21 歓迎会にて
午前中のお掃除も無事(?)終わり、お昼をはさんで、午後からは客室の掃除です
ちなみに、ミシェルさんに旦那様の部屋での出来事を話したら、大爆笑されました。
まあ、笑い飛ばしてくれたほうが、気は楽ですけどね
ナンシーさんが心配してくれるのは、もちろんとってもうれしいんですが、
なんというか・・・そんなに怖くなかったんですよね。なんででしょう。
10才も年下だと、男性として見ていないってことなのかしら。
まあ、イザとなったら、殴ってでも逃げるしねー
ふふっ、護身術くらいは心得てますよ。一人暮らししてましたからね。自分の身ぐらい守れないとね。
さて、客室の掃除ですが
「・・・と、こんな風に、空気の入れ替えをして、埃だけ取って、終わり」
おおっ、簡単です。
「簡単でしょ? 手分けしてやりましょう」
「はい、ナンシーさん」
午後からもナンシーさんが先生です。
・・・これからもかな? だったらいいな。
客室は、お客様が使用したときと、使用していないときで掃除の仕方が違います
まあ、当然ですよね
昨日は、どなたもお客様がいらしていないので、窓を開けて空気を入れ替え、埃を取って、終わり。
うん。完璧っ
さすがに大きなお屋敷なので、客室もたくさんありますね
「リィナ、そっち終わった?」
「はい、ナンシーさん」
二人で手分けしたら、結構速く終わりましたね
とは言っても、ナンシーさんの方が多くの部屋を受け持ってくれたのですが。
「じゃあ、次は・・・」
そう言ってナンシーさんは歩き出します
ついていくと・・・あれ? ここは、私が居た部屋ですね
なるほど、立つ鳥跡を濁さずって事ですかね
リネン類の交換から床・水回りまで、一通り掃除をします
うん、なるほど。
お客様が泊まった場合の客室は、きっとこんな感じで全部掃除するんですね?
「そうよ。リィナは覚えるのが早くて助かるわ」
褒められました。うれしいです。
そんな感じで、午後の仕事もつつがなく終わり、今は午後3時ごろです
いやー、結構働きましたよね
でも朝食と昼食の時間をさし引くと・・・実働8時間くらい?こんなものなのかな?
仕事が終わると、なぜかお茶の時間です。
お茶菓子が用意されていて、好きなもの食べて良いんだって。
ナンシーさんと一緒に休憩室へ行きます
「歓迎会までまだ時間があるから、ゆっくり出来るわね」
ナンシーさんはそう言って、マールのタルトを食べています
わたしはスコーンを、クリームとマールのジャムで頂いています
ああっ、そうでした!クリスさん!
「ナンシーさん、私、クリスさんに呼ばれているんでしたっ」
「ああっ!そうだった」
ナンシーさんも忘れていたようです
思い出してよかったー
「ちょっと行ってきます」
「あ、リィナ。わたし少し用事を済ませてくるから、先に部屋に戻っててね」
「はい」
「それと、クリスさんに紅茶の練習の事、念押しておいて」
うれしそうにそう言われました
ナンシーさん、そんなに楽しみだったんですかー
「・・・はい、言っておきます」
なんか、『私が楽しみにしている』というようなフラグが立たなければいいんですけどね
******************************
コンコンコン
「はい」
内側から声が聞こえます
「クリスさん、リィナです」
そういうと、部屋の中で気配がして・・・
カチャ
「どうぞ」
無駄にキラキラした笑顔で、内側からドアを開けてくれました
クリスさんの執務室は、入るの初めてです
旦那様が居るときは、旦那様の執務室で仕事をすることが多いそうですが、
旦那様が居ないときは、自分の執務室を使うんだそうです
ということは、旦那様、居ないんですか?
