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34 厨房にて1

「あなた、日本人?」

淡い金色のふわふわの髪の、ショートカットの男性です。

おそるおそる・・・といった感じで話しかけてきました


「はい。日本人ですが」

と言ったとたん、私の手を両手で掴み

『tres bien!』

と大声を上げます。


トレビアン?


「ああ、なんていう幸運だろう!日本人女性に出会えるなんて!」

「・・・」

はい?

「お願いです!助けて下さい!」

目をうるうるさせて、私に助けを求めてきます・・・なぜ?というか、あなた誰?




*****************************************




「すみません、取り乱してしまいまして・・・」

恥ずかしそうにそう言うこの男性。

フランス人召喚者のアベルさんだそうだ。


自分以外の召喚者に初めて会いましたよ!

しかもフランス人、そして王宮の料理人として呼ばれたんですって。

フランスで料理人をしていたんですか?

え?違うの?・・・まあ、わたしも日本でメイドではありませんけど。


ちなみに私たちの会話は英語でしています。共通語があってよかった。


英語で話す私たちを、ナンシーさんとアベルさんの同僚の料理人たちが、遠巻きに見ています。


「アベルさんは、日本人を探していたんですか?」

私以外の日本人って、ひょっとして居ないのかしら?


「いえ、日本人を探していたのではなく、日本人女性を探していたのです」

「なんで?」

「SUSHIを教えてもらいたくて」


すし?寿司ですか?


「寿司を教えるって、寿司の何を?」

寿司の歴史とか?

「歴史ではなく、もちろん作り方です!作り方を教えて下さいっ」


両手をグーにして、身を乗り出してお願いされました。




詳しく話を聞くと・・・


そこそこ偉い役職の貴族が、日本に視察に行った。

接待で寿司を食べた。

これは美味しい!是非王家の方にも食べてもらいたい!ということになった。

王族の内輪の晩餐会で出すことになった。


そしたら王宮の料理人は大パニック!とりあえず寿司の作り方を探しに連日図書館に入り浸り・・・だそうだ。

ちなみに、明日の夕食に出すことになってるんだって。ぎりぎりだったんだねぇ。


というか、寿司職人を召喚したらいいのでは?


「召喚には申請から各種手続きまで時間がかかるので、無理なんです・・・」

ああ、なるほど。

私の召喚にも時間がかかったのかしら?今度クリスさんに聞いてみよっと。


「真っ先に、王宮に居る日本人の召喚者・・・男性なんですが、彼に寿司について聞いてみたんです。そうしたら『米と酢?』と言われまして。」

「ああ、間違いでは無いけど、寿司に使う酢はそのままではないから」

「そうなんです!スッパイだけだった・・・」


ご愁傷様です


「リィナさん、あなたが私達の最後の希望です!どうか助けて下さい!」

なんか最後の希望って、勇者様っぽい扱いですね・・・ププ


「いいですよ。」

「本当ですか!・・・ちなみに、作り方を知っているって事ですよね?」

「ええ。寿司酢を作ればいいんでしょ?材料がそろえばすぐ出来ますよ」

「ああ!神よ!私を見捨ててはいなかったんですね!」

フランス人も神に祈るんだね・・・そりゃそうか。


「い、今からお時間ありますか!?早速お願いしたいのですがっ」

「いいですよ・・・そのかわり、条件があります」


クリスさんを真似て、黒く笑ってみました・・・ニヤリ

まさか条件があるとは思わなかったらしいアベルさん・・・顔が引きつってますね。


ちょっと、ナンシーさん!私の(ちょっとだけ黒い)笑顔で本気でビビらないでってば!





************************************



厨房に移動しました。

さすが王宮の厨房!広いし明るいしキレイですね!

そうそう、王宮は自家発電機があるんですって。太陽光発電で賄える部分はそちらを使ってるらしいですけど。


「リィナさん、材料は何が必要ですか?」

「お酢とお砂糖とお塩です」

「は?」

「酢・砂糖・塩、です。」

「・・・それだけですか?」

「ええ。まあアレンジしたいなら、昆布とか。顆粒だしとか入れてもいいですけど?」

「・・・」


なんか、みんな黙ってしまいましたね・・・いったい寿司酢に何が入ってると思ってたんですか!?

まあ、日本で知り合ったイタリア人は照り焼きソースは蜂蜜から出来ていると信じていたし・・・外国人にとっての日本食って、そんなものなのかな。


材料を出してもらったので、早速作りましょう。


鍋に酢・砂糖・塩を入れて加熱します。溶けたら出来上がり。

「はい。出来ました」

「「「・・・・・・」」」


黙ったままかいっ!

と思ったら、なんか初老の男性が項垂れてしまいました。

「たったこれだけだなんて」


ええっと、ずいぶん苦労されたんですかね?お疲れ様でした。


「ところで、ご飯は炊いてありますか?」

「ああ、はい。ここに」


お鍋の中には炊きたてのご飯が!ご飯がある!


