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48 王宮侍女の作り方

※※※ 王宮、王女の私室にて ※※※



「姫様、本日より侍女見習いとしてお側にお仕えすることになりました者をご紹介いたします。」


そう、侍女頭に促されて、一歩前に歩み出る少女(・・)・・・

高貴な女性(レディ)の前では、許可無く発言することは不敬の為、無言で淑女の礼をする。


「ふーん、エリーゼの代わりって事?」

「いいえ、この娘はシオン殿下からのご紹介で-----」

「シオンの!?」

「はい、姫様のお側で侍女見習いを、とのご意向でございまして。3~4ヶ月間になりますが、これから週に4日程、こちらに通わせていただきたいとのことでございました。」

「そうなのっ、シオンの頼みなら、しょうがないわね♪。あなた、名前は?」

「・・・アンジェリーナと申します。」

「顔を上げてもいいわ」


しずしずと顔を上げる侍女見習い・・・まだ成人前であろう幼なさの残る顔に、黒髪に藍色の瞳の少女。


「姫様、どうぞこの者は『アンジェ』とお呼び下さい。」

「短い期間ですが、精一杯勤めさせていただきます。宜しくお願いいたします」

「ええ、分かったわ。じゃあアンジェ、早速お茶を入れてちょうだい」

「はい、かしこまりました。姫様」

流れるような所作で紅茶を入れるアンジェに、周りの王女付き侍女達も目を見張る。


「失礼いたします」

そう言って、王女の前に静かにカップを出すアンジェ。


コクン

香り立つ紅茶を一口飲んだ王女が、微かに微笑む。

「……おいしいわ」

「ありがとう存じます」


この日から、王女の侍女に"アンジェリーナ(・・・)"という娘が加わった……のですが、


話は2週間前にさかのぼります……



********************************



【2週間前】


※※※ エリーゼさんの悩み ※※※



エリーゼさんが話してくれた、王女様の5年間は・・・・・・要約するとこうなります。


「いままで侍女なんてしたことの無い普通の女の子が、いきなり召喚された先で、ワガママ王女様の侍女に抜擢されてさあ大変!、最初は失敗もたくさんしたけど、先輩侍女や侍女頭の指導の元、今では王女様の信頼を得るまでに成長して、ああこれで思い残すことなく帰還できる・・・と思ったのに、なぜか急に王女様とのコミュニケーションが上手くいかなくなってしまい、仲違い状態。もうすぐ帰還するのに、このままだったらどうしよう、なんとか仲直りしたいのだけど・・・と思い悩んでいるようなのです」


「・・・たいへんよく分かりました。」

あらすじのような長文を一気に言った私に、ちょっと呆れた様子でクリスさんがそう言いました。


ここは、クリスさんの執務室。

異世界カフェでエリーゼさんの話を聞いた私は、とりあえずクリスさんに話してみることにしました。


「それでですね、エリーゼさんは、王女様の機嫌を損ねた理由に心当たりが無いらしくて」

「でしょうね」

「・・・クリスさん、何か知ってるのですか?」

「まあ、心当たりくらいなら。それで、その召喚者に何を頼まれたんですか?」

「はい。機嫌を損ねた原因だけでも知りたいということで、旦那様かクリスさんに直接、王女様に聞いてもらうことは出来ないですかと」

「無理ですね」

・・・ええっと、即答で断るって何故!?

「えっ、ちょっとは考えて・・・」

「無理です。私は王女(ダリア)には毛嫌いされてますからね。話しかけて返事をしてもらえるとは思えませんね」


・・・きっと毛嫌いされるようなこと、したんでしょうね、クリスさん。


「じゃあ、旦那様に・・・」

「それも無理ですね。私とは逆の理由ですけど。つまり、シオンは好かれ過ぎていて、話しかけると大変なことになります」


王女様って、一体・・・


「まあ、機嫌が悪い理由は想像できます。十中八九『お気に入りの侍女が帰還する』からでしょうね」

「・・・え、それってつまり」

「仲直りするのは難しいでしょうね。仲直りしたいなら、帰還を取りやめて、契約更新するしかないでしょう」

「王宮勤めの召喚者の契約期間は5年ですよ!更に5年とか、ありえないですから!」

私は3年契約ですが、それでも長いと思うもの。

「そうですか。では王女の機嫌を取る為の、別の手段を考えないといけませんね」


しばらく腕を組んで、考え中のクリスさん。

考え込むイケメン・・・目の保養ですね。

中身が黒くさえなければお屋敷の女性達にもモテるんでしょうに・・・


「えっと、例えば?」

「そうですね、手っ取り早いのは『新しいお気に入りの侍女を用意する』事ですかね、他には『いっそ王女の記憶を消してみる』とか」

「それ、何の解決にもならないですよ!どうすれば仲直り出来るかを知りたいんですってば!」

「だから、私とシオン様はお役に立てません。」


むむむっ、いつもに増して、クリスさんが(かたく)なです。


「じゃあ、せめて王女様とお話出来る方を紹介して下さい!」

「・・・」


なんだか笑顔のクリスさん。・・・何か企んでる?


