごきげんよう。そうそう今度、そちらの女性を紹介してくださいましね?」


そう言ってニコニコ笑って立ち去っていくミアさん改めマリアさん。私を一瞥して立ち去っていきます・・・私を見る目が笑ってなかった、怖っ!


「クリスさん、彼女は怖い人なんですか?」

「・・・リィナは、彼女には近寄らないでください」


そりぁ、それで済めばいいんですけど?




****************************




翌日は、異世界カフェで王宮組のみんなと合流!

「リィナ、今日はお仕事はお休み?」

「はい、有給たくさんいただいたので、今年はたくさん休みを取ります!」

「そう、いいわねぇ。私は王妃様が王宮にいらっしゃるから、なかなかお休みが取れなくて。」

「セリーヌも大変ですねぇ」

「リィナ、その有給たくさんっていうのは、この前言ってた舞踏会のお詫び?」

パオロさんがストローを口にくわえながらそう聞いてきます。お行儀悪いですよ!

「はい、精神的ダメージが大きかったので」


王宮組のみんなは、私の舞踏会参加とその後の噂を知っています。もちろん、真相も含めてです。

「災難だったね、リィナ」

タクトさんが労ってくれます。が、

「私よりも、タクトさんの方がよっぽど・・・」

タクトさんは王太子殿下の命令で、ここ2ヶ月近くも国境付近まで行っていたそうなのです。

「そうだねー、タクトは本当によくやってるよ。あの王太子、本当に大丈夫なのか?」

「殿下には何か考えがあるらしいんだけど、それを誰にも話していないみたいで、誰にも目的がわからないんだ」

「あー、うちの旦那様もそうですよ。指示は出すけどそこに至るまでの考えや目的は話さないですね。何に使うのかわからない資料を延々と作らされて挙句に作り直しとか、ざらです。」

「王妃様もよ。こうなるともう、王族特有の考え方なのかしらねぇ」

「迷惑ですよね!」

「迷惑だな」

「迷惑よねぇ」

「えーっと、大変だね。召喚庁は役人が多いから、仕事はしやすいかな。貴族の派閥争いは鬱陶しいけどね」


結局、王宮組の給料が高いのは、こういう苦労があるからなのかもしれません。




「シオン様の領地?」

「はい。セリーヌもお休みがとれたら一緒に行きませんか?」

「いいわねぇ。侍女頭様に聞いてみるわね」

「パオロさんとタクトさんも、どうですか?」

「うーん実は俺、今年は彼女と旅行する約束で、長期休暇はそこで使うんだよね」

「え!?パオロお前いつの間に」

「いつの間にって、そりゃあタクトが国境まで行ってる間にぃ~。」


パオロさん、ところ変わってもイタリア人ですねぇ。


「パオロ、あなたどこで知り合ってるの?」

「んー、街で声をかけたんだよ。だってきれいな女の人には声をかけるのが礼儀じゃないか!」


・・・イタリア人ですねぇ。


異世界(こちら)に来てから何人目の彼女だっけ?」

「5人目、かな?」


えっと・・・


「一時期2人同時に付き合ってたよな、お前?」

「うん、だって二人とも俺が好きだって言うからサー」

「あなたそのうち刺されるわよ」

「大丈夫、別れる時はいつも俺が振られるようにしてるから~」


・・・全部撤回します!イタリア人だからじゃありません!パオロさんが特殊だからです!


「えっと旅行ですが、タクトさんどうします?お休み取れそうですか?」

「確認してみるよ。それより領地の視察なんだろ?俺やセリーヌまで一緒でいいのか?」

「はい。旦那様としても私だけ連れて行くと仕事を頼んでしまいそうなので、ぜひ来てほしいそうですよ」

「・・・変な理由ねぇ」


そう言われるとそうですね。あー、ひょっとしてこれも目的は別にあるのかなぁ。

どうやら、みんなそれに思い至ったみたいで、苦笑い。


結局、後日セリーヌとタクトさんの参加が決まりました。一人置いていかれるパオロさんが拗ねていたのがウザかったです。彼女と遊んでいればっ!




