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29 会議中3

リーダー格らしき女性が私の前に立ち、顎をそらして性質の悪い微笑を浮かべています。

「少しお時間、よろしいかしら?」

よろしくないのが分かっていて言ってますよね。


残り2人は私の左右に回り、ピッタリとくっついてきます。

逃げ道をふさいでいるつもりのようです。


「付いて来てくださる?」


さて、どうしましょうかね。

1.面倒くさいけど、付いていく

2.おもしろそうだから、付いていく

3.とりあえず、付いていく


ププッ、なんてね。

ああ、こんな危機的(?)状況を楽しめてしまう性格に育ってしまったのは、間違いなくおじいちゃんの所為(せい)ですね。散々、学校帰りに拉致られましたから。

だからお兄ちゃんが過保護(シスコン)になったんだな、きっと。




とりあえず、付いていくと何やら通路の奥まった所にある一室に入れられました。家具が何もない空き部屋のようです。

部屋の中には3人の男性。

侍女(?)さん2人は、部屋の内鍵を閉めてから、ドアの前に控えました。出口をふさいでいるのでしょう。

1人、侍女さんの姿が足りないのは、きっと部屋の前で見張りとかしているんでしょう。

ずいぶん念入りですね。


1人の男性が、ズイッと前に出てきました。・・・そう、さっきのオジサン。

どうやら、このオジサンがリーダーの様です。


うーん、さっきクリスさんが言っていた『話しかけてくる者がいる』って、これかな?

これって、話しかけてくるっていう程度を超えていますよね?


でも、本日の"私の仕事"として期待されている内容は、『この状況を切り抜ける』ことなのでしょう。

ご期待に添えるかどうか・・・とりあえず頑張りますか。


リーダーのオジサンが、偉そうに話しかけてきます。

「お嬢さん、まずは名前を聞いてもよろしいかな」

とりあえず、ご期待にそえるようにしおらしく答えましょうか。

「・・・お答えできません」

「公爵家に仕えているのか?」

「お答えできません」

「お父上の爵位は?」

「お答えできません」

「なぜ今日の会議に同行している?」

「お答えできません」

「見慣れない茶を振舞っていたようだが、どこで覚えたのだ」

「お答えできません」

「それだけ所作が美しいのだ。名の有る家の者なのではないか?」

「お答えできません」

おお!なんて万能な言葉!『お答えできません』

というか、いま私、軽く褒められましたね。うふふ、所作がきれいですって。


オジサンは、だんだんイライラしてきたようです。

「公爵の側に仕えるには、それ相応の身分が必要だとわかっているのかね」

「・・・お答えできません」

へぇ、そうなんだ。じゃあ屋敷の皆さんはそれなりの身分なのかな?

「自分の素性も話せないような者がこの会議に同行しているなど不愉快だ」

そう言われてもね。話すなって言われてるしね。

「何か言ったらどうだ」

「お答えできません」

リーダーのオジサンの後ろに居た、ノッポのオジサンとちっちゃいオジサンが少し前に出てきました。

「まあまあ、侯爵。口止めをされているのでしょう。」

「シオン様には黙っていてあげよう。悪いようにはせんから言いなさい」

「・・・お答えできません」

「君が何も言わないとなると、こちらとしては身元不明の者が侵入していると判断するぞ?」

いやいや、わたしは『公爵様』のお供で来てるんですけどね?


「警護の騎士に引渡し、牢屋に入れてやろうか!」

牢屋か・・・ずっと入れられるのはもちろん嫌だけど、どんなもんかチョット見てみたい気もするね

異世界の牢屋かぁ。ごはん美味しいといいなー

・・・はっ!日本に帰ったら前科が付いていたなんて事があったら大変ですから、やっぱり見れなくていいです。


「それとも、色仕掛けで公爵に近づいた下賎の者だと言いふらしてほしいか」

色仕掛けねぇ。あの旦那様に色仕掛けが通じるとは思えませんね。ここ何ヶ月かお仕えしてみた上での、あくまでも私の推測ですが、あの若者は女慣れしてますよ。身分が高くて顔もいいからモテモテなんじゃないですかね?・・・使用人へのセクハラはしないように気をつけているみたいですが。


とにかく、何といわれても私が言える言葉は一つだけなのです。

「お答えできません」


男性達のイライラが、そろそろMAXになりそうですね。

「どうやら、自分の置かれている状況が、理解できていないようだね」

いえ、この上なく理解しておりますが?

