37 異世界カフェに行こう
「おはようございます、アベルさん」
「リィナさん、おはようございます」
「よし、じゃあ行くか」
酢飯騒動(?)の翌日です。良い天気です。雲はあるけど空は青い・・・綺麗なスカイブルーですねぇ。
ここは王宮の使用人用の通用口です。
これから、異世界カフェに向かいます。
メンバーは私とアベルさんと護衛のウィルさんです。
昨日、あの騒動の後に、クリスさんが滞在証明書をくれました。この証明書で王宮に出入り可能なんですって。
期限が昨日から10日間になってるんですけど、まさか10日間まるまる王宮に拘束されませんよね!?って聞いたら、再交付が面倒だから、余裕を持って申請したんですって。ホッ。
そしてクリスさんに昨日の『旦那様の思考を誘導した件』を怒られました。
思考を誘導なんて大げさなっ!と文句を言ったら、クリスさん曰く『罪悪感を煽って自分に有利に話しを進めただろう』と怒られました。
「シオンはまだ、無邪気に駆け引きをしてくる女性をかわせるほど、精神的に成熟してないんです」
「そんなことじゃ、手練手管を使ってくる輩がいたら、困りませんか?」
「困ります」
キッパリと言い切りましたね家令様。
「貴女に悪意が無いのは分かってますから、ちょっとした訓練とでも思って静観していましたが・・・少しやりすぎです」
「そうですか?」
「そうです。シオンも馬鹿じゃないので、あの後、誘導されたことに気づいていましたよ。でもね」
クリスさんの話では、私が言った『召喚先が公爵家で良かった』が、なぜか旦那様の頭の中で『公爵家に召喚されてよかった』に変換されてしまっていたとの事。
うーん、ただの"嬉しがらせ"として言っただけで、『召喚されて良かった』わけでは無いですよ。帰れないから諦めて頑張って働いているだけで。
それ訂正しておいて下さい、とクリスさんに言ったところ「ええ。しっかり現状認識させておきましたから」と黒い笑顔で言われました・・・旦那様、きっとクリスさんに苛められたんですね。
「とにかく、罪悪感があるところに『みなさん良い人』と連発したり『公爵家で良かった』だの・・・なんですか?シオンの気でも惹いているんですか?」
「め、めっそうも無い!!私が皆さんに良くしていただいているのは事実です!ただの事実報告です!」
「そうですよね。それを聞いて安心しました」
"それもシオンに伝えておきましょう"と言って、家令様は去っていきました・・・旦那様、あなたのお兄ちゃんは容赦ないですね。
すこし昨日の事を振り返ってたら、もう街中ですね。ボーっと歩いてました。いかんいかん。
ところで、なんで騎士団長本人が護衛なの?
「ああ、俺、今日は休暇で、家に帰るついでに二人を送って行くって、シオン様に申し出たんだよ」
騎士さんたちは基本的に王宮に部屋を与えられていて、休みの日だけ家に帰ったりするらしいです。なるほどー。
ところで、ウィルさんは異世界カフェを知っているんですか?
「ああ、あの雑貨屋だろ?」
・・・異世界カフェは雑貨屋なんですか。
「リィナさん。異世界カフェのオーナーは、もともと異世界からの輸入物を扱う雑貨屋を営んでいるんですよ」
輸入雑貨店ですか。それはお店にも興味が出てきましたよ!
大通りから何度か角を曲がって、辿り着いたのは・・・古びた感じのお店。
「ここだぞ」
ほぉー、ここですか。
ホントに雑貨屋さんです。
ウィルさんが店のドアを開けます。"カララン"と、ドアに吊るしてあるベルが良い音を立てます。
店に入ってみると・・・雑貨屋さんです。どこがカフェなんでしょうか?
「あの奥にあるドアが、異世界カフェの入口なんですよ」
アランさんがそう教えてくれます。
「いらっしゃい。・・・騎士団長さんが、なんか用かい?おや、アベル君もいるね」
店の奥のカウンターに居たのは、色黒のお兄さん・・・いや、おじさんかも?
