42 交流してみよう
食事を終えてカフェに戻って来ました。
さっきまで座っていた王宮組4人の居るテーブルの席は現在満員のようですので、私とタクトさんは「日の丸」の旗を作成し、別のテーブルに移りました。ふふっ、ここは日本語ゾーンですよー。
タクトさんは、しばらく日本人召喚者が自分だけだった為、日本語に飢えていたみたいです。
そういえば、私は旦那様もクリスさんも日本語を話せるので、ずいぶん恵まれていたのかも?みたいな。
『そうだ、タクトさん。お名前ちゃんと聞いてもいいですか?』
『もちろん。』
そういってタクトさんは、紙に漢字で名前を書いてくれました。
"植村拓斗"
なるほど、ウエムラ タクトさんというのですね。タクトというのは本名でしたか。
私も漢字氏名を書いて、タクトさんに渡します。
『リィナは、木村莉奈さんっていうのか。莉奈とリィナじゃ、あまり変わらないね。』
『そうなんですよ。なぜ本名じゃいけないんでしょうかね?』
『うーん、たぶん安全の為だとは思うけど』
『・・・安全の為なのに、タクトさんは本名なんですか?』
『うん。俺の場合も、安全の為かな』
よくわかりません。
首を傾げていたら、くすっと笑われました。なぜ?首を傾げたからですか?
『俺は、騎士だからさ。危険が迫った時とか、とっさに名前を呼ばれた時に偽名だと、反応が遅れることがあるかもしれないし?』
『ああー!なるほど、なんか分かりますっ。私も似たような経験があります!』
酔っ払いが自転車を蛇行運転していて、前に居た男性にぶつかりそうになったんです。とっさに"あぶない"って言ったんですが、その男性は外国人だったようで、通じなかったんですよ。
『・・・俺もこっちの言葉で"あぶない"って言われたら、とっさに反応できない可能性はあるなぁ。うん、名前を呼んでもらおう。』
『・・・で?なんで私は本名じゃいけないんですかね』
『・・・』
やっぱり、謎です。
しばらく日本語で雑談しました。
最近の日本の事・・・主にタクトさんがこちらに来た3年前から私がこちらに来るまでにお流行った物とか。
『俺さー、あのドラマの最終回を見ずに、こっちに来たんだよね』
『ミステリーの最終回見ずにって、気になりますよね・・・犯人、知りたいですか?』
『うーん、すでに話の内容がおぼろげだから、犯人だけ教わるのってどうだろう。でも帰ってからDVD見るほどでもないし・・・』
『確かに。見直すほどのドラマではなかったような』
『きっと帰る頃には、どうでも良くなってる気もするなー』
『そうですね。5年も経てばね。私は小説の続きが気になります。きっともう新刊が出てると思うんです』
『あ、本なら輸入できるよ。・・・まあ、日本で買うより割高になるけど』
『割高な本をこちらで買うか、帰ってからまとめて買って読むか?・・・なんかそれも帰る頃にはどうでも良くなってそうですね』
・・・なんか、話題が暗くなってきましたね
『と、ところで、日本のものを輸入することが可能なんですか?』
『あ、ああ、うん。自分で手続きを取ると結構面倒くさいけどね。あとは、ぼったくり覚悟で輸入業者に頼むか。』
『ぼったくりは、ちょっと・・・食品とかも輸入できますか?』
『食材?生ものは個人輸入禁止だったと思うけど?』
『ううん、生ものではなく、調味料が欲しいんです。味噌とか醤油とか味醂とか。』
『あー、そういうものなら輸入食品を専門に扱う店があるから、行ってみるといいよ。俺はたまにカップラーメンを買いに行くんだ。・・・なんか、無性に食べたくなるときがあるんだよね、あれ。』
ふふっ、なんか分かります。
そんな話をつらつらしつつ、お茶を入れつつ---------紅茶を入れている時にユージーンさんが覗きに来たり---------王宮組のテーブルに戻ってみたりと、気づいたら、ずいぶん時間が経っていました。
いまカフェに居るのはセリーヌさん、ユージーンさん、タクトさん、私の4人。
カランコロン
ドアペルが鳴りました。こんな時間からお客様ですかね?と思って、みんなでドアのほうを見て・・・
ピシ
全員、固まりました。
なぜかって?
「リィナ、迎えに来たぞ」
「・・・なんで、旦那様が」
「えっと・・・他に手の空いてる奴が居なかったからだ。」
"そんなわけねぇだろ"
という、全員の視線をスルーする旦那様。
全員、王宮勤務ですからね。王子様を見ても取り乱したりはしないようです。
「リィナ、大事にされてるわねぇ」
セリーヌさん、場にそぐわない感想はヤメテクダサイ。
そして・・・
「リィナ」
「はいっ」
***********************************
私はいま、紅茶を入れています・・・旦那様に。
なぜか迎えに来てくれたはずの旦那様が、紅茶を御所望だったので・・・迎えに来たんですよね?お茶しに来た訳じゃありませんよね?
