1 事の始まりは......
そもそも、私は"こちらの世界"でOLをしていた。
職業は『銀行員』。
といっても、規模の小さい銀行に勤めてるので、メガバンク勤めのOLさん達からすると、つつましい生活を送っているのですが。
ただし、仕事は半端なく忙しかった!
つつましいのは、給料だけ。
なぜ忙しいのかって?
人が少ないから、窓口から集金まで、なんでもやらされて。
その日は、12月30日、今年最後の営業日。
営業店は......嵐だった。
その日が期日の税金を納めに来る客と、
年越しに使うのか、現金を下ろしに来る客と、
なにより、お年玉に使う1000円札を『新券』に両替する客で。
今は午後3時、すでにシャッターは閉まり、店内に「駆け込み来店」した客たちが、まだロビーに沢山いる。
「りなちゃん、これ新規ね!」
「りなさん!これ照合して」
「りな、これ再勘しておいて」
殺気立った窓口の3人が、後方の私に書類を渡していく。
......みなさん、私、昼ごはん食べてないのですが......
......交代で食事に行ったあなたたちと違って、私、交代要員がいないのよ?
......仕事がはじまってから、水すら1滴も飲んでいないのよ?
課長に目で訴えてみると、時計をチラッと見て
「15分......いや10分なら」と眉間にしわを寄せて言う。
「!! すぐ行ってきます」
許可が出たので、私はダッシュで執務室を後にした。
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コートを着てから、おにぎりを持って屋上に上がった私は、今日があまり寒くないことに気づいた。
「ああ、今日は暖かかったんだぁ~」
なぜ屋上かと言うと・・・食堂で食べてると内線電話で呼び出されそうでねぇ。
適当に座って、ペットボトルのお茶を飲みながら、おにぎりをかじる。時間が無いからねー。
その時、ふと遠くで、聞いたことの無い言葉が、聞きなれない旋律で聞こえてくる。
きっと下を走っている車が、ステレオの音をMAXにしているんだろう。
無視無視
ああ、でもいい天気だなぁ、お日様ポカポカしてるよ。
♪☆■〇%+?*&▼⊿♪♯・・・・
うるさいなぁ
知ってる歌なら、まだ良いけど、知らない歌(しかも、言語もわからない)が遠くで聞こえるのって、すごく耳障り。はやくどこか行ってよ。
・・・・♪☆■〇%+?*&▼⊿♪♯
「うるさいなぁ・・・」
私は、おもわずつぶやいてしまった。
そのあと、ほんの一瞬、まばたきをした私は、次の瞬間には、屋上に・・・居なかった。
ここ、どこ?・・・
新規=初来店客の口座作成
照合=印鑑照合
再勘=現金を再度数えなおしたりすること。
銀行によって、違う言い方になるそうですが、とりあえずそんな感じです。
あ、主人公の名前、やっと出てきたw