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36 謝罪と杞憂と駆け引きと

遅くなりました。

ひとまずクリスさんから解放(?)された私に、今度は旦那様が近づいてきます。


皺が!麗しいお顔なのに、眉間の皺が怖い!


「リィナ」

「はいぃ」

「なぜ部屋を出た」


ひまだったから・・・と言える状況ではなさそうなんですけど

ええっとー・・・と呟きながら背の高い旦那様の視線から逃れるために、斜め下に俯いていると・・・

「言えないような理由があるのか?」

旦那様は、不機嫌そうにそう言ったかと思ったら・・・


グイッ


えっ?急に腕を引かれました


ギュッ


うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!

お前もか!


今度は旦那様にホールドされてしまいました。なんという事でしょう!


「なっ、何してるんですか!?旦那様!!」

「ああ、うん。」


"うん"じゃなーい!!

こ、これも嫌がらせですか!?主従そろって、なんて驚きの嫌がらせを・・・


「は、離してくださっ」

「理由を話したら、離す」

「りっりゆう!?」

「うん」

「ひっ、ひまだったから!暇だったんですっっ」

だから離して下さいっ

「・・・お前は自分が狙われていたことを忘れたのか?」

「へ?私まだそんなに危険なんですか?」

「「・・・」」

あれ?旦那様、黙っちゃいました。

クリスさんを見てみると・・・あわてて視線を逸らされました。おーい?もしもーし?


「ハァ・・・もうすこしだけ、おとなしくしててくれ」

・・・なんだか意図せず凹ませちゃったみたいですね。


まだ危険なんですか

 ↓

まだ危険を取り除けて居ないんですか

 ↓

無能扱い


とでも思ったんでしょうか・・・男ってメンドクサイなー


「あの・・・旦那様、理由も話しましたし、そろそろ離してくれませんか」

「ああ」


・・・いま『ああ』って言ったよね!?なのに離してくれません


「あの!」

「・・・」


うひゃ!?

旦那様は私の首筋に顔をうずめてきました

ちょっと!


「ちょっ・・・離してください!」


ジタバタしても一向に腕の力が弱まることはなく・・・

「ひぁっ!」

せ、背中ツツーって、なぞられましたよっ、何するんですか!

これは、セクハラなのでは!


「セ、セクハラで訴えますよ!?」

「・・・誰に?」


誰に?・・・それは・・・えっと・・・

召喚者の人権に関する責任は、召喚主にあります。

召喚主は旦那様本人です・・・わたしの場合、雇用主も・・・

えっと、えっと・・・誰に?誰に訴えれば?


「・・・管理局、とか?」

「・・・」


あ、正解だったみたいです。離してくれましたよ。ホッ。

なんですか今のは。クイズですか?

ちなみに、管理局にセクハラをチクると罰せられたりするんですかね?


「あー、あの、もういいっすかー?」

開けっ放しのドアにもたれて、今の様子を見ていたらしいウィルさんが、ニヤニヤしながら声をかけてきました。

「いやー、久しぶりに面白いもの見せてもらいました、くくくっ」

セクハラ場面を見られた旦那様は・・・あらら、赤面してますよ。

"あー、面白かった"とウィルさんがクスクス笑ってます。

私はちっとも面白くなかったですー

「ウィルさん、いつから見てたんですか?」

「え?俺はシオン様がこの部屋に入ったすぐ後に来たんだけど?」

「もっと早く止めて下さいよ」

「なんで?召喚主が召喚者を抱きしめてただけだろ?」

「・・・もういいです」


あれ?旦那様どうしました?・・・ああ、ウィルさんにからかわれて反省中ですか、しっかり反省して下さいね。


「で?どうしたんですか、ウィル?」

さっきから傍観していたクリスさんがウィルさんに尋ねます。

「ああ、昨日の報告と、あと彼女(リィナ)を見張らせてた者からの報告を・・・」


ウィルさんは部屋の中に入り、持ってきた書類をクリスさんと旦那様に見せています。


ん?見張らせてた?

私、見張られてたんですか・・・それでクリスさんが厨房に迎えに来れたの?


ということは、見張りが必要なほど危険だったんですか。

なのに、暇だからといって、ふらふらしてたってことですよね。

知らなかったとはいえ・・・反省が必要なのは、私のほうかもしれません。

あとで、ちゃんと謝っておこう。



そして、開けっ放しのドアの向こうに、何やら人の気配がします。

こっそり覗いているのは・・・ナンシーさんです!


そして、その手には・・・


「ナンシーさん!」

私はナンシーさんに駆け寄って、抱きつきます!

お米と海苔~!

持ってきてくれたんですねっ!