「俺の用じゃないよ先生。今日はこの女性を連れてきたんだ。」
「こんにちは、マスター。彼女はリィナさんです。」
ウィルさんとアベルさんが、それぞれ"マスターさん"に挨拶しています。
私もご挨拶を・・・はじめましてー、リィナですー。
ところでウィルさん、"先生"って言いました?
「彼は、俺の"異世界語の先生"なんだよ」
ああ、留学したって言ってましたっけ?ということは
「・・・日本語が、話せるんですか?」
「うん話せるよ。・・・君は日本人かい?」
「はい」
「そうなんだ。異世界に来てどのくらいなの?」
「4ヶ月くらいです。」
「「そうなの!?」」
ご主人と、アベルさんがビックリしています・・・なんでだ?
「そうなんだよ、びっくりするだろ?召喚条件に"語学の習得"を入れたんだと」
「はぁ~、それは考え付かなかったな・・・」
「リィナさん、すごいです。たった4ヶ月で、普通に話してる・・・」
「文法が日本語と同じだったから、だからですよっ」
とりあえず、あわてて否定します。日本人は奥ゆかしいんです。
あと、異世界語の先生が、腹黒な上に厳しかったからです!必死で勉強したからです!
「彼女の保護者、ちょっと過保護でね。なかなか外に出したがらなかったからさ」
「超過保護な保護者達から、救ってきたんです!」
ええっと、アベルさんまだ旦那様たちの事、怒ってるんですね・・・良い人だなぁ
「過保護な保護者?・・・よほど機密事項を扱う仕事なのかい?」
「いや、彼女はメイドで召喚されたんだ」
「そうなの!?」
今度は私に聞いてくれました。コクンと頷きます。
うーん、なんか私の状況って、普通と違うのかしら。
今まで他の異世界人と会ったことなかったから『普通』が分からない。
「ふぅーん、そうか、なるほどねぇ。」
お店のご主人は何か含みのある言い方でそう言い、私をじっくり見ています。
「先生、余計な詮索しないでくれよ」
「ああ、わかってるよ。彼女を詮索したら怖~いお兄さんが出てくるんだろ?」
確かに、怖いお兄さんが出てくるかもです。いや、黒いお兄さんかも・・・
「まあともかく、ようこそ"異世界カフェ"へ。」
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「ここに名前を書いてね、登録カードを作るから。書き終わったら、異世界人証明書と一緒にもらえる?」
そう言って、渡された紙に名前を書こうとして・・・
えっと、何語で書けばいいんでしょう?
日本語?異世界語?
ペンを持って固まっている私を見たマスターは「ああ!」と手を打ちました。
「異世界カフェの標準語は『英語』だよ」
「了解です!」
ということは、Rina Kimura でいいですね。
書き終わった用紙と証明書を渡して、カードを作ってもらいます。
「はい、これね。次回からは必ず持ってきて。」
「はい。」
「じゃあリナさん、入りましょうか」
ん?アベルさんひょっとして私が名前書いてるの、見てましたね?
「アベルさん、私は『リィナ』ですよ」
お屋敷の中でも外でも、リィナと名乗るように言われてるんですよ。
リィナもリナも、大した違いでは無いんですが、それでもわざわざ呼称を決められたのは理由があるはずですからね。
それに、勝手に他人のプロファールを覗き見ちゃダメ!
「・・・はい、リィナさん」
なんだかショボンとしてしまったアベルさん・・・自業自得ですよ。
「じゃあ、俺は帰るから。夕方、他の騎士が迎えに来るまでここに居ろよ?」
「はいウィルさん。ありがとうございました。」
「おう、またな」
「今度、じっくりご兄妹の事情も聞かせてくださいねー」
「・・・あいつに聞け」
そう言って、ウィルさんは帰っていきました
あいつって、誰ですかね。ナンシーさん?クリスさん?
ふふふっ、しばらくは兄妹ともに、からかえそうで楽しみです。
「アベル君、ウチのシステム、説明してあげてね。リィナちゃん、ごゆっくり」
「わかりました、マスター。さあリィナさん入りましょう」
「はいっ」
明日も更新できそうです♪
明日はシオン視点です。




