28 会議中2
昼休憩の時間になりました。
食事は、旦那様の執務室で、4人で食べました。
執務室に戻ったら、たくさんのサンドイッチとスープが用意してありました。
会議のときは、大体こんな感じらしいです。
ですが、さすが王宮のサンドイッチ!
中の具が美味しかったです。
もぐもぐ・・・美味♪
「幸せそうに食べるねぇリィナちゃん」
ウィルさんにそんなことを言われました
「おいしいですもの」
ニコニコニコ
それを見ていたクリスさんが、紅茶を入れてくれました。
「食事を楽しめるのは、良い事ですよ」
「そうだな」
んん?なんでしょう今のやり取り。旦那様とクリスさんは、食事を楽しめていないんですかね?
「リィナちゃんは、料理はするのかい?」
「はい。異世界では、一人暮らしでしたし、料理は得意なんですよ」
「へぇ」
「それに最近は、キッチンメイドのお仕事も手伝っているんです」
そうなのです。料理長のマリーさんのお手伝いをしているんです
今度、厨房の使い方をちゃんと教えてもらって、日本食を作ろうかと計画中です。
まあ、醤油と味噌とみりんをどこかで手に入れてからですが・・・あと、鰹節と昆布。
「料理が得意なら今度、俺のウチで日本食作ってくんない?」
「いいですけど・・・ウィルさんの家ですか?」
お家行っていいんですか?
「却下」
了解しました旦那様。
「旦那様に却下されましたので、すみませんウィルさん」
「えぇー」
「『えぇー』じゃない。リィナも、あまり気軽に男性の家に行こうとしないでください」
クリスさんは、頭を抱えています
でも、そういう色っぽい話ではないですよね、これ。本当にご飯つくるだけでしょう。
「作るなら、屋敷で作ればいい」
「それって、俺がお屋敷に行けないこと知ってて言ってます?シオン様」
「来たいなら、来ればいい」
「ハァー。分かりましたよ」
なんで、ウィルさんは来られないんですか?身分とかですか?それともお仕事忙しいとか?
クリスさん目で問いかけてみると、苦笑しながら教えてくれました。
「ウィルは、ウチの屋敷には出入禁止なんですよ」
「キーラさん怖いからナァ・・・」
すごーく遠い目をしてつぶやくウィルさん。
昔、何かやらかしたんですね、きっと。
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「さて、そろそろ行きましょうか。」
クリスさんがそう言ったのを合図に、みんなで立ち上がります。
そう、これからが本番です。
「リィナ、緊張せずに、いつもどおりで良いんですよ」
そうは言っても、じろじろ見られながらお茶を入れる訳で・・・
ワゴンを押しながら、かなり憂鬱になって来ています。
あ、ちなみにこのワゴン、さっき会議場に持っていったのと同じものです。
先程、女官さんが来て、お湯を交換してくれました。
少し大きめのホールのような場所に連れて行かれました。
ここは・・・談話室みたいな感じですね。
会議の出席者同士で、親睦を深められるように、こういう場が設けられているのでしょうか。
その中の空いている丸テーブルに陣取ります。3人が均等な間隔で丸テーブルに座ったので、相席してくる人も居ないでしょう。なかなか考えてますね。
私は、お茶の準備を始めます。
3人分なので、大きめのティーポットを使い、茶葉とお湯を入れ、蒸らしている間に、カップの準備。
おっ?ちゃんと茶葉がジャンピングしてる。
ついさっきもらったばかりのお湯だからかな。うん、よかった。
お湯の中に酸素が充分含まれて居ないと、茶葉がジャンピングしないそうです。
なので、紅茶を入れるときは、ミネラルウォーターより水道水が良いのだとか。
あ、ちなみに教えてくれたのはクリスさんです。
程よく蒸れた紅茶をカップに注ぎ、旦那様から配ります。が、クリスさんとウィルさんは、どちらを先に配ればいいんでしょうかね・・・クリスさんですか、そうですか。旦那様が目線とアゴで教えてくれました。
「うん、美味い」
ウィルさんが褒めてくれました
「ありがとうございます」
とりあえず、お礼を言って淑女の礼をします。
そう、ここで『淑女の礼』をさせられました。
初日に教わって、一ヵ月後に出来るようになったかチェックされた、あの淑女の礼です。
まあ、お辞儀の角度が浅い”簡易版”といった感じの礼ですが。
なんで侍女が淑女の礼なんですか???
という私の疑問に対して、クリスさんの回答は
「王妃と王女付きの侍女たちは皆、それなりの身分のある家の出身の『淑女』なんですよ。」
なるほど。そりゃメイドとは違うでしょうね。そういう方々は、メイドや女官の礼の仕方など、しないのかもしれませんね。
ここでまた疑問が・・・ひょっとして淑女の礼を練習させられたのは、王宮に来ることを想定していたんでしょうか?
