61 拒否権はないようです
「それでね、お兄様がリィナをベッドに押し倒していたっていうのよ!信じられないでしょお父様」
「そうか、それはユーリが悪いな」
「ちゃんと謝ったし、もう二度としないし!」
「当たり前だ。次は本当に切るからな」
「だからもうしないって!怖いよシオン」
ここは王族のプライベートルーム、久しぶりに全員がそろって晩餐中
「それにねお父様、お兄様ったらリィナの髪の匂いを嗅いだのですって。気持ちわるっ!変態っ!」
「ダリア、それを変態と言ったら、ちょっとユーリが可哀想だよ?」
「そうですよダリア。シオンだって嗅いでましたから」
「っ!クリス!」
「抱き上げたり、膝の上に乗せたりもしてたな」
「それは・・・」
「お前こそ、そろそろセクハラで訴えられそうだよなぁ、シオン?」
「うっ・・・」
「なんだよシオンだってしてるんじゃないか。クリス他には?例えば押し」
「押し倒してはいない!」
カチャン!
ひときわ大きな食器の音がして、ヒートアップしていた面々は押し黙り、音のした方向を一斉に向いた。
そこには普段、食器の音など立てるはずの無い人がいる。
「ねぇ陛下・・・わたくしが居ないあいだに、何やら面白い事があったようね?」
「そ、そうかな・・・?」
「シオンに召喚者が居たなんて、わたくし全く知らされていませんでしたわよね、陛下?」
「そそそ、そうだったかな?」
「それに、侍女頭の話では、ダリアもずいぶん迷惑をかけたらしいわね」
「・・・はい」
「父親として、きちんと謝罪しましたの?」
「いえまだです」
「そう、まだなの」
にーっこり笑いながら話し続ける王妃と、冷や汗を掻きながらつい敬語で応答する国王・・・を目の端に写しながら青い顔をしているシオンとユーリとダリア。
「よくわかりました。ねぇクリス、明日その召喚者?リィナでしたか?その娘をここに連れてきなさい。わたくし自ら謝罪いたしましょうね」
************************************
「というわけで、行きますよリィナ」
「いやぁぁぁっ!何故!要りません謝罪とか!」
「貴女を連れて行かないと私が困るんです!・・・手すりを放しなさい!」
「いやです!王妃様と謁見とか、なんの拷問ですか!」
「チッ、・・・キーラ、私たちの正装の準備は?」
「必要な物は馬車に積み込み済です。クリスさん今回は私も行ったほうが?」
「ええ頼みます。出来ればナンシーも連れて行きたかったんですが、逃げられましたから」
「ハァ・・・リィナ、可哀想だとは思いますが、もうあきらめなさいな」
キーラさんまでっ!
ちなみに、現在の状況を説明しますと、私は今朝から階段の手すりを磨いていました。
一番下まで磨き終わったところで、クリスさんに遭遇・・・捕獲されそうになったところを抵抗中です。
まるでユーカリにしがみつくコアラのように手すりを離さない私を見かねたクリスさんは、軽くため息をついたあと、身をかがめて私の耳元で言いました。
「リィナ、どうしても手を離さないというのなら」
「・・・」
なんか嫌な予感がします・・・ゴクン
「薬で眠るのと、気絶するのと、どちらがいいですか?」
その二択なの!!!!
結局、本当に実力行使に出ようとしたクリスさんに負けて手を離した私は、そのまま引きずられるように連行され、馬車に押し込められました。逃亡禁止の為にご丁寧に外側から鍵までかけられました。ああ、売られて行く気分・・・
そして王宮。
到着した私はキーラさんに連れられ、また客室に通されました。
「じゃあリィナ、とりあえず着替えましょう」
そうキーラさんに促されて、部屋に用意してあったシンプルなドレスを着ることになりました。
身分の高い侍女さんたちが着ているぐらいのドレスです。まあ、このくらいなら・・・
着替え終わるとキーラさんが髪とメイクを整えてくれました。
「キーラさん、わたし謁見の時の礼儀作法とか知らないのですけど」
王様と謁見したときは、身体が動かなかったから作法は免除されてたしね。
「ああそうでしたね」
キーラさんは簡単に作法を教えてくれました。ふむふむ、淑女の礼は許可があるまで続けとく、許可があるまで喋らない、基本はうつむき加減でOKと・・・
「リィナ、受け答えはシオン様とクリスさんがしてくれるでしょうから、何か聞かれても黙ってて大丈夫だとは思いますよ」
そうですか・・・でもこれまでの経験上、あの二人はあまり当てにしないでおいたほうがいいでしょうね。
え!キーラさんも一緒に行ってくれるんですか!よかった、それなら少しは安心!
髪とメイクを直してもらい、キーラさんも着替え終わったタイミングでクリスさんが戻ってきました。
さっきまでスーツだったのに、王子様の服装で2割増くらいに見えますね。
「リィナ、飾りをいくつか見繕ってきましたから」
そう言って、持って来たネックレスを貸してくれました。お高そうですね、緊張してしまいます。
そしてクリスさんとキーラさんに連れられて以前お姫様抱っこで運ばれてきた謁見の間に、今日は歩いて行きます。
そして扉の前で旦那様と合流し、謁見の間に入ります。ほぅ、ここが立ち居地ですか。ひな壇の上に椅子が2つ。その真正面、ひな壇の下から5メートル程離れた位置が今日の私の立ち居地のようです。私の左前方、ひな壇の下に旦那様、そしてなぜか私の右側にクリスさん、そしてクリスさんの右手側後方にキーラさんです。
あの、上座とか下座とかいいんですか?なんで私クリスさんの隣?・・・召喚者は気にするな?はい了解です。
ちなみに旦那様はすごく機嫌が悪そうです。せっかく2割増の格好してるのになんて残念な!
「リィナ、とりあえず王妃との会話はシオンに任せておけばいいですから」
「はい。是非お任せします」
私がそう言うと、旦那様は眉間の皺はそのままに、なんだか困ったような顔になりました・・・そんな顔したって絆されませんから!
騎士さんが何人か入ってきて、入口と壁際とひな壇の下に立ちます。まあ形式的なものなんでしようが、私が王妃様に危害を加えるとでも?それなら謁見やめて今すぐ帰してください。是非。
むーっとしていたら、クリスさんが頭をなでてくれました。髪が乱れるのでヤメて下さい。
「リィナ、色々と気に入らないのはわかりますが、そんなに不貞腐れなくても」
結局のところ私の気持ちなんかどうでも良い人のセリフとは思えませんね、クリスさん。
「何がそんなに気に入らないんです?」
「・・・今日はナンシーさんとアリッサとミシェルと4人で食事に行く予定だったんです!」
実際に気に入らないのは騎士の配置とか無理やり連れてこられた事とかですが、まさかここでそれを言うわけにも行かないので、今日の予定が潰れた事を訴えました。
「なるほど。ではそれは後ほど手を打ちましょうね」
そう言ってニッコリ笑ったクリスさん。お休みくれるのかな?などとちょっと気分が浮上したところで、ドアの前にいた騎士が大きな声で言いました。
「陛下ならびに王妃様がご入場なされます!」




