閑話 とあるメイドの取材 ~Mさんの場合~
すみません、公爵家のメイドさんですよね?
「はい、あなたがメイド長の言っていた、取材の方ですか?」
はい。今日はよろしくお願いします。私は『月間王都女性』で記者をしております。読んだことありますか?
「ありますよ、ゴシップ紙ですよね?」
えっ!?違いますよ!!それは『王都週間女性』だと思います。私は『月間王都女性』といいまして、働く女性を対象にした、月刊誌です!
「はあ。それで、その月刊誌がとんな御用なんですか?」
はい。実は毎年『人気の仕事ベスト20』という人気企画がありまして・・・
「はぁ」
今年もベスト5内にランクイン確実な、"公爵家のメイド"さんにお話を伺えたらなと思いまして。
「はあ、話せることでしたら・・・というか、メイド長から聞いていると思いますけど、私これから出かけるので、その行き帰りの時間だけになりますけど。」
はい!もちろん、お仕事の邪魔はいたしません。ちなみに、どちらに行かれるんですか?
「クリーニング店です。」
いつもこの時間にクリーニング店に?
「いいえ、普段は配達を頼むのですが、今日は店側の都合が悪いらしいので、取りに行くことになりました」
なるほどー。今のお仕事を始めて、どのくらいですか?
「5年ですね。」
そうですかー。なんといっても憧れの職場と言われている公爵家!そちらで実際に働いているなんてうらやましい!
「前置きはいいですから。で、何が聞きたいんですか?」
まず、お給料ですが
「・・・まあ、いいほうですよー。私達は王宮使用人と同じ扱いですから」
ほう、なるほど。お仕事はどうですか?
「普通・・・てすね。自分に与えられた仕事を一生懸命するだけです」
さすが、公爵家で働く方は仕事に対する姿勢が違いますねー
「いえいえ、そんなことはないですよー」
貴女が雇用される時には、なにか特別な試験などはあったんでしょうか?
「特別かどうかは分かりませんが、雇用されるには筆記試験と面接がありましたね。あと、健康診断と体力測定も」
ほう!筆記試験というのはどんな内容ですか?
「それは、言えません。知りたければ、紹介状を持ってお屋敷までどうぞ」
なるほど、実際に試験を受けた方のみ分かると言いたいんですね。残念ながら、公爵家宛ての紹介状を書いて頂けるほどの高貴な知り合いが、わたしにはいません・・・
実際、どのくらいの頻度で新人さんが入ってくるんですか?
「欠員が出たら補充する・・・という程度ですね。領地から来るコもいますよ。」
なるほど。まず領地で経験を積んでから、王都のお屋敷へというスキルアップが可能なわけですね!
「スキルアップ?仕事自体はどちらも変わらないと思います。まあ、旦那様達が常に居るか居ないかの違いはありますけど・・・というか、領地と屋敷の扱いが逆なだけで、どの貴族のお屋敷も、同じような感じじゃないですか?」
そうですね・・・まあ、直接お勤めされている方に聞いてみたかったというか、ははは。
「あ、荷物受け取ってきますから、ちょっとここで待ってて下さい」
*******
「おまたせしました。帰りましょう」
重そうですね、手伝いましょうか?
「いえ。荷物を他人に預けてはいけない決まりなので。」
そうでしたか、すみません。
えっと・・・最近、働き始めた新人さんはいらっしゃいますか?
「ええ、4ヶ月くらい前かな?」
新人さんの仕事ぶりはどうでしょう
「すごく覚えが早いので、そろそろ研修期間が終わりますね」
4ヶ月で研修が終わるのは、早いんですか?
「そうですね。仕事内容からすると、早いと思います。メイド職は初めてだと言っていましたから、向いてるんですね、きっと。」
やはり、優秀な方が雇用されるんですねぇ。
ところで公爵家では、雇用主と使用人の関係は、どうですか?
「普通だと思います。顔を合わせれば挨拶しますし、用事を言いつけられることもありますし」
よ、用事ですか!それはまたどのような!
「え?洗濯だとか?」
ほう!
「繕い物だとか?」
ほほう!他には?
「・・・あの、わたしランドリーメイドなので、服に関する仕事全般です」
なるほどー!!王子様方の着たお洋服に触れることができるんですねー!!
「はあ、まあ」
たまに脱ぎたてとかあったりするんですか!!
「ええ、たまには」
なんてこと!!なんてうらやましい!
「え?あの?」
そそそ、それで!
「いや、あの?」
それで、脱ぎたてのお洋服はどんな感じなんですか!
「は?」
やっぱり、良い香りがしちゃったりするんですか!
「えええ!?いや、ちょっとそういうことは・・・あの、私ここで失礼しますっ」
え?待ってください!教えてくださいよ!
「ちょっと!ついてこないでください!」
ま、待ってください!そんな全速力で走らないで!
「いやー!ついてこないでー!」
ああ!お屋敷に駆け込まれたらお話が聞けないっ!メイドさ~ん!まってー!
「はあ、はあ、はあ・・・い、息が苦しっ・・・お屋敷まで、あと少しっっ」
「おや?どうしたんですか?ミシェル?」
「ああ!クリスさん良い所に!助けてください!」
「は?」
ああ!王子様っ!なんていいタイミングなんでしょう!
「ああああの人、雑誌の記者なんですけど、王子様方の脱ぎたてのお洋服がどんな感じかとか、変なこと聞いてくるんです!」
「ほぉーう、つまり変態ですか。それは、見過ごせませんね」
ああ、こんなところでクリス王子に会えるなんて、私は幸せですー
「そうですか。」
あ、あの、いつもこの出入り口を使用されるんですか!・・・この時間にですか!
「変態の上にストーカー気質とは、ますます見過ごせませんね。・・・あ、髪にゴミがついてますよ?」
え?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「さあ、ミシェル。屋敷に戻りましょう」
「え?あの人いいんですか?クリスさん、あの人どうしたんですか?」
「さあ、どうしたんでしょうね?急に大人しくなりましたねぇ」
「はあ。・・・ひょっとして、鍵を使ったとかですか?私クリスさんの鍵ってよく知らないんですけど、旦那様に禁止されてるってホントですかー?」
「・・・さあ」
「えー、なんか今の感じだとー、記憶いじる系の力だったりするんですかぁー?それじゃクリスさんは影でやりたい放題できるんですねー。なんか楽しそー」
「おや、ミシェルも髪にゴミが」
「え?すみませ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ミシェル、帰りますよ」
「あれ?クリスさん。いつから居たんですか?」
「たった今です。」
「あれ?ここ使用人出入口?私、クリーニング店からいつの間に帰ってきたんだろう・・・?」
「・・・ミシェル、昼から寝ぼけてるんですか?」
「え、ひどっ!寝ぼけてませんっ」
その後、発刊された雑誌には、公爵家のメイドの記事はもちろん掲載されていませんでした。
王子様が2人も居る公爵家は、若い女性に人気の職場です。
王子様のお家なので、使用人は王宮使用人の身分です。リィナは召喚者なので、別枠です。
次話も閑話です。次は『Nさんの災難』を。




