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20 メイドさんのお仕事4

クリスさんの部屋に着きました


コン コン コン


ナンシーさんがノックを3回します


・・・ノックは3回、と。

メモしました

最近ではいつもメモを持ち歩いてます

あと、単語帳も


カチャ


返事が無いのを確認してから、ナンシーさんは部屋に入ります

ちなみに、クリスさんの部屋にノックなしで入れるのは、旦那様と執事長で、

旦那様の部屋にノックなしで入れるのは、クリスさんと執事長だそうです


中に入ると、そこそこ広い・・・居間兼応接室?


「クリスさんは部屋にお客様を通すことは無いわねー」

「そうなんですか」


「リィナ、ワゴンから新しいシーツ持ってきて」

「はい」

ここに来る途中で掃除道具の入ったワゴンを準備してきて、部屋の前の廊下に置いてあります


まず、寝室から掃除するそうです

部屋を突っ切って、奥の扉の中に入ります


失礼しまーす


ナンシーさんの後ろから付いていきつつ、なんとなく、心の中でそう言います

だって、男性の部屋に無断(?)で入ってる訳だから、ねえ?


とりあえずシーツを持って、ナンシーさんの後をついていきます

まず、ベッドからのようです

ナンシーさんは、上掛けに手を伸ばし勢いよく捲った後、何かを思い出したかのように、手を打ちます

「そうだわ、リィナ」

「はい?」

「あなた、30歳なら、男性経験はあるかしら?」

「・・・」

えっと、どう答えれば?


「あっ、言葉わかんなかった?えっとね、子供を作る行為をしたことは、ある?」

私が黙ったので、知らない単語or聞き取れなかったからかと思ったナンシーさんは、すごく分かりやすく聞いてくれましたが・・・なんか、そんなに明るくサラッと聞かれると、逆に恥ずかしいんですが。

「・・・はい、あります」

「そう、よかった」


えっ? よかったって何が?

と、困惑しているとナンシーさんはベッドからシーツを剥がし始める


「旦那様もクリスさんも、女性を屋敷に呼ぶ時があるのよ。経験の無い子は、汚れているシーツを見てびっくりしてしまったりするのよ」


経験があってもびっくりしますよ

なんというか、他人の・・・そういうシーツを取り替えたコトなどないですし。


まあ、二人とも、成人男性ですしね

彼女くらい、居ますよね


ちなみに、本日のシーツは?

「ああ、ごめんごめん。言い方が悪かったわね。さすがに『上掛けを捲ったら汚れてるシーツが!』って事はないわよ」

「そうなんですか」

そういう(・・・・)モノは、取り扱いに注意が必要だから、自分たちで片付けてあることが殆んどね」


注意・・・?


「例えばそのシーツが誰かの手に渡って」

はあ

「勝手に子種を採取されて、子供を作られたら困るでしょう?」

はあ!?

体外受精ってことですか

まあ、医療水準の高そうなこの国では、ありえることなのかしら・・・

「身分の高い方々には、それなりの義務が生じるのよ。たとえ自分が承知していなかったことでも、結果として自分の子が現れたら、どうにかしない訳にはいかないだろうしね」

「なんか、大変なんですね。」

「まあ、ウチの旦那様たちは、子供が出来なくなる薬をしっかり飲んでるだろうけどね」

「そんな薬も、あるんですねー」


そんなことを話しながら、二人でベッドメイキングを終えて、寝室に併設されている浴室に向かう


「服とかの洗濯物はそっちのカゴで、さっき言った『危険物』はこっちの袋ね」

ふむふむ、メモメモ。

「洗濯物は洗濯室に持って行って、『危険物』は焼却処分」

「焼却ですか」

つまり使い捨てるって事ですか!?

はあー、お金持ちってすごいね

まあリスク管理って事なんでしょうけど。


浴室は浴室用洗剤を全体にスプレーして、しばらくおいて、シャワーで流します

まあまあ広い浴室です

湯船があるー

いいなー


私が浴室を掃除している間に、ナンシーさんは洗面台を洗って、鏡を磨いています


最後に、バスタオル・バスローブ・フェイスタオルなど、タオル類を交換して洗濯物を持って浴室は終了。


そしてベッドにカバーをかけてから、寝室の壁、窓、棚などの(ほこり)を落として、床をゴムのような素材で出来た粘着性のあるローラーでゴロゴロとします

掃除機とか、使わないんですか?

