52 カウントダウンパーティー
パーティー会場に入ると、いつもよりも照明を落として、カフェというよりバーのような雰囲気になっていました。
ただ、いつものカフェよりたくさん人が居て騒がしいです。召喚者って、王都だけでこんなに居たんですねー。
ハイテーブルを囲んで数人で話している人たちや
壁側に用意した椅子に座って話している人たちなど、
それぞれ食事やドリンクを手に取り、楽しんでいるようです。
そんな人混みをエリーゼさんに手を引かれて進んでいく私。
ああ、あそこに居るのは王宮組の皆さんです・・・
「おまたせー」
エリーゼさんが皆さんの話を遮って、輪の中に割って入ります・・・日本人としては、少々強引な割り込み方な気がしてしまうのですが・・・
「リィナ、やっと来たね!」
「まあ!やっぱりかわいいわっ」
「むしろエロかわいい!」
「パオロさんセクハラです。セリーヌさんなぜ仮装していないんですか?」
セリーヌさんは大きめのポンチョを着ているだけです。
「え?してるわよ、ほらしっぽ」
セリーヌさんがクルッと回って、腰につけたしっぽを見せてくれます」
「それだけ!?」
「今はね。みんなが酔ってきたら、ポンチョを脱ぐのよっ」
な、何に変身するんでしょうか・・・
あ、ちなみにエリーゼさんはカントリー風の衣装にお下げ髪で赤毛のアンになってます。
パオロさんは騎士服を着ています。
「タクトに借りたんだ。俺、似合うと思わない?転職できないかなー」
似合うとは思いますが、パオロさんは事務職が似合う細身の身体をしてるので、騎士になるにはもっと身体を鍛えないと難しいと思います。
ユージーンさんは・・・白衣。
「お医者さんですか?」
「うん。リィナ、その髪形かわいいね」
頭をなでなでされました。エリーゼさんが私に施した髪型は、ツインテールです。
ツインテールなんて、最後にしたのは中学生の時ぐらいですよ!
若返った挙句、制服&ツインテール・・・なんかもう色々あきらめました。
それにしても、ユージーンさんはツインテールがお好みですか?
え、違う?娘さんっぽいから?
ええ!?ユージーンさん、娘さんいらっしゃるんですか!
写真ある?見たい見たい!・・・これは・・・あの?娘さんどう見ても10歳程度ですよね?8歳ですか、そうですか。
たしかに日本人は若く見られがちですけど・・・もういいです。
「そういえば、タクトさんは?」
「日付が変わる頃には来れるって言ってたよ」
まだお仕事中なんですね。
侍女をしてみてわかったことは、騎士さんたちは本当に24時間体制で仕事をしているんです。
騎士団はこの国では軍隊でもあり警察でもあるそうなので24時間体制は当然なのかもしれませんが、私だったら無理!
消防士をしていたタクトさんだから召喚条件が合致したのかもしれませんね。
ユージーンさんに可愛がられているうちに、エリーゼさんが食事と飲み物を持ってきてくれました。
「リィナ、未成年は飲んじゃダメなのよー?」
セリーヌさんがニコニコしながらそういいます。
「だから!私は30歳ですってば!」
・・・セリーヌさん、結構いじめっ子です。もう酔っているんですか?ダメですよ、幹事なんだから。
みなさんの食事が一段落したような頃合いを見計らって、ビンゴゲームが始まりました。
パオロさんが番号の書いてあるボールを手動のガラガラ(?)から取り出し、セリーヌさんが読み上げ、私がボードに記載します。
あー、自動のビンゴマシンが懐かしい・・・
ちなみに私はお手伝いなので、ビンゴのカードを配られていません。
景品は日用雑貨やお食事券など色々あります。一番の目玉は王族の皆様も参加する“夜会”へのご招待券で、服装の手配はもちろん、マナーの講義もちゃんと事前にしてもらえるのだとか・・・目玉景品と言われても私は別に要らないですね。だって王族の皆様の半数には毎日会ってるし、貰ってもあまり有難みがわからないです。幹事のお手伝いでよかった。
でもそういえば、王妃様と王太子様にはまだお会いしたことないですね。会う必要がない方がいいのでしょう。だって、危険な目にあって国王陛下に謁見させられた事を思えばねぇ。何事も無く平和に日常を暮らしたいです。
ビンゴが進み、当選者もぼちぼち出始めた頃、幹事の一人であるサマンサさんが来ました。
「リィナ、ここからは私が代わるよ」
「はい、ではおねがいします」
サマンサさんに代わってもらったので、テーブルに戻ると・・・タクトさんが来てました。
エリーゼさんと二人で飲んでいたようです。
「おつかれ、リィナ」
「お疲れ様です。ビンゴどうですか?」
「全然当たらない」
笑いながらカードをヒラヒラさせるタクトさん。
「エリーゼさん、何飲んでるんですか?」
「グレープフルーツのビールなの。サマンサの差し入れよ」
ということは米国産ですかね。かわいいピンク色ですね。
「俺も日本酒持ってきたんだ」
なんと!
