62 再びの悪夢?
「陛下ならびに王妃様がご入場なされます!」
という声がしましたので、全員で礼。
下を向いてるので、どこからご入場されるのか、全くわかりません。まさか後ろからではないでしょうしね。
まだかなーと思いながら礼をし続けると、前方に人の気配と衣擦れの音。
「面を上げよ」
いつものふざけた話し方とは明らかに違う声色の陛下の声が響き、隣のクリスさんが動く気配がしたので、私も上体を起こしました。
俯き加減でこっそり正面を伺って見ます。
正面の雛壇の上の王座に座っていたのは王様と美女。彼女がきっと、王妃様。でも私と同い年くらいに見えますよ!?
旦那様が壇上のお二人に、拉致事件を含めたこれまで私が巻き込まれてきた事の経緯を説明し始めましたので、それを流し聞きながら、わたしは王妃様を不自然にはならない程度にこっそり眺めます。
結論=若返りすぎでしょう!?旦那様のお母さんには見えないって。
そんな私の様子を見て、クリスさんがこっそり話しかけてきます。
「リィナ、王妃は若返ってませんよ。あれが自前です。」
「・・・」そんな、騙されませんよぅ。
「信じてませんね?でも事実です」
「・・・」え、本当に?
私は言葉を発せず視線でクリスさんに確認をとります・・・クリスさんはコクンと頷きました。本当なんですか、そうですか。
旦那様が一通りの経緯を説明し終わると、王妃様は旦那様を見たまま「まったく王家の男たちは」と言って溜息を付きました。
その溜息にはなんとなく共感できます。
「シオン、紹介して頂戴。」
「はい母上。彼女が私の召喚者です。呼称はリィナとお呼びください」
旦那様がそう言って私を紹介してくれましたので、ここでまた淑女の礼。
「リィナと申します。」
許可があるまで礼をし続けるのは、結構たいへんなんですが・・・なんか視線を感じます。
あきらかに王妃様の視線だろうと思われるのですが、前方からプレッシャーが・・・
「面を上げなさい。」
そう言われたので、姿勢を正し顔を上げます・・・あ、しまった!俯き加減で良かったんだっけ?
思わず顔を上げてしまい王妃様と目が合ってしまいました、まずかったかしら。
クリスさんに負けずと劣らないキラキラした金髪と、旦那様と同じ榛色の瞳の王妃様。
加えてこの美貌でしたら国民から支持されているのもわかります。私でも思わず見蕩れてしまいます。
いまさら俯くのもどうかなーと思い、せっかくなので王妃様の美貌をこっそり堪能していると、王妃様は素敵な微笑みを浮かべました。
「シオンとクリスが一番危険な目に合わせたようですね。私からお詫びいたします」
・・・拉致された時の事ですね。まあ確かに一番ひどい目に合いましたね。
「ダリアも大変世話になったようですし、ユーリも失礼な事をいたしました」
王妃様は着席のまま、軽く頭をさげています。王族に頭下げさせていいんでしょうか・・・
こっそりクリスさんの様子を伺うと、にっこり笑って頷いてくれました。心配ないってことですね?了解です!
「陛下、私なにか彼女にお詫びをしたいわ」
「そうか・・・そうだねぇ、」
そう言って二人でこそこそ話をする王様と王妃様。
これ以上のお詫びとか要りませんので、一刻も早くお屋敷に帰してください・・・と言えたらいいんですけど。
しばらくこそこそ話をしてから、私をじーっと見ながら微笑みを浮かべていた王妃様。
うううっ、視線が突き刺さる・・・と思っていたら、急に目を見開き、驚愕の表情をされました。
何事!?
私、何かまずいことでもした!?