そして、テーブルではユージーンさんが、旦那様に直談判しています。
「お願いです。クリスさんに紅茶の入れ方を教わりたいんです」
「・・・私が許可を出すことか?それ?」
「無理そうなら、リィナに教わりたいです。」
「・・・リィナがクリスから教わってるのは、"私の好みに合うお茶のいれ方"だろう?義父上の好みとは違うんじゃないか?」
「え?」
ユージーンさん、ビックリしてます。
「義父上は、たしか猫舌だから。義父上がクリスを褒めていたというなら、なにかオリジナルのいれ方だろうし。」
「・・・クリスさんに教えてもらえるか、聞くだけ聞いてみてあげたらどうですか?」
旦那様に紅茶を出しながらそう言ってみたら、「まあ、聞くだけなら」とのお答えでした。
「リィナ」
「はい」
うっ・・・いやな予感
「・・・60点」
そうなんです。旦那様に紅茶を出すと、採点されるんです。
ちなみに今までの最高点は80点・・・最低点は30点。
「まあ、この設備でいれたにしては、合格だな」
「!・・・ありがとうございますっ」
あら?めずらしく褒められました!うふふ。
「部屋に戻ったら、やり直し」
「・・・はい。」
合格でもやり直すんですね、分かりました。
「さて、帰るぞリィナ」
「はい。ところで旦那様、ここまで歩いて来たんですか?」
「いや、馬車で来た。」
「ここに居る皆さん王宮勤務の方々なんですが、全員乗れますかね?」
「「「え?」」」
「・・・詰めれば座れるかもしれんが・・・?それか1人、御者台に乗れば」
「「「いえ公爵、私達は歩いて帰りますからっ」」」
皆さんあわてて断ってますが、ウチの旦那様、いい子なので。
「かまわない。どうせ王宮に戻るんだ。乗っていくといい」
ほーらね。
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結局、「シオン様に狭い思いをさせるわけにはいきません」という皆さんの意見が一致したため、馬車の中にはセリーヌさんとユージーンさん。御者台にタクトさんが座りました。
タクトさん曰く、"偉い人と同席はちょっと"だそうです。
そうでした、旦那様は騎士団の偉い人だったんですよねぇ。
「そうか、言ってなかったか」
「はい。今日初めて知りました」
「お前が作ってた会議用の書類が、全部騎士団関係の物だったんだが・・・」
「・・・内容まで把握してません」
会話できるようになるのと、文章を読んで理解するのとでは、習得具合が違うんですっ。
・・・まだまだ勉強が必要なようです。
「ところで、旦那様。今日は晩餐会では?のんびりしていていいのですか?」
「・・・」
あれ?眉間の皺が出ましたよ?
「ひょっとして・・・行きたく無いんですか?」
「・・・」
皺が深くなりましたね。行きたくないんですね。
「・・・行かなくても平気なんですか?」
「・・・」
「無言、という事は平気ではないんですね?なんで行きたくないんですか?」
「・・・王太子が帰ってきたからだ」
「王太子様?」
義弟さんですよね・・・仲が悪いんでしょうか?
まさか王位をめぐって、泥沼の・・・
「リィナ、お前が考えてるような理由ではないから、安心しろ」
ちょっと呆れた目で見られました。
おかしいな、声には出してないのに。なぜ考えてる事がバレたんでしょう。
セリーヌさんとユージーンさんは、必死で笑いを抑えているようです。
「リィナ、王太子様はとてもシオン様がお好きなのよ」
セリーヌさんがにっこり笑ってそう教えてくれました。
「・・・あのバカが勝手に懐いてくるだけだ」
ほーう、つまり・・・
お兄ちゃん大好きーってことなんですかね?なーんだ。
旦那様だってお兄ちゃんのことだい・・・
「リィナ、それ以上考えたら怒るぞ」
あら?また考えを読まれたみたいです。
でも怒るって事は、ホントの事・・・
「リィナ!」
・・・はーい。
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王宮に着きました。
3人とはここでお別れです。
「じゃあリィナ、またね」
「はい、セリーヌさん。ユージーンさんも。」
「ああ、また」
「リィナ、さっきの件だけど・・・」
タクトさんがそう聞いてきます。あの昼食後の話の件ですよね。
「はい!大丈夫です。連絡しますね!」
「うん、まってるよ。よろしく」
「はい、じゃあまた」
手を振ってみんなとお別れします。ああ、今日は楽しかったなー
私と旦那様はこのまま馬車で、主居棟の側まで行けるそうです。
なんでも、主居棟まで馬車で行けるのは王族の馬車のみだそうです。
馬車を降りたらクリスさんが居ました・・・仁王立ちで☆
「遅いっ!!!」
笑顔のクリスさんに怒られる旦那様。
だって、お茶とか飲んでましたからねー、カフェで。
「お前、まさかと思うが晩餐会から逃げるつもりだったのか?」
「いや、そんなことは」
「だったら早く、き・が・え・ろ!」
旦那様の首根っこを掴んで引っ張っていくクリスさん・・・あのー、私は?
「ああ、リィナ。そこの騎士に部屋まで送ってもらって下さい。それと、3時間程で戻りますから、お茶の用意をしておいて下さい。」
「はい。分かりました」
・・・旦那様、王太子様と仲良くねー。
さて。
あ、どうも。はじめまして、リィナと申します。部屋までお願いしますね、騎士さん。
そして、晩餐会後に、たいそう疲れた様子の旦那様は、蜂蜜入りのミルクティーをご所望になりました。
タイトルの交流は、旦那様との交流でした。
たぶん、シオン君は彼らと話をするのは初めてだったはず。
そして、カフェの中は律儀に英語わ話していたはず・・・いい子だから(笑)
蜂蜜入りミルクティーは80点でした。
王族(男4人+お姫様)の手巻き寿司パーティーは、裏で書こうかな。もちろんRシーンはありません!




