44 ピクニックは中庭で
『』内は日本語です
『リィナ!こっちこっち』
『タクトさん!よかった、見つけてくれて』
私はいま王宮に来ています。今日は前庭の一般開放日。
まあ、開放日と言っても、誰でも入れるわけではなく、王宮勤めしている方たちの身内に解放しているんです。
私はタクトさんが許可を取ってくれて、入場出来たんですよ。
そして入場門を入ったところで待ち合わせ……ということだったんですが、ものすごい混雑で!
渋谷のハチ公前よりも人が多いですよ!
こんなところで待ち合わせなんて、なんて無謀な!
『ごめんね、俺もまさかこんなに混んでるとは思わなくて』
タクトさん、苦笑いしながら謝ってくれました。
『いつもはこんなに混んでないんだけどな……あ、荷物持つよ』
『ありがとうございます。実はたくさん作りすぎて、ちょっと重かったんです。』
『こっちこそありがとう。庭園の中にベンチがあるから、そこに行こう』
そう言ってタクトさんは右手にランチバッグを、左手には私の手を……って、いくら混んでるからって、さすがに迷子にはならないと思うのですが?
ともかく、人混みをすり抜けて庭園の入口まで来ました。案内図をざっと見てから、入口のゲートをくぐります。
・・・ハンパ無く広いです。
真ん中に噴水。
噴水を取り囲むように生垣がある。
その向こうは少し斜面になっていて、花時計が見える。
噴水の右手側は薔薇園、奥には温室もあるみたいです。
『はぁ~、広いですね~』
『噴水の周りにベンチがあるんだ・・・けど』
・・・遠目で見るからに、一杯です。
『一応、行ってみます?』
『普段はこんなに混んでないんだけどな・・・温室の向こうに芝生があるから、そこにレジャーシートで直座りでもいいかな?』
もちろんいいですよ、ピクニックだし。
そんなわけで、庭園をぶらぶらしながら、芝生のエリアまで来ました。
東翼の建物がすぐ側にあり、中庭っぽい感じです。
『タクトさん、ここ中庭ですか?私が入っても大丈夫?』
『大丈夫だよ、ほら、あっちに一般の人も居るし』
建物側以外の芝生をぐるっと囲むように、動物のトピアリーがいくつかあります。
どうやら、それらを見学に来ている人たちが居るようですね。
『この東翼の庭園は、騎士団が管理してるんだよ』
『そうなんですか~』
手入れも騎士さんがしてるのかな?
あそこにある、クマさんとかゾウさんのトピアリーとか・・・
・・・騎士さん達が、剣を使って剪定している姿を想像してしまいました。フプッ。
『リィナ、なんか変なこと考えてるだろ?・・・庭師はちゃんといるからね?』
あ、やっぱりそうですよね。
噴水や薔薇園付近をぶらぶらしながら来たので、すっかり昼時です。
芝生の中央では、ボールで遊んでいる人たちがいます。10代位かな?若い子達です。
『タクトさん、あの子達も騎士さんですか?』
『うん。まだ見習いの子達だけどね』
タクトさんとレジャーシートを敷きながら、そんなことを話します。
二人でシートの上に座り、ランチボックスを取り出します。
お重とかあったら良かったんですが、さすがにお重はありませんでした。
なので、容器がたくさんになってしまったんです。
容器を蓋を開けていたタクトさんがビックリしたようで、一言・・・
『・・・すげぇ』
『ふふっ、頑張ったんですよ。ちょっと作り過ぎましたけど。あ、これ厚焼き玉子です。』
『・・・』
無言ですか・・・まあ、顔を見る限り、相当喜んでいるみたいなので、良しとしましょう。
お絞りを出して手渡すと、またビックリされました。
こう見えて、女子力は高いんです・・・もう30才ですから。
『『いただきます』』
合わせた訳でもないのにハモッてしまって、二人で笑ってしまいました。
あ、ちなみにタクトさんに会ってからずっと日本語しか使ってません。
こちらの言葉で「いただきます」って、聞いたことないなー
『そうだね。「じゃあ、いただきましょうか」みたいな言い方はするけど、日本語の"いただきます"は無いかもね』
『やっぱり言葉も欧米チックなんですね』
二人で玉子焼きを食べながら、そんな会話をします。
『そうそう、ご飯をおにぎりにするか、白米そのままにするか、すごく悩んだんですよ』
『リィナ、白米で正解。』
そう言って、おかずと一緒にご飯をかきこむタクトさん。
おにぎりの良い点は冷たくなっても美味しいところですが、この国にはすごく良い保温容器があるんです。
これ、日本に持って帰りたいなー。
『この煮込みハンバーク、すごくウマイ!』
そうですか、よかったです。
そうそう、わかめのお味噌汁ありますよ?飲みます?
