表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/142

4 この屋敷の事

食べ終わると、また、書類をいくつか書くように渡された。

制服(お仕着せというらしい)を作るために、服のサイズや靴のサイズ、頭の大きさ(帽子を作るらしい)まで、細かく書いた。


その間、クリスさんは私の書いた『身上書』のようなものを見ながら、いくつか質問をしてくる。


「木村莉奈さん、29才・・・ああ、来月お誕生日ですか。」

「ええ、まあ」

"30才ですね"とクリスさんはつぶやく。


「ご両親やご兄弟と苗字が違いますが・・・莉奈さんは、ご結婚をされているのですか?」

「いえ、未婚です。"木村"は、母の旧姓です。」

母が一人っ子だったため、跡取りがいなくなった祖父母の家に、ちょうど10年前、私が養子に入ることになったのだ。


「そうですか。」

"未婚ですね"とクリスさんがつぶやく。

・・・・なんか、あえて『30才・未婚』とつぶやかれると、居心地が悪くなる・・・

せっかくこちらからは聞きづらい、年齢の話を振られたので、私も質問返しをしてみることにした。


「クリスさんは、おいくつなんですか?」

「私ですか? 私も今年で30才ですよ、莉奈さんと同い年ですね。」

「旦那様は?」

「シオン様は、20才です。」


・・・やっぱり、あの茶髪君は若いんだ。


「ここで働いている人たちの年齢層は?」

「執事長は50才を過ぎてますね。侍従達は30から40代、メイド長は40代(なか)ばくらいです。あとは、莉奈さんと一緒に働くメイドたちは、20代から30代ですね。」


ひょっとして、旦那様(シオン)が一番年下なのかな・・・


「この屋敷は、平均年齢が低いですよ。旦那様が若いからというのもありますが」

「はあ」そうですか。。。


「あちらでは、銀行にお勤めだったのですね」

「はい。」

「じゃあ、帳簿をつけたりもできますか?」

「まあ、できると思いますけど」

「・・・ちなみに、資産管理とかもできますか?」

「できるとは思いますけど・・・あちらの世界の事しかわかりませんよ」

"それはそうですね"と言って、クリスさんは微笑む。



「莉奈さんの仕事は、メイド長に指導してもらいます。でもその前に・・・」

そういって、クリスさんは 私の前に何冊()本をつんでいく。


「私が、これから1ヶ月間、こちらの世界の言葉の習得と、生活に関する指導をいたします」


頑張りましょうね。と言ったクリスさんの笑顔が・・・



なんだかわからないけど、引っかかった。



***********************************************


「まず、部屋に案内いたしましょう」


クリスさんについていくと、8畳くらいの広さの部屋に通された。


「これから1ヶ月は、こちらを使ってください。」

ベッド、ソファー、机と椅子、クローゼットが置いてある。

客間というわけではなくて、客付の使用人用に用意してある部屋らしい。


「メイドは基本、2人から3人の相部屋なのですが、言葉がわからないうちに相部屋では、お互いストレスがたまるでしょうしね」


"だから、はやく覚えてくださいね"

と言外に言われているんだろうな。これは。


「この屋敷で、莉奈さんの言葉・・・日本語を話せるのは、私と旦那(シオン)様だけです。執事長とメイド長は、英語なら話せます。莉奈さん、語学は?」

「英語は大丈夫です。」

「そうですか、それはよかった。では早速、メイド長を呼びましょう」


*********************************************


数分後・・・というか、1分もたたずに、メイド長がやってきた。

"速っ"

しかも、クリスさんはベルを鳴らしただけ・・・

ベルの音を聞きつけて、ここまでやって来たのだろうか???


そして、メイド長の服装は、当たり前だけど、メイド服だった。

"およびでしょうか、クリスさん"

というようなことをしゃべっているんだろうな---頑張って語学勉強しなきゃ。

『彼女に、生活上必要なことを、説明していただけますか』

クリスさん、英語めちゃくちゃ流暢ですね!!!というか、日本語もペラペラだしね。

家令ともなると、語学は必須だったりするのだろうか???