スプーンをもらって、一口食べてみます・・・

「これではダメです。寿司はご飯が命ですから!」

「え!な、なにがいけないんでしょうか?」

「硬さです。寿司酢を混ぜるので、お米は硬く炊く必要があります」

「なるほど!ではさっそく!」


初老の(きっと料理長なんだろうな。)男性は新たに炊く米の準備をはじめました。

「・・・このご飯、少しもらっていいですか?」

「もちろんです!」


ふふっ、ふふふっ、やった!やりましたよ!ご飯ゲットです!

そう、わたしの条件とは『お米ください』だったのです!

お米を分けてもらって、お屋敷に戻ったら炊こうと思っていたのに、まさかの炊いてあるご飯ゲットとは!


おむすび!おむすびにしますっ!

手を水でぬらして・・・しおっ、塩・・・・・・熱っ!・・・ギュッ、ギュッ。できた!

立派な塩むすびの完成です。梅干とか鮭とか欲しかったナァ。

まあ、いいでしょう。いただきま・・・

「ん?ナンシーさん?どうしました?」

「・・・リィナ、私も食べたいっ」

「おむすびですか?」

「おむすびっていうの?うん、それ食べたい」

わくわくした様子でそう言うナンシーさんは、ちょっと可愛いです。

「いいですよ。もう一つ作りますね-----------------はい、できました」

では、改めていただきますっ


「んんーっ」

やばい、泣きそうだっ、ごはん美味しい!

かみ締めるようにお米一粒一粒に感謝して咀嚼していると、ナンシーさんの様子が微妙です。

「・・・?」

ナンシーさん?首傾げてますね・・・

「お口に合いませんか?」

「美味しいよ~。・・・泣くほどでは無いけど」

まあ、それはそうでしょうね

「ご飯は日本人の主食なのです。毎日のように食べていた物が、こちらの世界に来てから一度も食べられませんでした・・・私にはそれがストレスだったのです」

パンが嫌なわけではありません。むしろパンや麺類の日も多かったですが、それはやはり、いつでもお米が食べられる環境だからこその選択だったわけで・・・

「食べられないと分かると、とたんに食べたくなるんですよね」

「あー、それはなんか分かるわー」


その後、ナンシーさんと食べ物談義をしていたら、お米が炊けました。鍋で炊くと20分程度で炊けるんですよね。

炊きたてなので、やけどに注意しながら試食します・・・

「うん、いいですね。では、寿司酢の混ぜ方を・・・」

「混ぜ方があるんですか?」

「はい。これは日本では有名です。ええっと、さすがに桶は無いですよね?じゃあ、平たいバットで代用しましょうか。しゃもじも無いですよね?じゃあスパテラありますか?あと、うちわ・・・も無いですよね。何か扇ぐもの・・・ああ、いっその事そのノートでもいいです」


ご飯を鍋からバットに半分くらい空けて、寿司酢を回しかけてから手早く切り混ぜます。

寿司酢が全体に馴染んだら、扇いで風を送ります。


「なぜ、風を送るんですか?」

「余分な水分を飛ばすためと、熱でお酢が変化しないためです・・・たぶん」

「たぶん?」

「わたしは専門家では無いので、科学的な事はよく分かりませんが、家庭料理でも酢飯はこうやって作るからには、美味しくなるための理由があるんだと思います」

苦笑いしながら、正直にそう言います。

そう、私は寿司職人ではないので、家庭料理の知識の範疇です。でも、家庭でも酢飯を作るときは扇ぐって教わりましたから、理由があるのでしょう。

ちなみに、ウチの祖母はいつの頃からか小型扇風機を使ってましたね・・・それはいいのか?どうなんだろ。


正直に『家庭料理』の知識だと言ったのが良かったのか、なんか料理人さんたちの気配がやわらかくなりました。

ああ、きっと皆さんも緊張されてたんですかね。


さてさて、こんなもんですかね。


「酢飯は、熱いままだとお酢でむせてしまいますので、ちゃんと冷ましてくださいね。すぐに使わない場合は、濡れ布巾を用意して、乾かないようにお米の上にかけておいて下さいね」


で?

酢飯は出来ましたけど・・・ところでネタは何にするんですかね?























とりあえず寿司酢のレシピです

この分量で作ると、結構多いです。

余った寿司酢はドレッシング代わりにしたり、きゅうりとか漬けてみると美味しいです。



【材料】 

酢180cc

砂糖100g

塩30g

※単純に半分の量で作っても大丈夫ですよ。

※火にかける時に、昆布を一切れ(切手大くらい?)入れてみても美味しいです。

※市販の鰹節由来の顆粒だしは塩分があるので、もし入れたいのでしたら塩加減を見てからの方がいいと思います。



出来上がった寿司酢は、米3cupのご飯に対して100cc位、米2cupに対して70cc位使います。

お米の質(新米・古米)とか、炊き加減で混ぜる量が変わりますので、

ベチョベチョにならないように様子を見ながら入れてくださいね。




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