33 王宮にて
・・・ひま。
暇です。
ただいま休暇中in王宮です。
『謎の侍女拉致事件』の翌日、すっかり体が動くようになった私は、"巻き込みやがってふざけんなよ気分"もすっかり晴れてしまいました。でも囮にしたことは許さないけどね、ふふふっ。
なんだか眠そうな旦那様となんだか不機嫌なクリスさんは朝のうちにお屋敷に戻っていきました。
キーラさんもあまりお屋敷を空けておく訳にいかないので(そりゃそうです。メイド長が居ないとお屋敷が回りません)、一旦帰っていきました。
・・・ポツーン
さ、さみしくなんかないもん
知らない所に一人だから、不安なだけだもん
そして、なんでこんなにヒマかというと、ベッドから出るなと厳命を受けていまして。
まあ、昨日の今日ですから、何か後遺症とかあったらイヤだなと思うので、おとなしくベッドにいるんですが・・・特に体調が悪くなることもなく、ただ暇なだけです。
王宮の女官さんが食事を持ってくる以外は、何もすることが無い・・・
ちなみに、私は寝室から出れないので、控えの間に女官さんが一人、交代制で待機してくれているそうですよ。
とにかく暇なので、昨日借していただいた絵本と歴史書を読んでます。
さすが歴史書。辞書を使わないと読めない部分が多いですが、なかなか興味深い記述も多いです。異世界交流に関する事とかね。
コンコンコン
「失礼いたします。ナンシー様と仰る方が面会にいらっしゃってますが」
え!ナンシーさん?
「お通ししてもよろしいですか?」
モチロンです!!
「リィナ~、元気?」
「ナンシーさ~ん」
「よしよし、大変だったね」
ナンシーさんに、頭なでてもらいました。ううっ、ナンシーさん優しいです。
「びっくりしたよ。王宮に行くなり事件に巻き込まれるんだもの」
ナンシーさんがお菓子を買ってきてくれたので、2人でお茶会中です。
「ご心配おかけしました。」
「どうせ旦那様とクリスさんのせいなんでしょ?」
ええ、まあ。
あいまいに苦笑いしてると、ナンシーさんはため息をつきました。
「あの二人はねー、説明が不足してるのよ。いつもいつも」
ああ、やっぱり皆さんそう思ってたんですね。
「ところでナンシーさん、私すごく暇なんですけど、なんか時間つぶしになる物ないですかね?」
「時間つぶし?・・・王宮案内でもしてあげよっか?」
おっ!それは面白そうです。
でも、部屋から出て大丈夫ですかね?出るなと言われてるのですが?たぶん女官さん達も見張りを兼ねて控えてるのでは?
「うーん、ちょっと待ってて」
そう言ってナンシーさんは、寝室を出て行きました
そして・・・
「さあ、リィナ。出かけるわよ」
ほんの1~2分後、満面の笑みで戻ってきたナンシーさん。
あの、何をしたんでしょうか。
・・・あとで、怒られないよね?
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どうやらナンシーさんは、女官さんに2時間程、休憩をあげたみたいです。
「内緒にしてね?って言っておいたから、大丈夫よ」
そんな訳で、王宮見学スタートです!
「まず、この建物は『主居棟』といって、王族の方たちのお部屋と、賓客用の客間があるの。リィナの居た部屋は、賓客用の中の、低めのランクの部屋ね」
へぇー
「主居棟への出入りは、王族の紹介状か侯爵家以上の身分が必要なの。」
へぇー
「主居棟を挟んで、西翼と東翼に分かれていて、会議場は西翼。リィナが連れて行かれたのは東翼」
へぇー・・・って!
「ナンシーさん、詳しいですね」
どこに連れて行かれていたのかなんて、私でさえ知らなかったのに・・・まあ、聞きもしなかったんだけどね。
「ああ、うん。・・・私の兄、騎士団に居るのよね。」
「そうなんですか!」
「今日、兄は休暇なの。だからお見舞いに来れたけど、普段はできるだけ王宮には近づきたくないのよー」
そうなのですか。
ナンシーさんのお兄さんも過保護って言ってましたもんね。
西翼の施設を見学しつつ、テクテク歩いてると、図書館にたどり着きました。
「うわぁー、すごーい」
「蔵書数は、この国で一番多いそうよ。私はあんまり利用したことは無いわね」
ナンシーさんは蔵書一覧の場所に連れてきてくれました。
・・・えっと、これ?
