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閑話 とあるメイドの災難 ~Nさんの場合~

25話にて、若返ったナンシーが夜会へ連行された後の様子をどうぞ。




だから、イヤだったのよ・・・


馬車から降りたとたん、突き刺さるような視線

それも一人二人では無い、おそらくここにいるすべての人間が注目している!


しかもこの『第一王子』は教育(そだち)がいいものだから、同伴の女性を"がっつり"エスコートしてくるし。

多少なりとも放置・・・そう、まさに今、私が馬車から降りるとき位、御者か従者に任せてくれればいいのに!

何故、自分が先に降りて、手を差し伸べるのよ!!


ああ、今まさにフラグが立った

立ててはいけないフラグが立った・・・気がする。


現在この国では"シオン王子のパートナー"は、色々狙われる。

なぜなら、反王家派とでも言うのか、王家に対して謀反を企てかねない連中がいて、

お世継ぎ騒動が起きそうな、物騒な気配なのだ。

シオン様は謀反の旗印にされるなどいい迷惑だと思っているらしいが、どうにも立ち位置が微妙なこの王子。

しかも現在、王位継承権を持つ3人とも、婚約者すらいないこの国の状況。


私、狙われませんか?まあ、3ヶ月もしたら元の30才の見た目に戻るから、平気かしら。


あんたも笑ってないで止めてよ!執事見習い!

という心の声を伝えるべく、今にも噴出しそうなマイクさんを睨みつける


私の睨みなど、コイツに通用するわけが無いのだけど・・・はぁ。



なんで、こんなことになっているかというと。


まず、飲みすぎた

次に、薬を盛られた

そして、意識不明

なので、クリスさんに抱えられて帰ってきた

それを、ウチのお兄様が知った

結果、若返えさせられた。


『結果』がおかしいよね?

しかも30才から17才って、一体なんの拷問か!と思ったら、更なる拷問が待っていた。


つまり、本日。

旦那様・・・じゃなくて、シオン様の夜会に同行・・・パートナー枠で。


とりあえず、大人しく手を引かれ馬車を降り、そのままエスコートされて入口に向かって歩き出す。


入口に辿り着く前に、この屋敷の老執事が駆け寄って来た。

「ようこそ御出で下さいました。シオン様」

「ああ」

「後ほど主人よりご挨拶に伺わせていただきます。それまでお寛ぎ下さいませ」

そう言って、控え室へ通される。


王族は、どの夜会でも入場が最後になるので、まず控え室に通されるのだ。

そして

「失礼いたします」

3人の侍女が入ってきた。お茶と軽食の準備をして、ドアの傍に控える


・・・お茶と軽食があるからといって、手をだしてはならない。

一応、お嬢様教育は一通りされている。これでも私、実家は侯爵家ですから。

なんでメイドをしてるのかって?社会勉強よ?悪い?

王宮で侍女でも良かったんだけど・・・いや、良くない。王宮には兄が居るから、謹んでご辞退する。


それは置いといて、控え室でお茶と軽食に手をつけないって、そんなこと教わったの、私くらいみたい?

他所(よそ)のご令嬢方は、そんな言いつけ無いんですって。

言いつけが無くても、コルセットがキツくて食べれないとか・・・ありそうだけどね。

・・・今度、お兄様に聞いてみよう。"それがウチの教育方針だ"とか言われそうだけどね。


そして、王子様は出された物には、口を付けなければならないらしく。

シオン様はお茶を飲み、サンドイッチを一口食べている。


うーん。これも大変だ。食べたくなくても食べないといけない。

相手に敵意が無いことを了承しているという、意思表示らしい。

本当に毒が入っていたらどうするんだろう・・・ああ、そういえば、シオン様もクリスさんも、大抵の毒はすぐに分かるくらいの知識があるんでした。それだけ狙われるってことよね。大変ね。