・・・どうやらそのようですね。クリスさんの笑顔が、黒い。
それにしても。
本当に、注目されています。このホールに居る人たちの3分の2は、このテーブルを見ていますよ。
ちなみに、3分の1はガン見、もう3分の1はチラ見ですが。
こちらに注目していない残りの人たちは、歓談中及び打ち合わせ中といった感じでしょうか。
3人は、私の入れたお茶を、優雅に飲んでいます。
そう優雅に。
これだけ注目されているのに、全く動揺しないんですねぇ。すごいですね。
きっと注目されることに慣れているのでしょう。これだからイケメンは。ケッ。
「リィナ」
「はい、旦那様」
「さっきのお茶を入れてくれ」
さっきの?ああ、お抹茶ですか。
なるほど、ここで入れるんですね。会議中にシャカシャカ音を立てなくて済んでよかったです。
道具一式をワゴンの上に用意して、先程と同じようにお抹茶を点てます。
うーん。注目度が上がりましたね。まあ、日本で同じ事やっても注目されるでしょうけど。
というか、クリスさんとウィルさんまで興味津々の様子です。
「日本の、お茶だよな」
「日本のお茶のようですね」
「この前の外交官から貰ったんだ」
「そうですか。会議前に飲まれたんですか?」
「ああ。悪くなかった」
「へぇ、俺も飲みたい」
「リィナ、私にもお願いします」
お茶碗は1つしかありません。
飲みたかったら、順番ですよっ。
旦那様にお茶を出すと、先程教えた通りに飲んでいます。
お抹茶は紅茶よりもカフェインが多く含まれているので、そんなに何杯も飲んだら眠れなくなりますよ?それとも会議中に眠らない為に飲んでいるのかしら?
旦那様が飲み終わったタイミングで、向こうから誰か歩いてきました。
小柄で恰幅が良く、肌つやの良い初老の男性です。
つまり言い換えると、ちびデブの脂ぎったオジサン。
私はとりあえずクリスさんに出すお抹茶の準備をします。
近づいてきたオジサンは、旦那様に話しかけます。
「公爵、ご無沙汰しております」
「ああ」
旦那様、返事はしてるけど・・・ほぼ無視だね。
「皆様もお変わり無い様ですね。・・・おや?見かけしたことの無いお嬢様がいらっしゃいますが、ご紹介いただけませんかな」
超わざとらしい
みんな無視しているので、私も無視します。
クリスさんのお抹茶出来ました、どうぞ。
「侯爵に紹介する者では無い」
「・・・」
ええっと、このおじさんは侯爵様なんですね。
そして、旦那様は私を紹介する気は無いということですね。
旦那様に聞いても無理だと思った男性は、チラチラとこっちを見ながら去っていきます。
「リィナ」
「はい、なんでしょう?クリスさん」
お茶のお代わりかしら?
「私たち以外で、リィナに話しかけてくる者がいたら、全て『お答えできません』で通してください。」
「・・・はい?」
あら、なんだか厄介事の気配がしますね。
「いいですね?『お答えできません』以外の発言は、してはいけませんよ」
「はい。分かりました。」
お答えできません。お答えできません。お答えできません。お答えできません---
「リィナ」
「おこ・・・何でしょう。旦那様」
クリスさんの視線が、痛い。つい『お答えできません』と答えそうになっただけじゃないですか・・・はい、ごめんなさい。
旦那様からも冷たい視線が・・・ううっ、すみません。
ウィルさん、笑いをこらえるの大変そうですね。
「何か聞かれても、何も答えるな。回答に詰まったら無言でいい」
はい、旦那様。かしこまりました。
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ウィルさんは、仕事があるそうで、会議室には戻らないのだとか。
お抹茶を飲んですぐに帰りました。
旦那様・クリスさん・私の3人で会議室に戻ります。
お茶を入れて、またしばし会議の内容をBGMにしながら部屋の隅で立ち続けること小一時間。
「そろそろ行ってくる。ここを頼む」
「はい、承りました」
クリスさんとそんなやり取りをして、旦那様はブースを出て行きました。
どこに行ったんですか?
「これから、シオン様が今日の議題についての発言をされるんですよ」
「そうなんですか」
ってことは、あそこの壇上で話すのですね?
「リィナ、今のうちに休憩してきてもいいですよ」
クリスさんの許可が出たので、休憩をしに行くことにしました。
従者用の控え室が、お手洗いの隣にあるそうです。
自由に入っていいんですって。
そおっと中を覗くと、5人ほど中にいるようです。女性ばかりですね。
昼食のお世話だけしに来た女性たちが、休憩をもらっている・・・というところでしょうか。
みんな、無言で部屋のあちこちにあるテープルに、別々に腰掛けてます。
・・・おじゃましまーす。
こっそり入って、お茶を入れて、隅のほうのテーブルに座ってみますが・・・
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・落ち着かない。シーンと静まり返っているこの部屋が、全く落ち着かないったら。
これなら、トイレ内の待合室のソファに座っていたほうがいいかしら・・・と考え、お手洗いに移動します。
王宮のお手洗いは、とても広くてきれいです。
たくさん個室があり、中も広くて、手洗い場と化粧台も個室内にそれぞれあります。
待合室に入ると、案の定、誰も居ません。
それもそのはず。この待合室は個室が満員のときに、空くのを待つ為の待合室ですから。
このお手洗い、入り口と出口が違うので、個室の前で今まで使っていた人とすれ違ったりしない構造になっているのです。
庶民の感覚では無駄なスペースを使っているなと思ってしまいますが、きっと『淑女の皆様』には必要なのでしょう・・・たぶん。
ああ、やれやれ。
ソファーに深く腰掛けて、ため息をひとつ。
・・・私、今日の午後は休みのシフトだったんだけどなー
メイド長に言えば、別の日に振替してくれるかしら?くれますね、きっと。
・・・・・・・
しばらくボーットしていたら、そろそろ戻ったほうが良い時間になってしまいました。
さて、戻りますか。
そのまえに、トイレに行ってからにしましょう。
しつこいようですが、入り口と出口が違うので、個室の前で今まで使っていた人とすれ違ったりしない構造になっているのです。
・・・ええっと、すれ違わない構造になっているはずですけど?
用を足して個室を出た私は、なぜか女性3人に囲まれてます。
これって危機的状況・・・ですよね?




