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67 新しいお仕事?

昨日の舞踏会から一夜明け。

朝……というか、まだ夜も明け着る前にクリスさんが陛下のお部屋に突撃し、元の年齢に戻してもらいました。

「クリス君……いくらなんでもこんな朝早くに」

「一体、誰の所為でこんなことになったと思っていらっしゃるんですか?」

「んー、王妃だね王妃。あとシオン。あの二人にはきつく言っておかなきゃね」


まあ、王様の言い分も間違いじゃないですけどね、庇ったりしないんだなーと。王様はクリスさん以上に厳しい人とみた。


そして姿を戻してもらった後、無事にお屋敷に戻ってきました。ちなみに、今日は遅番シフトで勤務です。

遅番シフトは午後2時から。遅番の勤務は、早番の勤務と違ってひたすら掃除をするということはありません。でも広いお屋敷ですので、人目につかない場所の掃除は、午後からやります。人目につく場所は朝のうちに終わらせないといけないので、早番はひたすら掃除なんですね。


今日は、お客様が来るそうで先輩メイドさんたちは準備に取り掛かっています。

私は、普段は使用していない客室のシーツ交換を言い付かりました。お客様が宿泊するかどうか不明だから、念のためですって。

換えのシーツと掃除道具をワゴンに積んでいると、早番メイドの皆さんの仕事がちょうど終わったようで、反対側から歩いてくるのが見えます。

挨拶をして「おつかれさまー」「がんばってねー」などと激励(?)されながらすれ違った後、会話が聞こえてきました。


「そういえばさぁ、聞いた?旦那様の噂」

屋敷(ウチ)も奥様を迎える準備、するのかしら」

「えー、でもまたすぐお別れするかもしれないじゃない?」


だんなさまのうわさ?

奥様?

すぐにお別れ?


・・・旦那様、ご結婚されるんですかね?まだ21歳でしたよね、やっぱり王族とかって結婚年齢が低いんですかねぇ。


シーツ交換は、2人でやったほうが早いんですけど、1人でもやりようはあります。

2人でピシッと張れた時よりも、1人で出来た時の達成感の方が大きかったりしますね、うん。


―――――結婚かぁ。旦那様の結婚はとてもお目出度いですけどね。この歳まで結婚出来なかった身としては、あまりに若い人の結婚は・・・いやいや、べつに羨ましいとかは思ってないけどさ。なんというか、ねぇ。


シーツを交換した後は、部屋の埃をとって、絨毯をコロコロして、棚や机などの埃をとって・・・最後に全体を眺めてチェック。よし大丈夫。窓を閉めておしまいです。


―――――この歳まで結婚してないと、職場で若い子とかが無邪気に聞いてくるんだよねー、「なんで結婚しなかったんですかー?」って。つーか、何で結婚しなかったって、そんなのわかってたら結婚できてると思う。なんでか分からないけど結婚できなかったんですよ、私は。


5部屋のシーツ交換と清掃をしてから部屋に戻って、午後用のメイド服に着替えます。そう、まさに“ザ・メイド服”を着るのです。

黒のロングワンピースに白いエプロン、そしてヘッドドレス。これぞメイドって感じの服装です。


―――――うん、呪いだ、きっと呪いだ。あの人が5年後に迎えに来るとか言ったから。待ってるつもりは無かったんだけど、きっとあの時呪いを掛けられたんだ。だってあの人以降に付き合った人たちとは、結婚って話まで行かなかったんだもの。そりぁ、気に入らない部分を多少無理すれば結婚できたかもしれないけどさ、でもずっと無理し続けるって、それこそ無理だと思ったんだもの。


「なに唸ってるの、リィナ」

「ぅうーっ、ナンシーさんっ」

「なっ、何?」

「やっぱり、無理してでも結婚ってすべきですかね?」

「は?」


ナンシーは目をパチパチしてキョトンとしてます。突然こんなこと聞かれても困りますよね、そうですよね。いやなんかごめんなさい。ちょっと思考が卑屈な感じでぐるぐると・・・