「我々としても、手荒なことはしたくなかったのだが・・・仕方ない」

んん?雲行きが怪しくなってきましたね。

おじさんが一歩近づいてきます。

反射的に近づかれた分だけ後ずさる私。

それを見たおじさんたちは、ドアの前に居る侍女2人に視線を投げ・・・




・・・どうしましょう。私はいま、侍女2人に両腕をがっしりと拘束されています。

そのまま、引きずられるように部屋から出て移動しています。

おじさんたちは私達を先導するように歩いています。

まずいですね。拘束が解けません。意外と力持ちみたいですよ、この侍女さん達。


引きずられて行ったのは、更に奥まった場所。

もう会議場のあった建物ですら無いですよね。どうしましょう、もうここが何処かさえ分かりません。


このまま王宮の外とかに連れられて行ったらどうしようと、さすがに焦ってきた頃、おじさん達が止まりました。なんか石造りの建物の中に連れて行かれます。


どこですかね、ここ。


建物の中に居たのは、軍服を着崩した、ガラの悪そうな男達が3人ほど。

ガラが悪そうな割には、おじさん達にちゃんと礼をしています・・・部下ですかね。


「この娘をしばらく監禁しろ。抵抗したり、逃げ出したりするようなら、少し痛い目にあわせてもかまわん」

おじさんがそう言うと、私の両腕に居た侍女さんたちが腕を放してくれました。

・・・まあ、軍人さん(?)3人とおじさん3人と侍女さん3人に囲まれている今の状況で、逃げ出すのは難しいから、離してくれたんでしょうけどね。


むむむむ、どうしましょう。

助けを呼ぶ手段が、無いんですけど。

でも、私が戻らなかったら、クリスさんが探してくれるとは思うんですけど。


探してくれますよね?





***************************************




会議場のブースに戻ったシオンを待っていたのは、苛立った様子のクリスと、先程戻ったはずのウィルだった。


2人のその様子を見て、自分達が予想した中で、最悪の事態が起こったのだと理解する。

椅子に腰掛けると、間を置かずクリスが報告してくる。


「リィナが、連れ去られました」

声を抑えてクリスが言う。

「居場所は特定できているか」

「東翼の、騎士の詰め所のそばにある今は使われていない待機所です。」

手の中にある受信機を見て、ウィルが報告する。王宮内での場所を特定できる発信機を、リィナに侍女服に仕込むよう、キーラに命じておいたのだ。

「では、いこうか。」

"命令する者"として言葉を発するのは、久しぶりだな・・・

そんなことを思いながら立ち上がると、クリスとウィルは片膝を立てて跪く。


「全員、捕縛しろ」

「心得ました」

「御意」


クリスとウィル、それぞれが了承の意を示し、3人で共に部屋を出た。

王宮内での殺生は重罪だ。だからリィナの命が危険に晒されることは無いとは分かっているが、どうにも腹立たしい。

連れ去った連中を不当に罰してしまいそうな程には腹立たしい。


召喚主としての少々厄介な感情に、シオンは眉間の皺を更に深めた。





*********************************************




扉の前には、全部で8人程の騎士が待機していた。


シオンの後ろに続いてブースを出たウィルは、扉の前で控えていた『えんじ色の軍服』を着る自分の部下から剣を差し出されて帯剣する。そして部下達に王都の外に通じる門をすべて閉じるように命令する。

これで、この捕り物が終わるまで、誰も外には出られない。


同じように、クリスも剣を受け取りながら、王宮の門をすべて閉じるように命令している。もちろん、クリスの部下である『紺色の軍服』たちに。


そしてシオンは、ただひとりの『黒色の軍服』から剣帯と剣を受け取る。

今日はスーツを着ているシオンは少し考えた後、ジャケットを脱ぎ、腰に剣帯をつけた。

黒色は、シオンに頭を下げると、すぐに立ち去った。


ウィルは、すでに帯剣許可が下りていたとは、正直知らなかった。

あまりに用意周到すぎるシオンとクリスの様子を見て、ウィルはひたすらリィナの無事を祈る。


"もし彼女に何かあったら、シャレになんねぇよ。"


ここまで大げさにするほどの捕り物ではない。

貴族の一部が暴走することなど、日常茶飯事のはずだ。

無事に助け出せば、事を荒立てずに収めることも可能なはずなのに。

自分達・・・騎士団を動かす以上、穏便に済ませる気は無いということだ。

シオンが自身の召喚者を囮に使ってまで、捕らえるほどの『何か』があるはずだが、生憎、ウィルには検討もつかない。


"頼むから、無事でいてくれよ"

先ほどから動きのない受信機の点滅を見ながら、最短距離を惑うことなく東翼へ向かうシオンの後を追った。













軽い攫われイベントが発生しました!

しかも囮として使われました!


旦那様は憤慨中

クリスさんイライラ中

ウィル心配中


リィナ・・・もっと慌てなさいってば!








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