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69 騒がしい日常

舞踏会から2ヶ月程経ちました。


「おやシオン様。ご無沙汰しております。」

「ああ」

ここは王宮の図書館。私は旦那様の荷物持ちです。キャスター付きの台車を押して旦那様の後を付いてまわるだけですけどね。

旦那様が移動するたびに貴族と思われる紳士が声をかけてきます。

そして・・・


「そういえば、シオン様。後ろの女性が噂の召喚者ですか?」

その貴族達は、みんなニヤニヤしながらそう言ってきます。

「そうだが?」

「そうですか、それはそれは。色々な噂が出回っておりましたけど、所詮『噂は噂』ということですなぁ」


色々な噂――

それは、王子様にお気に入りの女性が出来たという噂ですか?

それとも、そのお気に入りの女性は召喚者らしいという噂ですか?

それとも、こちらの世界の女性に興味が沸かなかった王子様が、とうとう自分好みの女性を召喚してしまったという噂ですか?

それとも、召喚しては見たものの、うっかり年齢指定をし忘れてたという噂ですか?

それとも、その三十路女の召喚者はおねだりして若返った挙句、慣れないハイヒールで転んで、王子様に支えてもらったという噂ですか?


・・・だから王宮に来るの、イヤだったのよ。


貴族のオジサンは『はっはっはっ』と笑いながら行ってしまいましたが、何か面白いですか!?失礼な!

ちなみに今のオジサンで、本日3人目です。みんな笑いながら立ち去っていきます。失礼な!

だぶん、『お気に入りの女性っていうからどんな女性かと思ったら10歳も年上の異世界人かよ。ぷぷっ』とか『さすがに10歳年上は無いでしょう、見た目からして王子様とは釣り合わないわー、ぷぷっ』とか『いやー、この女性だったらウチの娘の方が王子様のお気に召すでしょう、クククッ』とか、そんなことだと思いますけどね。だって悪意ある視線というよりは、蔑みの視線を感じますもの、ケッ。


「・・・」

「・・・」

オヤジが立ち去った後お互い、無言です。旦那様的には私に対して気まずいとか申し訳ないとかなんでしょうけど、私はもう疲れました。今日一日でどれだけの精神的ダメージが蓄積されたことか!


「リィナ」

「はい」

「戻るぞ」


はーい。―――――ハァやれやれ。



******************************************



「ただいま戻りました、クリスさん」

「お帰りなさい。お疲れ様、リィナ」

「はい、疲れましたぁ」


図書館から帰ってきて、持ち出した本を旦那様の書斎の本棚に並べます。クリスさんが手伝ってくれました。一応、労ってくれてるのかな。

あの舞踏会の件以降、旦那様の周辺で変化がありました。どんな変化があったのかというと・・・一言でいうと、お客様が多いんです。今も執務室に戻るのを待ち構えていたお客様が居まして。


「シオン様におかれましては、ご機嫌うるわ」

「前置きは必要ない。用件はなんだ」

このお客様はどこかの伯爵様です。執務室に突然来た事に旦那様のご機嫌は全く麗しくありません。応接にも通さないで立たせたまま話をしています。

ちなみに、執務室に突撃してきたお客様は、本日5組目です。


「いえ、急ぐ用件ではないのですが、本日はご挨拶にうかが、」

「用が無いのなら退出願おうか。生憎仕事が立て込んでいるんだ。」

そう言ったきり、旦那様は書類に目を通し始めます。伯爵様は焦ったようで

「い、いえ!本日は是非お目通り願いたい者を同行しておりまして」

「それは誰だ?」

「実は私の娘の、」

「会う必要を感じないな。クリス、オルコット伯爵がお帰りだ。」

「!シ、シオン様!お待ちくださ、」

クリスさんが笑顔で伯爵様を追い出しています・・・笑顔が怖いってば。


バタン

扉が閉まった後、シーンと静まり返った室内。執務机に肘を付き、頭を支えてため息をつく旦那様。そうなのです!ここ2ヶ月、旦那様に女性を紹介しようとする貴族が殺到中!

