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50 侍女でメイドで日本人

2日目のお仕事が終わって客室に戻ると、エリーゼと、なぜかクリスさんが居ました。

「お疲れ様、リィナ」

「どうしたんですか、クリスさん」

「迎えに来たんですよ。リィナ明日は屋敷での仕事でしょう?」

ああ、なるほど。朝からお仕事なので、今日中に戻っておいたほうが、確かに良いです!


「エリーゼ、今日姫様とね・・・」

「リィナ、刺繍頑張ったんだって?みんなが話していたわ」

「うん、疲れた。・・・ねぇ、なんで侍女が刺繍の練習をするの?」


私が溜息混じりにそう言うと、エリーゼさんも疲れた様子で溜息をついて言いました。

「刺繍やレース編みは淑女の嗜みらしいわよ、この国では。私も最初やらされたのよ」


二人して肩を落としていたら、クリスさんに笑われてしまいました。

「まあ、実際に嗜んでる女性を見たことは無いですけどね」

笑いながらそんなことを言うクリスさん・・・つまり、無駄な努力だと言いたいのですか?



ともかく、今日はそのくらいしか報告がないので、エリーゼさんと見張りの騎士さんに挨拶をして、クリスさんと一緒に馬車でお屋敷に戻ります。


王女(ダリア)と仲良くなれそうですか?」

「うーん、どうでしょう。でも頑張りますよ!仲良くなって見せます!」

「リィナは前向きですね。」

ニコニコ笑って頭をなでてくるクリスさん。今日は“白クリス”のようです。







そして

翌日、朝からお屋敷の手すり磨きです・・・はぁ癒されるぅー

ゴシゴシゴシ

ピカピカ

ゴシゴシゴシ

うふふふふっ


「リ、リィナ?どうしたの?」

「ナンシーさん、私こういう孤独な作業って、すごく向いてるみたいです」

「そ、そう」

「王宮でたくさんの侍女さんたちの中で”うふふ”とか”おほほ”とか、ホント疲れるんで。」

「そうね、それは同感だわ。私も王宮で侍女をやる気は無いわね」

ナンシーさんも性格的にサバサバしてますもんね。ああいう女同士の集まり、苦手そうです。

「私、今なら旦那様の書類作成でもなんでも、地味な作業を何時間でも出来そうな感じです!」

ええ、今ならパソコンが無くても何時間でも書類作って見せますとも!


「そうか、では今すぐ手伝ってもらおうか」


ヒィッ!

どこからともなく現れた旦那様に、執務室へ連行されてしまいました・・・口は災いの元ですね。





******************************************




ともあれ、お屋敷と王宮の行き来を始めて早2週間。

侍女生活にもなれてきて、刺繍の腕も上達してきました・・・嬉しくない。


「アンジェ、今日は何の刺繍にするの?」

「はい姫様、お世話になっている騎士さんへ、イニシャル入りのハンカチをプレゼントしようと思っております。」

「え?」

「姫様?どうされました?」

「アンジェはお世話になった人に、贈り物をするの?」

「はい、お世話になった人には”ありがとう”の贈り物をします。それと、これからお世話になる人には”どうぞよろしく”の贈り物をすることもあります。」

“付け届け”や“心付け”は日本では一般的ですからね。


「そぉ。」

「姫様は、どなたかに贈り物をされることはありますか?」

「貰うことの方が多いわ。お兄様やシオンには誕生日の贈り物をするけど。でも贈り物を自分で作ったことは無いわ」

「そうなのですね、いつもはどうされているんですか?」

「大体のイメージを伝えると、出来上がってくるのよ。」


おお!さすが王女様です。でも王族とかって確かにそういうものなのかもしれません。

シオン様がお店で商品を選んでる姿も、想像できませんしね。

・・・クリスさんは市場で買い物してたけど。


何やら考え込んでいた姫様は、侍女頭様に声を掛けました。

「ねぇバーバラ」

「はい、なんでしょう姫様」

「最近、ハンカチが欲しい人って居るかしら。」

「姫様、おっしゃっている意味がわかりかねますが。」

「つまりっ、私も誰かに“プレゼント”をしてみたいの」

「姫様、手作りの贈り物というのは気持ちを伝える手段として用います。例えばリィナの場合は“ありがとう”を伝える時に渡すのです。」

「じゃあ、どうすればいいの?」

「“ありがとう”でも“これからもよろしく”でもいいのです。姫様が贈りたいと思った者に、贈っていいのですよ」

「・・・そう」


それっきり黙ったままの姫様。

しまった、エリーゼさんの事ちらっと触れてみるんだったなー。


結局、その日の姫様はずっと黙って刺繍していました・・・




部屋に戻ると、見張りの騎士さん2人とクリスさんが部屋の前に居ました。

「リィナ、お疲れさま」

「ただいま帰りました。クリスさん」

「エリーゼは、今日は部屋へ戻りましたよ。報告は明日聞くとのことでした」

「そうですか」

クリスさんはちょくちょく様子を見に来てくれます。様子からすると、心配されているみたいです。侍女になっていること自体が、雇用契約外の個人的なお願いをしてるようなものなので、大変心苦しいです。そうだ!今度はクリスさんにも刺繍しましょうか。