「どうしたんですか!?」
「うん、このまえ実家から送ってきたんだ。」
「私、グラス持ってくる!」
エリーゼがそう言い、席を外します。
「ご実家からの差し入れですかー。私の家族は手紙しか送ってこないですよ……」
「まだ来て1年だからじゃないか?」
そうかな……今度何かリクエストしてみようかしら?
「それがパオロ達が騒いでた制服?かわいいね」
「うううっ、恥ずかしいんですよ?スカート短いしっ」
「そう?似合ってるよ。大丈夫、みんな色々な仮装してるから、別に目立ってないし」
タクトさん、さらっと慰めるとか日本人男性のスキルじゃありません。異世界で培ったスキルなのかしら。
ちなみに、タクトさんの格好は……
「コックコート、ですか?」
「そう、アベルに借りたんだ。シェフに見えるかな」
ええ、見えますよ。腰にフライ返しがささっているので“戦うシェフ”に見えます。
「そういえば、アベルさんは?」
「明日の新年の行事で出す食事の準備があるらしくて、厨房から出られないらしい」
なるほど。国中の貴族たちが王宮に来るわけですから、それは忙しいでしょうね。
「グラス持ってきたよー、飲も!!」
ものすごく良い笑顔で帰ってきたエリーゼさん、結構いけるクチだったんですね。
ビンゴの当選者も続々と出てきました。
「タクトさん、どうですか?」
「あとどっちかが開けば・・・ああ、まただめだ」
「ついてないですねぇ。エリーゼ、お帰りー。なに貰ったの?」
「待って、いま開けるね・・・・・・あら、手鏡みたい」
エリーゼさんがビンゴで当てたのは、シルバーの手鏡でした。鏡面の裏側には、とても素敵な細工が施してあります。
「それ、セリーヌさんが選んでいたものですよ。純銀製ではないみたいですけど、お店の人の話では、こまめに手入れをすれば一生ものだそうですよ」
「セリーヌが選んだんだ・・・うん、大事にする」
ビンゴの景品とはいえ、ずっと王宮で一緒に働いてきたセリーヌさんが選んだ物ですから、思いがけず良いプレゼントになりましたね。
「で、タクトさん、どうですか」
「・・・」
商品はもう諦めたようです。こんなに開いているのにビンゴが一列も無いって、逆にすごいですよ。
「今年の運は、もう使い果たしていたんじゃないですか?」
「あー、そうかも。来年の運を前借りしてもまずいし、今年は諦めよう」
そんな会話をしていたら、ビンゴが終わったようです。
「そろそろ年明け?」
「カウントダウンするって言ってましたよ?」
「あ!そうだ、クラッカー配るんだった!」
急いで裏方へ行き、クラッカーを店内の人みんなに配り始めます。
「あれ?マスター、こんなところにいたんですか?」
入り口近くのところに椅子を置いて、異世界カフェのマスターが一人でお酒を飲んでいます。
「ここに居れば、客の出入りが分かるからね。部外者が紛れ込まないように、見張りだよ」
・・・そうでしたか、お世話をおかけしています。あとで日本酒差し入れますね、私のじゃないけど。
クラッカーが全員にいきわたった頃『あと1分~』という声が聞こえました。
「リィナ、最初の1年、お疲れ様」
「タクトさんも、えっと・・・3年4ヶ月、お疲れ様です。エリーゼは丸5年?」
「うん、長かった。リィナのおかげでまた王女様にも会えたし」
「でもまだ、話は出来ないんですよね・・・」
そうなのです、エリーゼは王女様と同席することは許されても、話をすることはまだ許されていないのです。
「しょうがないよ。色々ありがとう」
「最終日まで、協力しますからね!」
「うん」
エリーゼさんと“カチン”とグラスを合わせます。
10、9
カウントダウンが始まりました。私達も一緒に声を上げます。
8、 7、 6、 5、 4、 3、 2、 1!
「「「「ハッピーニューイヤー!!」」」」
クラッカーの音とともに、みんなの声と笑い声とグラスを合わせる音と・・・
きゃあーー
ええっ、うそっ!
うわぁー!
なにやら、悲鳴が・・・
何が起こったの!?
ピンクグレープフルーツのビール、甘いけど結構好きです。
大抵の店でビンで出されるので、実は色を覚えてないんですが・・・ピンクだったと思う。