私は・・・なんとなく旦那様を見る目が生暖かくなってしまいますね。クリスさんなんか、あからさまに呆れた目で見てますしね。

「・・・なんなんだ、一体」

旦那様がポソっとつぶやきます。何なんだって、そりぁ

「「求婚者、だろうな(でしょうね)」」

クリスさんとハモリました。まあ、自分の娘を売り込みに来たのか、それとも娘が『私シオン様がいい!』とでも言って、父親にお願いしたのか・・・

「きっと後者だな。あの時の笑顔はハンパなかったし。」

「何がですかリィナ?」

「娘を売り込みに来ているというよりは、舞踏会で旦那様のあの笑顔を見たご令嬢方が、旦那様の獲得に力を入れだしたのだろうと思いまして。」

「・・・なるほど。自分に微笑まれた訳でもないのに、迷惑なことですね」

「いや、むしろ『私に微笑んでほしい!』っていう欲を駆り立ててしまったのでは?」

「それで?」

「はい?」

「微笑まれた本人は、何とも無いんですか?」

クリスさんが楽しそうにそう聞いてきます。

「何とも無いですねぇ。まあ、確かにあの場では少し動揺しましたけど私あの時17歳だったかららしいですし。元に戻ったら別にどうってこと、」

「もういい。黙っててくれ二人とも」


旦那様は更に疲れたようにため息をつきました。

そうなのです、あの日は確かにクリスさんよりも旦那様の方が格好良く見えたと思ったんですが、元の年齢に戻ってみるとあら不思議!旦那様は若い男の子が頑張って背伸びしてるなー的に見え、クリスさんの方は相変わらずの大人なイケメン振りに見え―――なんとも不思議な感じですね、どちらも私なのに。ナンシーの話では、陛下の『(キー)』は思考まで若返ってしまうので、17歳の私から見ると31歳は恋愛対象外なのだろうという話でした。確かに、17歳の時に31歳の男性と付き合いたいとか思ったことないですね。年上好きの友達がいたとしても31歳と付き合ってたら『ジジ専か!』と思ってしまったでしょう。自分が31歳になったら、ちっとも年寄りではないと思いますが、若い頃は1歳差ですら大きいと思ってしまいますもんね、よくわかります。というか、ナンシーさんも、陛下に若返らされた事があるんですかね?

ちなみに、いくら格好いいからといってクリスさんに惚れたりはしません。だって鬼畜と呼ばれるような人ですよ、無い無い。それに職場恋愛は若い頃にひどい目に合ってますしね。


「そういえばナンシーさんが言っていたんですが、陛下の『(キー)』は、秘密なんですか?」

「陛下だけではありませんよ、基本的に王族の『(キー)』は公表されません」

「ナンシーは知ってましたけど?」

「・・・あの兄妹は特殊なんです。」


へぇー、そうなんですね。


「だからリィナも、不用意に口に出さないように気をつけてくださいね」

「はい、わかりました」


なんか色々事情があるようですね。そういえば旦那様とクリスさんの『(キー)』もどんなものか教えて貰ってないですもんね。これも詮索禁止事項なんでしょうね。

結局この日は旦那様の調子がイマイチだったため、お仕事が夜まで続いたのでした。

え?私は時間外勤務だろうって?そうですよ、でも王宮のご飯をご馳走になりました。デザート付きです。もぐもぐ。




お仕事を終えて、お屋敷に戻ります。もう11時近いですからね、街も静かです。

馬車の中で、聞きなれないことを言われました。

「領地、ですか?」

「ええ。再来月からシオンが領地に向かいます。なので、それまでに終わらせておく仕事が沢山あるんですよ」


そうでしたか。クリスさんによると、旦那様は1年のうち数ヶ月間は領地に行くそうです。本来、領主は領地に住むらしいんですけど、王宮で仕事を持っている貴族は王都に住むのですって。なるほどね。


「日程が決まったら教えますので、リィナも準備しておいて下さいね」

「は?」

「リィナにも一緒に行ってもらいますので」

「え!初耳ですけど!」

「いえ、ちゃんと言いましたよ?“旅行に行ってみるのはいかがですか”とね」


クリスさんが黒い笑顔でそういいます。ちょっと待って!

「それって、休暇がもらえるって話でしたよね!旦那様と領地に行くなんて完全に仕事じゃないですか!」

「おや、休暇ですよ。メイドの仕事は必要ありません。」

「いやいやいや、上司の出張に休暇中の部下が付いていくって、おかしいですから!」

「そうですか?一緒に行くならもちろん旅費はこちらで出しますよ?それにシオンと一緒なら安全ですよ。」


うっ、そういわれると。


「去年はリィナが召喚されたばかりで召喚者が側を離れるのは良くないだろうと思い領地へは行かなかったんですよ。そもそも召喚者がいるという事自体を隠していましたからね、領民の中にはシオンが来ないことを不満に思う者もいたそうなので・・・今年は一緒に行ってください。」


脅迫!?


有無を言わせぬ物言いをするクリスさんに、そう思ってしまった私は・・・悪くない、はず。





お屋敷に着くと、馬車が一台止まっていました。

「お客様ですか?」

「そうですね」


お屋敷の正面に馬車が止まり、さっきからずっと無言だった旦那様が降ります。

「クリス」

「ええ、心得てますよ。リィナ、私達は裏口から入りましょう」

旦那様は一瞬だけ私を見てからそのままお屋敷に入っていきます。


あ、そっか。普通はメイドが正面玄関から屋敷に入ることはないんでしたっけ。私は召喚者ということで、結構自由にさせてもらってるんで、つい忘れてしまうんですよね、危ない危ない。


でもクリスさんまで裏口にまわる必要があったのかしら?などと、ぼんやり思っていたのですが、本当は、このお客様と私を会わせない為だったと知るのは、数日先のことでした。









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