「リィナ、こういうのはどうでしょう?」

「?」

「リィナ自身が王女から話を聞けるように取り計らいましょう。ただし王女に”シオンの召喚者”だということがバレると、更に機嫌を損ねかねないので・・・」

そう言って、私を見てニーッコリ笑ったクリスさん・・・ああ、笑顔が黒い、真っ黒だ・・・

そして私は、クリスさんが告げた"策"に、まんまと嵌められてしまったのでした・・・



そして……



黒いクリスさん・・・略して“黒クリス”に嵌められた日から、1週間経ちました。


「リィナ、なに顔を顰めてるんですか?可愛い顔が台無しですよ。」

「・・・顔を顰めたい気分なんです!」

クリスさんに素敵な笑顔で褒めてもらっても、全く嬉しくないです。


「シオン様も、かわいいと思いますよね?このリィナ(・・・・・)

「・・・」

無言でコクンと頷く旦那様・・・うううっ、ジッと見ないでくださいっ!

旦那様の後ろでお腹を抱えてながら必死で笑い声を抑えているウィルさんと・・・青い顔でオロオロしているナンシーさん。

ああ、この場で私の心配をしてくれるのはナンシーさんだけみたいです。


「えーん、ナンシーさぁん」

「リィナ、ごめんね止められなくて・・・でもとてもかわいい。リィナって昔から童顔だったのね」

ナンシーさんに泣きながら抱きついたら、頭なでなでしてくれました。・・・なんか子供扱いです。まあ、仕方ありません、子供になって(・・・・・・)しまいましたから。


私はいま、推定年齢17歳にされています。

イタいっ、イタイよっ。中身三十路の外見17歳って!


ナンシーさんが以前17歳にされた時、大変そうだなーと思ってましたが、

どうやらこれ、見た目の変化だけでは無いようなんです。

さすがに骨格が変わることはないみたいですが、なんか、聴覚も若返る?体が軽いのは筋力も若返ってるから?なんか、自分の体なのに、すごい違和感が!


「リィナ、体の違和感はじきに消えるから」

「ううっ、なんか声も違いますぅ」

「本当ですね。17歳のリィナの声はいつもより少し高めでかわいいですね。年を取ると声が低くなると聞いたことがありますが、ホントだったんですねぇ。うん、こっちの方がかわいいですよ。」


さりげなく加齢を指摘しながらも、さっきから"かわいい"を連発するクリスさん・・・いやがらせ?いやがらせなの?

クリスさんを睨んでみました・・・が、


「涙目で上目遣いですか・・・誘ってますか?」

「!!誘ってません!!」

「ああよかった。私もさすがに17歳に手を出すのはちょっと・・・」

「17歳に見えないしな。」

「それはそうですよ旦那様、30歳のリィナだって、25歳位に見えるんですよ?17歳まで若返ったら・・・12歳位に・・・」

「ナンシーさんっ!なんてことを!」

「ぶくくくくくっ・・・ぐぐっ」

「・・・ウィルさん、もういっそ思いっきり笑ったらどうですか?そして殴らせてください」

・・・私、殺意を覚えてもいいですよね。


そんな私の殺意に気づいたのか、旦那様に頭をポンポンされました。


ポンポン

ポンポン

・・・なでなで

なでなで

なでなで



頭なでなで、ですか・・・完全に子ども扱いされてます。

うううううっ、なんとなく屈辱的・・・


「うぇーん、旦那様に子ども扱いされたー」

「子供だろう。この国では成人は18歳だ」

なんと!いまの私は推定未成年!

そして日本人は若く見えるのが完全に裏目に出てる!

なんてこと!


「どうして!どうして17歳にしたんですかっ!せめて、せめて22か23くらいならっ」

そうクリスさんに詰め寄ると・・・

「おもしろそうだったからです」

と言われました・・・ヒドイ


「リィナちゃん、まあ、若返るなんてこと日本じゃできないんだから、得した!って思っておきなよ」

「私は年相応の落ち着きと貫禄で充分です!必要以上に若返りたくはありません」

「頭固いなー。努力しないで若作りできたんだから、それでいいじゃん」


まあ、それは、そうかもしれません。

年齢を重ねるごとに、化粧品も下着も、どんどん補正効果のあるものが必要になっていきます。

しみ・しわ対策、引き上げ効果・・・など。

鏡を見た限りでは、お肌ツヤツヤです。

それはいいんです、それは。問題は・・・


「だからっ、旦那様っ頭なでるのヤメてくださいっ」

「リィナ、今日は私と一緒に寝ましょ?」

「ナンシーさん!?イヤですっ!・・・ちょっとクリスさん!何してるんですか!腰の太さなんて変わりませんから!」


身長185cm超の男性3人と、170cm超のナンシーさんに囲まれている私は、身長が縮んだ訳でもないのに、おもちゃにされています・・・もうイヤーーー



「まあ、でもこれで、リィナの望んだ通りに王女の側に潜り込めますよ?」

「それは・・・そうですけど、」

「侍女に推薦してやろう。私の紹介状があれば、問題ないはずだ」

「旦那様・・・それはぜひお願いしたいですけど、」

「リィナ、いっそのこと、私の妹っていうことでどう?」

「ナンシー、それは無理があるだろう。父上がその頃他所に子供を作れたとは・・・」

「うーん、じゃあ、お兄様の隠し子でどう?」

「18の時の子か?・・・無理ではないけど」

「いえ、無理です!やめてください!ウィルさんをパパとは呼びたくありません!」


大体、容姿が全く似てないでしょうが!





