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57 手紙

エリーゼさんを見送った私達は、魔方陣の間からそれぞれの職場にもどりました。

私と旦那様とクリスさんは、泣き続ける王女様に声をかけつつ、王女様の部屋まで戻ってきました。


「そんなに泣くくらいなら、どうしてきちんと見送らなかったんだ?」

旦那様、辛辣です。まあそうなんですけどね・・・ちゃんと見送っても泣くだろうしね。

「結局、私が担いでこなければ、顔を見るどころか声を聞くこともなく帰還させることになったでしょうしね」

クリスさんも旦那様と同意見。厳しいお兄ちゃんたちです。


部屋に入ると、王女様はいつも甘やかしてくれる侍女さんたちに駆け寄り、慰めてもらっています。

その侍女さんたちは、王女様は悪くないですわ的な、耳障りの良い言葉しか言っていません。

うーん・・・国王陛下の言ってた『きちんとお別れ』が出来ていないのに、この場だけで慰めちゃっていいのかしら。

むずかしいなぁ。私、子育てしたこと無いし、弟や妹も居なかったしなぁ。立場的にも口出せないしね。


それを見ていた旦那様は、ハァー、とこれ見よがしに溜息をついてから、私に向かって言いました。

リィナ(・・・)、帰るぞ」

お!

アンジェ終了で、リィナ解禁ですか?

そういえば、私の素性は陛下が言っておいてくれてるんでしたっけ。

「はい、旦那様」

ドアに向かう旦那様の後に続いて、身を翻した私。

侍女(アンジェ)だったら王女様へ断ってからでないと退室することができませんが、『リィナ』なら話は別です。

旦那様は私の召喚主&保護責任者&雇用主ですから、言いつけは最優先して問題なしです。

しかも身分的にも第一王子である旦那様のほうが、王女様より上なんです。


さあ、帰れるぞーと、うきうきと出口へ向かう私でしたが・・・


「ま、待って!待ってアン・・・リィナ」


王女様から呼び止められてしまいました。まあ、当然ですよね。旦那様もこれ(・・)を期待しての、あの“これ見よがしの溜息”だったわけですし。


足を止めた旦那様。

旦那様が足を止めたので、私も止まります。


「ダリア、リィナに何か用か?」

凍えてしまうような冷たい目をした旦那様が、そう聞きます。

「い、行かないで、欲しい、の・・・」

「私は、お前の希望を叶える必要性を感じない。そんなことをする義理もないしな」

冷たく言う旦那様。

まあ、仕方ないですね。

旦那様は、もう何日も前から『帰還の間へは、絶対に行くように』と王女様に申し入れていたのです。本人にも直接伝えていたし、当日だって部屋までお迎えに行っているんです。

それをことごとく無視した王女様が、いまさら“お願い”をしてきても、それを聞いてあげるほどシオンお兄様は優しくないんですよ、王女様?


という『筋を通す』というのを“教育”するための、小芝居なんですけどね、コレ。

王女様は、今まで我侭で自分の希望を通してきたそうです。まさに無理が通れば道理が引っ込むって感じだったそうです。みんな、甘やかしていたんですね。

その結果、召喚者の帰還まで我侭で阻止しようとしたのは・・・さすがにマズイと。


そんなわけでこれは、エリーゼときちんとお別れ出来ていれば、起こらなかったスペシャルイベントとでも申しますか・・・ちなみに、発案は陛下です。そして続き部屋からこっそり覗いているらしいので、旦那様も気を引き締めて冷たく接してますが・・・怖いのなんのって。


王女様が青ざめています。今までと勝手が違うことに気づいたのでしょう。

「で、でも私の侍女をしていたのだから、引継ぎがあるわ!」

「侍女頭、リィナには引継ぎがあるのか?」

「いいえ、ございません」

「だそうだ。」


ああ、王女様泣きそうです。

「わ、私にはリィナが必要なの!」と王女様

・・・はい?そんなに必要とされてましたっけ?

「私の方がリィナが必要だ。」と旦那様。

あ、それは資料作りですね。それならわかります。

「私、リィナのお茶じゃなきゃ、ダメなの!」と王女様。

お茶は、クリスさんに教わったんですけど・・・

「私はリィナの作った食事が食べられなくなるのは困る」と旦那様。

ってことは、明日はカレーですか?それともハンバーグ?

「私、リィナが居ないと眠れないの!」と王女様。

・・・あー、最近一緒に寝てましたね。

「私もリィナが居ないと眠れないんだ」と旦那様。

それも、書類作りが終わらずに睡眠時間を削ってるってことですね・・・どれだけ仕事たまってるんですかね?帰れるのは嬉しいですが、たまった仕事は憂鬱だわー。


なんだか子供の喧嘩みたいなやり取りを聞き流しながら、ふと視線を動かしたら・・・王様が覗いてました。なんだか目を丸くしています。

よく見ると、部屋の中に居る侍女さんたちの視線も・・・なぜ?