「ちょっ、ちょっとリィナっ」

急に抱きつかれたからか、動揺しているナンシーさん。なんか可愛いです。


「ナンシーさんっ、愛してますっ!」

「「「えええっ!?」」」


あれ?男性陣から声が上がりましたね・・・


・・・私、百合だと思われたんですかね?違いますからね!




*****************************************





「リィナさんが昨日の事件の当事者だったんですか!」

「そんな事情があるとは知らず、大変申し訳ございませんでした」

アベルさんと料理長が、旦那様に頭を下げています。


「いや、今日の件はどう考えてもコレ(・・)が悪いんで、お二人は頭を上げてください。ほら、シオン様に謝れっ!」

「いたっ、痛いっ、イタイっっ」


ウィルさんが大きな手で、ナンシーさんの小さな頭を、まるでバスケットボールを掴むみたいに”ガシッ”とつかんで、強制的に頭を下げさせています。

・・・見てるこっちが痛そうです。


今がどのような状態かと申しますと、お米と海苔を持ってきてくれたナンシーさんと一緒に、アベルさんと料理長も来ていたんです。


クリスさんが厨房に来て、私を捕獲したことに驚いた料理長。

いくら家令をしているからって、王族(しかも元王子様?)が厨房に来るなんて何事!?ってことで、詳しい事情を青ざめているナンシーさんに聞いたそうです。


そして、アベルさんと一緒に、私が厨房に居た事情を説明に来てくれたのだとか。

みんなでソファに座って話しています。


「ごめんなさい、リィナさん」

アベルさんが改めて謝ってくれます。いい人だなー


「リィナさんを叱らないでください。私たち助けてくれたんです」

アベルさん、旦那様を説得してくれています。いい人だなー


「・・・分かった。考慮する」

こ、考慮ですか!?そりゃあ、私も悪かったかもしれないですけど・・・。


「今回は部屋から連れ出したのが公爵家(ウチ)のメイドだからな。」

「ええ、公爵家(ウチ)のメイドですしね」


そして、非難はナンシーさんに集中・・・


ウィルさんは今度は、両手を拳にして、ナンシーさんのこめかみを左右からグリグリと・・・

「いたぃ・・・」

「自業自得だ」

ウィルさん、容赦ないです。ナンシーさん涙目です。


「あの、ウィルさん?元はといえば私がナンシーさんに『暇だ』って言ったからですし」

「優しいね、リィナちゃん。でもそれはそれ、これはこれ。」


私にはウィルさんを止められませんでした・・・ごめんなさいナンシーさん。グリグリ継続中・・・


「リィナ、あなたには別にお仕置きを用意しておきますからね?」

クリスさんがそう言いました・・・黒いし、怖いです。




***********************************




「それにしても、部屋から出れないというのは、ちょっとかわいそうじゃないですか?」


アベルさんが旦那様に意見してくれています・・・いい人だなぁ。

でも、うちの旦那様達、こう見えて権力者なので、睨まれたりしたらまずいから、大丈夫ですよ?


「危険だというなら、ちゃんと護衛をつけて外出できるようにすれば良いのではないですか?今日だって見張りが居ることも知らなかったようだし、知っていればリィナさんも部屋から出たりはしなかったですよね?」


確かに。

見張りがつくほど危険だとは思ってませんでしたよ?

だって昨日はウィッグつけて『変装』していましたからね。

昨日と今日とでは印象がちがうので、狙われるとも思えませんもん。


「それに、リィナさんの話では、召喚されてから今まで、他の召喚者に会ったこともなかったそうじゃないですか」

「それは、公爵家(うち)の仕事の性質上の事で・・・」

旦那様が、気まずそうにそう言います。なんだかまだ何か隠してそうですね?


そんな旦那様の様子を見て、ナンシーさんの頭をグリグリしていたウィルさんが呆れた顔をして言いました。

「・・・この二人は、筋金入りに過保護だからなぁ」


そのセリフを聞いた旦那様が、ウィルさんよりも呆れた顔をして言いました

「お前に言われたくはない。いつまで兄妹でじゃれ合っているんだ?いいかげんやめろ」


・・・兄妹?


ん?

ナンシーさんと私は同い年です。

クリスさんとウィルさんは同い年です。

私とクリスさんは同い年です・・・

ということは、ナンシーさんとウィルさんは、同じ年ですよね


「双子・・・とか?」

「ううん。違うの。今度説明するね」

ナンシーさんに聞いたら、双子説は否定されました。

兄妹・・・兄妹ですかー。ああ、でもそういえば、目も髪も同じ色ですね。

顔立ちも・・・目元とか少し似ています

あ!耳!耳の形がそっくりです!これは遺伝子のなせる業かも!


あれ?

