18 メイドさんのお仕事2
私はいま、床を磨いています・・・モップで
けっこう腕と腰を使うんですよ、モップって。
部屋を片付けた後、まずナンシーさんに連れられて行ったのは、メイド長の部屋
そこで、お仕着せをもらいました
ほう、これですか
俗に言う、メイド服ですね
プリントワンピース、エプロン、帽子が午前用
黒いワンピース、エプロン、ヘッドドレスが午後用
着替えるんですか、午前と午後で
え? 着替えない時もある?
人前に出ない仕事をしている時?
ふーん
メイド服をもらい、急いで部屋に戻って午前中用の服に着替えてから、
次に連れて行かれたのは掃除道具置き場でした
そこで、『ハウスメイド』の皆さんと会いました
今日居たのは、私達を入れて6名
使用人はシフト制なので、順番に休暇を取っていたり、夜勤の人も居るので、総勢何名なのかは不明です
というか、この仕事って夜勤もあるんですか!?
契約書には書いてなかったけど・・・ああ、勤務時間帯自体が書いてなかったか
さて、ハウスメイドは主に掃除をしたりします
そして私も掃除道具置き場にて、モップとバケツを渡されて・・・今に至る
いったい、この広い屋敷のどこまでをモップ掛けするのでしょうか
まさか全部? 全部って事はないですよね?
今日一日で終わる気がしませんよっ
え? 1階だけ?・・・そういえば絨毯敷きのフロアーも、結構ありましたね
ホッ
「私達は、このエントランスホールが終わったら、庭の掃き掃除よ」
「はい、ナンシーさん」
「はやく終わらせないと、朝食の時間になっちゃうわよ、頑張りましょ」
そうなのです、まだ朝ごはん前なのです
今は朝の6時
さっきの朝礼は朝の5時
え? 今日は何時に起きたのかって?
ふふふ、3時です
食堂・応接間・玄関ホールなどは、旦那様が起きる前に掃除をすませるそうです
早い話、旦那様やお客様(今日はいないけど)の目に触れるところは、先に掃除しておくってことですねー
あれ?でもさっきクリスさん『旦那様が呼んでる』って言われてたような?
うちの旦那様は、早起きなんでしょうか?
「ああ、たぶん寝てないんじゃない?」
「ええ!?」
「うちの旦那様は徹夜で仕事してること多いわよー」
「・・・徹夜ですかぁ」
すごいね! 若いから出来るのかな・・・
「まあ、そういう時は、起きるのが遅かったりするけどね」
旦那様は普段は9時頃朝食をとるそうです
徹夜したときは明け方寝たりするので、お昼近くになるときもあるのだとか。
逆に、外出する日は朝早くに朝食をとるそうです。
私も昨日までは旦那様と一緒にご飯を食べていましたが・・・8時頃だったですけど?
少し早かったんですか?
「そうね、リィナが居るから、すこし早めていたみたいよ」
「ううっ、すみません。ひょっとして旦那様をはじめ使用人の皆様にもご迷惑を?」
だって、ご飯作る人もいれば、今日の私達のように旦那様が起きるまでに掃除をする人も・・・
「リィナ、自分のせいじゃないことを、謝るのは禁止!」
「はい。すみませ・・・。えっと、ありがとうございました」
"よろしい"と、にっこり笑ってくれたナンシーさん
いい人だなー
そういえば、朝食に旦那様が居ない日もありましたね
出かけてるのかなーなんて勝手に思っていましたが、徹夜だったのかもしれません
「さあ、ここはもう良いわね。庭に行きましょう」
「はい」
モップを片付けて、代わりに箒と塵取りを持って外に出ます
それにしても、モップ掛けなんて学生の頃以来かしら・・・いや、そんなこと無いか。職場の用務員さんが休みの時に、やったことあったね
なんでも経験しておくものだなー
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さて、庭です
庭・・・
私、たしか以前この庭の事をそんなに広くないなー的な感想を抱いたのですが
自分達が掃除するとなったら話は別です
前言撤回します
広いですっ、この庭!!
日本の私の実家にも庭はありましたが、自家用車2台分くらいの庭でした
その何十倍もの庭・・・を、掃き掃除です
ふぅ・・・
「領地の屋敷には、庭師が常駐しているんだけどねー、この屋敷は通いの庭師がたまに植木の手入れをしてくれているだけだから」
「掃除はメイドの仕事なんですね」
「そういうこと」
「ナンシーさんは、領地に行ったことがあるんですか?」
「うん、あるよ。というか私は領地から王都に来たのよ」
つまり、転勤ですかね?
王都に来ることは栄転だったりするんでしょうか
「領地はどんなところですか?」
「ん? 気になる?」
領地が特別気になる訳ではなく、ほとんど外出もしていないので、この屋敷も含めてこの世界の事が気になってますね
「そうか、そうね。」
ナンシーさん、なんか考え込んでます?