「ナンシー、お前どうする?本名を名乗るか?ナンシーのままでいくか?」

「両方ヤメテクダサイ!なぜ若返っているのかの説明ができません!」


侍女さんたちに聞こえないようにヒソヒソ打ち合わせです。


「・・・かといって、あまり素性を誤魔化すと、逆に詮索されるぞ?」

「そう思って、アリッサに頼んできました」

「アリッサに?」

「はい。なので私は本日は、某伯爵家の傍系の、デビュー前の令嬢ということで!」

「ああ、アリッサの婚約者の家か?なるほど、正式なデビュー前ということにしておけば、詮索されないな」


そう。この国ではデビュー前の令嬢が、身分の高い人と一緒に下見を兼ねて夜会に出ることが許されている。

何でかって?それは王子様3人がフリーだから。

デビュー前だろうが、バツイチだろうが、子供を生める独身女性は全員『王子妃』候補らしい。

つまり『王子様方も、たくさんの女性に出会えば、一人くらいは気に入る女性も居るだろう』作戦。

リィナに言ったら『お見合いパーティーだっ!』と大ウケしていた。異世界(にほん)にもあるのね。


ちなみにちゃんとデビューする時は王宮での舞踏会で、付き添いは家族になることが多い。


「なるほどデビュー前か。それで、顔を隠してたんですか」

マイクさんが呆れたようにそう言った。

そう、私は今日、顔にベールをかけている。

「そうですよ。万が一、私の事を知っている人がいたら、大変じゃないですか!」

王子とフラグが立つなんて冗談じゃない!

今度こそ、お兄様に殺される!




「お時間です」

しばらくコソコソ話していたら、先程の老執事が呼びに来た。

侍女さん達が、ソファから立ち上がった私のドレスの皺を直してくれる。


さて、苦行の始まりだわ!

私はシオン様の腕に、自分の手をそえて、会場に向かった。




***************************************




視線の突き刺さる入場をどうにか乗り切ると、主催者が挨拶に来た。


「シオン様、よくいらっしゃいました。」

「ああ伯爵。今日はお招きありがとう」


本日の主催者である伯爵は、元騎士団長だった方。先の戦争でずいぶん活躍し、侯爵位を賜るはずが・・・辞退したという逸話で有名な方。

そして、シオン様やクリス様の、剣のお師匠様でもある。


そして・・・私の素性も知っている・・・はず。


バレるバレるバレるバレるバレるーーー

なんかもう、変な汗かいてきた!


私の様子に気づいてるのか気づいていないのか・・・二人は和やかに会話中。


「ではシオン様、ごゆっくりお楽しみ下さい」

「ああ、退出する時また声を掛ける」

「かしこまりました。お嬢様(・・・)も、ごゆっくり」

そう言って、ウインクしてから去っていく伯爵・・・バレてる、完全に。


「彼に隠すのは、無理だろう」

「ええ、無理だとは思ってました」


まあでも、乗り切れたので、ちょっと脱力。

主催者に挨拶した後は、シオン様に声をかけてもらいたい貴族が遠巻きにチラチラ見ているので、その中の何組かに挨拶に行くのに付き合う。ちなみに、こういう社交の場で王族に直接声を掛けていいのは侯爵以上らしい。

明確な決まりはないらしいけど、身分の低い者からの挨拶をすべて受けていたら、大変だから・・・かな?

但し、未婚女性が王子様に話しかける場合を除く。理由は、しつこいようだが『出会い』の為。なんというか・・・王子様ってお気の毒ね。


付き添いで挨拶に行くと、もちろん同伴の私に興味をもたれます。ここはお上品に受け答えしますわね。


・・・まだデビュー前ですの。名乗れずに失礼いたしますわ。

本日は伯爵からお声がけいただきまして、光栄なことにシオン様と参りました。

ええ、また機会がございましたら・・・


などなど、社交辞令で応答する。言葉遣いに若々しさが無いって?ほっといてよ!

そうこうしていると、音楽が鳴りだした。


「・・・念のため聞くが、踊るか?」

「ヤメテクダサイ」

「わかった。」

「・・・一曲も踊らないと、逆に目立ちますかね?」

「目立つだろうな、私は。」

「ではどうぞ、私以外の女性と踊ってきて下さい!」

「それはかまわないが・・・」

「ひょっとして、シオン様と離れたら、他の人に誘われますかね?」

「まあ、そうだろうな」


私が渋っていたら、積極的なご令嬢達が、近寄ってきた


「シオン様、ご無沙汰しております」

「ああ」

「ダンスが始まっておりますが、踊られませんの?」

「・・・どうする?」


ここで私が断ると、シオン様はこのご令嬢達と踊りに行くことになるだろう。

だが、私は知っている。王子様と踊ったという実績が欲しいこの令嬢達を牽制するために、パートナーを連れてきているのだということを!

うううううっ、一曲くらい、仕方ないのかしら?


