55 さよならの始まり2
王女様に「そろそろ王宮から居なくなりますよー」のお話しをしてから数日後。
今日はエリーゼと市場に来ています。異世界に来てからすぐ以来です、なつかしー。
エリーゼが、異世界らしいお土産を買うのにどうしたらいいかと悩んでいたのでクリスさんに相談したところ
「マーケットがいいでしょう。」
と教えてくれました。一般開放日なら、色々なジャンルのお店が並んでいるので、どんなものがいいかを悩んでいるのなら、探しやすいんじゃないかとの事です。
そんなわけで、タクシー(馬車だけど。)で行くことになりました。
旦那様もクリスさんもお屋敷の馬車を出すってしつこく言い張ってたんですけどね。
断りましたよ、目立つから。
公共の交通機関も経験してみたいんですって言ったら、クリスさんは納得してくれましたが、旦那様はまだ不満気でした。どんだけ過保護なんですかね、まったく。
「それだけ心配されてるってことよ?ありがたいじゃない」
「でも子供じゃないんだから、もう少し信用してくれてもいいと思うの!」
「そうねぇ。でもリィナ、いまの姿はまだ子供に見えるし?」
くすくす笑いながら言うエリーゼさん。
そうなのです、想定外なことに、私の姿はまだ10代で通用してしまうのです。
これじゃ3ヶ月後に元の姿に戻れるのか心配になってきましたよ。
まあでも、じわじわと元にもどってきてはいるのですけどね・・・ほうれい線とかね、出てきましたね。年を取るってイヤね。
「あと3日で帰還ですね」
「うん。色々ありがとねリィナ」
「ううん。結局私は何も出来なかったよ」
「そんなことないよ。リィナが帰還したら、ドイツに来てくれるんでしょ?」
「もちろん!エリーゼも日本に来てね?」
「ええ。楽しみにしてるね」
異世界の様子を手紙で知らせる約束をしました。もちろん王女様の様子もね。
そんな感じで、ずっとおしゃべりしていたら、あっという間に市場に着きました。
「さて、どこから見ましょうか?」
「うーん、雑貨かなぁ。でも異世界特有の雑貨なんて、そんなにないよねぇ」
そういわれると、そうですね。
「リィナだったら、何を買う?」
「んんー、私だったら・・・紅茶かなぁ。もちろん茶器も一緒に。あとは絆創膏?」
「ああ!あの絆創膏は良いよね!傷がふさがるのも速いし、痕も残らないのよね!」
「それと、化粧水と乳液と・・・」
「確かに!5年も使ってると当たり前になってたけど、健康や美容系は異世界の技術がすごいよね」
「あとは、マールが持って帰れればいいのですが・・・」
「そうか、ジャムなら日持ちするかな?」
「じゃあ、あとで食品売り場もまわりましょう!」
結局、異世界に来て便利だと思った日用品や、美味しかった物で持って帰れる食品がお土産のメインになりました。
参考になるわ~。
私が帰還する時の、お土産探しのね。
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エリーゼの買い物に便乗して色々買ってしまった私。
両手に一杯の荷物を持って王宮に戻ると、私が借りている客室に部屋に旦那様が居ました。
借りている身で文句は言えませんが、留守中の女性の部屋でくつろいでるって、どうでしょうね。
「シオン様、どうかしましたか?」
「・・・すごい荷物だな」
あ、やっぱり?
「つい買いすぎました」
えへへっと笑って誤魔化します。
「それで、何かあったんですか?」
「たいしたことじゃないんだが・・・王女から公式に要請があった」
「何のでしょう?」
嫌な予感しかしませんよっ!
「“アンジェ”を、正式に侍女にしたいそうだが、どうする?」
「お断りします!」
「・・・だろうと思って、断っておいた」
即答で断固拒否した私を見て、苦笑しながら言う旦那様。
「もともとアンジェは見習いとして王宮にあがった設定だからな。断る理由はたくさんあるから、何の問題もないんだが・・・一つ、気がかりがある」
旦那様はそう言って、真面目な顔で話を続けます。
「ダリアが、陛下に申し出ると、少々面倒だ」
あの陛下に、ですか・・・それは確かに面倒くさそうだ!
「陛下がアンジェに興味をもった場合、“アンジェ”がリィナと同一人物だと気づかれるだろうし、陛下からの要請があれば、断りづらくなる」
「ど、どうすればいいんですか!ずっと侍女とか嫌です!」
「そんなに嫌か?」
当たり前です!常に背筋伸ばして、しずしずと歩いて、うふふ、おほほって微笑みあって、王女様に気を使って!疲れるったら!
「そ、そうか」
旦那様が引きつってます?あれ?わたし声に出してました?おほほほほ。
「とにかく、陛下からの申し出がある前に、先手を打つ。」
「・・・何を」
「というわけで、今から陛下が」
旦那様がそう言った時、急にドアが開き・・・
「やあシオン!義父に話ってなんだい?」
王様が、いらっしゃいました・・・私の客室に。
相変わらず、テンション高いですね。
「あれ?その子誰だい?」
あ、しまった。私ってば若返った挙句に黒髪青目に変装してたんだっけ。
「シオンの新しい恋人かい?」
ちちちちち違う!違いますから!!!!
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「なーるほど。つまりリィナちゃんが変装してダリアの侍女をしていたってことだね」
「ご報告が遅くなりました」
王様にこれまでのいきさつを説明した旦那様は、見本のようなキレイなお辞儀をしました。
こういう姿は、さすが王子様ですねぇ。
おっと、見とれている場合ではない!私もお辞儀しなきゃっ!
「まあ、ダリアが召喚した侍女と仲違いしたっていう連絡は来てたからね、べつに咎めはしないよ」
お咎めなしですか、よかった。
ソファーに寝そべり、片手は頭の後ろに、もう片手をパタパタ振りながらそう言った王様。
だから、人の部屋でくつろぎ過ぎですよね?
「それで、エリーゼちゃんだっけ?ダリアと仲直りは出来たのかな?」
「それは・・・」
仲直りとは言いがたい状況ですが・・・とりあえず、入室禁止が無くなったという話を王様にしました。
「まあ、仕方ないね。あの子もそろそろ『別れ』をきちんと勉強するべきだ」
「別れ、ですか?」
「そう。きちんとお別れできなければ、自分が苦しむって事をね」
そう言って微笑んだ王様。
王様も、ちゃんと『お父さん』してるんだなー
「リィナちゃん。侍女じゃなくなっても、たまにダリアの顔を見に来てくれるかな」
旦那様を見ると、頷いています。
「はい。私でよろしければ、喜んで」
旦那様が許可してる以上、嫌だとは言えないわよねぇ。
「“アンジェ”が、シオンの召喚者の“リィナ”だったって事は、エリーゼちゃんが帰還してから、私からダリアに伝えておこう。」
「はい陛下、ありがとうございます」
エリーゼさんの帰還まで、あと3日。
最後のお別れには、いらっしゃいますよね?姫様?