私を見て驚いていた王妃様は、そのあと驚いた表情のままクリスさんを見ます。
そのあとまた私に視線を移し、それから旦那様を見て・・・今度はポカーンと口を開けてしまいました。美女はどんな顔をしても美女なんですねぇ。
「母上?」
さすがに様子がおかしいと思ったのか、旦那様が王妃様に問いかけます。
驚愕したあと口元に手を当て、何やら考えこんでいた王妃様でしたが、隣に座っている王様の方へ体ごと向けて言いました。
「―――――陛下は私のお願いを聞いてくださるわよね」
その時の王妃様は、クリスさんを彷彿とさせるような有無を言わさぬ微笑をされておりました。
聞いてくださるかしら?じゃなく、聞いてくださるわよねとは・・・さすがです。
「な、なにかな?」
「明日の夜、彼女を招待したいわ」
「それは、まあ、いいんじゃないか?」
「エスコートはシオン、貴方がしなさい」
「母上!?」
「でもそうね、シオンが相手なら少し陛下の『鍵』を使いましょうか。というわけで陛下、」
「あー、まあそういうことなら」
「リィナ!逃げますよ!」
「え?クリスさん?」
「いいから速く、」
「クリス、わたくしの意見に反対するのなら、貴方にも使って貰いましょうか?」
「っ!」
「さあ、陛下」
やっておしまい!という王妃様の心の声が聞こえたような?
そして・・・
「なぜ・・・」
「リィナ?」
「どうしてこんなことになるんですか」
「・・・すまない」
王様と王妃様は退場されました。残されたわたしは、あまりの衝撃にボーゼンとしております。旦那様は愕然といったところでしょうか。それでも一言、謝ってくれました。
「リィナ、私とシオンは仕事がありますので、必要な物はキーラと一緒にそろえて下さい」
「えっ、ちょっ、クリスさん?」
「今日は王宮に宿泊しなさい。キーラ、私達が昼に顔を出すまでに、一通り揃いますね?」
「お任せ下さい」
「よろしく頼みます。・・・ほら行くぞ!シオン!」
「あ、ああ・・・リィナ」
「はい」
「・・・」
旦那様は何か言いたそうにして口を開きかけたものの・・・そのままクリスさんに引きずられて行ってしまいました。
「リィナ、さあ客室にもどりましょう」
キーラさんに促されて歩き始めますが・・・
「キーラさん」
「なに?リィナ」
「・・・“ぶとうかい”って、何をするんでしょう」
まさか武闘会?あ!葡萄会だったら美味しそう
「リィナ、現実逃避したいのも理解できますがもちろん“舞踏会”です。踊るんですよ」
「わたし踊れませんから辞退――」
「出来ると思いますか?“王妃様のお詫びのしるし”を?」
ムリですよねぇー。
はぁ。
王妃様のお詫びとして、舞踏会に私も参加することになりました。
っていうか、お詫びになってないから!
むしろ迷惑だから!
バツゲームとしか思えないから!
つーか、明日って!明日って何!!
と言えるはずもなく。
「キーラさん、私こんな姿にされて、これからどうすれば・・・」
「とりあえずドレスの準備とダンスの練習と、会場での会話や振舞い方の勉強もしておかないとね、あとは、」
それから、耳を塞ぎたくなるほどの“やることリスト”を聞かされました。
誰か、この状況から助けてくれませんかね?
「ごめんなさい」
客室でドレスを選ばされていたら、ユーリ殿下がいらっしゃって、再度謝罪されました。
どこから聞いてきたのか、ちゃんと頭を下げた日本風の謝罪です。さすがに正座ではなかったですけどね。
お暇そうだったので、ついでにドレスの色選びを手伝ってもらいました。
「まさか陛下が『鍵』を使うとは思わなかったんだ。あ、そのピンクの可愛いんじゃない?」
「この年で全身ピンクのヒラヒラドレスは、さすがに痛いです」
「“この年”って、僕とそんなに変わらないでしょ?」
「っっつ!!私は31歳です!!」
「でも陛下が『鍵』で、」
「見た目がどうなろうと、私は31歳です!!」
「・・・陛下の『鍵』は、見た目だけではないよ?」
は?
「本当に、若返ってるんだ。医療技術でプチ整形?とかってレベルではないから、時間が経てば元に戻るわけじゃないんだよ?」
へ?
「また『鍵』で戻してもらうか、でも14年たてば、また31歳になるよ?・・・ん?どうしたのリィナ。・・・こっちの薄緑も可愛いね、着てみる?」
「な・・・」
「な?」
「なんてことしてくれたんですか!へいかぁぁぁぁぁ!!」
半泣きで叫んだら、ユーリ殿下に「よしよし」って頭をなでられました。うううっ、10代の男の子に慰められるなんて・・・
それから、クリスさんと旦那様が戻ってくるまで、ドレス選びが続いたのでした。
そんなわけで、また17歳です。