ほぉ、掃除機はどうしても必要な場合を除いて、基本1ヶ月に1~3回ですか。

ああ、電気を極力使わないようにですか。なるほど。


寝室が終わると、次は手前の部屋です


先程と同じように埃を落としてから、ローラーをゴロゴロコロコロ………


コロコロとしながら部屋を眺めていると、壁に掛けられた絵に気づきました

浮世絵です。

赤富士・・・北斎ですか。

渋いですね、クリスさん

悪くはないと思いますが、この洋風の部屋の、洋風の額縁に入れるのは、ちょっと合わない気もします。


これも、目覚まし時計と同じく、留学した時に買ったんですかね。


なかなか謎の多いお人です・・・

日本のどの辺りに居たんですかね

ニアミスとかしてたりして・・・なーんてね。あんな目立つ人、会ってたら覚えてるよね、きっと。


私がローラーを使っている間に、ナンシーさんが応接セットのソファーとテーブルを掃除しています。テーブルは拭いて、ソファーはクッションの空気を入れ替えてから埃を取っています


「リィナ、終わった?」

「はい、ナンシーさん」


これで毎朝の、部屋の掃除は終わりだそうです


「次は、旦那様の部屋よ」

「はいっ。そーっと、ですね?」

「そう、そーっとね」


二人でくすくす言いながら、旦那様の部屋へ向かいます

なんか、こういうやり取りが出来るのが、楽しいです


ああ、そうだ。せっかくだから、異世界で友達たくさん作りたいな

・・・3年間っていう期間限定友達って、難しいかな?






旦那様の部屋に着きました


部屋に入る前に、作戦タイムです

「いい、リィナ。部屋の造りはさっき説明した通りよ」

「はい、ナンシーさん」

「私達が今朝掃除するのは、この扉を開けて入った応接室と、その奥の居間よ」

「はい」

「先に居間から掃除するけど、飾り棚があるから、埃取りと床は、私が掃除するわ。音を立てるとまずいから」

「はい」

「リィナは、入って右奥にあるソファとテーブルをお願い」

「テーブルをきれいにして、クッションとソファの埃をとるんですね」

「そうよ。じゃあ、入るわよ」


コンコンコン


ノックは3回

案の定、返事は無いです


カチャ


ドアを開けます・・・

なんか、緊張しますね


部屋の中に入ると、そこは、広い応接室

クリスさんの部屋よりも、ずっと広いです

まあ、あたりまえか。旦那様ですからね。


ナンシーさんの話だと、この奥に居間があり、さらにその奥に寝室があると。


ナンシーさんが居間へと続くドアをノックします


コンコンコン


やっぱり返事がないので、ドアを開けます


そこは、落ち着いた雰囲気の居間でした

ナンシーさんが、私に目配せし、部屋の奥にあるドアを指差します

そして、口の前で指を1本立てます


なるほど、あれが寝室のドアで、『シィー』ってことですね

ジェスチャーってすごいなー

ちゃんと伝わるんだもんね


ナンシーさんは『そーっと』埃取りをしはじめます

私は奥にあるソファへむかいます


背もたれ側からソファーを覗くと・・・クッションが数個あり、その他に毛布が数枚


・・・とりあえず、片付けましょう


毛布を一枚手に取り、畳んでいると・・・残りの毛布が動きました


その中には


・・・旦那様ですね


ええっと


ソファーに横になり、クッションを1つ抱えて、毛布数枚に包まって・・・就寝中のようです


び、びっくりしたっ

寝室で寝てよ、頼むから


これはナンシーさんに知らせたほうが良いでしょう

そう思って、引き返そうと思ったら、旦那様が抱えていたクッションをソファーの下に落としました


旦那様の手がクッションを探して、毛布をポフポフしてます


ぷぷっ

なんかかわいいです


でもクッションは下に落ちたので、見つかるはずがありませんよ

・・・取ってあげますか。

私はソファーを回り、クッションを拾って旦那様のポフポフしている手に渡そうとして・・・





目が、合いました。

もちろん旦那様と。





ええっと、どうしましょう


旦那様は寝起きの為、ぼーっとこっちを見ています

・・・ひょっとしたら、見えていない?かも?


私は『はいどうぞー』という感じで旦那様の前にクッションを差し出してみました

差し出してから一瞬後、旦那様はそれを受け取り・・・


ポイ


は? 捨てた・・・


グイッ


え? 


ガシッ


うわっっ!


