31 謁見の間にて
ひととおりの不満をぶつけて、旦那様を凹ませた後、一度解散(?)になりました。
そのあと、客間の用意が出来ているとかで、移動することになりました。
そりゃあ旦那様の寝室にずっといる訳にはいきませんよね。
車椅子でも貸してくれるのかと思ったんですが・・・
「い、いやですっ」
「これが一番効率が良いでしょう。あきらめなさい」
「それでも、イヤですっ」
クリスさんが、私をお姫様抱っこしようとしていますっ
シ、シラフの時にお姫様抱っことか、一体何の拷問ですかっ
抵抗むなしく、抱きかかえられてしまいました。ううっ。
すれ違う人たちの視線が痛いです。
『誰、今の女性』的な話をコソコソしないで下さい。聞こえてますよっ。
はっ!そういえば・・・
「ねぇ、クリスさん。さっき旦那様は王子様だって言ってましたよね?」
「ええ、そうですよ」
「ってことは、あの日わたしは酔っ払った挙句、王子様に『お姫様抱っこ』をしてもらったわけですか!?」
「・・・ププッ、そうですね」
なんてハズカシイ・・・これはもう黒歴史として封印するしかないですね。
クリスさんに抱っこされたまま、居た堪れない移動が済み、ソファに座らされました。
クリスさんと入れ替わりに、メイド長と女官さんがやってきて、服を着替えさせられました。
もちろん体が動かないので、されるがままです・・・
髪も元に戻され、化粧も落としてもらいました。
服も髪も化粧も、きっとぐちゃぐちゃだったと思うので、ちょっとは小奇麗になったかしら・・・?
一通り身支度が終わり、と、またクリスさんがやってきて私の正面に座り『今後の事』を聞かせられることになりました。
「とりあえず、今回の首謀者と実行犯は捕らえましたので、更に後ろに居る人物までたどり着くのに、そう何日もかからないでしょう。全員捕らえ終わったらお屋敷へ帰りますからね。」
「えっと・・・全員捕らえ終わらないと、帰れないんですか?」
「ええ。少しでも危険を減らしたいので」
「・・・まだ危険なんですか?」
「そうですね。リィナはシオン様の召喚者なので、念には念をいれておかないと」
よくわかりませんが、なんでですか?
「召喚主には、召喚者の保護責任があるんです。」
ああ、色々もらった『召喚者書類セット』の中にそんなこと書いてありましたね。
「シオンに自分の娘を差し出すことによって、謀反派に取り込もうとしていた連中にとって、今日の『謎の侍女』の存在というのは邪魔にしかならない。だけど『シオン様の召喚者』を手に入れれば、リィナを盾にしてシオン様を動かせるかもしれない」
「どっちに転んでも、私は危険な役回りだって事じゃないですか!」
「そういわれれば・・・すみません」
さすがにクリスさんも悪いと思っているみたいで、本気で頭を下げてくれました。
そのくらいじゃ、赦しませんけどね!
ところで、旦那様はどこですか?さっきから姿が見えませんけど・・・
「シオン様は今、管理局に出向いています」
「管理局って、召喚を管理してる所でしたっけ?」
「ええ。召喚主には召喚者に関する、責任がありますから」
「はい。」
「リィナを危険な目に遭わせたので、その報告に行っています。」
「そうですか」
自業自得・・・と言えなくもないですよ、旦那様。しっかり叱られてきてください。
「それでリィナ」
「はい」
「国王が、お呼びです」
「はい?」
「リィナが大変怒っていることを話しましたら、ぜひお詫びしたいとのことです」
「ご辞退いたします!」
嫌なフラグが立ちそうです。ここはキッパリ断ります!
「そんなこと言わずに」
「いえいえ、王様に謝っていただかなくても大丈夫ですから!」
「そうはいきませんよ」
そう言って、クリスさんが体を乗り出してきました。
「こちらに非があるとはいえ、社会人としての常識とまで言われてしまいましたからね。」
ひぃ!くっ、黒い笑顔・・・真っ黒です。いつの間に!