首を傾げていたら、クリスさんに腕をつかまれて、部屋から出されました。

廊下に出るなり『はぁー』とため息をついたクリスさん。

「お疲れ様、リィナ」

「旦那様と王女様、大丈夫でしょうか」

「とりあえず、リィナが居ると話がややこしくなりそうなので・・・」


そんなことを言われて、お借りしていた客室に荷物を取りに行きました。

そうそう、部屋の見張りをしてくれたジェフさんとジョーさんにも、お礼の品を……


荷物を馬車に運び、そのまま待っていると、旦那様とクリスさんが来ました。お疲れ様ですね。


「王女様は大丈夫ですか?」

「ああ。ダリアが泣きながら謝罪したところで、陛下が妥協案を出した。」

ああ、やっぱり陛下が口を出してきたんですねー。

「しばらくの間は、シオン様が王宮に来るとき、リィナを伴うということで・・・」

「つまり・・・」

今までとそう変わらない頻度で王宮に来るって事でしょうか・・・?


はぁぁぁー

深ーい溜息をついた私を、誰も咎めませんでした。





********************************





「リィナ、いらっしゃい」

「姫様、ご無沙汰しております」


侍女を辞めてから既に1ヶ月と1週間。

最初の週は、ほぼ毎日のように王宮に連れて行かれていましたが、2週目には3日に1回、3週目には5日に1回、そして今週は今日が1回目。

このままだと月1回になる日も遠くは無いですね。よかった。


いつも、旦那様と一緒に王宮に来て、旦那様のお仕事中に王女様にお会いしているのですが・・・

「昨日ね、とても美味しいお菓子を頂いたの。リィナにも食べさせようと思って、とっておいたのよ」

「まあ!ありがとうございます」

「あとリィナ、マールが好きだって言ってたでしょ?料理長が紅茶に合うジャムを作ってくれたのよ」

王女様は美味しいお菓子をお茶を用意して待っていてくれます。

ひょっとして餌付けされてますか?と感じる今日この頃。


「ふーん、確かに美味いな」

「シオン!それはリィナに用意したのよ!勝手に食べないで!」

「菓子くらいで喚くな、うるさい」

今日は旦那様も一緒です。なのでクリスさんの紅茶が飲めます。ラッキー。

ちなみに、あれ以来、王女様は旦那様と結婚する気はなくなったそうです。怖かったもんねぇ。

今では、本当の兄妹のように仲良く喧嘩してます。

旦那様も王女様も楽しそうなので、ほほえましい光景です。


「そういえば姫様、エリーゼから返信は来ましたか?」

エリーゼときちんとお別れ出来なかった王女様は、あのあと大変後悔されました。

“ありがとうと伝えたかった”と言って落ち込んでいた王女様に、旦那様が手紙を送ることを薦めたのです。つまり『文通』ですね。

王女様は、ドイツの外交官に直々に頼みに行きました。外交官はとても良い方で、本国とのやり取りの書類の中に、エリーゼ宛の書類を混ぜてくれることになったのです。

なので、週1回ペースで手紙をやり取りできることになりました。

エリーゼが帰還した翌週に、王女様が長い謝罪と感謝の手紙をエリーゼに送って。

次の週に、エリーゼから返信が届きました。

そんな感じでやり取りを始めて、先週、王女様はエリーゼへの贈り物として用意していたのに結局渡せなかったストールを、ようやく送ったのでした。

これがまた姫様が刺繍した力作なんです。きっとエリーゼも喜ぶはずです。

その返信が、今週届くはずなのですが・・・


「そうなの!今朝届いたのよ。リィナと一緒に読もうと思って、まだ開けてないの」

はにかみながら、嬉しそうに言う王女様。

手紙を持って私と旦那様が座っている2人掛けのソファーに移動してきます。

「シオン、あっち行って!」

王女様にソファーの移動を指示され、旦那様、苦笑い。

私の隣に座った王女様は、侍女さんからペーパーナイフを受け取り、封筒を開けます。


「・・・」

手紙をみた王女様、固まってしまいました。

「姫様?どうされましたか?」

「・・・読めないわ」


はい?

姫様の手元を覗き込みます。

んんんんん?

読めそうで読めない・・・というか、読めない。

「ひょっとしてドイツ語、ですかね?」

王女様と顔を見合わせて居ると、旦那様が向かいの席から手を伸ばして、王女様の手紙を取りました。


「ドイツ語だな。」

「旦那様、ドイツ語も読めるんですか」

「王族のたしなみ程度にはな」

ニヤリと笑ってそう言う旦那様。

王女様、悔しそうです。意地悪なお兄ちゃんですねぇ。


「読むぞ、いいなダリア」

「はい。お願いいたしますわ、お兄様(・・・)

ちっともお願いしている態度には見えない王女様ですが、まあ、しょうがないですかね。


そして、旦那様が手紙を読み始めます。


「ダリア王女様、はじめまして。私どもの娘エリーゼが大変お世話になりました。先週、とても素敵なストールを頂戴し・・・」



旦那様が読み進めていくうちに、王女様は立ち上がり、そして・・・


「イヤァァァァァァァァァァァ!!!!!!」




それは、エリーゼのご両親からの・・・





エリーゼの、死亡を伝える、手紙でした



























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