着替え終わった私とナンシーは、お茶の準備をしてクリスさんの執務室へ向かいます。ちょうど午後5時、お茶の時間です。旦那様達は夕食が夜9時くらいなので、この位の時間にお茶と軽食を用意するんです。アフタヌーンティーですね。


ノックをすると「どうぞ」という声。

「失礼します」

「お茶をお持ちしました」


「ああ、そんな時間でしたか。」

「ええ、そんな時間ですよ」

「お呼びと聞いたので、二人でお茶を持ってきたんですけど」

「ありがとう、お茶は私が。二人はそこに掛けてください」


わーい、クリスさんのお茶だー!

ナンシーと二人でうふふっと笑ってソファに腰掛けます。


慣れた手つきでお茶を入れるクリスさん。今日はフルーツティーです。グレープフルーツのような柑橘系の香りは、気分を落ち着かせる作用があるとかないとか。出されたお茶を一口飲んだところで、クリスさんがおもむろに話し始めました。


「二人とも昨日はおつかれさまでした。さて、シオンの仕出かした事についての対策を話したいのですが、」

対策?対策って?

「旦那様が何かしたんですか?」

「リィナあなた・・・そっか、何をされたか分かってないのね?」

「ナンシー?」

はぁーやれやれ、といったように溜息をつくナンシーさん。なぜ?

「・・・なるほど。確かに当事者からは見えないものかもしれませんね。記録映像でも見ますか?」

「そんなものあるんですか!?」

「おやナンシー、知りませんでしたか?王宮での催しはすべて防犯上の理由で記録がとられるんですよ。」


そう言ってクリスさんは壁を操作し始めて・・・この壁も収納式のスクリーンだったんですか。知りませんでした。



そして流された映像は、2曲目から踊り始めて、きれいになれると聞いてウキウキな私と、にこやかに踊る旦那様。

そして3曲目。だまされた事に気づき再緊張中の私と、旦那様。

そして踊り終わって、礼をして。


そして、なぜか引き寄せられて・・・


「はぁ!!!!なっ、何してっ!?」


頭にキスしました!?何故!?

そこからはクリスさん登場で私を担いで連れ去り、旦那様が追いかけて・・・


「これが、一連の問題行動です」


そりゃ、問題だわ。




**********************************



「現在、王宮内では二つの噂があります」

はぁ。

「一つはシオン王子婚約&結婚説、もう一つは三角関係説」

へぇ。

「現実逃避はやめなさいリィナ。両方ともシオンの相手はリィナです」

「なんでそんなことになってるんですかぁ」

「「あんな、噂好きの貴族ばかりの場所で、抱きよせて口付けなどするから」」

二人に同時に言われました。

「私の所為じゃないです!」

「もちろんです。私もいい迷惑です」

「プッ、三角関係ってねぇ。まあ確かにあそこで追いかけたら、ねぇ。」

ナンシーが可笑しそうに言います。

「とにかく、噂の沈静化と今後の対策を立てなくてはなりません。ナンシー、」

「了解です。どんな噂を流しますか?」

「リィナの身分を、公表しようと思います。つまりシオンに召喚者が居ることを、公にします」

「・・・またずいぶんと思い切ったことしますね」

「ええ、そのかわり・・・リィナ、お腹がすいてるんですか?」

「・・・(もぐもぐ)」

「クリスさん、リィナは自分の分からない話はスルーする癖があるようなので、あとで結論を教えればいいと思いますよ?」


さすがナンシー、良く分かってるね。もぐもぐ。



「つまり、今まで私は王宮内限定でしか認識されていなかったけれど、それを公にすると」

「そうです」

「そして、昨日は召喚者(わたし)にせがまれた旦那様が、舞踏会に連れて行った、と?」

「そうです」

「それで噂はなくなるんですか?」

「それだけでは無理ですね。」

「じゃあ・・・」

「“あれ”は、慣れないドレスとヒールによろけたリィナをシオンが支えた時の、ちょっとしたハプニングということになりました。ですから、口付けたとかは目の錯覚です。」

「・・・はい?」

「ですから、リィナはよろけたんです。」

「・・・映像では、完全に引き寄せられてますけど」

「王宮の映像は防犯の為、騎士団で保管することになっていますが、どうやらその映像は後日紛失したらしいのです」

「は?」

「管理がなってませんねぇ。担当者に始末書を書かせないと」

つまり、証拠は隠滅するってことですか?