真っ黒な笑顔のまま近づいてきますっ
こ、こないでー!
「私達の不手際で危険な目にあわせてしまったのですから、やはり責任者から直接謝罪させていただかないと。社会人としては、部下の失敗を上司が謝罪するのは当然でしょう?」
ここでの私の立場を会社に例えて考えると・・・期間限定の契約社員のようなものですよね。
子会社の契約社員に、親会社の社長が謝罪ってことかしら
無い!無いから!!
イヤーーー
私が動けないのをいいことに、再度お姫様抱っこするクリスさん
「ぃやっ、やめ・・・せ、せめて動けるようになってからでないと失礼では!?」
「いえいえ、善は急げと言うでしょう」
“あなたのどこが善なんですか!”
もちろん、口には出しませんよ。出したとたん、今度は死亡フラグが立ちそうですし。
「ま、まって、私まだ立つこともできないし、このままだと王様に礼も出来ませんし!」
「安心しなさい、私の権限で謁見の間にソファを入れさせましたから。私も王族ですからね。多少の無理は利くんですよ。」
「こんな時に権力を使わないでっ」
「いやだなリィナ、こんな時以外に権力を使ったら、横暴だと思われるじゃないですか」
「わたしに対しては横暴でもいいんですかーっ」
「もちろんでしょう。ほら、しっかりつかまってないと落としますよ」
「いやーーーーーー」
私の叫びも抵抗もむなしく、連行されました・・・
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謁見の間とやらに入ったら、本当に真ん中にドンと立派なソファーが置いてありました。電車の座席くらいの幅がありますから、詰めて座れば大人7人掛けくらいでしょうか。
もちろん、奥行きもゆったりしているので、背もたれに大きなクッションがたくさん置いてあります。
クッションがなかったら、ずっと背筋伸ばしてなきゃならないので、体が動かない今の私では後ろに倒れてしまいそうですね。
これ運ぶ人、大変だったんじゃないですか?
うう、クリスさんが権力を行使した結果、私なんかの為に誰かが大変な目にあったんですね・・・申し訳ないです。
クリスさんは私をソファに座らせると、スカートを整えてくれました。すみませんね、家令様に衣服を整えてもらっちゃって。
クリスさんはソファの脇に立っています。
しばらくすると、黒い騎士さんが数名、謁見の間に入ってきました。
みなさん定位置が決まっているのか、黙って壁際にたたずんでいます。
王様、どこから登場するんでしょう?
キョロキョロしてたら後ろから声をかけられました。
「リィナ」
旦那様ですね。残念ながら体の動かせない私は後ろを振り返れません。
「大丈夫か?」
そう言って、わたしの隣に腰掛けます。
あまり大丈夫ではないです。体ではなく、心がですが・・・王様に会うのですから、緊張してますよ。
しばらく旦那様を見ていたら、なぜか頭をなでられました。なぜだ?頑張れってことかな?
「陛下はもうじき来ると思・・・・・・」
私の頭をなでながら、旦那様が固まりました。私の肩越しに何かを見ています・・・壁際に居る騎士さん?
「なにをして・・・」
「え?」
「なんだ、結構早くバレちゃったなー」
そう言って、一人の騎士さんが近づいてきます・・・
旦那様、眉間に皺が。でもまあ標準装備でしたね。
「なにをしているんですか」
「うーん、騎士ごっこ?」
「・・・」
「や、やだな。冗談だよ?・・・シオン君、すごく怖い顔してるよ?」
ああ、なんか、わかりましたね。そうですか、この人が・・・
このオジサンも、金髪碧眼です。クリスさんと同じ色だね。
クリスさんもあと10年位したら、こんな感じで老けるのでしょうか・・・腹黒をプラスする必要はあるでしょうけど。
「ク、クリス君、シオン君が怖いよっ」
「自業自得ですよ、陛下。」
やっばり、この人が王様みたいですね。軽いおっさんだなー
「もう一度聞きます。何をしているんです?」
旦那様は威圧的に問いかけます。というか、旦那様が王子様ってことは、王様はお父さん?他人行儀すぎませんか?