******************************





結局、ウィルさん(ウィルさんは侯爵様だったんですって。騎士団長してて領地経営は大丈夫なのか?)が後見をしている、どこぞの令嬢という設定で落ち着きました・・・


ウィルさんの後見 → つまりナンシーとも親しい → ナンシーは公爵家勤務 → 旦那様ともが面識が出来た → 紹介状作ってもらえた

という図式らしいです。これで私の素性を詮索する者は居ないでしょうとのこと。


「でも、わたし言葉が片言ですよね。イントネーションで異世界人ってバレバレじゃないですか?」

「なら、異世界生活が長かったとしておきましょう。こちらの貴族でも、異世界に移住して仕事をしている人は結構いますからね」


クリスさんの提案で、リィナの設定が決まりました・・・

明日から、王宮勤務です・・・




************************************


※※※ そして、王宮 ※※※


「なるほど。事情は分かりました。私達もエリーゼと姫様の事は、頭を悩ませていたのです。」

侍女頭のバーバラさんは、そう言ってからため息を一つつきました

バーバラさんの隣には、エリーゼが座っています。

「……来てくれてありがとう、リィナ。」

「……ええ、まあ」

「それにしても、シオン様とクリス様が、なぜエリーゼの為にそこまでして下さるんです?」

侍女頭様は、いままでエリーゼと全く接点のない二人を、いぶかしんでいます。

「いや、私は17歳のリィナが見たかっただけですよ」

・・・クリスさん、後でなぐっていいですか。

「私はその……召喚者(リィナ)の頼みだから」

「私は17歳してなんて、頼んでませんけど!?」

「いや、それは、ク、クリスが勝手に・・・?」

「シオン、人の所為にするのはやめなさい」

「・・・」


ちなみに今の状況を説明いたしますと。

ここは、王宮の侍女頭様の私室です。

2人掛けのソファに座っているバーバラさんとエリーゼさん。

3人掛けのソファーに座っているクリスさんと私と旦那様。

ただいま向かい合って、作戦会議中!


旦那様(おとうと)に教育的指導をしたクリスさんは、時間がもったいないとばかりにバーバラさんと話を積めていきます。

「リィナには一通り、侍女としての礼儀作法を教えてあります。つたないところはフォローしてもらえますか?」

「ええもちろん。それに、礼儀作法はキーラが教えたのでしょう?自信を持って大丈夫よ、リィナ」

「あ、ありがとうございます。」

「それと、リィナがシオンの召喚者だということはーー」

「ええ、隠したほうがいいでしょう。私とエリーゼの他には・・・そうね、第一侍女にだけは伝えておきましょう。それと、リィナの呼び名も変えたほうが無難ですわね。」

名前、名前かぁ・・・呼び名がまた変わるのかぁ。


「アンジェリーナだ」

「はい?」

「ウィルに後見人の届けを作らせ(・・・)た。アンジェリーナと登録しておいたそうだ」

作らせたって、偽造ですか・・・・・・さすが王子様連合軍。


「なるほど、アンジェリーナならリーナでもアンジェでもアンジーでも、色々呼ばれてても不思議じゃないかも」

ふんふん、と感心していると・・・

「髪と目の色も変えたほうがいいのでは?」

と、バーバラさん。

「なるほど。リィナの髪色だと・・・いっそ黒くしてしまうのが無難ですかね」

と、クリスさん。

「そうだな。薄い色にすると、生え際が目立つだろう。真っ黒にしたほうがいいかもな」

えっと、旦那様・・・?

なんか皆さんずいぶん乗り気ですね?

「目の色はどうしましょう・・・黒髪で違和感が無いとなると、どう思います?シオン」

「・・・青はどうだ?深い青なら、黒髪に合うんじゃないか?」

「では、さっそくそろえましょう。エリーゼ、頭髪の染色剤と、カラーコンタクトを準備して」

「はい、バーバラ様。」


あの、私の意見は・・・



そして、有無を言わさず『黒髪に藍色の瞳のアンジェリーナ』が出来上がったのでした・・・













ある夜のお屋敷・・・


「リィナ、淑女の礼はきちんと練習しておくように言いましたよね?」

「すみませんキーラさん」

「さあ、もう一度!」

「う・・・く」

「うめき声を上げない!自然にできるようになるまで、食事抜きです!」

「・・・旦那様ぁ」

「リィナ、淑女の礼が出来ないと、王宮は難しいぞ」

「・・・クリスさぁん」

「逆に、なぜ出来ないのかが不思議なんですけど・・・」

「ほらリィナ、早くしなさい」


侍女レッスンは、王宮へ行く前日まで続いたのでした。


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