メイド長は私を上から下まで眺めると、クリスさんの方にまた何やら言っている・・・言葉全くわかんないなあ、わたし覚えられるかな・・・不安。


なんだか会話をしながら、クリスさんが苦笑しています。なに話してるんだろ・・・


クリスさんとメイド長の会話が終わると、メイド長は私に話しかけてきた。


『わたくしは、メイド長のキーラといいます。あなたの上司です。』

『あっ、はいっ! リナと申します。宜しくお願いいたします?』

最後が『?』になったのは、許してほしい・・・


『まず、その服を着替えましょう』

『えっ、は、はい・・・?』

メイド長は、なんか眉間に皺を寄せて、難しげな顔をしている。

なんか、まずかったのかな。

私がいま着ているのは、銀行の制服。白とピンクのストライプのブラウスに、同布のリボン、紺のベストと膝上丈のタイトスカート、肌色のストッキングに黒のナースシューズ・・・つまり、よくある事務服ですが。


メイド長は、部屋のクローゼットを開けると、ロングのワンピースを選んだ。


『この国では、女性が膝まで足をさらすことは、ほとんどありません。その為、足をさらすことは、性的アピールの意味合いが強いのです。異世界事情に詳しい旦那様やクリスさんはともかく、他の使用人の目がありますので、こちらに着替えてください』

『そっ、そうなんですねっ。わかりました!すぐ着替えます』


足をさらしているつもりはなかったんだけど・・・ストッキングも履いてるし。

でもみんなが隠している足を、自分だけが出しているなんて、きっと・・・じろじろ見られるっっ


・・・想像するだけで恥ずかしい


二人に部屋から出て行ってもらい、私は急いでワンピースに着替えはじめた


*****************************************

そのころ、廊下では・・・


閉まったドアの前で、小さく"チッ"とクリスが舌打ちする

それを聞いたメイド長は、気づかれないようにため息をつきながらクリスを見る

"私を呼ぶ前に、着替えさせておくことも出来たでしょうに・・・"

決して言葉には出さないが、心の中でつぶやく。


メイド長は、クリスの性癖は知らないが、若い娘たち(メイド)が噂話をしていたのは知っている

彼女たち曰く、クリスは足フェチらしい・・・

おそらくわざと、着替えさせなかったのだろう。


・・・この、年若い家令は、時々、キーラには理解できない発想をするのだ。


"少し言葉を交わしただけでも、素直そうな印象の女性だった。年は25才位かしら・・・?"


まだ扉をにらんでいるクリスを見て、異世界から来て早々、この屋敷で一番"厄介な男"に気に入られた彼女に、少し同情したメイド長だった。



*****************************************

部屋の中では・・・



ワンピースは、なんというか・・・フリーサイズだった。

ウエストはゴム、襟はリボンを絞って結ぶようになっており、胸元の布も充分余裕がある。

袖もユッタリ作ってあり、手首もゴムだった。


どんな体型の人が召還されてもいいように、用意してあったのかしら。


ネイビーのシンプルなワンピース。丈はふくらはぎが半分隠れるくらい。


そして、小花柄。


莉奈の身長は165センチ。

太っているわけではないが、胸があるため、華奢には見えない。


まして、30才近くなってきた今日この頃、代謝が落ちてきたのか、体が丸みを帯びてきた・・・


正直、長身に小花柄は太って見える。色がネイビーなだけ、まだましではあるが・・・

ついでに、クローゼットの中を確認する。似たような服が色違いで何着かあった。


なぜ小花柄ばかり???