それとも王族って、家族間でもこういうもんなんですかね。
「だって、シオンとクリスが気に入ってる女の子を、コッソリ見たかったんだよ」
「コッソリって・・・」
クリスさんが頭を抱えました。
「謁見じゃさ、素の状態がどんな子か、わからないじゃないか!」
「…威張って言うことですか?」
旦那様、吹雪いてますね。私まで凍えそうです。
「それで、コッソリ見てどうでした?」
クリスさんがそう聞くと、王様はニヤリと笑って私を見ました。
「いやぁ、いいものが見れたよ。シオンが女の子の頭を撫でるなんて」
「なっ!!別に俺はっ」
「お嬢さん・・・リィナさんと言ったかな?どうだろう、いっその事この国に」
「「陛下っ!!!」」
クリスさんと旦那様が大きな声を出して、王様の話を遮りました・・・不敬ではないんですか?身内だからいいんですかね?
王様は二人の様子を見てニヤニヤしてます。
「彼女は召喚者だと伝えましたよね!」
「もちろん聞いたよ。だからこそ・・・」
「余計なことを言わないでください!謁見の間での発言は、すべて記録されるんですから!」
二人になんか責められている王様。でもずっとニヤニヤしたままです。
うーん、私、この王様、苦手なタイプかも。
「リィナさん、この度は危険な目にあわせてすまなかったね」
「いえ」
「聞いていると思うけど、この2人は王宮生まれの王宮育ちでねぇ。危機感が足りないんだよ。自白剤くらいで済んで本当によかったよ。口を割らせるために拷問や強姦でもされていたら異世界間協定に関わる大問題になっていたからね」
ただの軽いおっさんかと思っていたら、拉致監禁の危険性は分かっていたようです。やっぱり王様なんですね。
ちなみに、その可能性を思いつかなかったであろう旦那様は、聞いたとたん青ざめて・・・うなだれてしまいました。私が怒った理由、分かりましたよね?反省してください!
「本当ならシオンの不始末は王妃に謝らせるところなんだけど、今日は公務で居ないんだ。私は義理とはいえ父親だし、一応この国の最高責任者だからさ、私の謝罪で許してくれるかな。本当に、すまなかったね」
「いいえ。私はこのお2人がきちんと反省してくれれば、それで。」
ところで、なんかサラッと気になること言いましたよね?王様は旦那様の義理の父親?
王妃・・・王妃!?
王妃様って、前に『厄介な』とか『女王様な性格』とか言ってたあの王妃様ですか!?
たしか、敗戦国の王子と結婚して、そのあと王様と再婚したって・・・ってことは旦那様は---------
考えこんでいたら、旦那様に眉間を押されました。なに!?
「リィナ、眉間にしわが寄ってるぞ」
「!?」
「癖になるぞ?」
「!!旦那様にだけは言われたくない!」
「う・・・」
しばらく私と旦那様のやり取りを笑って見てた王様は、クリスさんと内緒話(?)をしたあと、「リィナさん、帰国するまでに王妃や王太子にも会ってやってね。じゃあね。」
と軽―い挨拶で謁見を終了し、来たときと同じく騎士たちと一緒に出て行きました。
あの騎士さんたちは護衛だったんですね。護衛と同じ格好している王様って・・・
「さあリィナ、戻りますよ。シオン様も。陛下と王妃とシオン様の関係について、ちゃんと説明しましょうね」
「はい、ぜひ!ついでにクリスさんとの関係もぜひ!」
もう難しいから図解してほしいくらいですよ。
「・・・やっぱり説明しないとダメか?」
「「あたりまえだ!―――――」」
謁見の間には、旦那様に対する私とクリスさんの突っ込みが、見事に反響してました。