グイッ


いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ



じょ・・・状況を説明いたしますとっ


私の腕をグイッと引っ張っぱり引き寄せた旦那様は、私の腰にガシッと両腕をまわし、さらにグイッと引き寄せました

いま私は上半身だけ旦那様に覆いかぶさっている・・・感じです

両腕をソファーの背もたれと肘掛に突っ張って、これ以上引き寄せられるのを堪えていますがっ

意外と力強く引き寄せられててっっ


助けてぇぇぇぇぇぇー


このままでは、このまま引き寄せられたら、私の胸がっ、旦那様の顔の位置にっ

無理無理無理無理っ


ナンシーさーんっ

ナンシーーーーーーっ

助けてーーー


声にならない声で助けを呼びます・・・が、なかなか気づいてもらえないっ


うぐぐぐぐっ

腕がっ


「ナンシーさんっ助けてっ」

小声で助けを求めてみます・・・


あっ、気づいてくれたっ


「リィナ!?」

ナンシーさんは目を見開いて、急いで来てくれました

私と旦那様の現状を見て、さらに驚いています


腕がプルプルしてきました。

たすけてぇー


ナンシーさんは旦那様に向かって、大きな声で言いました



「旦那様、セクハラです」


パチ


あっ、旦那様が目を開けました。

「えっ?」

旦那様の目の前には、当然私の胸元が・・・

胸元から視線を上げた旦那様と、視線が合いました


「・・・リィナ?」

「・・・あの、腕を」

放してください・・・

「うわっ、すまない」


旦那様は私から腕を離してくれました、よかった

上体を起こした私に続いて、旦那様も寝そべっていたソファーに腰掛けます


「旦那様、寝ぼけてメイドに手を出すのは、おやめください」

ナンシーさんが、冷たく言います

ああ、旦那様の顔が青ざめていきます

「て、手を出したわけでは」

「無意識なら、なおさら性質(たち)が悪いです」

「・・・」

「それともなんですか? 『抱き枕と間違えた』とか言いませんよね?」


抱き枕?


「あっ、そうか。クッション代わりですか」

「リィナ、少し黙ってて」


ナンシーさんに怒られました


「リィナ、寝ぼけていたとはいえ、すまなかった」

旦那様は立ち上がって、深々とお辞儀をしてくれました

「ああ、はい。こちらこそ」

迂闊に近寄って、すみませんでした・・・というと、なんだか微妙な顔をされました。


「まあ、リィナも怒っていないようなので、事を荒立てるつもりはありませんが、少なくとも、お休みになるなら寝室にしてください」

「・・・気をつける」

「それで、今日はこのまま起きられますか?」

「・・・もう少し、寝る」

「では寝室へどうぞ」


有無を言わせぬナンシーさんに従って、旦那様は寝室に入っていきました

はあ、やれやれ

それにしても

「ナンシーさん、こういう事はよくあるんですか?」

なんか、手馴れてましたよね、対応が。

「旦那様のああいう行動は初めてよ」

「そうなんですか」

「・・・リィナ、セクハラには毅然とした態度で接してね」

「・・・はい」

「しかるべきところに報告することも出来るから」

「はぁ」


まあ、確かにびっくりしたけどね

ナンシーさんに助けてもらったし

訴えるほどではないかな

と言うとナンシーさんは青ざめて言いました

「なに言ってるの!? ソファーだったからあそこで止まったけど、もしベッドだったら引きずり込まれてたわよっ」


そっ、それはそうかも

そんなことになったら・・・『ご愁傷様』では済まないです


「いや、でも私、旦那様より10才も年上だし・・・」

「手を出された挙句、気の迷いだったって言われたらどうするのよっ」

「・・・どうしましょう」

「とにかく、リィナは寝起きの旦那様には近づかない事! いいわねっ」

「はいっ」


それから手早く掃除をすませ、私とナンシーさんは旦那様の部屋を出ました






今日のメイド修行の教訓は・・・

【寝起きの旦那様には、近づかないようにすること】














メイド長(キーラ)「旦那様、ナンシーから報告がありました」

シオン「すまなかった。以後気をつける」

キーラ「? 何がです?」

シオン「え?今朝の事じゃないのか」

キーラ「ナンシーからは、応接室の壁紙に一部剥離している部分が見つかったと・・・」

シオン「・・・そうか(ホッ)」

キーラ「今朝、何かございましたか(怪訝)」

シオン「イヤ、何も・・・(汗)」

キーラ「何が、あったんですか?(ニッコリ)」

シオン「・・・(青)」


旦那様はメイド長にみっちり説教をされました・・・



****************



執事長「リィナ、少しお時間よろしいですか」

リィナ「はい、何でしょう」

執事長「お茶を入れたのですが、少し付き合ってもらえないでしょうか」

リィナ「え? いいんですかー。いただきます。」

執事長「どうぞ」

リィナ「美味しいっ」

執事長「それは良かった。ところで、今朝の旦那様の事をお聞きしたいのですが」

リィナ「(それが本題かー)・・・ええ、何でしょう」



****************



執事長「旦那様」

シオン「何だ」

執事長「リィナをお気に召したのですか?」

シオン「違う(キッパリ)」

執事長「違う・・・のに、抱き寄せたのですか」

シオン「・・・寝ぼけていたんだ」

執事長「では、どなたかとお間違えになった、ということでしょうか」

シオン「・・・さあ」

執事長「是非、どなたとお間違えになったのか、教えていただけますか。早速、そのお嬢様に縁談の話を持っていきますので」

シオン「・・・は?」

執事長「ああ、身分の事はお気になさらず、そんなもの、何とでもなりますから」

シオン「いや、あの」

執事長「寝ぼけてメイドに手を出すほど、そのお嬢様の事がお好きなのでは?」

シオン「・・・そんな女性は居ない」

執事長「では、やはりリィナですか。少々年上ですが・・・まあ」

シオン「もう本当に勘弁してくれ。もう二度と寝ぼけないからっ(懇願)」

執事長「・・・そうしてください。(ニッコリ)」

シオン「・・・(ゲッソリ)」


シオンの教訓

【寝るときは寝室で】












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