「ええ、昼すぎには出かけましたよ」
徹夜で朝まで仕事して昼には出かけるんですね。大変ですね。
「まあ、今朝はずいぶん寝ぼけていたらしいですけどね。大丈夫でしたか?」
ううっ、ここまで広まってるんですね
「はい、なんとか。それでクリスさん、渡したいものって」
「ああ、そうでした。実は王宮の侍女から、異世界人カフェの噂を聞きまして」
いっ異世界人カフェ・・・
なんですか、それ
「どうやら、異世界人が集うカフェがあるらしいんですよ。情報共有の場所のようですね」
「はぁ」
そっちね。
一瞬、メイドカフェとか執事カフェを想像してしまいましたよ
異世界人が給仕するカフェとか・・・異世界人である意味無いか。
「場所を聞いておきましたので、よかったら行ってみてはと思いまして」
「ありがとうございます」
「えっと、たしかここに・・・ああ、しまった。すみません、部屋に置いてきたみたいです。ついてきてください」
執務室を出て、クリスさんの部屋についていきます
本日2度目ですよ、この部屋。
クリスさんは、掛けてあるスーツの内ポケットを探っています
「ああ、あった。コレです」
ショップカードをもらいました
表面は異世界語で、裏面は英語です
「輸入品雑貨店の奥が、カフェになっているそうですよ。行ったらどんなところだったか、教えてください」
「はい、わざわざありがとうございます。お休みの日に行ってみます。あの、クリスさん」
「はい」
「ナンシーさんが、紅茶の練習を楽しみにしているようですよ」
この言い方ならフラグは立たないだろう
「そうですか、わかりました」
苦笑しながら、手を伸ばしてくるクリスさん
「リィナは楽しみにしてくれないんですか?」
そう言って、頭をなでてきます
うーん
今朝、頭をなでるのはセクハラって聞きました・・・どうしましょう
少し固まっていたら、急にクリスさんが「プッ」と吹き出しました
「そんなに困った顔をしなくても」
「からかったんですね?」
むぅ-------
クスクス笑っているクリスさん
美形に目の前で笑われると、なんか腹が立つ・・・何故だろう?
「今日は歓迎会だそうですね。私とシオン様は王宮で夕食会があるので、執事長と夜勤の者以外の使用人は皆、明日の昼まで暇を出しました。楽しんで来てくださいね」
「はい、ありがとうございます。失礼します」
自分の部屋に戻ってから、なぜかものすごい睡魔に襲われました
ふらふらしながらベッドに横になり、そのまま眠ってしまったようです
やっぱり、なれない仕事で疲れていたんだなー
私より後に部屋に戻ってきたナンシーさんに、心配されてしまいました
だっ大丈夫ですよっ、歓迎会行きますよっ、少し寝たからスッキリですよっ
******************************
歓迎会は、使用人用の食堂でするようです
みんなの前で挨拶とかするのかなーと思っていたら、文化の違いかな?無かったです。
よかったー
テーブルと椅子が壁際に集められて、立食形式になっています
お料理、おいしそうですっ
が、
主役なんで、私。
引っ切り無しに人が来て、食べていられないんですよ
うぬぬぬぬぬ
食べずに飲むと、酔ってしまいます
気をつけないとー
ちなみに、私はいま執事見習いの3人に囲まれて(?)います。
ところで、執事見習いってなにする人ですか?
執事とは違うんですか?
見習いが3人って多くないですか?