*****************:




異世界カフェの翌日は、夜勤。


じつは夜勤はまだ3回目です。

旦那様の仕事を手伝うことが多い私は、あまり夜勤を割り振られないのですが、それでも経験しておかないとね!ってことだそうです。

そして・・・今回の夜勤は、今までとちょっと違います。


「今日は“お客様”が来ているから、手順を説明するわね」

本日の夜勤の先生(ペア)はアリッサです。

通常の夜勤は、旦那様も他の使用人も寝静まっていますので、基本は起きてればOKということで本を読んだりお茶しながらおしゃべりしたり。ちなみに音楽を聴くのは禁止です、不振な物音が聞こえなかったら困りますからね。あと旦那様が徹夜でお仕事の時にお茶や軽食を所望されるくらいだそうです。


そして本日。アリッサの言う“お客様”とは・・・つまり、旦那様の夜のお相手の女性です。

使用人は基本、“お客様”の前には姿を出さないことになっています。ので、

「旦那様のお部屋にお通しした場合はお帰りになるまで呼ばれない場合もあるけど、今日は客間にお通ししているから、恐らく片付けに呼ばれると思うの」

「えっと、呼ばれるのは旦那様に?」

「うん。客間にお通しするってことは、旦那様は自分の部屋に戻るってことだからね。お客様が朝まで滞在されるとしたら、シーツをそのままには出来ないの」

「なるほど。シーツ交換に呼ばれるんですねー。」

「そう。注意点としては、必要なことをすばやく!必要な言葉以外はしゃべらない!ってことかな」

「なるほど。確かに気まずいもんね」

「そうね。まあ旦那様も心得ているからこちらは見向きもしないし、大抵の場合はソファーで読書とかしてるから、置物だとでも思っていればいいのよ。じゃあ手順を説明するから、そのあと分担を決めておこうか」


手順と分担はこうなりました。

まず、入室後、二人でベットに新しいシーツを張る。(使用済みのシーツは入室前に旦那様が外してあるらしい。)

次に、アリッサはゴミの回収とベッド周りをチェック、私は外してあるシーツの回収。

そして、すばやく部屋を出る。以上です。特に難しいことは何も無くてよかった。



そして、夜半すぎ―――



チリンチリン♪という音が、どこからともなく聞こえてきました―――へぇ、これスピーカーなんですか。

私とアリッサは急いで客室に向かいます。廊下は絨毯なので、多少の早足なら音は立ちません。


コンコンコン


「失礼いたします」


ノックも挨拶もアリッサがしてくれました。

そして打ち合わせどおり、ソファーに居る旦那様には一切目を向けず、二人で手早くシーツを張り、私は少し離れたところに置いてある使用済みシーツが入っている通称“危険物袋”を回収。ここで気づきました、どうやらお客様はパスルームに居るようですね、シャワーの音がします。

さあ、退出!と思ったその時、アリッサに小声で声をかけられました。

「リィナ、窓を閉めてくれる?」


現在の私の立ち居地から近い所にある窓が開いています。きっと旦那様が開けたんでしょうね。

急いで窓を閉めてると、


バサッ

「リィ・・・」


と、後ろで物音と声が・・・窓を閉め終わり振り替えるとそこには。


ソファーからこっちを見ている、驚いた表情の旦那様が。

あー、バサッって音は本を落としたんですね。


えーっと、目が合ってしまったけど、挨拶したほうがいいのかしら、それともアリッサが言っていたように置物だと思って無視?

旦那様の視線が私の手元に移り・・・固まってます。危険物袋を見ているんでしょうね、うーん固まる気持ちはわかるけど。でも私、普段早番のときに片付けてますよ、これ(・・)


そのとき、バスルームからシャワー音が消えました。まずい!

「リィナ急いで!旦那様、失礼いたします」


待ってアリッサ!

私も急いでドアに向かい、お辞儀だけして退出しました。ふぅーあぶない、もうすこしでお客様が出てきてしまうところでしたね。


「・・・はぁ、びっくりしました。間に合ってよかった。」

「うん。びっくりしたね、あんな旦那様。」


んん?

どうやら“びっくり”の種類が私とアリッサでは違うようだと気づきましたが・・・そこはあえて触れないことにしました。厄介ごとはゴメンです。














「フラグは絶対に立てない!」

「???リィナ、フラグってなに?」

「なんでもないよ、アリッサ」

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