見た目は本屋にある書籍検索機です。タッチパネル式で、横並びに10台程。これだけ並んでいると、むしろ見た目的には大きな駅の自動券売機です。
ちょー電子化されてますね。
「そりゃそうよ。電子化していなかったら本を探すだけで1日かかるわよ?」
さようですか・・・
ウチのお屋敷にも早くパソコン入れて欲しいなー
ナンシーさんに教わり、タッチパネルをいじってみます。
まずは見たい本のジャンルを選ぶようですね。
ふんふ~んと鼻歌を歌いながら見ていると、『料理』のジャンルがありました!
おお!美食家を自認する私にぴったり!王宮に居る間にこの世界の料理について、研究してみるのもいいですね!
料理関連の書籍は・・・右から5列目で奥から3列目の棚のようです。
「料理の書物?あー、私じんましん出そう」
「ナンシーさん、お料理しないんですか?」
「出来なくも無いけど、やりたくも無いというか・・・」
ああ、わかりました。苦手なんですね。
二人で棚に向かいます。棚と棚の間に、ちょっとした読書スペースとして椅子が設けられていたり、大きめのテーブルを囲むようにして椅子が置いてある、フリースペースのような場所も設けられているこの図書館。
「リィナ、このあたりみたいよ?」
おおー、本当に料理本が沢山です。
こちらの世界の言葉だけでなく、英語の本もあります。うーん、輸入本ってこと?
何冊か気になる本を持って、一番近い読書スペース(フリースペースか?)に行ってみると・・・先客で埋まってました。
・・・コックコートの集団が、あーでもない、こーでもないと話し合い中です。
王宮の料理人さんたちでしょうか?
お邪魔しちゃ悪いし、会話が聞こえてきても気まずいので、すこし離れて空いているスペースに腰掛けます。
机が大きいので、離れれば邪魔になりませんからね。
私の選んだ本は、「毎日の料理」という本。きっと、この世界の家庭料理の本でしょう!家庭料理の本のはず!
んーと、どれどれ、川魚のケチャップ煮込み?この"ケチャップ"は明らかにトマトケチャッブでは無いですね?だって色が薄茶色なんだもん。
日本でケチャップと言ったらトマトケチャップですが、もともとケチャップはソース全般の事を指していたらしい・・・と料理学校で習いましたよ!『牡蠣のケチャプ』とか『キノコのケチャップ』とか!
なにもこんな見た目黒い料理にしなくても、川魚をフライにしてトマトソースとかでいいのにね。
日本食もたいがい茶色いけど、なんだかなー
「リィナリィナ、コレ作れる?」
「はい?・・・はい。作れますよ」
ナンシーさんが見ていたのは、私の世界の料理本。
ナンシーさんが見てるのは炭焼き小屋風パスタ。
「材料があれば、すぐ作れますよ。」
あれ?パスタはあるのかなぁ。パスタから作るなら、ちょっと時間かかるかな?
「これは?」
「坦々麺?はい、作れます。麺があれば」
「これは?」
「フォー・・・ですかね?麺から作るのは私には無理ですから、これも麺があればですねぇ」
「これは?」
「蕎麦・・・いったい何の本見てるんですか!?」
『世界の麺辞典』・・・なるほど。
「これは?」
「冷やし中華・・・これも"麺があれば"ですねー」
「これカラフルで可愛いねー」
「あー、そういわれると、そうですね。でもこのスープは酸っぱいんですよ」
「へぇー、酸っぱいんだー」
麺かぁ・・・私は麺よりも
「お米食べたいなぁ」
「お米?」
「はい。日本人の主食は、お米なのです!小麦製品も食べますが、私はお米派なんです!特に朝は!」
力説してしまいました。でもこの国に来てから、お米食べて無いんだもんっ
ついナンシーさんに米食のすばらしさを語っていたら・・・
なぜか、コックコートの集団がじわりじわりと近づいて来ていたようで・・・
「あ、あの。今、日本人って言いました?」
はい?
「あなた、日本人?」
新キャラですね。