「俺たちは執事長の補佐と、執事長の身の回りの事をしているよ」
といって一人にグラスに白ワインを注がれる
「当家は他の家とは使用人の配置がちょっと違うから」
白ワインを注いだグラスに、別の一人がオレンジジュースを注ぎ、
「俺らは執事長に"執事教育"をされてるって感じかな」
最後の一人に炭酸を入れられた
なんか、酔いそうなカクテルを見事な連携で作りましたよ、この3人
「私、いまいち使用人の種類が良くわかってないんですが」
「リィナの居た国では、使用人は居なかったの?」
一緒に3人の執事見習いに囲まれていたナンシーさんが質問してくれます
「はい。まあ、裕福なお家がメイドや料理人を雇ったりはありましたけど、職業としての執事さんに会ったことはないですね」
「そう、なるほど」
黒目黒髪の執事見習いマイクさんが顎に手をあててそうつぶやく
「じゃあ、俺らがいま説明してあげるよ」
これは茶髪茶目のミックさん
「なにも今日説明しなくても、歓迎会なんだし」
これは金髪茶目のマイキーさん
どうでも良いですけど、ひょっとして3人ともマイケルって名前なんですか?・・・ああ、やっぱりね。
もしかして執事長も?・・・違いますか、そうですか。そりゃそうか。
「ああ、もうそのくらいでいいでしょ? リィナ、あっちで女性だけで飲みましょ」
「「「えーーーー」」」
なんか不服そうな3人を無視して、ナンシーさんに手を引かれていきます
「リィナ、また今度ね」
マイクさんが手を振っています
黒髪黒目のマイクさん。日本人としては、親しみやすい容姿です
思わず手を振り返すと、女性達5人ほどの輪の中に混ざったとたん、ナンシーさんに怒られました
「もうっ、なんでリィナは女癖の悪い男にばかり愛想がいいのっ」
マイクさん、女癖が悪いんですかー
んん?ばかりって、他は誰ですかー?
「クリスさんに決まってるじゃない」
「あと、旦那様もかなぁ」
初めて会うお嬢さんがそういいました。
はじめましてー、リィナですー
「アリッサよ。よろしくね。」
おおっ、あなたが同室のアリッサさんっ
よろしくですー
「リィナ、ずいぶん飲まされたわね。まったくあの執事ズめ」
「そうですねー、酔ってきました。」
食べてないからね
ここからは、食事にします
煮込んだお肉
お魚のパイ
お米のサラダ
ポトフ
バケット
フライドポテト
etc......
うん、パーティー料理だ
ちょっと濃い目の味付けが美味っ
「リィナ、これも食べなよ」
「ふぁい、ありがとうございまふ」
「これ、私が作ったのー」
「美味しいですー」
「リィナ、得意料理はある?」
「・・・得意というか、作ってて楽しいのは『中華』です」
「・・・チュウカ?」
「・・・説明は(語学力的に)難しいのでパスさせてください」
食事をして、お水を飲んでいると、酔いがさめてきました。よかった。
ところで・・・
「クリスさんと旦那様って、女癖悪いんですか」
「クリスさんは、単純に手が早いわね」
「旦那様は・・・なんというか」
「ある意味、かわいそうなんだけど」
「女としては、旦那様にも同情出来ないけどね」
むむむむむ
よくわかりません
あっ、メイド長だ
「あなたたち、雇用主の噂話は感心しないわね」
「「「「はーい」」」」
キーラさんも、本気で怒っているわけではないので、みんなも苦笑いでお返事してます
「リィナ、ちょっと話をしましょう」
そう言って、輪の中から連れ出されます・・・
「リィナ、あなた『ノーブレス・オブリージュ』は知っているかしら?」
「んー、高い地位にある者の責任・・・とかでしたっけ」
「ええ、そう。この国でも特権階級にある者には、立ち居振る舞いや道徳心から社会貢献まで、相応の責任と義務を求められるのだけれど、それとは別に必ず課せられる義務があるのよ」
「・・・?」
「跡継ぎを残すことよ」
「・・・なるほど」
「ナンシーから、旦那様方の部屋に、女性が来るという話は聞いているわね?」
「はい」
「クリスさんはともかく、旦那様は自分で望んで呼んでいるわけではないの」
「えーと、それは・・・?」
「旦那様は公爵ですからね。国王からの命令で、いろんな女性の扱いを"勉強"させられているのよ」
「・・・それは、大変ですね」
「そう、大変なのよ。跡継ぎは必要だけど、相手の家柄もあるし、迂闊に気に入った女性に手を出すわけにはいかない方なのよ」
「はあ」
「だから、今朝のような事は二度と無いでしょうから、安心してね」
なるほど、それを言いたかったんですね。キーラさん。
マイク・ミック・マイキー・ミッキー
全部、マイケルの愛称です。
リィナが酔っているため、初登場の執事ズやメイドたちの紹介がいいかげんです。
キッチンメイドが混ざっていたの、わかりました?
キーラはさりげなく旦那様をフォローしました。