ため息を押し殺して、シオン様の顔を見て頷く。

あからさまにホッとした表情しないでよ!シオン様!

そして、私を睨むな!

小娘共が!

もう!コレが最後のフラグですからね!


曲の途中から踊り始めます。

あー。やっぱり注目されてるし。

そして、さすが王子様。完璧なリードですね。若いのに大したもんです。

ちなみに、私は歳相応の経験がありますから、下手クソな人にリードされることにも慣れてます。たまにいるのよ、踊りたがるくせに、まともにリードできない男が。


そうこうしているうちに、曲が終わりました。一曲目なので、華やかな曲だったわ。

そしてパートナーがいいので、なかなか楽しかった。

結構、ノリノリで踊ってしまった後・・・なにか突き刺さるような視線を感じて、後ろを振り返ります。


なにかしら?

壁際から鋭い視線を感じ、顔を隠すベール越しに目を凝らすと・・・


!!!


「シ、シオン様、私、失礼させていただいてもいいでしようかっ」

「?ああ、どうした?」

「と、とにかく、今すぐ控え室に行かせてくださ・・・」

あわてて逃げようとしていた私の肩が、ガシッとつかまれます

「まて」

低い声でそう呟いたのは・・・


おおおおおおおおおにいさまっ、なぜ、ここに!


「これはシオン様、夜会でお会いするのは、しばらくぶりですね」

「・・・ああ」

「ずいぶんと、かわいらしいパートナーをお連れじゃないですか」

「・・・うん」

「ご紹介していただけないので?」

「・・・」

気まずそうに口ごもるシオン様・・・お兄様、さすがに不敬では?


「俺に一言も無く、これはどういう事だ?ナンシー(・・・)

威圧的にシオン様をやり込めていた兄の矛先が、私に向かいました。怖い。本名じゃなく、お屋敷での通称で呼ばれたことが、一番怖い!

「あ、あのね、クリスさんが、無理やり」

「ほう、クリス様が?」

「見た目が若くなったから、旦那様と歳が合うからって、パートナーに・・・」

「ふむ。つまり、無理やりつれてこられた、と?」

「うん。うんそうなのっ」

「その割には、曲の最後の方は楽しそうだったね?」

「・・・う、うん」

「王子様と踊って、楽しかったのかい?」

「・・・」

ああ、きっと最初から見られていたのでしょう・・・もう無理だ。

私の経験が、もう無理だといっている・・・


「どうした?具合でも悪いのかい?すみませんがシオン様。妹と一緒に退出させていただいても?」

「ああ。えっと、お大事に」

兄にすごまれて、さすがにシオン様も私を庇ってくれません


「さあ、ナンシー(・・・)。じっくり話を聞こうか?」


結局、兄の馬車に乗せられ、兄の屋敷に連れていかれ、たっぷり尋問および説教、そしてお仕置きをされた私がお屋敷に戻れたのは、次の日の昼過ぎでした。




****************************************




「もう二度と!二度と旦那様のパートナーにしないで下さい!」

「ふふふ、ナンシーが私に迷惑を掛けなければね」

腹黒家令がそんなことを言いやがりますっ

「クリス、ナンシーをパートナーにしたことは、正式に抗議が来てる。」

「『危険な目にあわせるな』ですか。あの男も、妹が絡むと小さいですねぇ」


"シスコンが"


クリスさんのその呟きに、だれも異を唱えませんでした。




後日、


「ねえ、リィナ。リィナのお兄さんて、嫉妬深かったりする?」

「・・・歴代彼氏の素性は、いつのまにか調べ上げられていましたねぇ」

「例えば・・・お兄さんに黙って外出(デート)したら、怒ったりする?」

「怒るというより・・・なぜか外出先に現れますね」

「ううっ、リィナぁ。心の友と呼んでもいい?」

「・・・何があったのかは聞きませんけど、お互い苦労しますねナンシーさん。今度お酒飲むときは、一緒にお部屋で飲みましょうね」



【教訓】 酒は飲んでも、呑まれるな。












ナンシーは侯爵家のご令嬢でした。

ちなみにナンシーはデビューの時、同い年の王子様(クリス)と半強制的に踊らされています。

その頃から、ナンシーはクリスさんの黒い笑顔が苦手・・・という設定です。


次回から本編に戻ります。更新は水曜か木曜の予定です。

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