とりあえず今日は・・・

「ジェフさん、ジョーさん。これ、今日作ったんです。使ってください」

ちなみに、二人とも【J】なので、区別はつきませんからお揃いで使って下さい。

「ありがとう」

「上手になったね」

うふふ、ほめられましたよ。

あ、ちなみに2人共、未婚・彼女持ちなのを事前に確認済みなので、彼女さんのイニシャル入りハンカチを事前に作っておいたので、一緒にプレゼント。ぜひ彼女とペアで使ってください。他の女からのプレゼントでも『君とおそろいで持てるように作ってもらったんだ』とでも言えば、余計なヤキモチは焼かないでしょうしね。


あれ、急に寒気が・・・

ああ、悪寒の原因はクリスさんでしたか・・・黒っ。

「手作りのプレゼントですか。ずいぶん仲良くなったんですね」

「・・・だ、団長・・・」

「・・・べ、べつに疚しいことはっ」

なんか怯えてる騎士さん二人。

私は、黒いクリスさんにすっかり慣れてしまいましたので、このくらいじゃ動じません・・・少し怖いけど。

「次はクリスさんの分を作りますから、待っててくださいね」


こういう時は、天然を装って、にっこり笑って言うのです。

するとクリスさんの黒さが弱まりました!

「楽しみにしていますよ、リィナ」


ふふふ、ほら機嫌直った!

単純ね~なんて思ってたら・・・


「・・・彼らより後っていうのが気に入りませんが、上手に出来たら使ってあげますよ」

「えっと、はい・・・がんばります」


・・・なんかプレッシャーをかけられました。

まだ黒かったか、ちぇっ。



*****************************************




そして翌日。

今日は久しぶりの休日です。メイドも侍女もなしです。

そして、年越しパーティーの最終打ち合わせの日です。


「こんにちは、マスター」

「おう。みんな来てるぞ」


受付を済ませ、異世界カフェに入ります。

「あれ?タクトさん、久しぶりです。今日はお休みなんですか?」

ドリンクを取りに来たタクトさんと鉢合わせました・・・ん?なんか様子が変ですね。


「・・・」

訝しげにじっと見られてます。私、何かしましたかね?

「あの、タクトさん?」

タクトさんは瞬きを何度かして・・・それから目を見開いて叫びました。


「ひょっとしてリィナ!?な、なななんで・・・」


あ、

わすれてた。

若返ってたんでした、わたし。







「・・・というわけで、いま17歳なんです。」

「・・・」

事情を説明したのに、まだ訝しげなタクトさん。ちょっと失礼ですよ!

それと・・・

「リィナ、かわいいね」

ニコニコ笑顔のアベルさんに頭を撫でられながらそう言われました・・・アベルさんとタクトさんは、二人で異世界カフェに来たようです・・・

この二人は幹事ではないので、打ち合わせには参加しなくていいのに、なぜか同じテーブルに居ます。


それと・・・

「セリーヌさん、そんなにギュッとしたら苦しいです」

「かわいいー」

「あああ、アベルさん!頭ぐしゃぐしゃにしないでください!」

「「えー」」


えーっじゃないっ!

私はいま、セリーヌさんに抱きつかれ、アベルさんに頭をなでられてます。

なぜですか!?フランス人気質とかですか!?


しかもどうやら、日本人は若く見えるので、欧米諸国出身の召喚者たちには私が子供に見えるらしいです。

幹事のパオロさん、カールさん、サマンサさん達からも手が伸びてきて、頭なでられたり、お菓子を与えられたりしています。いただきます、もぐもぐ。


「そんなに子供っぽく見えますか?身長が縮んだわけではないのに!」

「だってリィナ、17歳に見えないわよ」

「ねえねえ、日本人のタクトから見て、リィナはいくつに見えるの?」

「13歳・・・いや12才くらい」

「タクトさん!?私が小学生に見えるとでも言うんですか!?」

「う、うん」


微妙に目を逸らして、そう言われました。

ひどいです。はやく元に戻りたい・・・ううっ。



「でもこれでリィナの仮装はもう決まったね」

「は?なぜですか、パオロさん」

「17歳だとジョシコーセーじゃん。制服着てみてよ!」

「それいいわね!パオロ、なかなか良いアイデア!」

「え、いやそれは---」

「リィナ、こっちで用意しておくから、当日は着替えるだけでいいわよ」

「ち、ちょっと待っ」

「やっぱりミニスカートよね!プリーツのたくさんある!」

「どの制服にしようかー、うーん、悩むなぁ。膝上何センチまでいいかなぁ」

「スカートの短さも重要だけど、それよりセーラー服とブレザーどちらにする?」

「わ、わたしの意見は---」

「のんびりしている暇はないわね!すぐにでも取り寄せないと!」

「いや、むしろ異世界(こちら)の服飾店に作らせたほうが速いんじゃないか?」

「だから、待っ」

がんばって止めようとしていた私の肩を叩く手が2つ・・・


「リィナ、あきらめなよ。」

「・・・きっと似合うよ」

「タクトさんもアベルさんも、()めてくださいよ!」


「「俺たちには、無理」」


うううっ、メイド、侍女に続いて、女子高校生にされてしまうことになりました。

私、30歳なんですけど。

泣いていいですか・・・




ともあれ、メインの打ち合わせは順調にすすみました。

年越しパーティー、楽しみです・・・コスプレ以外はね。













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