服を用意しておいてもらって、ありがたいと思う。たとえ自分の好みじゃないからって、文句なんか言えません。


とりあえず、今脱いだ制服を、クローゼットにしまった。

"お給料がでたら・・・服を買いに行こう。"

何気に、そんなことを決意した。



着替え終わって、ふと、静かな部屋で、一人で居ることに気づく。


知らない部屋

知らない言葉

窓の外には知らない町並み・・・


なんだか、今頃になって、怖くなってきた。


仕事がめちゃくちゃ忙しかったから、きっと脳内ホルモンが・・・アドレナリンだかドーパミンだか、そんなやつが出ていたのだろう。つまり、さっきまでは軽い興奮状態だったのかもしれない。


どうしよう。

知らない世界で、メイドって。


だんだん不安になってきて、意味も無く部屋を歩き回ったが、何の解決策にもならないことに気づき・・・


莉奈は、あきらめて、ドアを開けた。



************************************************


「お待たせいたしました」

あっ、英語のほうが良かったかな

とりあえず、英語で言い直すと、クリスさんは"良く出来ました"とでも言うように、笑顔でうなずいてくれた。


『大丈夫ですよ。では、メイド長、莉奈さんに、とりあえず生活に必要なことの説明をお願いできますか』

『かしこまりました。では、リナさん・・・』

『あっ、リナで結構です』だって、上司だし。

『使用人の屋敷での呼称は、旦那様がお決めになりますので、それまではリナさんと呼ばせていただきます』


びっくりだ。使用人の呼び方を主人が決めるの???


『ではリナさん、まずはトイレ、バス、洗面所の使い方を説明します』


・・・なるほど、これは教わっておかないと大変だ・・・


丁寧に説明してくれるメイド長に着いていき屋敷内をまわりながら、必死に覚える。

トイレは、それほど違いはないが、風呂は違った。というか、湯船は無かった。


日本人としては、悲しいです・・・


洗面所の説明の最中、クリスさんを締め出して、生理用品や避妊具の説明を受けた。


生理用品はともかく、避妊具ってどうなのよ・・・

と思っていたら、こちらでの一般的なムダ毛の処理方法や、肌と髪のお手入れ方法、さっきのスカート丈のような"してはいけない服装"や"異性の前でしてはいけない言動"なども教えてくれる。


とてもありがたいのですが・・・メモしたいです。一度に覚えられません。

忘れたころに、なんかやらかしそうな気がします


そのあとも、洗濯物について(どこで洗って、どこで乾かすか)とか、飲食について(のどが渇いたらとか)、とにかく一通り、屋敷の中の事を説明してもらい終わり、グッタリしたところで、メイド長が言った。


『これから、挨拶とお辞儀の仕方をお教えします。これから1ヶ月間でしっかり習得してください。』

"できないと、メイド失格です。"


・・・この人、鬼かも。鬼教官だ---


そして私は、普段使わない筋肉(腹筋と背筋、あと太腿も痛い)を使った、美しい"淑女の礼"を教わることになった。


だんだんプルプルしてきた私を、クリスさんが支えてくれる。


背筋が曲がっていますか? すみません。・・・あの、そんなに背中、なでないでくれませんか。

それと、腰に手を置く必要は、ないと思いますが・・・いえ、なんでもないです。


なんでメイドが"淑女の礼"って思う。だって、屋敷で旦那様にする"礼"は、なんか、普通に直立で立って、手を前で合わせて、お辞儀をするだけなんだよ!!!

使用人同士は、基本は"会釈"でいいって言うし---


どうしてこの"淑女の礼"が必要なの?


私のこの疑問は、しばらく後に、理由がわかる。

メイド長の鬼のしごきを感謝することになろうとは、この時はまだ思いもよらなかった。


そして、今日のレッスン(しごき)が終わった頃





旦那様が、帰ってきた。



『足』エピソードは、当分出てきませんので、メイド長視点にて載せてみました。

ボディータッチは、ただのイタズラです。たぶん。


シオンの呼称が、シオン様と旦那様と、両方混ざっていて、読みずらいかもしれません。まとめて改定しますので、しばらくお付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