ウィルさんはナンシーさんのお兄さん・・・ということは

「・・・シスコン兄」

あ、しまった。声に出してしまった!


「シオン様、リィナが心配なら、安全が確認できるまで、いっその事監禁しましょうか?騎士団のほうで監視をつけますよ」

「ええ!?」

シスコンって言われた報復に、監禁ですか!?

「いや、監禁はちょっと・・・」

旦那様はさすがに否定してくれました。ホッ。


「監禁!?あ、あなた方は、何言ってるんですか!!」

アベルさんが立ち上がって、抗議してくれます。いい人だなぁ。


「監禁だなんて、冗談だとしても質が悪すぎます!ただでさえ召喚者(わたしたち)は自分の意思とは関係なく、この世界に連れて来られてるんですよ!!」


そうだよねー、拉致だよねー。


「リィナさん、不当な扱いを受けているのではありませんか?」

「え?不当?」

「そうです。いま聞いただけでも、命の危険から束縛まで!一度きちんと管理局へ伝えたほうが良いです!」

「え、えっと」

「私も一緒に行きますから。大丈夫、召喚主の変更は出来ませんが、保護責任者は訴えれば変更してもらえるんです」


うわっ!すっごいキラキラした笑顔でアベルさんがそう言ってきます


でも・・・


「アベルさん、ありがとうございます」

「いいえ、当然の事ですよ。すぐにでも行きましょう」

「いえ、待って下さい。私、訴える事はしません」


アベルさんが不安にならないように、にっこり笑ってそう伝えます。

「リィナさん?」

「確かに、昨日は大変な目に合いましたけど。それはきちんと謝罪してもらいましたし、反省もしたようですし」

「でも」

「私、自分を不遇だとは思ってませんよ?旦那様は年齢が若いからか、ちょっとリスク管理が甘いですけどね。その分お屋敷の同僚たちは皆さんしっかりしてるし、何より皆さん良い人だし。」

「・・・」

「旦那様もクリスさんも、いつも使用人たちの環境を気にしてくれていますし、すごく居心地の良い職場なんです」


私がアベルさんを見て笑顔でそう言うのを、みなさん黙って聞いています。


「そりゃ最初は、メイドなんて出来るのかな?と思いましたが、今では召喚先が公爵家で良かったと思ってますよ」


アベルさんの『訴える』発言で、やや青ざめて凍っていた皆さんが、私の話で解凍されたみたいです。

ふっふっふっ・・・おおっと、まだニコニコしてなきゃっ。


アベルさんは何か腑に落ちないような顔をしています。もう一押しかな?

わざと、ちょっと悲しそうな顔をして話を続けます。

「ただ、やっぱり説明不足な所があるんですよね。今日の見張りの件とかも含めて」

「そうですよ!説明不足ですよ!」

「ええ。アベルさんが言ってくれたように、私だって自由に外出したいな」


そこまで言ったところで、旦那様が割り込んできました

「護衛をつける。リィナ、外出して良いぞ。ウィル、手配を頼む」

「旦那様、本当ですか!」

「ああ」

「ありがとうございます。わたし行ってみたい所があるんですー」


無邪気さを装って、ニコニコしてそう言います。



ふふふっ。さて、どこまで気づかれているでしょうかね?


社会人としての対人スキル・・・名づけて『落としてから、上げる』

今回の場合、正直に不満点を伝えてから、それでも満足していると伝えてみました。

そして、旦那様に実現可能であろう部分の不満点を『残念な部分』として伝えてみると・・・あら不思議!外出許可が降りちゃった!なーんてね、ふふふっ!


ああ、表情を見れば分かります。上手く旦那様を誘導したことが、クリスさんにはバレてますねー

まあ、いいです。腹黒家令にバレないとは最初から思ってません。

旦那様を落とせれば、それで問題は解決しますから。


私は正直、旦那様たちの私に対する昨日からの対応に、怒っています。

でも、アベルさんが言うように、訴えたりすると・・・あのお屋敷で働けなくなる可能性が出てきますよね?


また最初から「はじめましてー」と挨拶して新人として勤務・・・というのは、面倒くさいです。

せっかくお屋敷の皆さんと仲良くなったのにー。

仕事も覚えてきたのにー。


それに、お給料良いし。ご飯美味しいし。気が向いたら自炊しても良いって言われてるし。

イケメンが多くて目の保養になるし・・・ん?これは違うか。


「まあ、リィナさんが『職場として』満足しているなら」

アベルさんもしぶしぶですが、引いてくれました。


「アベルさん、私、異世界カフェに行ってみたいんです。一緒に行ってくれますか?初めてだから、ちょっと不安で」

「ええ、もちろん。一緒に行きましょう」



そんなこんなで、明日は異世界カフェに行ってきまーす。








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