「リィナ、今度の休みに王都を案内してあげるわ、アリッサと一緒に」
「本当ですか! ありがとうございます」
うわぁ、やっぱりナンシーさん、いい人だなー
正直、クリスさんと一緒に買い物行った時とか、買いづらい物もあったんですよ
下着とか、下着とか、下着とか・・・
一応、用意されていたのを今は使っていますけど、自分で選びたいじゃないですか!
・・・お給料の前借りを頼まなきゃ!!
そういえば、私のお休みって、いつなんですかね?
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ナンシーさんとの楽しいおしゃべり&庭掃除も終わり、朝食の時間です
私達メイドは旦那様が起き出す前に、自分達の食事を済ませます
「おなかへったー。マリーさん、おはようございます」
マリーさんというのは、この屋敷の料理人長です
「おはようナンシー。それと、リィナ」
「おはようございます」
やわらかい笑顔でスープをよそってくれます
エプロンではなく、コックコートを着て、髪を全部隠す帽子をかぶっていますが、
すごくきれいな人です。ブルーの瞳がキラキラしています
私より、少し年上かな?
あれ? スープ?
「やったー! 今日はスープの日なのね」
ナンシーさんが喜んでいる・・・ということは、いつもは無いということでしょう
たしか、朝食はコンチネンタル・フレックファーストと言ってましたからね、クリスさんが。
スープを持って、厨房の並びにある使用人用の休憩室に向かいます
中に入ると・・・人がたくさんです
「ナンシー、こっちこっち」
手招きして呼んでいるのは、見たことのない女性
ナンシーさんは手を振りかえしてから、私を案内してくれます
「おはよう、ミシェル」
「おはよー。えっと、リィナよね? はじめましてミシェルです」
「はじめまして。ミシェルさん」
「リィナ、『さん』はいらないのよ」
そうでした、メイド同士は『さん』付けはしなくていいそうです
但し上級使用人である、家令・執事長・メイド長・コック長に対しては『さん』付け必須との事です
「まあ、慣れるまではいいんじゃない?」
「そうね」
二人とも、とっても優しいです
ミシェルさんはふわふわの赤茶色の髪を横でゆるく束ねています
ほどいたら、お人形みたいかも
ミシェルさんはランドリーメイドだそうです
あの重労働を毎日しているのですね、尊敬しますっ
さて、朝食です
トースト
ジャム・バター・はちみつ
紅茶
ハム
チーズ
が、食べ放題だそうです
そして、今日はスープ
「月に何回か、朝食にスープを出してもらえるのよ」
「そうなんですか」
日本人としては、朝ごはんにスープはうれしいです
本当は、そろそろ味噌汁が恋しいのですが、この朝食に味噌汁はないですね
トーストは、薄くてカリカリ・・・結構好きです
ハムとチーズはパサパサ・・・たんぱく質の補給だと思えば、食べられなくは無いですね
ジャムはその日によって違うそうです。今日は・・・これ、何のジャムだろう
「マールよ」
おおー!これがマールですか!
市場で箱買いしたのを覚えてますよっ
甘くて美味しいですっ
そして、紅茶・・・ティーバッグなのに、とても美味しいですよ
やっぱり、イギリスの文化に近いからですかね
「リィナ、紅茶を入れるのは得意?」
「・・・普通、だと思います」
正しい入れ方は知っていますが、得意というほどではないですね
日本ではティーバッグか、ペットボトルを買う事が多かったですから
「旦那様は、紅茶がお好きだから、私達は練習させられるのよ」
「そうなんですね」
そういえば、旦那様の執務室で頂くのは、いつも紅茶でした
主に、クリスさんが入れてくれましたが、とても美味しかったですね
「ええー、そうなんだ。いいなー」
「私もクリスさんの紅茶、飲んでみたいー」
クリスさんの紅茶は有名なんですか?
クリスさんなら、頼めば入れてくれる気が・・・
「ええっ!無理無理」
「クリスさんに頼みごとをするなんてねぇ」
「あとで何を請求されるか・・・コワイわよ」
「きっと、恐ろしいことになるわよね」
「あの笑顔で、とんでもない要求をしてくるからねー、あー、考えただけでも怖っ」
「・・・ああ、なんかわかる気がします」
二人の意見に賛同して、つい遠い目をしてしまいます。笑顔に裏がありそうなんですよね、あの人
「リィナはこっちの世界に来てから、ほぼ一緒に居たんでしょ?なんかされなかった?」
「何かとは?」
「セクハラよ、セクハラ」
「そうだ聞いてよミシェル! さっきリィナの部屋で・・・」
ナンシーさんが、おそらく先ほどのミニスカートの件をミシェルさんに言おうとしたその時、
向かいに座っていたミシェルさんの顔が引きつりました
ポン
肩に手を置かれた・・・と思ったら、頭の上で低い声がしました
「何が『わかる気がする』んですか?リィナ」
ヒィッ
家令は使用人たちのトップです
悪口はいけませんねー