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しばらく和やかに食事を続けていたら、ボール遊びしてた見習い騎士たちがタクトさんの背後から3人近づいてきました。
「あれ?タクト先生?」
「なにやってんすか?」
「ああ!!女性と居る!!カノジョっすか!!」
ええっと・・・
「タクトさん、先生なんですか?」
「剣道のね・・・おい、お前達この人は」
タクトさんが私の紹介をしてくれようとしましたが・・・無理だったようです。
タクトさんの言葉を遮って、3バカ・・・いえ、3サル・・・いやいや、3人の見習い騎士が早口でまくし立てます
「よかった、タクト先生やっと彼女出来たんっすねー」
「ほんと、召喚されてからずっと女っ気ないっていうから、みんな心配してたんですよ」
「彼女さん、召喚者ですよね?お名前は?」
「リィナですけど・・・あの、わたし」
「リィナさんですか。先生は本当に真面目な男なので、安心ですよ」
「うん、強いしな!」
「殿下に振り回されてるから、浮気の心配もないですよ」
「本当に、お買い得ですよー」
ハハハハハハハハハハハ
楽しげに大笑いしている3人。
うん。こいつらバカだ。確定だ。
「いいかげんにしろ!」
「わたし、彼女じゃありません」
「彼女は俺と同郷の召喚者で」
「今日は、故郷の料理を作ってきたんです」
代わる代わるそう言うと、3騎士・・・もとい、3バカは「えーー」とつまらなさそうにします
・・・というか、面白がってたね?君たち?
「・・・じゃあ、彼女じゃないなら、俺らにもご馳走してください」
「あ、俺も食べたい」
「・・・うまそう」
何が"じゃあ"なのか分かりませんが、まあ、たくさんあるし、いいでしょう。
「なんか、本当ゴメン、リィナ」
「まあ、お口に合うかは分かりませんけどね。」
だって、日本食ですからね。
「これ、なんですか?」
「茶色い・・・」
「お前ら、切り干し大根と肉じゃがをバカにするな!というか、食うな!」
「えっ、まっ、まってくださいよー」
「聞いただけじゃないですかー。これは?クッキーですよね?フライドチキンですか?」
「・・・もぐもぐもぐ・・・これ、なんすか?」
「ああ、『エビチリ』ですよ。タクトさん、はい、緑茶。」
「ありがとう」
「『エビチリ』って、なんすか?」
「ミュリをチリソースという甘辛いソースで炒めたものだ。リィナ、この『ロールキャベツ』も本当にウマイよ」
「そうですか、よかったです」
ウマイウマイと言って、みんなガツガツ食べてくれてます。頑張って作った甲斐がありました。
「あー、食堂で飯食ってこなければ、もっと食えたのに」
「ええ!?2食目だったんですか!」
「いいんっす、午後から剣と槍の練習があるんっす」
「しっかり食っておかないと、バテますから」
「剣と槍ですかー。」
「リィナは本物の剣とか見たこと無いよね。俺もこっちに来て始めて見たんだよ」
「見たことないんすか?見ますか?」
そう言って、1猿・・・いや1バカが走って建物に入っていきました。
いや、べつに見なくてもいいんだけど・・・きっと、見せたいんだろうな。男子ってそういうところあるよね。
走って戻ってきたその手には2本の剣と2本の槍。
「先生、腹ごなししましょうよ!」
「いや、俺まだ食ってる最中だから・・・」
「えー、じゃあ食い終わったら参加してくださいよー」
そう言って、3バカは準備運動をはじめます。
今日は一般開放日ということで、チラホラ居た一般の人たちも、準備運動を始めた見習い君達を見て、遠巻きに見学する気満々です。
「俺、参加しなきゃだめかな・・・」
タクトさんはやる気なさそうです・・・まあ、気持ちは分かります。
どうやら、ピクニックは急遽、騎士団の演習会になりそうです。
次回、戦闘(の演習)シーン?です。
旦那様出るかな?