ニコニコと笑顔で説明してくれるクリスさん・・・逆らえる雰囲気じゃないのですが、ここはあえて言わせて貰います。

「あの程度のヒールじゃよろけませんから!」

「じゃあ、裾を踏んでしまったんですね」

「踏んで無い!」

「いいえ、踏んだんです。リィナは裾を踏んで、よろけたんです!」


!!言い切られた――――


「舞踏会に初めて参加した召喚者が、慣れないヒールでドレスの裾を踏んで、よろけた所をシオンが支えたんです。い・い・で・す・ね?」


寒い。

なんか、寒い。

これ以上反論したら凍死しそう――――


固まっていたら、クリスさんが恐ろしい笑顔で、再度確認してきました。

「いいですね?」

「・・・はい。」


それ意外、私に選択できる台詞は、ありませんでした。




***********************************



「さて、ナンシー。広めといて下さいね」

「・・・わかりました」

うううっ、なんかすごくおバカな日本人として認識されそうですよ、私。

日本人全体の印象が悪くなったりしないでしょうか、うううっ。

ナンシーさんがチラチラとこちらを気にしてくれていますが、クリスさんに急かされて、退室していきました。



「では、もう一つの問題ですが、」

「まだあるんですか!?」

「ええ。そもそもの原因はシオンですからね。」

そりゃそうですね。

「後々どんな影響が出るか考えて行動する・・・つまりもリスク管理が甘いんです。私達が教育に失敗したんでしょうね」

「ですね。」

「・・・」

肯定してみたら睨まれました。

睨んだって知りません。確かに教育に失敗してますよ。

旦那様は、王族だからだと思いますが法令順守(コンプライアンス)はしっかり理解してます。ルールや法はきちんと守れる子です。ただし、リスク管理が出来ていない。私が拉致されたときだって、危険を想定していたのにそれに対する対策が甘かったし。

今回だってそうです。誤解されるような行動は事前に回避できたでしょう!?


「そこでですね、リィナには『リスク管理の仕方について』をシオンに教えてもらいたいのです」

「は?」

「銀行に勤めていたのですから、リスクの洗い出しなどは得意でしょう?」

「え、や、それって、」

「私が今更言っても、効きそうにないのでね。召喚者であるリィナから、少し懲らしめてやってもらえませんか?」

「懲らしめてって・・・それより、旦那様の仕事も良く知らないのにリスクの洗い出しなんて出来ませんけど!」

「まあ、教えるのは一般的なところでいいですよ、それほど深い知識は求めません。リスク管理は必要なんだと思えるようになれば、あとは自分で学ぶでしょうしね。」

「・・・クリスさん、自分が教育できなかった不始末を私に押し付けようとしてませんか?」

「・・・気のせいですよ、リィナ。それに、ボーナスも出します」


え!ボーナス!


「そうそう、休暇もつけましょう。そうだ、旅行に行ってみるのはいかがですか?召喚されてからずっと王都しか見てないでしょう?郊外に連れてってあげましょう。」


旅行!?


「そうですね、あと3ヶ月もしたら、ちょうど食べ物の美味しい季節になりますから、出発はその当たりがいいですね。どうですか?」

「行きます!じゃなくて、やります!」


そんなわけで、旦那様にリスク管理を教えることになりました。

今度はクリスさんに上手く乗せられたことに気づくのは、まだ少し先の事でした。









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